コラム

「アメとムチ」で人をやる気にさせることはできるか? (1/2)

指導や教育でよく言われる「アメとムチ」。しかし、実際にはアメとムチだけでは、逆効果になることが少なくないのだという。それではどのような指導をすればいいのだろうか。

[松本真治,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松本真治(まつもと・しんじ)

有限会社ワースプランニング代表取締役、人材・組織開発コンサルタント。


 最近目や耳にすることが少なくなった「アメとムチ」、ご存じの方も多いかと思うが、漢字で書けば「飴と鞭」である。人の意欲をかきたてたり、思い通り行動をコントロールしたりするときに、望ましいことをしたらアメ(報酬)を与え、望ましくないことをしたらムチ(罰)を与えることである。

 もともとは1880年代のドイツのビスマルクのとった国民懐柔策で、一方では弾圧法規を制定するとともに、一方では国民生活に役に立つ政策を実施したことからきている。ムチを前者に、アメを後者に例えた言葉である。

 日本でも麻生政権時代に麻生首相が「定額給付金支給」を発表した時に、同時に「3年後の消費税引き上げ」をお願いしたことがあった。まさにアメとムチの政策である。その結果はみなさんご存じの通りであるが……。

 

 果たしてこのアメとムチは実際に効果があるのだろうか? アメとムチを使うことで人をやる気にさせられるのだろうか?

 行動心理学で、アメとムチに関してマウスを使った興味深い実験がされている。マウスをT字型の迷路の常に右側に進むようにしたい時に、右側にクッキー(アメ)を置き、左側には電気ショック(ムチ)を用意してみると、何回かの行動を経ると、常に右側に進むようになる。まさにアメとムチの効果である。

 ところが、電気ショックを少し強めに設定してみると、効果はまったく得られなかった。マウスが間違って左に進み、強い電気ショックを受けるとその場でうずくまり動かなくなってしまったのである。右にも左にも進まない、無気力なマウスになってしまったのである。しかも、この実験のマウスはすべてストレス性胃潰瘍を発症していたのだ。

 ムチを恐れてトライすること自体を断念し、リスクを冒してまでアメを取りに行こうとする意欲がなくなってしまうのである。要するに、防衛本能の方が強く働き、行動そのものを起こす気力がなえてしまうのである。

 また、先の軽度の電気ショックでも連続して続けていくと、飽きがきて「アメがもらえて当然だ」という気持ちになり、行動意欲は停滞し、怠惰な気持ちが芽生えてくる。アメとムチだけではやる気を維持できないのである。

 人間も同じで、アメとムチは使い方を誤ると逆効果になるし、うまく使ったとしても一時的な効果しか得られないのである。

 ではどうすれば継続的に人をやる気にさせられるのだろうか?

 人間の行動意欲の原動力となる動機(=モチベーション)には、外発的モチベーションと内発的モチベーションがある。前者は頑張ることで物質的な報酬や評価を得ようとする意欲であり、後者は行動自体に充実感や使命感を感じて頑張ろうとする意欲である。

 実のところ人間は、内発的モチベーションで行動している時の方が継続的に意欲が高く、成果も高いことが分かっている。

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