かつての葬儀といえば、華美な装飾の祭壇や100人を超える弔問客で故人を弔うのが一般的だった。しかし、長引く不況、親族や地域社会の関係の希薄化、信仰心の薄れなどで、最近は家族葬や直葬といった「小さい葬儀」が主流になりつつある。だが、そこには誤解やトラブルなどの落とし穴が潜んでいることが、最近になってわかってきた。
エンディングコンサルタントで、「日本エンディングサポート協会」理事長の佐々木悦子氏が語る。
「生前、親が子供に『義理や見栄はいらないので親しい人だけに集まってもらいたい』、『家族に手間と金銭的な負担をかけたくない』と希望するケースが増え、家族葬や直葬がブーム化しています。都心部では家族葬が約5割、直葬も2割ぐらいに増えてきている」
家族葬とは家族や親族を中心とした葬儀のこと。祭壇を飾って通夜、葬儀(告別式)を行ない、仏式の場合は僧侶による読経もある。直葬は通夜や葬儀を省き、納棺と出棺だけをして荼毘に付すという、火葬だけの葬儀を指す。
そうしたこぢんまりとした「小さな葬儀」が主流になりつつある背景には、葬式にお金をかけられないというフトコロ事情もある。葬儀費用は2000年代に入ってから急激に減少した(2003年の236.6万円をピークに2010年は199.9万円に=葬儀費用の全国平均)。
NPO法人「葬儀費用研究会」の冨永達也・事務長の解説。
「会葬者を20~30人におさえる家族葬ならば、100人を超える従来の葬儀に比べて、葬儀社から請求される金額は少ないことが多い。祭壇や棺、葬儀社による司会・進行費など固定費は、意外にも一般葬とほとんど変わりません。それ以外の費用、つまり弔問客にふるまう通夜の料理や返礼品などの費用で変わってきます」
ならば、家族葬のほうが遺族の金銭的な負担も少ないだろう――実際、そう期待する人は多い。しかし、経験者からは「一般葬よりも費用がかさんでしまった」という声が聞こえてくる。
前出の冨永氏が指摘する。
「会葬者が少ないということは、それだけ遺族が受け取る香典も少ないということが盲点です。実は、返礼品や、一部の会葬者にふるまう料理代などを差し引いても、香典は半分ほどが手元に残ります。すると、一般葬では葬儀費用の大半が香典でまかなえるケースも少なくない。ところが、家族葬では香典に期待できないので、かえって持ち出しの費用が高額になるのです」
伝統的な「香典」という仕組みには、親族や地域の人たちが少しずつお金を出し合い、遺族の経済的負担を軽減させようという役割もあった。「人を呼ばなければ安く済む」という考えは短絡的だったのだ。
※週刊ポスト2013年5月17日号
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