動物園の「本質」とは何であるのか?それを考えてゆきましょう、と言ってはみたものの、そもそも動物園って何だろうという疑問が最初に浮かびます。 案外、動物園の定義は難しくて、世界的に共通するものが存在しません。法律で規定されていれば、それに準じればよいのでしょうが、日本国には動物園法なるものがありません(現在、制定に向けた動きはありますが)。たとえあったとしても、諸事情によって明確に定義することは難しいのではないかと思われます。たとえば、英国には、1981年に制定された動物園免許法(Zoo Licensing Act 1981)がありますが、その条文には「サーカスやペットショップを除いて、12か月のうち7日以上、有料または無料で一般公衆に公開するために野生動物を飼育している施設」(http://www.legislation.gov.uk/ukpga/1981/37)と、かなり大ざっぱに記されているだけです。なぜ7日以上なのか理解できませんし…。
動物園の定義の難しさは、国や地域の文化や思想そして社会状況などの違い、さらには時代によって変化する倫理観や科学的背景などにより、存在意義が左右されることに起因します。政治や経済状況も大きなファクターになるでしょう。単なるアミューズメントパーク的な集客装置としてしか動物園を捉えられない首長が誕生した時には、その存在意義が根底から覆される憂き目に会います。宗教観によっても影響を受けます。たとえば、旧約聖書に則った「ノアの箱舟」をテーマにした動物園がキリスト教国にいくつかありします。伝えたい意図はそれなりに筋道が通っており、展示面でも興味深いものがあります。しかし、敬虔な仏教国の人たちにとっては、その意義は理解し難いものでしょう。
このような国際問題にも関わる状況なので、世界動物園水族館協会(WAZA)が、将来的に世界の動物園が目指すべき方向性を示すために1993年に出版した「世界動物園保全戦略(The World Zoo Conservation Strategy)」にも、動物園の定義に苦しんだ形跡が認められます。しかし、2005年の改訂版「野生生物のための将来を建設する(Building a Future for Wildlife -The World Zoo and Aquarium Conservation Strategy-)」(http://www.waza.org/files/webcontent/1.public_site/5.conservation/conservation_strategies/building_a_future_for_wildlife/wzacs-en.pdf)には、そのような迷いは一切見られず、野生生物保全にまっしぐらという感があります(笑)。