顧客インテリジェンスの目的を特定する
顧客インテリジェンスを特定するには、その目的から明確化しなければならない。具体的にはテクノロジー面とビジネス面の両面からの検討である。本稿では、その2つの面で必要な具体的なチェックリストを紹介する。
数週間前、顧客インテリジェンスへの投資の強化を検討しているある通信企業向けに、ワークショップを開いてほしいとの依頼を受けた。そこで私はまず、「ワークショップに1週間かけて、すべての可能性を1つずつ検討していくことは可能でしょうか?」という質問を投げかけた。顧客インテリジェンスに伴う問題は、誰もがより多くの、そしてより優れたバージョンを求めているものの、その手段が多数存在することである。いかなる組織であろうとも、すべての手段を一度に追求することはできないため(この通信企業も、ワークショップに1週間は費やせないとの回答であった)、早急に選択肢を絞り込むことが課題となる。そこで、企業の置かれた状況や目標をじっくりと検討し、最も大きな影響を及ぼすと考えられる取り組みのみを考慮することが必要となる。
たとえば、顧客データの分析は、新規顧客の獲得や既存顧客の維持に役立つ。現在の優先順位がどちらにあるかによって、異なるツールや手法を適用することになる。顧客に対して「次善の提案」(NBO:next best offer)を行うことのできる能力(この点については、最近のハーバード・ビジネス・レビューに共著論文を寄せた〈邦訳「データが導く顧客への最適提案」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2012年7月号〉)は、魅力的な商品を数多く取り揃える小売業者にとっては大きな付加価値となる。しかし、顧客が衝動買いする気にならないような、一連のありきたりの金融サービスしか提供していない銀行にとっては、同じような価値はないだろう。ビデオ分析(店内に設置したビデオで顧客の活動を観察し分析すること)は、顧客を理解したいと考える実店舗の小売店にとっては大きな可能性を持っているが、オンライン小売業者や多くのチャネルを通している製造業者にとっては、それほど有効ではないだろう。また、セグメンテーションは強力なツールであるが、さまざまな顧客に対してそれぞれ異なる方法で対応できる能力を備えている場合にのみ、機能するものだ。しかも、消費財やサービスを提供する企業の多くは、そのような能力を備えていない(少なくとも、そうした企業が正直に認めた場合であるが)。
そこで、この通信企業に対しては、顧客インテリジェンス分野で組織が強化したいと思うような機能を列挙した簡単なリストを作成した。ワークショップ開始時に、参加するマネジャーが実用的な目的に合わせてリストをふるいにかけ、その過程で顧客インテリジェンスの全体像を幅広く理解する、という目論見である。おそらく、このリストはみなさんにとっても役立つだろう。項目は2つのカテゴリー、すなわちテクノロジーの面から積極的に取り組むべき項目と、ビジネス面に焦点を当てたものとに分類した。
●テクノロジーに焦点を当てた顧客インテリジェンス・アプリケーション
ソーシャル・ネットワークを基盤とした顧客オファー・離反モデル
ソーシャル・メディアに関するオンライン・センチメント(感情)分析
ターゲットを絞った「次善の提案」(非モバイル向け、またはロケーションベース)
モバイル向け、またはロケーションベースのオファー
非仮説駆動型データ・マイニング(マシンラーニング等)
アップリフトまたはインクリメンタル・モデリング
「顧客の声」テキストの自動分析
オンライン広告掲載に向けた自動行動ターゲティング
オンライン広告向けの綿密な要因分析
マルチチャネル多変量ランダム化試験
ビデオ分析
●ビジネスに焦点を当てた顧客インテリジェンス・アプリケーション
セグメンテーション(および異なる顧客に異なる方法で対応する方法)
顧客離反モデリング(および離反防止措置)
顧客サービスに関するエピソードの予測モデル
すべてのタッチポイントに対応する一元的な顧客データ・ウェアハウス
マーケティング・ミックス・ポートフォリオ・モデリング
適応型顧客プロファイリング(定性的・定量的)
ロイヤルティと生涯価値に基づく価格設定
単純またはA/Bランダム化試験
1つ目のリストにある項目は、主に技術的な要素が取り組みの中心となり、これらをうまく実行できた場合には優位に立つことができる。一方、2つ目のリストに挙げた項目は、技術的な要素が問題となるものではない。というのも、これらについては有効なテクノロジーや分析アプローチがしばらく前からすでに存在しているからである。これらがテーマとなるのは、組織全体で顧客について共通の定義をもつ、あるいはさまざまなセグメントに対して差別化された顧客対応のプロセスを構築する、といったことが目的の場合である。
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