経営者はデータ活用に
明確なビジョンを持つこと
理由は簡単で、テレビを多く見るのは高齢者であるからである。そして高齢者は方言を使う率が高い。これは、相関が必ずしも因果関係を意味しない、という 好例である。我々はしばしば、相関と因果をごちゃまぜにしてしまう。しかし、データを解釈するためには、この違いは決定的である。よく出される例が、「警察官の多い街には犯罪が多い」という相関である。これを「警察官が多いから犯罪が多い」という因果と捉える人はいないだろう。だが、前述の「テレビと方言」の例では、より相関と因果の関係が間接的になり、理解が難しくなってしまうかもしれない。
データを意思決定に用いるには、相関ではなく因果を知らねばならない。だが、データから因果を推論するのは容易なことではない。因果を正しく知る一つの 方法は科学的実験によるものである。これは、ランダムに選んだ2つのグループに対して、処置を施したもの(treatment group)とそうでないもの(control group)に分けて、その効果が統計的に有意であるかどうかを問うものである。医薬の世界では、科学的実験により効果があると認められたものだけが認可される。同様にインターネット・マーケティングの世界では、科学的実験によりキャンペーンの効果を測定することが行われている。
正しい答えではなく、正しい質問を考える
しかし、最終的に意思決定を行うのは経営者である。経営側にデータに基づく意思決定のリテラシーがなければ、ビッグデータも宝の持ち腐れになる[2]。
シャープは、「エグゼクティブ・コックピット」と呼ばれる非常に先進的な経営意思決定支援機能を持つことで知られている[3]。このシステムは、全世界 における販売、在庫などのデータを、リアルタイムで経営陣に提供する。役員室に置かれた大きなディスプレイを見て、経営陣は経営判断を下すことができる。だが、これらの判断は最終的には経営陣のものであり、データはその補助手段にすぎない。結果的に現在のシャープの苦境が、経営陣の判断の誤りによるものかは定かではないが、よいデータ分析システムを持っていることだけで経営がうまく行くわけではない、という重要な教訓になるだろう。MITスローン・ス クール・オブ・マネジメントのアンドリュー・マカフィーは、「ビッグデータの時代における経営者に求められる資質は、正しい答えを考えることではなく、正しい質問をすることだ」と述べている[4]。正しい質問さえわかれば、あとは適切なデータと分析手法によって、答えはほぼ一本道で導かれるのだ。
[参考文献]
1) 国立国語研究所, 鶴岡調査, http://www2.ninjal.ac.jp/keinen/turuoka/.
2) 樋口知之, 「ビッグ・データを操る者が勝つ」, 『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』, 2012年2月号, http://www.ism.ac.jp/news/2012/120116.html.
3) 日経BP, IT Japan Award 2008: 「シャープ 世界を一望する『経営コックピット』説明不要の使いやすさ目指す」, http://itpro.nikkeibp.co.jp/ev/itex/itj08/award/sharp.pdf, 2008.
4) Erik Brynjolfsson and Andrew McAfee, “Big Data's Management Revolution,” Harvard Business Review, Oct., 2012. 邦訳「ビッグデータで経営はどう変わるか」,『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』, 2013年2月号.
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