ビッグデータの技術的イノベーションは
これからが本番
国内の事例では、コマツ製作所のKOMTRAX[7]が、同社の建機に内蔵されているGPSとセンサーから、統合的な車両管理を行う。また、発熱などの検索キーワードからインフルエンザの流行を検出するグーグルのFlu Trend[8]や、iPodやiPhoneなどモバイル機器の位置情報を利用して人の混雑状況を予測するスカイフック社のSpotRank[9]なども、人間活動をセンサーとして利用するという意味で、CPSと捉えることができよう。
これらの動きに共通しているのは、ITが今までの産業構造を保ったままそれらを効率化するのではなく、産業構造そのものを変えようとしていることである。経済産業省はこの「スマート化」の動きを、IT産業だけでなく、全産業の構造変化の大きな動きと捉え、「IT融合政策」を打ち出している[10]。経済産業省が5年ごとに出版している「産業連関表」によれば、金融業におけるITの投入係数、すなわちITの貢献割合は8%ほどである。だが、農業・医療などの分野では、ITの投入係数は1%にも満たない。これら、デジタル化、ネットワーク化がまだ十分に行われていない産業分野では、ITを利用した産業構造のイノベーションがまだまだ可能なはずだ。
そして、このCPSについて特徴的なことは、物理世界に置かれた様々なセンサーから、あるいはWebサイトのアクセスログから、大量のデータが安価に得られるようになってきたことである。これらのデータは、企業の内外で何が実際に起きているのか、何が今後起きそうなのか、についての重要な知見を与えてくれる。経営者にとって、きわめて重要な経営資産なのである。
[参考文献]
[1]Nicholas G. Carr, “IT Doesn’t Matter,” Harvard Business Review, May, 2003. 邦訳「もはやITに戦略的価値はない」,『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2004年3月号.
[2]The National Science Foundation, "Cyber-physical systems (CPS): Program Announcements & Information,” http://www.nsf.gov/publications/pub_summ.jsp?ods_key=nsf08611, 2008.
[3) 丸山宏、「サイバー・フィジカル・システムズ」, 『日経ITpro』連載. http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20101115/354117/, 2010.
[4]Edison Project, http://www.edison-net.dk/.
[5]森川高行, 『道路は、だれのものか』, ISBN-13: 978-4478012710, ダイヤモンド社, 2010.
[6]Masdar Project, http://www.masdar.ae/en/home/index.aspx.
[7]Komatsu, KOMTRAX, http://www.komatsu.co.jp/ce/galeo/spt200506/.
[8]Google, Flue Trend, http://www.google.org/flutrends/.
[9]Skyhook, Spotrank, http://www.skyhookwireless.com/spotrank/.
[10]経済産業省, 「スマート社会における「融合新産業」の創出に向けて」, http://www.meti.go.jp/committee/summary/ipc0002/028_05_01.pdf, May, 2011.
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