首都圏ネットワーク

4月30日放送
シリーズ「どう減らす待機児童」
横浜市“10分の1減”の背景

横浜放送局 飯田 暁子
横浜放送局
飯田 暁子

各地で深刻になっている待機児童の問題ですが、実は全国の待機児童のおよそ4割が集中しているのが首都圏です。
そこで首都圏ネットワークでは、3回にわたって、今、待機児童解消のため何が求められているのか、考えていきます。
1回目は、各地から注目を集めている横浜市の取り組みです。
かつて、全国でもっとも多い1500人以上の待機児童を抱えていましたが、去年春の時点でおよそ10分の1にまで減少。
この春にはゼロを目指してきました。大幅な減少の背景には何があったのでしょうか。

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3歳と1歳の子どもを持つ大上美菜さんは2年前、長女が1歳の時、保育所が見つかりませんでした。しかしことしは2人とも同じ保育所に預けられるようになりました。5月からは仕事に復帰します。

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大上さんは「希望の保育園に入れたので、子どもたちも早くなじんでもらって、笑顔で保育園に行ってくれるようになったら自分も仕事に笑顔で行けそうな気がするので、頑張って復帰したいです」と喜びを語っていました。
横浜市にはこの春、新たに69の保育所が開設されました。待機児童ゼロは目前です。

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3年前、待機児童が全国最多だった横浜市ですが、林市長は待機児童対策を最重要課題のひとつに掲げ、「ありとあらゆる手段を講じる」と3年でゼロにすることを宣言しました。

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横浜市はそれまでも新たに保育所を作って定員を増やしてきました。ところが、保育所を作り続けても、待機児童は逆に増え続けていたのです。待機児童はなぜ減らないのか。その原因を探るため、横浜市は初めて、待機児童を持つ母親を対象にアンケート調査を行いました。

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「自宅近くに施設がない」「預けられればどこでもよいという訳ではない」という回答が寄せられました。浮かび上がってきたのは、これまで行政が気づかなかった母親たちの声でした。

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そこで市がまず取り組んだのは地域の実情を把握することでした。
横浜市ではそれまで、どこに保育所を作るかは、市がすべて決めていました。
それを市内の18あるすべての区に、待機児童問題に専任で当たる係長を配置。
保育所をどこに作るか計画を立てる権限を与え、各区に委ねることにしたのです。

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戸塚区に配属された係長の松本圭市さんは2年前までは、IT産業の振興を担当していました。
松本さんは「大きな目標をいきなり掲げられたので、それを実現するために何をすればいいか、なんなんだろうというところから始めました」。

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松本さんがまず取り組んだのが、データの分析です。
区内を各町や各丁目ごとに45の地区に区分け。
子どもの数の増減や、出生率の変化などを細かく調べ、地区ごとの今後の傾向を予測します。

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松本さんは情報の収集にも乗り出しました。「マンションの開発の情報を教えていただきたい」と 各課を回り、保育所に関する情報がすべて集まるよう協力を求めたのです。

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マンションの建設予定地には、直接足を運んで確認にあたります。
合わせて200戸以上のマンションが建設される予定の場所では 「舞岡駅が近いですけど、戸塚駅にも出られますし、戸塚駅に出て電車で仕事に行くとかそういう方が多いんじゃないですかね」と分析します。

バス停が近くにあり、歩いても駅まで10分余りです。
松本さんは、保育所を利用する共働きの家族が住む可能性が高いと判断しました。

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こうして集めた情報はすべて、電子地図に書き込みます。
どの地区に待機児童が多いかや、今後、子どもが増える可能性があるかなど、一目で分かるようになりました。
松本さんが集めた情報を元に、この2年間に新たに開設された保育所は7つに上ります。

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松本さんは「保護者の目線も必要ですし、保育園を運営する人たちからして保育園がやりやすい場所だろうかとか。区の中を歩き回ることでだんだんわかってきた感じですね」と話していました。

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一方、なかなか預け先が決まらない母親たちの対応にあたる専門の職員も各区に配置しました。
保育コンシェルジュです。
コンシェルジュはいずれも子育ての経験のある人たち。
「週3日だけ預けたい」、「2人のこどもを同じ施設に預けたい」など、母親ごとに異なる要望を聞いて、それぞれの条件に見合う施設を紹介します。

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コンシェルジュの一人、渡邉真由美さんは「お母さんのご希望に添えるように、不安な面を安心感に変えていけるように、ニーズにあったご案内をしていきたいと思っております」といいます。

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さらにこの時期、取り組んでいるのが、この春に保育所が決まらなかった母親たちのフォローです。
「ちょっと遠いけど希望している園の近くなので、紹介可能だと思います」。
自宅の場所や通勤経路をもとに、あらかじめ空きのある保育施設を洗い出します。
そのうえで、預け先の決まっていないおよそ120人にひとりひとり直接連絡。
希望にかなう施設が見つかるまで、繰り返し連絡をとって相談にあたります。
松本さんたちは
「コンシェルジュから案内したことで、1週間後くらいに電話をかけて “どうしました” と確認したら “決めました” なんて声を頂くと、2人で喜んでいます」と手応えを感じています。

こうした取り組みの末、3年前に1552人だった横浜市の待機児童は、去年4月には179人にまで減りました。

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横浜市保育対策課の佐藤英一課長は「どういう家庭の状況にあり、かつどういう保育の情報を欲しているのかをしっかり把握したうえでの対策が重要だということですね。ゼロを目指す、ゼロを継続する、それはずっとやり続けなければならないことだと思います」。

取材に当たった横浜放送局の飯田暁子記者は次のように話しています。

「横浜市はこの3年間で待機児童関連の予算を1.5倍に増やすなど、この問題に集中的に取り組んできました。
ただ、一番大きいと感じたのは、待機児童対策を行う行政側の意識の変化です。
行政みずからが直接、待機児童の母親たちの声を聞いて回ったり、入れなかった理由を聞き出して預け先を一緒に探したりする動きは、これまでの行政にはなかった取り組みです。新たな保育所の整備だけでなく、いわば、ひとりひとりの母親に合わせた、オーダーメード的な行政サービスを提供していこうという姿勢は、ほかの自治体にも参考になると思います。
しかし、この取り組みに、必ずしもすべての人が満足しているわけではありません。

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横浜市で子育て支援を行っているNPOが、4月、市内で子育てをしている母親を対象に行ったアンケートでは、保育所探しについて全体の45%が “満足” あるいは “ほぼ満足” と回答した一方で “不満” “やや不満” と答えた人も、全体の40%に上りました。
横浜市では取り組みを継続していくとしています。
待機児童をゼロにするということは、女性が働きやすい環境を整えることでもあります。
今後は、どれだけ希望にかなう保育所をより多く提供できるかという、母親にとって利用しやすい保育の仕組みを作ることも求められていくと思います」

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