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真実(原発のウソ)を伝えることの難しさと大切さを考えさせられる, 2011/7/10
著者は原子力工学の専門家だが、国策原発推進に反対し続けてきた。そのため出世の道は閉ざされ未だに助教のままだ。著者が所属する京都大学原子炉実験所には同じような反原発の研究者が集まっており地名にちなんで「熊取六人衆」と呼ばれていた。
福島原発事故後もマスゴミ(大手新聞・テレビ)は、反原発の意見を無視し続けてきたが、最近さすがに無視できなくなって報道されるようになり、一般の国民にも「原発のウソ」という真実が伝わるようになってきた。
著者の主張は、まえがきに集約されている。即ち、原子力のメリットはたかが電気を起こすこと、そんなものより人間の命や子供たちの将来の方が大事だということ、メリットよりリスクの方がずっと大きいということ、原子力以外にエネルギーを得る選択肢をたくさん持っていること、起きてしまった過去は変えられないが未来は変えられること、である。
事故後、政府・官僚・御用学者からは、偽善的楽観論、偽善的良い子発言が続けられたが、事態は非常に深刻であることが指摘されている。最近の報道ではすでに「メルトダウン」は過ぎて「メルトスルー」を起こしていると指摘している。
また、原発推進の原動力となったのは化石燃料の枯渇だが、原子力の燃料であるウランの方が先に枯渇するということだ。この対策として核燃料サイクル計画があるが、敦賀市のもんじゅや六ヶ所村の再処理工場の稼働は絶望的な状況である。使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出した後の高レベル放射性廃棄物の管理は100万年、低レベル放射性廃棄物でさえ300年間管理が必要だ。放射性廃棄物の無害化処理技術は確立していないため、後世に負の遺産を先送りしていることになる。
今回の原発事故についての著者の指摘をまとめると、
政府と東電が生データをすべて公開していないことを強く批判している。
専門家による検証ができず、間違った情報が伝えられ、何度も訂正されたりしておりデータの信頼性がない。
起きてしまったことは元に戻せない、従ってそれを受け入れるしかない。
チェルノブイリ原発事故と似ており、福島の将来を予測する助けとなる。
4月現在で放出された物質はチェルノブイリの1/10だが今後どうなるかはわからない。
このような現実をきちんと認識した上で、汚染された食物は放射線に鈍感な高齢者が食べ、子供や妊婦には安全なものを食べさせよう。
汚染された農地の再生も難しいと予測しているセシウム137の半減期は30年、この間農地を放置すれば再生は難しいだろう。
放射能の墓場を作るしかない、将来にわたって無人地帯にせざるを得ない。
負の遺産を残さないため原発を止めるしかない。
原発を止めたとしても、現有の火力発電所の稼働率を48%から70%に上げれば電力不足にはならない。
そして、もっとも大切なことは「エネルギー消費を抑えること」である。