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2013-05-01

[]「証拠を出せ? 出したらちゃんと自分の目で見るんだろうな?」その1

一週間ほど前に、私のツイッターアカウントあてにネトウヨが「南京虐殺の証が有れば教えてくれる?」などとメンションを送ってきたので、定番の資料集リストを第一弾として提示したうえで「全部読み終わったらまた連絡ください。続きを教えます」と返答したところ、速攻で「転進」をはじめるというお決まりの結果となりました。ツイートをいくつか削除しているようですが、その削除されたツイートでは「この手の証言はずいぶん見てきたけど」「君の証と言うのは証言のみなのか?」だのと、ご丁寧に自らの無知を晒すハッタリをかましてくれていました。

これがまったく特別な事例でないことは当ブログの読者の方であればよくご存知だと思います。南京事件にせよ、旧日本軍「慰安所」制度にせよ、ネトウヨはそもそもどれほどの「証拠」が積み重ねられているかすら知ろうとしませんので、「資料集」として編纂され刊行されている「証拠」を突きつけられただけでも腰を抜かす以外に対応する術を知らないわけです。

さらに、歴史研究者が「証拠」として用いる史料がすべて「資料集」のかたちで刊行されているわけでもありません。今日から何回かに分けて、一般の読者にとっては「さほどアクセスしやすくないがアクセスできないわけではない」かたちで紹介されている「証拠」をとりあげてみたいと思います。

前置きとして一点だけ。時空間的に大きな広がりをもつ事象を「史実」として扱おうとする場合、一つ一つの「証拠」が明らかにするのはその事象のごく限られた側面にすぎません。全体像を描き出すには数多くの「証拠」が必要であり、現に「資料集」として刊行されているものに限っても大量の史料が「証拠」とされているわけです。ネトウヨの口ぶりを聞いているとあたかも紙ペラ1枚で南京事件の存否が決まるかのようですが――実際、彼らが自分の願望にかなうデマを「事実」として認定する際には、怪しげな紙ペラ1枚程度の「証拠」でそうするのですが――、そうした態度自体が歴史学における事実認定のあり方への無知を晒しています。


  • 「史料発掘 南京虐殺の現場と写真」(解説・笠原十九司)、『季刊 戦争責任研究』第58号、2007年冬季号、2-16ページ

野戦重砲兵第15連隊の兵士として上海戦、南京攻略戦に従軍した兵士の『軍隊手諜』、陣中日記、回想録、写真(連隊のアルバム『支那事変紀念写真帖 昭和一二、三、四年 カト トセ』*1および「戦地写真」と鉛筆書きされた封筒に入れられた個人写真3枚)をご子息が提供されたもの*2。回想録は2007年当時「二〇年ほど前に」書かれたものと解説されているので、80年代の後半に成立したものと推定されます。『季刊 戦争責任研究』で紹介されているのはこれらの一部ですが、ここでとりあげるのはさらにその一部です。「証拠」を熱心に探してやまないネトウヨ諸氏ならば図書館で『季刊 戦争責任研究』の当該号にあたる手間をまさか惜しんだりはしないでしょう。

「上海付近まで」と題された回想録より。

 鉄帽は五分の一位しか支給されず、それも英兵の様な型で変なものであった。服は厚い盛りに冬服を着せられた(補給できぬ為)。予防注射も間に合はず、乗船してからもした。(……)

(6ページ)

野戦重砲兵第15連隊は通常大佐が務める連隊長が少佐、兵士はすべて予備役兵か後備役兵、下士官も現役は連隊本部に一人だけ……という急ごしらえの、「全滅してもよい編成との噂」の部隊だったたため(同所)、装備も劣悪だったわけです。こうした実情を知れば、戦地写真について「装備が当時の日本軍のものとは違う」とか「当時は夏の筈なのに冬服を着ている」といった理由で直ちに「捏造写真」と断じることの無意味さも理解できるというものです。「○○のはず」をきっちり守るほどの国力は当時の日本にはなかったのですから。


「憲兵の検閲にあうと取られる為、台紙の中にかくして持ってきた」とされる個人写真より。

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f:id:Apeman:20130418154740j:image

いわゆる「据え物斬り」の後の光景。1枚目が『戦争責任研究』に掲載された「写真(4)」、刀身を点検している人物を私がトリミングしたのが2枚目。被写体のアイデンティティは不明ですが、撮影者は特定されています。「据え物斬り」については回想録の中でも記述されていますが、その晩の様子が興味深いです。

 夜半、幕舎からゴソゴソ出て行く者がいるので、どうしたと聞いたら、広瀬〔=昼間、捕虜を斬首した兵士〕が気になると云って、離れた首を胴体に合わせ土を被せて、気がすんだと云って入って来たと思ったら、すぐ鼾をかいて眠ってしまった。或る者は、俺じゃないと云って怒鳴って飛び起きた。要するに十人十色である。

(12ページ)

「すぐ鼾をかいて眠ってしまった」兵士にしても、死体をそのままにしておくことができなかったわけで、殺人にともなう興奮が冷めると罪悪感や後味の悪さを感じていたことがわかります。

*1:「カト」は初代連隊長の名に由来する部隊の略号、「トセ」は連隊司令部のあった東京世田谷の略号、と解説されています。

*2:まったくの偶然から、私はご子息がこれらの遺品を持ち込まれた場に立ち会っており、現物を見ております。まあ私のような素人が現物を見たからといってなにがわかるわけでもないのですが、刊行物で紹介される史料の現物がどのようなものであるのかを自分の目で見ることができたのは貴重な体験ではありました。

kiya2015kiya2015 2013/05/01 17:05 丁寧な資料解説おつかれさまです。
しかしながら、このような丁寧な啓蒙をおこなっても、
ネット右翼のような人たちはまったく現実を見ようとせず、
自分たちに都合の良い言い訳をして、
認識を変えようとしません。
このような人たちは、もはや暗愚として座敷牢に封じ込めるか、
肉屋を支持する豚らしく屠殺してしまうよりないのではないでしょうか?
いくら理屈を述べても何も響かないレイシストたちは、
もうどうしようもないのです。

AJAXAJAX 2013/05/01 19:05 虐殺がないと言う証拠も「証言」だったりするんですがそれは

戦争犯罪っていう単語のせいなんですかね。犯罪だから正常な人間がやる仕業ではない、我らが父祖は異常者ばかりではないからそんなことはありえないという三段論法的な思考がイメージとしてあるんだと思います。個人的には戦争犯罪の恐ろしいところって正常な人間によって惹起されるところだと思ってたんですがね。

かいつまんでよんだかいつまんでよんだ 2013/05/01 20:11 かいつまんで読んでみたのですが、戦争があった、ということ以上のことが読み解けませんでした。
南京事件という言葉が個性をもってしまって、誇大にもなっているし、「あった」「なかった」の議論になってしまっているようですね。
戦争してるんだから、避けようがない事ですから・・・
西洋諸国も、当時の戦争に関してのコンセンサスをもっていたでしょうからどうしようもないかとおもいます。
なかったわけではないかも知れないが、あったからどうこう、という話なんですよね。。

mujinmujin 2013/05/01 20:23 > かいつまんでよんだ

史料を読まないバカがいるよ、というのがこの記事の主旨ですね。

名無しさん名無しさん 2013/05/01 20:52 一例として

https://twitter.com/sengenshikai/status/329267140316258306

どこかの匿名の連中ではなくて国会議員相手に「南京大虐殺を否定するということは(近代史を扱う)歴史学者の人達以上の知識があるのか?」と機会があれば聞いてみたいですね・・・
どのような言い訳を用意するのか楽しみです

ApemanApeman 2013/05/01 22:31 AJAXさん

いわゆる刑事犯罪だって、その大半は「正常な人間」が犯人なんですけどね。でも、刑事犯罪に関して厳罰を主張する傾向のある右派が(旧日本軍の)戦争犯罪を否認する傾向をもつことも、その点を考えると理解できますね。「犯罪は異常者のやること」と云う人間観の持ち主は、「他人」の犯罪については厳罰を主張するし、「身内」の犯罪については「日本人がそんなことする筈がない」として否認する、と。

かいつまんでよんだ さん

かいつまんだりせず、ちゃんと図書館に行って『季刊 戦争責任研究』第58号、2007年冬季号、2-16ページを熟読して下さい。それから出直すように。

mujin さん

皮肉で「証拠を出せ? 出したらちゃんと自分の目で見るんだろうな?」と題したエントリにあんなコメントつけるんですからね。どんだけ面の皮が厚いのやら。

名無しさん

「紙ペラ1枚」で史実性が証明できると思ってるバカ、の好例ですね。本エントリにおける私の主張を裏付けてくれる、実にありがたいツイートです。

DDDDDD 2013/05/01 22:35 このような記事の写真は、
記事の説明とまったく異なる状況であるということがよくある。

Apemanが所属している組織を 運営している国は、
もしかして、自分で書いている説明文のような仕業を
おこなってきているから このようなことが書けるのだろう。

ApemanApeman 2013/05/01 22:43 >このような記事の写真は、
>記事の説明とまったく異なる状況であるということがよくある。

そうだね。そして一般論としては、
このような記事の写真は、
記事の説明とまったく同じ状況であるということがよくある
とも言えるね。

>Apemanが所属している組織を 運営している国は、
>もしかして、自分で書いている説明文のような仕業を
>おこなってきているから このようなことが書けるのだろう。

鋭い! 実は……ご明察の通りなんですよ! なにしろ私、国民健康保険に加入してますからねぇ。

bat99bat99 2013/05/01 22:56 よくあるっていうのなら、10や20とまでは言わないから、具体例を3つ4つ出して欲しいものだ。

rawan60rawan60 2013/05/01 23:32 「紙ペラ一枚」じゃなきゃ「高画質動画見せろ!」なんでしょうね。

hirohiro 2013/05/02 09:16 今は亡き祖父から直接聞いた話ですが、上海で大規模な市街戰を行った際、私服を着た民兵に多くの日本兵がられたそうです。
なんとか勝利して進軍した先に、再び大きな街「南京」がありました。
上海の二の舞だけは嫌だとばかりに活動(殺戮)したそうです。
でも、南京には民兵はいなかった?
「敵を殺すか、自分が殺されるか』そう言って涙ぐんでいました。

ei-jiei-ji 2013/05/02 11:41 ちょっと厳しいことを言わせて貰いますが
「かいつまんで」読んでしかない時点で「全部読んでない」って白状してるのに
読む前からわかりきってる「戦争があった」“以上”のことが読み解けないどころか読んだ気になってそれなんだから
この資料からは何も得ていません(得る気もありません)、かいつまむどころか全く読んでいないに等しいです、ってアピールして何がしたいんだろう。

「かいつまんで」読んでしかないのになぜかありとあらゆる歴史的事象の名称の中から
南京事件だけ(ではなく従軍慰安婦もか)が個性を持って誇大になり「あったなかった」の議論になってると思い込むんだろう。
西洋諸国だろうがそうじゃない国々だろうが、戦争に関してコンセンサスがあろうがなかろうが
勝手に「当時の状況では仕方がなかった、どうしようもなかった。」みたいな逃げ方はしちゃ駄目です。
当時の価値観うんぬん言いたがる人は本当に当時の価値観を知っているのか、またいつの時代にしても立場関係なく「価値観がたった一つのもの」だと思ってるんでしょうか。

>「なかったわけではないかも知れないが、あったからどうこう、という話なんですよね。。」
あなたがそう思うならそうなんでしょうね、あなたのような方々の中でだけはね。

「もってしまって」「なっている」『「あった」「なかった」の議論になってしまっている』「どうしようもないかとおもいます」なんて
美しい日本語の使い方にすれば第三者気取りでそういう判断を下してる責任の主体から逃れられると思ったら大間違いですよ。

そういう価値判断を下してるのは、かいつまんで読んだ気になって全部読んだら
「ある」という判断を下さなければならない、という“空気”をこのエントリから察して
その心理的負担を避けるために中立ぶって曖昧模糊で雲散霧消な言及でまとめようとしてるあなた自身です。
日本企業の会議じゃないんですよ。

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