3・11後のサイエンス:ヨウ素の痕跡を追って=青野由利

毎日新聞 2013年04月25日 東京朝刊

 日本人の甲状腺はよその国の人とは違う。原発事故以降、そんな話を聞くようになった。体内にヨウ素を取り込むと甲状腺に集まる。チェルノブイリ原発事故では、放射性ヨウ素の取り込みによって、子どもの甲状腺がんが増えた。だが、日常的に海藻を食べ、昆布だしを使う日本人の甲状腺は、もともと普通のヨウ素で満たされている。だから、放射性ヨウ素を取り込みにくく、発がんのリスクは低い、という推測だ。

 本当のところはどうなのか。「確かに外国に比べ日本人のヨウ素摂取量は多いが、個人差も大きいようだ」。学習院大理学部教授の村松康行さんはそう指摘する。10年ほど前に30家族の食事に含まれるヨウ素を分析したところ、家庭によって100倍以上の開きがあった。食習慣の違いでヨウ素が不足している人がいる可能性は否定できない。

 現実のリスクを知る近道は、もちろん実際の測定だ。放射性ヨウ素131は半減期が約8日と短い。事故後、すばやく測定しなければ消えてしまう。ところが、11年4月までに行われた初期内部被ばくの実測はほんのわずかしかない。

 政府の対策本部が実施した子ども1080人の甲状腺の簡易測定▽弘前大教授の床次眞司さんらが実施した浪江と南相馬の住民計62人の甲状腺の測定▽長崎大のチームが実施した自治体職員ら約200人のホールボディーカウンター(WBC)による全身の測定、といったところだ。

 この中で避難者のヨウ素被ばくが特定できるのは床次さんらの測定だが、数が足りない。政府による測定は精度が低い上、当時の原子力安全委員会が求めた追加の精密検査を対策本部が却下してしまった。これでは、正確な初期内部被ばくのリスクはわからない。

 別のデータから推計する試みはある。放射線医学総合研究所の栗原治さんらは、子どもの甲状腺の簡易測定と、同じ地域の大人の放射性セシウムによる内部被ばくの測定をあわせ、ヨウ素とセシウムの摂取比率を3対1と算出した。比率がわかれば、セシウムのデータしかなくてもヨウ素の内部被ばくが推計できる。

 床次さんらは甲状腺を測定した際に放射性ヨウ素とともに検出された放射性セシウムのデータを利用し、体内に残るヨウ素とセシウムの放射能の比率を算出した。その結果、ヨウ素の方がセシウムより小さかった。

 両者の推計は異なるが、環境中の放射性ヨウ素の割合から推定される値よりかなり小さい点では一致している。「避難者の甲状腺が普通のヨウ素で満たされていたためではないか」。床次さんは推測するが、確かなことはわからない。

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