ビッグデータの技術的イノベーションは
これからが本番
ビッグデータがなぜ今注目されているのか。その背景には、社会におけるITの役割が劇的に変化しつつあることがある。ITが今までの産業構造を保ったままそれらを効率化するのではなく、産業構造そのものを変えようとしている。今回は、その技術的イノベーションの背景を解説する。
Does IT Matter?
2003年に米Harvard Business Review誌に発表されたニコラス・カーによる論文 “IT Doesn’t Matter”[1]は、「ITはコモディティ化しているので、ITをどのように使うかはもはや企業の戦略的課題ではない」と主張し、大きな話題を呼んだ。鉄道、電力、電話など、新たなテクノロジーが社会に導入されると、それによって、産業構造が大きく変化する。個々の企業にとっては、新たなテクノロジーをどのように企業競争力につなげるかが、きわめて重要な経営課題となる。だが、ひとたびテクノロジーが社会に定着すると、そのテクノロジーはコモディティになり、経営の重要課題リストから落ちていくのである。
カーは電力の例を挙げている。19世紀後半の工場では、天井に通された長い動力シャフトに合わせて工作機械を配置するのが一般的な考えであった。このシャフトは、水力あるいは蒸気機関によって駆動され、個々の工作機械はこの天井のシャフトに必要に応じて動力ベルトを掛けることで動力を得ていたのである。エジソンの電気モーターの発明によって、水力や蒸気機関が電気モーターに置き換わったあとでも、しばらくは工場の配置はこのままであった。
だが人々は次第に、工場に1つではなく、各工作機械に1つずつ小さな電気モーターをつけることによって、工作機械の配置に大きな自由度ができることに気づいた。この結果、流れ作業に適した工場の配置が可能になり、工場の生産性を大きく向上したのである。この時期、電気モーターの可能性に気づいて、発電所の近くに工場を立地したり、流れ作業に適した機械配置を持った工場を設計することは、経営の重要課題であり、そのための専門の役割を持った、いわば「チーフ・エレクトリシティ・オフィサー」がいたそうである。
しかし、電力が広く普及した今では、電力の利用によるイノベーションは、経営の課題ではない。カーは、ITについても同様に、ITの利用方法はもはや経営課題ではなく、CIOという役割も必要ない、と断じたのであった。
実世界とITが緊密に結合された
サイバー・フィジカル・システム
確かに、PCやネットワークなど個別の機器・サービス類はコモディティ化している面もある。だが、カーの論文から10年近く経った今、ITによる社会変革はまだ緒についたばかりだ、というのが大方の見方のようだ。
実世界とITが緊密に結合されたシステムを、サイバー・フィジカル・システム(Cyber-Physical Systems:CPS)と呼ぶ[2,3]。たとえば、デンマークで行われているスマート・グリッドであるEDISONプロジェクト[4]では、風力発電機で生成された余剰電力を一時的に電気自動車に蓄えることによって、生成された電力利用の効率化を図ろうとしている。ロンドンや、ストックホルムなどで行われている道路課金の仕組み[5]は、個別の車両が課金エリアに入ったことをセンサーで検出できるようになって、初めて可能になった。アブダビ首長国で行われているMasdarプロジェクト[6]は、人口9万人の都市をゼロから設計することによって、二酸化炭素を排出しない街をつくろうという壮大な試みである。
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