日本人MLB野手最大の難関
川崎宗則が“遊撃手”で生き残るために
“メジャーの遊撃手”として確立されたわけではない
もっとも、これまで代役先発の役割をこなして来たからと言って、川崎が“メジャーの遊撃手として確立された”などと言いたいわけではない。
守備は確かに堅実ではあるが、24日(現地時間)のオリオールズ戦では敗戦に繋がるエラーを犯したこともあった。28日(現地時間)のアレックス・アンソポロスGMの会見の際には、その守備範囲の物足りなさを懸念する声も地元記者の間から出ていた。
打撃面も昇格当初はまずまずだったが、現時点で打率2割2分5厘、出塁率3割1分3厘と数字は徐々に下降。マリナーズ時代の昨季は61戦で打率1割9分2厘に終わった非力さは、今後、徐々に取沙汰されてくるかもしれない。
結論として、やはり川崎はメジャーでは控えの役割が適任なのだろう。ある現地メディアは匿名を条件にそう語ってくれたし、筆者の目にもそう見える。
レイエスが復帰するオールスター前後にはその立場に落ち着くはずだし、それ以前に大きく出遅れたチームが巻き返しを目論み、実績ある遊撃手を補強することになるかもしれない。
“成功の条件”のうち、満たす2つの要素
これまでショートストップは、メジャーに挑戦する日本人野手にとって難関のポジションであり続けて来た。ロッキーズ時代の2007年に二塁手としてワールドシリーズに進出した松井稼頭央も、ショートとしても起用されたメッツ時代には活躍できずじまい。2011年にツインズと契約を結んだ西岡剛も、結局は“球団史に残る”と評されるほどの大失敗。アスレチックス入りしたばかりの中島裕之も、今季はケガもあって出遅れている。
「“日本人遊撃手にはこれが必要”とか言い切れる要素は探せないが、やはり運動神経に恵まれた選手でなければならないだろう。日本人選手たちは頭が良くて堅実だから、さっきも話したようにイージーな打球を絶対にミスらない。そういった長所を生かせば良いショートストップになれると思う」
守備のうまさゆえに14年に渡ってメジャーで生き残って来たパイレーツのジョン・マクドナルド内野手は、かつて筆者にそう語ってくれたことがある。
名手が挙げた運動神経、頭の良さ、堅実さといった“成功の条件”のうち、川崎は少なくとも後の2つは満たしている。そして、25日(現地時間)まで1打席平均4.61球を相手投手に投げさせて来たように、打撃でも少なくともしぶとさは発揮している。
スター級の待遇、期待で迎えられた過去の日本人遊撃手たちと単純比較はできないが、今季ここまでの川崎はまずは及第点。メジャーの舞台で働き続けていくのは並大抵の難しさではないだろうが、自分をよく知り、能力以上のことを試みようとしない川崎なら期待はできる。
スペシャリストが重宝されるメジャーリーグに、日本が生んだ仕事人が確かな足跡を残して行くことを期待したい。
たとえ守備、代走要員的な脇役だとしても、内野の要であるショートストップとして存在価値が認められることには大きな意味がある。特にマイナー契約から這い上がった川崎のような選手がそれを成し遂げれば、何とも痛快なストーリーになるではないか。
<了>