自衛官が主役の連ドラがスタート?!
小出 五郎 | 科学ジャーナリスト
いよいよテレビの連ドラに自衛官が出てくる時代が来たのだなあ。それが率直な感想です。
某在京キー局が4月からスタートした連続ドラマ「空飛ぶ広報室」。日曜日の午後9時から1時間。協力は防衛省。主役はテレビ局の若い女性ディレクターと航空自衛隊の広報室所属の若い自衛官。恋愛模様を絡ませながらの展開です。
「ながら視聴」をしましたが、すぐに連想したのは、原子力文化振興財団が1991年に発行した「原子力PA方策の考え方」という資料です。
PAというのは、パブリック・アクセプタンスの頭文字で、普通の人が受け入れることの意味。この資料の中で原発が受け入れられる雰囲気を醸し出すための「マスメディアの活用」について書いています。
全体としてパブリック(市民)を上から目線で教え諭す全体の姿勢がにじみ出ていて不愉快な文章が続くのですが、テレビに言及したところには次のような一節があります。
「既存の番組に原子力の話題を取り上げて、半年から一年と継続する。ドラマの主役を原子力技術者にするなど抵抗の少ない形で原子力を盛り込む」
「PAには民法の方がよいのではないか。NHKは批判色が強い。飛びぬけて間違いが多く誇張が目立つ」。
なぜか、原子力ムラはNHKを褒めているようです。
この文章の中の「原子力技術者」を「航空自衛官」に置き換えたドラマ。それが「空飛ぶ広報室」と思いました。
テレビ局の若い女性ディレクターが航空自衛隊の番組をつくることになる。そこで広報室の窓口に当たる担当者になったのが、かつては戦闘機のパイロットとして嘱望されながらけがで挫折、配置転換になって現職にあるという若い自衛官。番組をつくるために自衛官のエピソードをいろいろ取材する。その過程で生じる悲喜こもごもの出来事をつづる。どうやら、この二人が主役の連ドラのようです。
なるほど「抵抗の少ない形」で自衛隊の業務を盛り込んでいます。
ディレクターも参加する居酒屋の宴会シーンでは、「経費は階級に応じて割り勘、広報室でふだん人でいるコーヒーも階級に応じて負担」、「職務の性質上、時間外手当はない、特別公務員で労働基準法の適用外、でも当然のこととみな思っている」、「転勤が多くて、フラれるタネは尽きない、異性の相手には困らないが結婚はしにくい」だの、職場の雰囲気をさりげなくPRしています。
広報室の仕事の一例としては、外部からの電話に応えるシーン。「基地のそばに引っ越してきたが、戦闘機の騒音がうるさい」という苦情が来ます。「基地が先にあるところに引っ越してきたのに・・・」とつぶやくディレクターに、広報室長は「正義は人の数だけある。ご理解いただかねばならぬ。こういう時こそ広報の出番」と説教します。
別のシーンでも「理解されないのは広報の努力が足りないからと思う」という謙虚な反省の言が出てきました。まるで建前が制服を着ているようなセリフです。これも「抵抗の少ない形」で好感度アップを狙っているのでしょう。
また、野次馬的な視聴者の期待に応えてドラマを盛り上げるためでしょうか、何より豊富な情報は自衛官の恋愛・結婚事情です。
「合コンをした時、相手が自衛官と知ったとたんに女の子がいっせいに引いた」という裏話、戦闘機のパイロットと結婚するという娘の父親が「夫になる男はいい、しかし、自衛官のパイロットだ、毎日人殺しの練習をしている、そんな男にどうして嫁にやれるか」という本音なども出てきます。
そして極めつけは戦闘機の編隊飛行、戦闘機を背景にした航空基地の風景、今回の準主役のパイロットのかっこいい登場、主役の広報官とパイロットの爽やかな男の友情など。自衛隊のイメージアップに気を配った構成、演出になっています。
以上、長々と書きましたが、ドラマのあらすじを追ったわけではないこと、完成度を評価したものではないことはお断りしておきます。
海外メディアの伝える安倍政権の評判はこのところ芳しくありません。批判的な論調の記事が靖国参拝をめぐる安倍政権と国会議員団の行動をきっかけに噴出しました。
日本の戦争責任を否定する政策が続けば「日本は世界中の友人を失う」という警告も出ています。
きのうの「沖縄の屈辱の日」に主権回復式典なるものを行いました。党内では国防軍の議論が沸き起こっていると言います。衣の下の鎧が見え隠れしています。
未来に何を目指すのか心配ですが、支持率が高いことに自信を持っているために政府関係者の強気な発言が続いています。
世界観のない靖国参拝はまだ始まりに過ぎないというべきかもしれません。安倍政権はさらに改憲を掲げています。狙いの本丸は憲法9条と立憲主義の否定にあります。
こうした背景が、自衛隊をイメージアップするために防衛省が協力する連ドラの登場と無関係でしょうか。私には到底そうは思えません。
今年はテレビ免許の更新に時期に当たります。参議院選挙もあります。
免許更新は形式的なものという考え方もありますが、テレビ局にとって微妙な時期となっていることは確かです。
「空飛ぶ広報室」なる連ドラが、後世にテレビ局が永田町や霞が関にすり寄るきっかけになったと評価されることを危惧します。