mlb_g_kawasaki11_200トロント・ブルージェイズの新しいショート選手ムネノリ・カワサキは、
打席でするべきことを十分理解しており、守備に関するすべてのことに熟達している。そして彼の止まらない勢いと情熱、そして野球の本能は、眼を見張るような肉体持たない彼を補っている。

そして確かなことがある。その男は、踊るのだ。

31歳のカワサキは最近、チームの専用機で新しいダンスを披露した時、たくさんの笑いを引き起こした。本拠地での6連戦のうち4試合を落としたところだったブルージェイズは、彼のおどけた姿でムードが明るくなった。社交的、そして少し変わった性格で瞬く間にクラブハウスの人気者になったカワサキにとって、それは特別なことではない。執拗なほどの試合前のストレッチの一部として、逆立ちをしながらいろいろな方法で体中を動かす彼の姿を見るチームメイトは、笑いに包まれる。そして試合の間ずっとダグアウトから叫ぶ姿は、たとえ彼がなにを言っているかよく分からないとしても、チームメイトにさらなる笑いを引き起こす。

「彼は一服の清涼剤だ」トロントのジョン・ギボンズ監督は語った。「彼は雰囲気を良くしてくれる。勢いをつけてくれる。それに楽しませてもくれる。英語があまり話せなくて、アメリカに来てから間もないのに、選手は彼に惹きつけられる。彼のキャラクターにね」

カワサキがクラブハウスをより楽しませ、そしてその光景に馴染むほど、彼がホセ・レイエスではないという事実が、みんなの心をよぎる。そして順位表を見たブルージェイズは、現実に引き戻されてショックを受ける。

2013年のポストシーズン進出へ向けて冬の間に大補強をおこなったジェイズは、レイエス、マーク・バーリー、ジョシュ・ジョンソン、R.A.ディッキー、エミリオ・ボナファシオ、そしてメルキー・カブレラを獲得したが、彼らは9勝14敗と苦しいスタートとなった。彼らのチーム打率は.224で、得点圏打率は.197だ。ホセ・バティスタは5本塁打と4本のシングルヒット、そしてJ.P.アレンシビアとコルビー・ラスムスは、三振数でリーグの上位を走っている。ジェイズはリーグ最多の16失策を喫し、ダブルプレーはリーグ最低の14個、そして彼ら自慢の先発ローテーションは、5勝8敗、防御率5.34だ。

ジェイズの運命は、最終的に彼らの忍耐力で決まるだろう。彼らは守備の要で、打線に勢いを与えるリードオフ選手で、チームを引っ張ることを期待された選手がいない中で、3か月の現実をチェックする初期の段階にいる。

レイエスのシーズンは残念なものとなり、予期しない方向へ進んだ。それは4月12日の夜のカンサスシティで、セカンドへのスライディングを失敗した時だった。テレビカメラは、レイエスがカートに乗せられてグラウンドを去る前に、彼の頬に涙が伝わる姿を映しだした。その後のMRI検査で足首の重度の捻挫が判明したレイエスは、オールスター休暇明けまで戻ってくることができない。そのニュースにジェイズは、少しだけ安心した。手術をすれば、シーズン全休になる可能性があったからだ。

レイエスのチームメイトの最初の反応は、ショックだった。そして全員が、「これからどうなるんだろう?」と思った。

トロントの勇敢なGMアレックス・アンソポウロスは、その状況を切り抜けるための動きを模索した。代わりのショート選手として予想されたのは、ミルウォーキーのアレックス・ゴンザレスとユニエスキー・ベタンコート、そしてアトランタのポール・ジャニッシュとテイラー・パストニッキーだった。

アンソポウロスはトレードの可能性を決して諦めなかったが、その時点でジェイズがインパクトのある動きをするチャンスは少なかったと認めた。

「4月にトレードをするのは難しい」アンソポウロスは言った。「シーズンは始まったばかり。彼らは自分たちの選手を見極めたい。そしてシーズンが始まった時に、ショート選手は豊富なポジションではない。良い打撃をするそのポジションの選手は、すでにオールスターになっている。内部の選択肢よりも、良い選手が誰かいたかい? もしいたとしても、それはわずかに良いに過ぎなかっただろう。それに、失うものも考えなくてはならない。今回のケガは短期的なものなので、それはあまり大きな問題ではない」

チームは、軸になる選手の深刻なケガの現実と心理的なダメージに、完全に準備することは決してできない。2011年の5月、サンフランシスコのキャッチャー、バスター・ポージーは、マーリンズのスコット・カズンズとホーム付近で激突して、キャリアを危ぶまれるほとのケガを負った。その時5割を6ゲーム上まっわっていたジャイアンツは、8月までナ・リーグ西地区の1位をキープした。しかし彼らはその後勢いを失い、アリゾナに8ゲーム差の地区2位で終えた。彼らはポージーがいた時は27勝21敗で、彼がケガをしてエリ・ホワイトサイドとクリス・スチュワートがキャッチャーのポジションを分けたあった後は、59勝55敗だった。

サンフランシスコでプレーしていたトロントの内野手マーク・デ・ラ・ロサは、ケガによってスター選手の不在が長くなった時、チームはそれを段階的に受け入れると言った。

「初めは、選手のことを思う。戻ってくるためにリハビリや精神的な苦難があるから」デ・ラ・ロサは言った。「それから、チームのことが心配になる。彼らがチームになにを意味するのかを実感することになるから。一番きついのは、ホセやバスターが松葉杖を使ってクラブハウスを歩いている姿を見ることだね。彼らは、チームが成功するために欠かせない選手であることが分かっているから」

「最初の2,3日は厳しいけど、シーズンが進むに連れて、彼らが帰ってくるのが楽しみになる。この世界には、必要なことだ。ラインアップが変わっても試合は続く。時間は止まらないし、前に進み続けなくてはならない。忘れる以外の選択肢はないんだ」

ジェイズには、一時的な代わりのショート選手になれる選手が何人かいた。マイセル・イズタリスの、ベストポジションはセカンドだが、キャリアで164試合ショートで先発出場している。そしてボナファシオはメジャーで81試合をショートで先発している。

ギボンズは、ショートのポジションを複数の選手で分け合うことを嫌った。それは継続性が必要なポジションだからだ。ショート選手は守備の要で、毎晩ラインアップに違う名前が書いてあると、流れを保つのが難しくなる。

mlb_g_kawa88_cr_300カワサキは、メジャリーグ経験の足りなさを埋めるだけの国際試合の経験を持っている。彼は2006年と2009年のワールド・ベースボール・クラッシックに出場し、2008年の北京オリンピックに出場し、日本の福岡ソフトバンクホークスで8回オールスターに選ばれ、2回ゴールドグラブに輝いている。61試合の出場で打率.192だった昨シーズンのカワサキは、シアトル・マリナーズを放出された。そしてトロントのアシスタントGMであるアンドリュー・ティニッシュはスプリング・トレーニングで、選手層を厚くするために彼の名前を挙げた。彼は3月中旬にマイナーリーグ契約を結び、トロントの3Aバッファローでシーズン開幕を迎えた。

レイエスが好調なスタート(38打数15安打、打率.395)をきったリードオフのポジションで、カワサキとボナファシオ、そしてラジャイ・デービスは、合わせて54打数10安打(.185)だ。しかしカワサキは、バントとヒット・エンド・ラン、そしてきわどい球を見極める能力を見せて、スモール・ベースボールができることを証明した。彼は少ないデーターではあるが、1打席あたり平均4.61球を投げさせている。

ブルージェイズがレイエスの不在を乗り越えようとしているのなら、大物選手たちはその穴を埋めるために、彼ららしい試合をしなければならない。それはバティスタ、エドウイン・エンカーナシオン、ラスムス、アレンシビアがより多くのパワーを発揮して、ブレット・ローリーとカブレラは、エネルギッシュなプレーとより多くのライナーを打つことを意味する。

ギブソンは、最近の2試合で退場となることで、チームを引き締める姿勢を見せた。そして彼は、苦難を切り抜けることが必要なこのチームを、コントロールするのに適任に見える。簡単に言えば、彼はジェイズですでに一度クビになっている。なので彼は、スロースタートとレイエスのケガという二重の苦難に対してパニックに陥ることはない。

「こんなことがおこった最初のチームだったのなら、ちょっと違ったかも知れないけど」ギボンズは言った。「だけどこれも野球の一部だ。ヤンキースを見てみなよ。誰も、実力通り打っていない。だけど彼らは、良い野球をしている。良いチームはそれを乗り越える。ホセが中心選手の一人なことは疑いようがないけど、シーズンが進む中で、私たちはそれを生き残るための方策を考えなくてはならない。”厳しい"などと考えてはならない。

ジェイズのロスターには、ポストシーズンの経験が豊富な選手はいない。しかしダレン・オリバー、ディッキー、バーリー、デ・ラ・ロサ、そしてバティスタは、長いシーズンにチャレンジするだけの十分な経験を持っているようにみえる。

「これまでに、その経験がある多くの選手がうちにはいる」バティスタは言った。「彼らには初めてのことではない。うちは全体的に、より完成されて成熟したチームになった。そしてこれまでに僕がプレーしていたチームとは、まったく違うものになった。困難を跳ね返すだけの力を持った選手が揃っている」

その小柄なショート選手は、その中にフィットしている。トロントのファンは、カワサキの異文化の魅力をすぐに気に入り、彼らのお気に入りの一人にした。ファンは試合の間を通して、彼の名前を叫んで応援し、そして球場のおみやげ屋では、彼のユニフォームを探している。彼はわずかなチャンスであっても、ファンの顔を笑顔にするまれな能力を持っている。打率.203のメジャーリーガーである彼は、その動きのなかで、彼が生き残る道を見つけた。

「ある日僕が三塁で、彼がショート、そしてマイセル・イズタリスがセカンドで、投手交代があったんだ」デ・ラ・ロサは言った。「理解するのが、少し難しかった。この広い世界で、僕たちみたいな3人が集まって、どうやって話をするんだ?」

ホセ・レイエスがいない中で、どんなことでも起こる可能性がある。現在のマウンド上で話をするのは、アイビー・リーグ出身の三塁手、ベネズエラ人の二塁手、そして日本人ショート選手だ。もしジェイズが不安定なスタートを生き残り、20年間で初めてのプレーオフ進出を果たすのなら、10月の彼らはそこで大笑いしているかも知れない。

参考記事:Toronto falling short early By Jerry Crasnick | ESPN.com