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 「美しい国」というのは、何も安倍晋三首相の一手専売ではない。戦時の記憶も生々しい1948(昭和23)年、「美しい国」という詩集を世に出したのは、今も静かな人気のある詩人永瀬清子だった。本のタイトルにもなった詩をこう書き出す▼〈はばかることなくよい思念(おもい)を 私らは語ってよいのですって。 美しいものを美しいと 私らはほめてよいのですって。 失ったものへの悲しみを 心のままに涙ながしてよいのですって。……〉。そして、〈私らは語りましょう語りましょう手をとりあって〉と詩は続く▼永瀬はこの年42歳。夫は2度応召し、幸い帰還していた。口を縛り、思いを封じてきた時代。その天井が開(あ)き、青空を仰いだような高揚が言葉にこもる。前の年に、新憲法を戴(いただ)く「戦後」は始まった▼以来66年、焦土から立ち上がって、日本は繁栄を築きあげてきた。背骨には平和憲法があった。読み直してみて、前文に古さは感じない。世界がこれに追いついてほしいと、むしろ思う▼きのうの紙面に、「女性の61%が9条維持」という世論調査結果が載っていた。逆に「変える」は男性の50、60代で高かった。万一戦争になっても、もう行くトシではない――からか。政権内の人も多くは同じ世代である▼安倍さんは改憲手続きを定めた96条を緩めたがる。だがそうなれば、もののはずみや時代の気分で大切なものを失いかねない。誰にとって、どう「美しい」国なのか、守り伝えるべきものは何か、考えたい。

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