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「中朝の脅威」から国を守れるか 平和安全保障研究所理事長・西原正
2013/04/29 03:06更新
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記事本文
【正論】「国民の憲法」考
現在の緊迫した日本周辺の国際情勢を見るにつけ、現行憲法がいかに現実と乖離したものになっているかを痛感する。とくに憲法前文と第9条がそうである。
≪前文の現実との乖離甚だしく≫
中国の習近平共産党総書記は昨年12月10日、東シナ海の防衛を管轄する広州軍区司令部で、「いつでも戦争ができなければならず、その戦争は必ず勝たなければならない」と述べたといわれる。尖閣諸島をめぐる日中緊張を念頭にした発言だ。人民解放軍の高級幹部も「戦争に備えよ」と連発し、この1月30日には、中国海軍のフリゲート艦が尖閣諸島海域で海上自衛隊の護衛艦に接近した際、中国側が射撃管制レーダーを護衛艦に照射した。通常なら、これはまさに戦闘開始行動であった。
北朝鮮はというと、2月12日に核実験を強行し、追加制裁へと動く日本に対し、3月17日付の朝鮮労働党機関紙、労働新聞が、「必要な時に、必要な対象に向けて自衛的な軍事行動を取る。日本も決して例外ではない」「わが方は核を含めたあらゆる攻撃手段を備えている。日本は海の向こうにいるからといって、無慈悲な攻撃を免れることができると誤解してはならない」と恫喝している。
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記事本文の続き 憲法前文は、「日本国民は(中略)、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と謳う。何と現実離れしていることか。中朝の指導者の言辞や政府系新聞の主張を見る限り、これらが「平和を愛する諸国民」の国だとはとても思えない。日本が忠実に前文の精神に沿って外交を進めるならば、憲法守って国滅ぶ、という事態になりかねない。
≪公正と信義に信頼できぬ国々≫
近隣2カ国は「公正と信義に信頼」できないし、不確定要因が多く、その対外姿勢の将来予測は困難である。北朝鮮の金正恩第1書記は30年君臨しても60歳であり、北の権力機構が安泰なら、金正恩体制が相当長く続くと覚悟しておく必要がある。その間に、北朝鮮の経済力が伸びずますます国民生活が困窮するかもしれないが、逆に改革開放政策を導入して中国のようになるかもしれない。
習近平総書記は5年任期を2期務めて2022年まで統治しそうである。習氏は党と国家の中央軍事委員会の長を務めているが、軍幹部の支持を取り付けておくために、対外的に厳しい姿勢をとっているとされる。「海洋強国」の建設を説き、「中華民族の偉大なる復興」を目指しているが、果たして、15年ほど後にはGDP(国内総生産)で米国に追いつくのか、それとも今後、中国の力は衰退していくのか予測が難しい。
だが、最悪の事態を想定して準備するのが防衛政策なら、日本は北朝鮮がミサイルと核を実際に使う可能性や、日中両国の艦船や軍用機が尖閣周辺で接触事故などを起こし、それが両国の軍事対立に発展する可能性も想定しておくべきである。現行憲法でこれらの脅威に対応できるだろうか。
朝鮮半島で武力衝突が起きれば在日米軍は出動し、本国からも米軍が半島に展開するであろう。場合によっては、多くの犠牲者が出るかもしれない。その時に自衛隊は憲法上の制約で「戦闘地域」に行って応援することができないと言ったら、米国民は日米同盟を継続して支持するだろうか。
オーストラリア、カナダ、英仏などの軍隊も、小規模ながら国連軍として参加するかもしれない。1954年の国連軍地位協定で、国連軍参加国(当時11カ国、現在8カ国)は在日米軍基地をいくつか利用できる。それらの部隊への支援も憲法上の制約で拒んだら、日本はそれこそ西側友邦国とは見なされなくなるであろう。
≪集団的自衛権の行使認めよ≫
米国はリバランス(再均衡)戦略の一環として、アジア太平洋地域の友邦国との防衛協力を高め、中国を牽制しつつ地域の安定化を図ろうとしている。日本も基本的には考え方を米国と共有し、日米豪、日米韓、日米印などのほか、ベトナム、フィリピン、インドネシア、シンガポールなどとの2国間の協力を強化している。
しかし、日本は、このいずれの協力枠組みにおいても集団的自衛権の不行使という制約内で行うので、協力の深化に限界がある。憲法第9条の改正がなされ、明示的に集団的自衛権の行使が可能になるなら、日本の防衛政策の選択肢を多くすることができる。
その行使が容認されたからといって、日本が域内の友邦国と同盟関係に入ることを意味するわけではない。現在の共同軍事演習を一歩進めて、武器供与、軍事技術の交流、基地の相互使用などによる防衛協力を推進すべきである。グアムの米軍基地を日豪の部隊が使用することも可能になる。
歴代の政府は憲法第9条の拡大解釈を続けてきたが、行きすぎた拡大解釈は、憲法に対する国民の順法精神を弱くさせる。一刻も早い憲法改正が必要である。(平和安全保障研究所理事長・西原正=にしはら・まさし)
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