■「みる・きく・はなす」はいま
【岩崎生之助】1月27日、東京・銀座。米軍輸送機オスプレイの配備撤回を訴え、デモ行進する沖縄県の市町村長や議員、労働組合員らに沿道から罵声が浴びせられた。「売国奴!」「日本から出て行け!」
その様子を撮影した動画が3日後にネットに投稿された。愛知県の50代の主婦は自宅のパソコンで見つけ、コメントを書き込んだ。「公務員はいい身分で、反日活動ご苦労様」
領土問題で中国の脅威が高まっているのに、デモは日米安保に水を差す利敵行為だ。中国は反基地運動に資金を出している――。女性は記者に力説した。
昼は税理士事務所で働き、ガーデニングとインターネットが趣味。沖縄には行ったことはないが、ネットで「正しい情報」を集めているという。
デモをつぶせと集結を呼びかけたのは、女性団体「そよ風」など。動画はネットに多数投稿され、拡散した。「沖縄左翼はシナの工作員」「活動資金を受け取っている」。根拠不明の書き込みが続いた。
「オスプレイに反対しているのは在日朝鮮人」。40代男性も動画を見て書き込んだ一人。記者がメールを送ると「大半の沖縄県民はアメリカの駐留を嫌がっていない」と返信があった。
だが、デモの中心にいた首長や議員は沖縄の人々が選挙で選んだ代表だ。「会いたい」と再びメールを送ったが返事はなかった。
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沖縄タイムスは、デモの周囲で配備反対を訴える特別版約1千部を配るのをやめた。社員の安全が確保できないと判断した。
怒声に包まれた現場で平良武・編集局次長(51)は「僕が知っている本土とは明らかに違う」と感じた。
沖縄ブームと言われた十数年前、東京支社に勤務した。今も在日米軍基地の74%が集中する沖縄へのまなざしはもう少し温かかった。取材したベテラン政治家たちは、基地を押しつける後ろめたさを口にした。
デモの2日前のこと。近くのギャラリーで戦後の沖縄で起きた米軍機事故の写真展を開いた。取材で分かった死者は32人、負傷者は234人。危険と隣り合わせの歴史を本土に伝えたかった。
ほどなく20人ほどの男女が会場に現れた。ぐるっと見て回った後、平良局次長らに「オスプレイ反対のための展示か」と詰めよった。先導したのは政治団体「頑張れ日本!全国行動委員会」。取材に水島総(さとる)幹事長(63)は「どんなことを発表しているかみんなで見に行った。抗議でも何でもない」と言った。
沿道でののしる人たちは極端な一部の集団なのか。平良局次長は沖縄への関心が薄い本土の空気と無関係ではないと思う。
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3月、「琉球独立論」を主張する沖縄出身の松島泰勝・龍谷大教授(50)のもとに1本の電話があった。
電話の主は中部地方に住む男性。「殺されるぞ」「無責任なことを書くな」。不在の教授に代わり応対した職員のメモに、むき出しの敵意が残る。
「国益」の名の下で米軍基地を押しつけられ、本土は同じ痛みを引き受けてくれない。いっそ独立してはどうか。沖縄では「琉球独立論」が注目を集める。松島教授も「沖縄返還の日」の5月15日、仲間と独立論の研究会を立ち上げる。
松島教授のもとには批判のファクスやメールがいまも届く。
「中国脅威論にあおられた人たちが『日本を裏切るのか』と攻撃してくる」
松島教授は思う。裏切られ続けてきたのは私たち沖縄ではなかったか。
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朝日新聞社会部