印鑑は、霞が関では特別な意味を持っている。官僚の世界では、上司に反論したい場合など、口に出すと左遷される危険性があるので、書類に判を押す際に、所定の位置にきちんと押さずに、斜めや逆さに押すことで無言の抵抗を示すことがある。印鑑をきちんと押せない人は、私が面接官なら将来会社の不穏分子になるのではないかと、不吉な予感がしてしまう。
私は社会に出ても十分世間と渡り合える人材を輩出しようと、微力ながら駒沢女子大で教壇に立ってきた。そのひとつが、私に質問する訓練だ。近頃の若者に顕著だが、目上の人間と話すことに苦手意識を持っている。しかし、組織において一番大切なのは、コミュニケーションだ。目上を恐れて何も言えずにうつむいているのでは、卑屈になるばかり。目上の立場からしても、それでは困ってしまう。
そこで私は、学生に向かってこう言うことにした。
「私に質問するのは訓練だ。授業に関わりのない質問でもいいので勇気を持って手を挙げなさい。そうすれば就職しても、支店長だろうが、社長だろうが、意見を言えるはずだ。『小泉総理の首席秘書官で、とっても怖い飯島勲さんに毎回手を挙げて質問しました』という自信を心に持つことがどれほど重要か、わかってほしい」
目上の人間を心の奥底でなめてかかるぐらいの余裕が生まれれば、人生の一番大切な場面で実力を発揮できるものだ。だから毎回講義の終わりに30分間質問を受けることにした。
ついには質問の内容に困ったのか「奥さんといつ知り合ったんですか。どういうところで」などという学生が出る有り様。どんな質問にも答えるなどと、約束しなければよかった。
※すべて雑誌掲載当時
『リーダーの掟』(プレジデント社)
[著] 飯島 勲
大反響!1000億稼ぐ人の気配りメモ
大人気連載の書籍化。本書にて、プーチンが「可能性を本質的な形で高める」と世界に向けて絶賛し、野村克也が「本当によく調べましたねぇ」と脱帽した段取りの秘密が明かされています。