経営資源・知財として
ビッグデータを最大限に活かす
企業にとってデータは、ヒト・モノ・カネと同様に経営資源である。すなわち特許・商標・ノウハウなど、知財の一部であると言える。経営者は、競争力の源泉であるこの重要な経営資源をいかに経営に活かすかを考えなければならない。
データは競争力を生む重要な知財
マイクロソフトのKinect(キネクト)は、ゲームコンソールのXBOXに接続する入力機器であり、コントローラーではなく、センサーの前で人間がジェスチャーをすることによってゲームを操作する。Kinectはレーザーによる3次元のセンサーを備えており、これによってプレーヤーの姿勢を把握する。このセンサーはイスラエル製の安価なもので、あまり精度は高くない。実のところ、Kinectをシステムとして成功させているものは、大量のデータによる機械学習である。すなわち、マイクロソフトは年齢・性別・体格などの違う非常に多くのユーザーに、このセンサーの前で多くのジェスチャーをさせ、それを機械学習でKinectに覚えさせたのである。Kinectが市場に投入されてから2年以上が経つが、未だにベンチャー企業等からKinectを模倣する機器が現れないのは、この大量データの有無が参入障壁になっているのだ。
このように、データは競争力を生む重要な知財、すなわち経営資源と考えることができる。では、知財としてのデータはどのように保護し、活用していけば良いのだろうか?
法律は守ってくれない
データは国の根幹を支える重要な知財である。残念ながら特許法や著作権法ではデータの知財を守ることはできない。現在は個別の契約にしばられているのみであり、このためにデータの流通が大きく阻害されている。「IT 融合フォーラム有識者会議 Kick-Off Statement」[1]では、日本が目指す社会の姿を「エビデンスに基づく社会」であるとし、そのために必要な公共データ公開の義務化、データに関するポリシーの策定を提言している。特に、データが二次利用、三次利用されていくに従って、下流からの価値創造が上流のデータ提供者に還流するようなポリシー上の仕組みを作ることが重要である。また、過失または故意により、誤ったデータを提供したりデータの提供を遅らせたりして損害を与えた場合の補償の仕組みも必要である。
業界におけるデータの共有の仕組み
データに関する共通の知財保護の仕組みはまだ現れていない。しかし、業界によってはデータの利用を促進しているものがある。
その一例は、消費者金融における与信情報である。クレジットカード会社や個人向けの信販会社の業界では、個人の与信情報のサービスが共通のデータベースとして提供されている。例えば、ある信販会社に対してローンを申し込んだとき、そのユーザーが過去に延滞などの与信事故を起こしていないかが、このサービスによって提供されている。科学技術文献の世界では、エルゼビアなどが文献データベースのサービスを行なっている。
これらはいずれもデータの価値に基づいて商業的に成功しているサービスであり、今後のデータ利用のあり方のベストプラクティスとして参考になるものだと言えよう。
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