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「脳波停止の後」に残る意識:蘇生医療の最前線から

 
 
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TEXT BY BRANDON KEIM
TRANSLATION BY RYO OGATA, HIROKO GOHARA/GALILEO

WIRED NEWS (ENGLISH)



WIRED:人はどうやって死から生還するのですか?

パーニア氏:脳卒中では、血液の脳への流入が止まるのですが、脳の細胞は血液流入の停止後、最高で8時間まで生きていられます。細胞内で進行するプロセスを操り、細胞の死滅を遅らせることができれば、医師たちは人を死に至らせている問題を修復してから、心臓を再起動させ、脳の細胞を元の状態にすることが可能です。治療が可能な条件下では、ある意味、死は可逆的になり得るのです。

心臓発作で死んだ人の場合も、その心臓発作を治療できるのであれば原則的に、脳に保護措置を施して、永久的な細胞死に至らないようにしてから、心臓を復活させることができます。しかし、ガンで死亡し、そのガンが治療不可能な場合は、どうしようもありません。

WIRED:死んでから何日、何週間、何年とたってから、生き返らせようという計画もありますね。

パーニア氏:私の話は、人体冷凍保存の話ではありません。人間が死んだとき、細胞死のほとんどはアポトーシス、すなわちプログラムされた細胞死を通して起こります。体を適切に冷やしていると、アポトーシスの基礎をなす化学反応が遅くなります。体を冷やすことで、細胞が死んでいくスピードが遅くなるのです。一方、普通の冷凍技術は細胞に損害を与えます。

WIRED:あなたは臨死体験の研究もされていますが、「死後体験」という別の言葉を使っておられますね。

パーニア氏:「心停止の向こうに行った人たち」の体験を研究するべきだと決めたのです。心停止を生き延びた人の約10%が、何かを見たという驚くべき報告をすることがわかりました。

そうした心停止の事例を調査した結果、心臓が止まって脳への血液の流入が停止したあとの話であることが明らかになりました。心臓が止まった約10秒後に、血液が流入しなくなった脳は活動を止めます。医師たちが心肺蘇生法を開始しますが、脳にはまだ十分な血液が届いていません。脳波図は水平のままです。これは死んだ人の、心肺蘇生を受けている最中の生理学なのです。

わたしの研究だけではなく、ほかに4件の研究があり、そのすべてにおいて同じことが示されています。人々は(脳が活動を停めたあとも)記憶があり、それを思い出せるということです。周囲の物事を正確に見て記憶している人たちに関しては、世界中からエピソード的な事例も報告されています。そうしたことから、この問題はもっと詳しく調査される必要があると思われるのです。

WIRED:著書で最初に取り上げられている死後体験の証言のなかに、ジョー・ティラロシ(Joe Tiralosi)の話があります。彼は心臓が止まってから40分後に蘇生したのですね。

パーニア氏:担当した医師たちとは救急救命室で一緒に働いていたので、最初に冷やすことの重要性はわかってもらっていました。ティラロシ氏が到着した際に医師たちが彼を冷やしたので、それが脳細胞の保護に役立ちました。ティラロシ氏は心臓の中の管がふさがっていました。これは現在では治療可能です。心肺蘇生法を行って体を冷やすことで、医師たちは彼を治療することができ、脳はダメージを受けずに済みました。

ティラロシ氏は目を覚ますと、深遠な体験をしたのでそのことについて話をしたいと看護婦に告げたのです。彼はわたしに、信じられないくらい穏やかな気持ちがして、この完璧な存在が愛と思いやりで溢れているのを見たと語りました。

こうした話は珍しくありません。見たものは各人の背景に基づいて解釈される傾向があります。ヒンドゥー教徒はヒンドゥーの神を描写し、無神論者の場合は、ヒンドゥーの神もキリスト教の神も見ませんが、何らかの存在を目にします。さまざまな文化の人が同じものを見るのですが、それぞれの解釈は信じる体系によって違ってきます。

WIRED:そうした話から、われわれは何がわかるのですか?

パーニア氏:少なくとも、そうした話は人間が死を通過するときに出会う、独特の体験が存在することを物語っています。それは普遍的な現象で、3歳の幼い子どもでさえそうした体験を話します。そしてこの体験が教えるのは、われわれは死を恐れるべきではないということです。

WIRED:死後体験があると語られるわけですが、それが実際に起きていることを、われわれはどのようにして知ることができるのでしょうか? もしかしたら人々は死の直前、あるいは意識を回復した直後に認識したことを、間違えて認識しているのかもしれません。


 
 
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