待機児童を解消するため、首都圏では保育所が次々と新設されていますが、それに伴って不足するようになったのが保育士です。
あの手この手で人材を確保しようという動きが激しさを増しています。
4月、東京都内で開かれた企業の合同就職説明会です。
今回、初めて設けられたのが保育士を専門に募集するエリアです。
13の社会福祉法人や株式会社が参加しました。
採用活動も例年より半年も早め、いち早く人材を確保しようとしています。
「保育先進国のニュージーランドに研修に行っていただいています」「今、育児休業取得率って9割以上です、僕も育休を取った人間なんです」などとアピールします。
待機児童解消のため、首都圏で相次ぐ保育所の新設。
いま保育士をめぐって、かつてないほどの「争奪戦」が繰り広げられています。
参加した採用担当者は、
「競争率が8倍ということで、早い熱心なアプローチが求められていると思う」とか、
「200人前後は必要ではないかと思われるんですが、今後新規に開設するところもあるし」などと焦りを隠せません。
この春、横浜市に新しく開設された保育所です。
群馬県太田市から、初めて横浜市に進出しました。
理事長の長谷川俊道さんは
「待機児童の問題が、大変クローズアップされ、群馬でも気になっていたが、東京とか、埼玉、横浜、ご縁があればそういったところで社会貢献させて頂きたいなとずっと思ってた」と話します。
土地と建物は、横浜市の制度を利用し、すぐに確保できましたが思わぬ事態に直面します。
保育士が全く集まらなかったのです。
採用を担当した、長深田悟さんが去年12月、園長に着任しました。
ところがその時点で採用が決まっていた保育士はたった1人でした。
「全国のハローワークに求人を出して、大丈夫だと言っていたんです。ずっと待っていたんですけど12月の段階でも決まらなかった」と打ち明けます。
保育所の定員は60人、園長のほかに16人の保育士が必要です。
長深田悟園長は急きょ、保育士を養成している大学や短大などを回りましたが、卒業予定の学生はすでに就職先が決定していました。
「行くところ行くところ、『もう決まりました、決まりました』『一人二人いるかもしれないから当たってみましょう』、でもまた行くと『もうその学生も決まりました』と」。
「ムリですと言われますと、もうショックでしたね。どうすればいいんだろうと」と振り返ります。
1月になっても人は集まらず求人情報誌で再度募集しました。
給与を2万円増額し、通勤交通費を全額支給、教育方針も打ち出したところ、ようやく問合せがありました。
16人すべてを確保できたのは、開園直前の2月末でした。
長深田さんは
「これでやれる。何よりもそれがほっとしましたね」と振り返ります。
なぜこれほどまでに保育士が不足しているのか。
平成23年度に首都圏に新設された保育所はおよそ200。少なくとも4000人以上の保育士の需要が生まれています。
一方、厚生労働省の調査では、保育士は離職率が高く、いったん結婚や出産を機に辞めると、なかなか復職しないことが分かっています。
保育士は、
「子どもたちを朝から晩まで預かるなか、ひとときも目を離せず肉体的に大変」、「いまの保育士は子どものほかに、家庭や親の対応、地域との関わりもお願いされる中で、待遇の面や休みが取れないところもあり、そうしたところがもう少し充実すれば」などと話します。
こうした首都圏の保育士争奪戦は地方にも飛び火しています。
毎年150人の保育士を養成している東北福祉大学です。
この日、満席の講義室を訪れたのは、首都圏で保育所を運営する株式会社です。
対象は2年生と3年生。
就職活動が始まる前の段階から、学生にアピールしようと担当者が東京から出向きました。
5月下旬には、さらに10の企業や社会福祉法人が訪れ、説明会を行う予定です。
学生は
「いろんな企業さんが来てくれるんで、将来の幅や視野も広がる」「魅力があります。みんな友達は関東の方にいくって言ってる。私もちょっと揺れてるんですけれど」と、首都圏からの求人の多さを好意的に捉えています。
首都圏の求人は昨年度で250件以上、東北全体の1.5倍です。
非正規雇用が多い東北に比べ、首都圏では正社員での採用も増えています。
この大学では、それまで卒業生のほとんどが地元に就職していましたが、ここ数年は、3割近くが首都圏に流れています。
東北福祉大学子ども科学部の和田明人准教授は
「東北はまだ旧態依然とした体質があるなかで、熱烈な歓迎を受けて、結構な数が首都圏の方に飛び出ていったのが4年前です。それが毎年、毎年続いている」と話します。
学生だけなくベテラン保育士の囲い込みも始まっています。
6年前に出版業界から保育所の運営に参入した株式会社が、昨年度採用した保育士は200人。
その7割が、ほかの保育所からの転職組や、育児の経験のあるベテラン保育士です。
長く勤めてもらおうと希望者全員を正社員として採用し、グループ内であれば、異動希望もかなえます。
園長などへのキャリアアップ制度も設けました。
保育所運営会社の中尾亮資さんは
「今、離職率がゼロではないですけどだいぶ減ってきた。
こういう待遇で一生涯雇用し続けるよというのを伝えるしか、究極はないと思う」と話します。
今後、ますます需要が高まる保育士。
いかに優秀な人材を長期にわたって確保するか、試行錯誤が続きます。
この保育士不足ですが、厚生労働省の調べでは、5年後には都市部を中心に全国で7万4千人が不足する見通しです。
国は今年度から民間の保育士の給料を上乗せするため補助金の額を増やしたり、大学や専門学校に通う学生に学費を貸し付けるなどの制度を設けましたが、抜本的な解決にはほど遠い状況です。