富士山は登録。鎌倉は不登録。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産への登録について、国際記念物遺跡会議は、対照的な結論を示した。[記事全文]
ソウルの中心部から北へ約60キロ。かつて高麗王朝の首都として栄えた北朝鮮・開城(ケソン)に広がる工業団地が、存亡の危機に立たされている。いまや南北をつなぎとめる唯一の接[記事全文]
富士山は登録。
鎌倉は不登録。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産への登録について、国際記念物遺跡会議は、対照的な結論を示した。
富士山は三保松原を除いての登録を勧告された。おもな理由は「影響は日本をはるかに越えて及んで」いることだ。
鎌倉には「顕著な普遍的価値を有していることを証明できていない」ときつい評価だった。
日本は1992年に世界遺産条約に加盟した。以来、16件の世界遺産が登録されてきたが、日本単独の推薦で不登録を勧告されたのは初めてだ。
不登録でも、来月の世界遺産委員会にかけることはできる。
ただ、逆転の可能性は極めて低い。ここで不登録と決議されると再推薦できないので、過去には取り下げた国も多い。
ことしの鎌倉は事実上の「落選」となったといえる。
世界遺産は、すでに962件に達した。有名な資産はほぼ登録され、審査が厳格になったと言われている。
これを機に、文化庁は国内候補を整理すべきだ。
これまで文化遺産は1国で2件を推薦できたが、これからは1年に1件ずつになる。
待機リストである暫定一覧表には、富士山と鎌倉を除いて11件ある。さらに、文化庁は2006〜07年に全国の自治体に公募をかけたさいに、計30件の予備群を指定し、二つのグループに分けた。
合計41件が、毎年1件ずつ登録されても41年かかる。
なかでも、予備群の2番手グループに分類された17件はもともと「顕著な普遍的価値を証明することが難しいと考えられるもの」(文化庁記念物課)だ。鎌倉でも落選なら、もはや登録の可能性はきわめて小さい。
暫定一覧表のなかにも、鎌倉と同じ92年に入り、推薦されずに21年たった彦根城(滋賀県)がある。候補の整理は41件全体で考えることになるだろう。
候補を抱える自治体も、登録への長く重い負担を再検討したらどうか。
すでに、予備群の「最上川の文化的景観」(山形県)は「どれほどお金と時間をかけたら登録されるのか、全く見えない」と知事が撤退を宣言した。
世界遺産の目的は観光振興ではなく、保護にある。
記念物遺跡会議は、富士山についても「開発に対する来訪者管理戦略、危機対策計画が緊急に必要」と注文した。
霊峰富士の美しさを、しっかりと守ることから始めたい。
ソウルの中心部から北へ約60キロ。かつて高麗王朝の首都として栄えた北朝鮮・開城(ケソン)に広がる工業団地が、存亡の危機に立たされている。
いまや南北をつなぎとめる唯一の接点である開城は、将来的な統一を見据えた壮大な実験場でもある。南北ともに本音では閉鎖を望んでいない。なんとか存続の道をさぐるべきだ。
操業開始から9年。団地内には123社の韓国企業が入り、5万3千人以上の北朝鮮労働者が働く。累計生産額は20億ドル(約1900億円)を超えた。
韓国の中小企業にとって開城工業団地は魅力に富む。毎日数百台のトラックが行き来するアクセスの便利さや、同じことばを使う労働者との意思疎通。そして何より人件費が低く抑えられるのが大きい。
平均賃金は月に約150ドル。年間8千万ドル以上の賃金の大半を当局がピンハネしているとされるが、それでも北朝鮮で暮らすには十分な額だという。
事業の意義は経済的な側面だけにとどまらない。
北朝鮮労働者はしだいに、みずから残業を申し出はじめた。女性労働者たちはお化粧し、華やかな服を着て出勤するようになった。労働者らは、おやつに出るチョコパイを持ち帰り、闇市に流して現金にかえているともいわれる。
もともと、北朝鮮の人々に市場経済の意識をめばえさせ、内部の体質を変えることで統一に近づけようという考えが、韓国側にあった。
3年前、北朝鮮による大延坪島(テヨンピョンド)への砲撃事件などが起きた時でも開城の灯はともり続けた。
だが、若い金正恩(キムジョンウン)氏の政権に代わり、体制の生き残りをかけて米韓への挑発に出た今回は最大の危機を迎えている。
北朝鮮は「開城は貴重な外貨収入源だから北は閉鎖しない」とした韓国側の発言に反発し、労働者らを撤収させた。韓国政府も韓国人を引き揚げさせた。
開城にはいま、韓国政府関係者ら7人だけが残る。未払い賃金などの協議が難航し、帰還の長期化も予想されている。
北朝鮮は米韓合同軍事演習を「侵略演習」と非難し、挑発的な言動を続けてきた。だが、2カ月にわたった演習も4月末でおわった。
5日には朴槿恵(パククネ)大統領が訪米し、オバマ大統領と会談する。北朝鮮はこれらの動きも注視して、今後の出方を見極めようとしているようだ。
ここは南北が冷静に話し合い、一日も早く開城に活気がもどる日がくることを願う。