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はっこう
10月12日(金)、東京都健康プラザハイジア4階A・B会議室において、繁華街再生11地区実務担当者会議(行政会議)が行われた。これは、もともと小泉内閣の平成17年6月、歌舞伎町が国策としての都市再生プロジェクト(第9次)に決定した折に、歌舞伎町の先駆的な安心・安全のまちづくりへの取り組みをモデルとして全国11地区(11警察署管内)が繁華街対策として指定されたことから始まったもので、11地区とは歌舞伎町(一部新宿駅周辺を含む)と共に、薄野(札幌)、池袋、渋谷、六本木、関内・関外(横浜)、栄周辺(名古屋)、木屋町周辺(京都)、ミナミ(大阪)、流川・薬研掘(広島)、中洲(福岡)を指し、各地域における実情に応じたモデル的取り組みの展開を図るもの。なお、会議出席者は各11地区の行政・警察担当者(県警クラス)と警察庁、日本政策投資銀行。東京都からは都知事本局政策部、青少年・治安対策本部、警視庁からは生活安全部、新宿区からは区長室安全・安心対策担当と企画政策部歌舞伎町対策担当がそれぞれ出席した。今回の会議で基調講演として『先進地区からの取組紹介「歌舞伎町ルネッサンスの推進」~犯罪を許さないまちづくりの実践と市民の役割~』を行う歌舞伎町商店街振興組合事務局長の城克(じょうまさる)氏と同商店街振興組合理事長の新村雅彦氏が民間人として参加した。
10月9日(地域活性化統合本部初会合)をもって、これまで内閣官房にそれぞれ分かれていた都市再生、構造改革特区、中心市街地、地域再生の四本部が統合され、新たに内閣官房地域活性化統合事務局と組織改変がなされた。会議冒頭、この繁華街11地区実務担当者会議の事務局となっている内閣官房地域活性化統合事務局庄司郁参事官補佐より挨拶。
「福田内閣に変わり、地域の活性化ということがわが国の再生にとって最も大きな課題であるという視点に立ち内閣官房にある四組織を統合することにより地域の活性化のための施策を総合的に行っていくという現内閣の強い意向の表れである。地域活性化への視点はいろいろあると思う。例えば地元の経済の活性化であるとか高齢化社会をどうしていくのか、環境であるとかそういった様々な課題があるなかで、やはり安全・安心というのは一つの大きな柱になっていくと思う。地域の中核都市や、また地方の部分も含め安全・安心な社会をどうやって構成していくかというところを内閣官房としては進めていきたい。また地域の取り組みを強く支援していくたいと考えている。」(内閣官房地域活性化統合事務局庄司郁参事官補佐)
この内閣官房地域活性化統合本部の支援施策というのは、平成20年度の概算要求額からみて、予算が増額している部分から見ると、例えば法務省では不法就労外国人を受け入れないまちへの構築としての施策・事業に対する支援(44億)、文科省だと地域ぐるみの学校安全タイセイ整備推進事業に対し18.2億、国交省関係ではまつづくり交付金(道路・公園・下水道・河川・多目的広場・修景施設・地域交流センター、土地区画整理事業等、防犯灯や防犯カメラの設置や住民参加による防犯パトロールの実施等市町村の提案に基づく幅広い事業が交付対象で国費は事業費の4割)が2,880億、都市公園事業費(安全・安心な公園整備の観点から見通しのよい植栽等防犯に配慮した都市公園整備の推進、補助率は用地費1/3・5.5/10・7/10、施設整備費は1/2)が1,337億などなど。やはり国交省関連のものが大きな予算を持っている。国交省関連ではあるが非予算項目で例えば屋外広告物行政の適正な執行の推進というのもある。歌舞伎町対策においても、こういった交付金の中で今後有効と思われるものはいくつかあるだろうし、またこういった制度を知らなければ国がまちづくりに対して支援可能な部分があっても見落とすことになるので、情報としても知識としても重要な部分はある。
◆基調講演:先進地区からの取組紹介:「歌舞伎町ルネッサンスの推進」~犯罪を許さないまちづくりの実践と市民の役割~(歌舞伎町商店街振興組合事務局長 城克氏)
これは城氏の持論でもあるが、まちづくりを進める上で大切なのは、まずその街の歴史を知り、今を知り、そして未来を考えるということから始まるということで、彼の基調講演では常に歌舞伎町の生い立ちとその後の変遷、そして現在の状況と対策、未来像という形で話が進む。街の生い立ちやその後の変遷についてはこれまでも何度も触れてきたので省略するが、ここで言う歴史とか変遷というのは、表の世界だけのことではなく裏の部分も含めてということである。戦後闇市のスローガンとして関東尾津組が掲げた「光は新宿から」から始まり、鈴木喜兵衛氏の掲げた道義的繁華街建設への取組、日本人の預金封鎖による台湾華僑や朝鮮系の人たちの作った街、GHQによる闇市の排除、昭和33年の赤線廃止、昭和30年以降映画館やディスコ、歌声喫茶等賑わいの裏に違法組織・ヤクザ等の対立構図の中で離合集散し広域・大型化していった暴力団、昭和40年代から反戦デモや安保闘争の中で過激化した暴力・破壊活動に対し街がはじめて治安対策という問題に対峙した時期、昭和50年代に違法性風俗の進出と暴力団のミカジメ料という問題、昭和60年の新風営法施行によって逆に性風俗の氾濫を招く結果に繋がる。そして平成に入り蛇頭の台頭や平成13年9月の明星56ビルでのビル火災(44名死亡)より一気に消防予防法の改正強化や暴対法強化、そして当時都副知事であった竹花豊氏が「繁華街治安対策は総合行政で」という流れから生まれた歌舞伎町ルネッサンス(平成17年1月発足)。そこで、歌舞伎町においてどういったまちづくりを進めていくのかといった明確なビジョンとして掲げたものが以下、「歌舞伎町ルネッサンス憲章」である。
□歌舞伎町ルネッサンス憲章(歌舞伎町まちづくり宣言)
歌舞伎町商店街振興組合と歌舞伎町二丁目町会は、これから取り組む我々の「歌舞伎町ルネッサンス憲章」をここに宣言します。歌舞伎町は、戦後まもなく街の区画整理を進め「産業博覧会」「歌舞伎劇場」を含む興行街の誘致や、物販街、飲食街が調和する洒落た複合街づくりを目指した先人の礎の上に発展してまいりました。その後、西武新宿駅の誘致、サブナードやハイジアの建設など、幾多の大規模な事業を、歌舞伎町のまちづくりの一環として推進してきました。また、風営法の改正や最近の消防法改正など、それぞれの時代の要請にあわせた法律整備を提唱し、あるいは積極的に支持してきました。これらの歴史を経て戦後60年を迎え、我々は今、時代の変革点に立っていると考えています。歌舞伎町の繁華街は、生まれ変わる時期に来ており、また町の交通アクセスも時代とともに大きく変化しています。この変革に際し、我々が目指す歌舞伎町の基本理念を以下に掲げ、新しい時代にふさわしいまちづくりを進めてまいります。
Ⅰ 新たな文化の創造を行い、活力あるまちをつくります。
Ⅱ アメニティ空間を創造し、魅力あふれるまちをつくります。
Ⅲ 安全で安心な美しいまちをつくります。
「歌舞伎町ルネッサンス憲章はまちづくりにおける民意のビジョンとして掲げ、今では憲法のようなものであるが、その中で、かつて鈴木喜兵衛さんが道義的繁華街と言ってた想いを踏まえ、『健全な歓楽街』とあえて歓楽街という表現を使い、24時間光が消えない街にしていこうという地元の想いを訴えている。」内閣官房繁華街再生11地区実務担当者会議でも、この24時間光が消えない街ということを強く強調している。自分も城氏と二人でよく議論する機会は多いが、「兎に角、一つどうしても実現したいことは何かといえば、この24時間眠らない街、光が消えない街としての24時間特区としての歌舞伎町である。」と城氏は常々訴えてきた。
歌舞伎町商店街振興組合事務局長の城克(じょうまさる)氏
話は変わるが、特に暴力団対策として、昨年12月に開催された「みかじめ料不払宣言大会」(記事)では「過去は問わない」として、これまで暴力団に資金提供をしてきたところもあわせ、一切暴力団と縁を切りみかじめ料を払わないという大会を行った。「今更みかじめ料なんて・・」という声もあったが、それでも「ボディブローのように効いている」(警察)としてこういった末端の課題対策は効果が出ているという。しかし、違法な営業を続ける店舗・風俗店はまだまだ後を絶たない。彼らにしてみれば問題があっても警察には相談できないという事情から暴力団とはなかなか手を切れないという現実もあり、歌舞伎町対策では特に法令順守を掲げてきた。ただし、一方では、みかじめ料は全体では大きな額になるかもしれないが、そう入っても末端暴力団員のシノギであり、実際にはもっと大きな資金源が潜在的に存在しているのも事実。麻薬や違法薬物とか不動産関連は徐々に表面化しつつあるが、違法カジノや裏スロット等への投資事業、その他の風俗店の経営関与、金融(闇金融、カバン屋の存在)や脱税指南やマネーロンダリングという部分はむしろ組織上部が間接的に関わる重大な犯罪インフラになっていると考えられる。今回の会議でも城氏はこんな話を持ち出した。「暴力団は資金源が多様化している。その中で気になるのが、例えば、風俗店や性風俗店、あるいは違法な店舗ではクレジットカードが使えるということが店の安心感を訴えちゃっている。しかし、本来クレジットカードの決済は3ヶ月先なんです。でも、違法な営業を繰り返していればいるほどその店には早くに決済をして欲しいはずなんですが、なんでクレジットカードを使えますよとPRをしているのか。そこには何かカラクリがあるのではないか。例えばどこか与信をしているところがあるんじゃないか、カードを使って悪用しているのではないか。彼らはクレジットカードの3ヶ月の決済なんか待てないはずなんですが、これはどこかでチェックすべき点ではないか。」
すでに、9月22日の記事で触れているが、数あるクレジットカードの決済取りまとめと店舗への与信の代行をするアクワイアラに暴力団が多数関与しているだろうことについて、これは全国的な規模で実態解明を促そうという一つの示唆としての発言である。例えばであるが、歌舞伎町のある性風俗店Aは飲食店Sの名義でクレジットカード決済を行っている。請求書はもちろん性風俗店名ではなく飲食代となっている。他に婦人服などの物販名義のものもある。性風俗店の場合はもちろん、、まずとくに新しい風俗店などでもクレジットカード使用の与信は正規では扱えない。しかし、例えばデリヘルでもソープでも、ホストクラブでも概ねクレジットカードが利用できるのが現実でもある。カードの決済は約90日、しかし人件費は日払い・週払いとなるとどうしても現金が必要になる。そこで、高い手数料(10%など)を支払ってでも現金化をしてもらうアクワイアラの存在が重宝される。これが繁華街における風俗店や性風俗店の構造である。かつては、日本中の商店街や町会等がクレジット会社と提携させる与信会社があったが、このアクワイアラが実は北朝鮮系の会社であったことが発覚し、クレジット会社が一斉に民間組織との提携から手を引いたことがある。言ってみれば、その隙間が暴力団の資金源として格好の材料になったと考えられる。歌舞伎町において、一般飲食業(割烹や居酒屋)で約10%、風俗店(キャバクラ等)では約30%近くのクレジット決済があると見られている。歌舞伎町の経済規模を仮に年間5~6000億と見た場合、クレジットで決済される額が約1,000億強、そのうち2%程度が暴力団に流れていたとしても年間20億を越える。ざっとであるが年収500万の暴力団員を400人は食わせていける。歌舞伎町での暴力団員の活動人員は約1,800名といわれているので、その4割を賄うほどの収益を上げているという可能性がある。実際には未収分もあるだろうし(ここは債権としてさらに違法な組織の活動資源になっていく)、クレジット会社自体の利益にもなっているためになかなか調査は難しい。ここで一つ情報を書くと、JCBカードとAMEXは与信機能を自社で持っているが他のクレジットカードは全て外部にある。この点に注意すると実態解明への手法のヒントになると考えられる。これまでそういった視点での警察捜査が無かったようなので、せっかく公式な会議でこの問題を示唆した以上、全国の警察が実態解明へと動くことを期待したい。
ただ、一方で、暴力団関与のアクワイアラを一斉に実態解明から排除へと向かった場合、特に風俗店や性風俗店は壊滅的な打撃を受けることも予想できる。この部分に対して、受け皿の準備をすることを地域は忘れてはならない。もちろんここはここはキャッシュフローの規模等を考えれば現状すでにある組織で可能かどうかという視点も必要。なければ作ることも考えなくてはならない。個人的にではあるが、すでに受け皿準備の段階として、とくに国庫から低利で資金を借り受け可能な受け皿組織になりうるある団体へのアプローチもし始めている。
□迷惑行為等撲滅キャンペーンについて
今年6月から概ね週3~4日程度、1日2~3時間、ということではじめた迷惑行為撲滅キャンペーン。歌舞伎町商店街振興組合のよくしよう委員会(片桐基次委員長・歌舞伎町商店街振興組合副理事長)の発案で、民間ボランティアとして開始したパトロール活動についての概要説明が、今回の会議で発表された。
「民間が出来ることは抑止なんです。最近は警察の考え方も検挙・摘発一辺倒から抑止にも大分プライオリティをシフトするように変わってきているが、しかし、抑止というのは警察官の人数ではできっこないというのは分かりますので抑止は地元の力でやらなければならない。それをいかに声を上げるかということで、今年の6月からはじめた迷惑行為等撲滅パトロールです。当時、街として一番目に付いた来街者にとって体感治安を悪くしているのは悪質なホストクラブの客引きだった。歌舞伎町の一番の導線は新宿駅からまっすぐとモア2番街を経て靖国通りを渡り、セントラルロードに入る交差点のところなんですが、ここが客引きのホスト等が人間バリケード状態で道をふさいじゃっていた。これじゃ、人が入って来ない、奥の方の店だって干上がってしまう。そこで、なんとかこれを取っ払わなくちゃいけない、ということではじめたのがこの迷惑行為等撲滅キャンペーンです。これは私ども(歌舞伎町商店街振興組合、よくしよう委員会といった民間ボランティア)でやっている。ただ、丸腰ですから、一人でやるわけにいきませんので、大勢の方、街の人などにボランティアで参加いただいてまた、新宿警察署も組対課・交通課・地域課・生安課にそれぞれ日を分けて一人でも二人でも制服の方、私服の方に協力をしていただき対応している。」と城氏。
パトロール以前のセントラルロード入り口の状況。ホストの客引きやスカウトらによって完全に入り口が封鎖された状態だった。
パトロールは、実際に限られた時間・限られた場所においては有効であることがすでに証明されており、今後マンパワーを増やすことによってエリアの拡大(靖国通り面やモア2番街、新宿駅前)を目指している。だが、一方では、このパトロールには欠かせないメンバーが未だに存在する点、つまり誰でも出来るというものへの変化、システム作りの必要性、そしてこれをサポートする体制作りといった課題も多い。
□歌舞伎町ルネッサンスにおける総合行政としての評価
「行政(区)は、机の上で文章を作るのは上手です。なぜかなと思いまして、それは区の方の仕事というのは予算を取ってきてその予算を消化し、且つそこにアリバイ的な実績を作ることが正義なんですね。それが最初分からなかったんですよ。ですから、当初ルネッサンスがスタートした頃は区の担当者とは毎日バトルでした。しかし、区はそういうもんだと理解すると、我々(民間)はそれを利用すればいいんですね。区に対し、区が何をして欲しいか、何を求めてるのかを考え路線を変えていくことで区とは上手くやっていくことが可能なんです。当初の頃は歌舞伎町のことを知らない、見たくないものは見ないんだろうと批判の姿勢が強かったが、それを行政としてやれることはどこまでなのか、行政として対応できる範囲はどこまでなのか、これをしっかりと分かればみなさん非常に優秀な官僚なわけですからちゃんと対応してくれるんです。こうして行政と民間、あるいは警察に対して、歌舞伎町ルネッサンス推進協議会という構造を通じて一緒に会議をし議論をしながらバトルを繰り返した結果として、現在のような良好な関係になってきたのだと思います。」と城氏。かなり歯に衣着せた、気を使った表現ではあったが、地域と警察、地域と行政、それぞれ数年前に比較すればそれでもはるかに風通しは良くなってきたといえる。歌舞伎町に限らず繁華街というものは、どうしてもグレーな領域が非常に多い。白い部分、黒い部分への対応は行政も警察も得意であるが、一方でグレーへの対応は腰が引けているというのは現実だし、やむを得ない部分もある。だからこそ、民間の役割が大きくなる。「警察は何もやってくれない、まちづくりという視点がまったく無い」とか「行政は何もしない」と批判ばかり言ってきた民間が、徐々にではあるが民間自体が動くことで警察や行政がサポートしやすくなること、民意あっての警察であり行政であるということに気づいてきた。そして、民間主導という視点に立ち、警察や行政が何を得意とし何を職域とし、そしてまた個々の担当者が何を求めているのかを知ることでスムーズな総合行政の形が形成されてきている。まだまだ足りない部分はあるにせよ、街(民間)が立ち上がらずしてまちづくりは無いことは明らかである。
先日、10月11日のことであるが都庁第一庁舎大会議室で開催された「新宿区民地域安全の集い」にて、公務で出席は無かったが中山弘子新宿区長(↑写真)のメッセージを永木副区長が代読した。その中で、「犯罪から地域を守るためには、警察や区をはじめとする行政機関と地域の方々が協力、連携しながら防犯活動に取り組んでいくことが重要であると考えております。地域の皆様には、自分達の街は自分達で守るといった自主防犯意識を持っていただき、まずは自分自身が犯罪被害にあわないよう気をつけていただくことが大切です。そのためには、それぞれの地域において、地元の方々を始め町会、防犯協会、PTAなどが緊密に連携され防犯パトロールや街の環境浄化活動など顔の見える継続した活動が安全で安心して暮らせる新宿へと繋がっていくと確信しております。」と、自分達の街は自分達で守ることの重要性を訴えたものだった。歌舞伎町では、迷惑行為等撲滅キャンペーンが何よりこうした民間主導の地域治安維持活動の核にもなり、そして大きなムーブメントへの最初の一歩になっている。常に目の前にある課題に対処し、継続させ、更に新たな課題があればそこに積み重ねていく。結局、まちづくりの基本はこういうことの繰り返しなんだということを皆が理解できればと思うところである。
□歌舞伎町を24時間光の消えない街へ
久我英一東京都青少年・治安対策本部長と片桐基次氏(歌舞伎町商店街振興組合副理事長、よくしよう委員会委員長)、城克氏(歌舞伎町商店街振興組合事務局長)
9月より東京都知事本局の青少年・治安対策本部の本部長に久我英一氏が就任したということで、城克氏と片桐基次氏が都庁を訪れた。久我氏は鹿児島県警本部長からの移動で、治安対策本部の本部長は竹花豊氏(元都副知事と兼任、現東京都教育委員)から舟本馨氏(現警視庁刑事部長)に続いての後任となる。この訪問は、片桐氏、城氏は、近く歌舞伎町商店街振興組合から街の意志として法律や条令等の規制強化および緩和に関する「要望書」提出を行うことに対する下話としてのものであるが、この席でも規制強化としての「客引き・スカウトなど路上における勧誘迷惑行為を一切禁止する条例」の制定とともに、歌舞伎町24時間特区の必要性を訴えた。地域経済に対するカンフルとしての要素だけではなく、特に治安面において「明るく光の消えない街」は安全で、また人が集まることで衆人環視が強化され治安も良くなる点を強調した。確かに、環境面や未成年徘徊等の側面から見てマイナスの要素も無いとはいえないが、一方で、ビルが建ち並ぶ街で特に1F路面部分にはシャッターが閉まらない24時間営業を続けられる業態が並び、光が消えなくなることが体感治安の向上に有効である。しかし、現状の風適法では風俗店はおろかライブハウス等までもが深夜1時以降の営業は違法であり、また、個室面積が9.5㎡に及ばないカラオケ店などは現実には深夜酒類店の届出を出せないという法律的には現実とかけ離れた状況がある。シャッターの閉まった店、ネオンの消えた建物の前には客引きが跋扈し(例えば区役所が閉まると一斉に区役所付近は暗くなってスカウトやホスト、中国人エステの客引き場所になっている)体感治安は悪化している。しかし、現実には風俗店への取締強化によって深夜の営業は自粛するかあるいはシャッターを閉めている非合法店舗ということになり、また早朝から営業するホストクラブや朝キャバ・昼キャバといわれる店舗が増加、結局街の昼と夜の顔が混然一体となり、より風紀が乱れる方向に向かっている。これを、24時間と言わないまでも深夜の営業を可とし24時間営業可能な業態を増やすことで街の治安回復と同時に地域経済の活性化を両面で推進する施策はこの24時間特区しかないというのが、片桐氏や城氏、そして自分も含めての共通の認識である。
「ルネッサンス憲章の中で24時間という表現をしたんですが、24時間明るいというのは治安がいいんです。例を出すと、渋谷のセンター街は若者が集まるところなんですが、深夜になるとシャッターが下りてしまう。すると暗くなってしまう。体感治安は悪いんですね。そうすると、そこに居た例えば女の子達はどうするかと言えば、歌舞伎町に来る。一日中明るいというのは、ネオンが消えなくて風俗の街のような印象を与えてしまうが街を歩く人にとっては、意外と体感治安のいい状態になっている。これは、まったく個人的なものですが、来年歌舞伎町は命名60周年なんです。まだ何もイベントを計画してないんですが、ただ個人的には、一度、歌舞伎町その日、街中のネオンを全部消してみたいと思ってるんです。そうすると、暗い街というのはいかに怖いかというのがみんなに分かってもらえて、歌舞伎町は24時間の街だと言ったときに、そうだそうだと色んな方から署名が集まり、それを持っていろんなところに応募なりすれば歌舞伎町は特区として24時間眠らない街として申請を受けられるんじゃないか、そんなことを考えてます。」と城氏が今回の行政会議で最後に再び強調したのがこの歌舞伎町24時間特区への想いだった。
現在進めている歌舞伎町対策、とくに我々が主導する部分はいわば粛正部分が極めて強い。これは、流としては不動産の資産価値を押し下げる圧力になっている。にもかかわらず、歌舞伎町の不動産価格は昨年度約10%の上昇があったといわれているが、収益性はむしろ下がっており、しかしながら実勢価格の方は上に向いているためにこうした状況が起きている。これは、韓国・朝鮮系を含む外資系の資本流入に原因がある。一部危惧されているのは、北朝鮮への送金が出来なくなってからこの資金が日本国内にだぶついたことで、これがファンド化し、その資金によるものがあるという点。歌舞伎町における売り物件の約半分が三経、森下、そして金嶋という三社によって購入されているという現実を見てきた。
ファンドは短期での利回りを優先するために、そこに入るテナントに対するモラルハザードが低いのが現実で、結果として違法な業態が街に氾濫する原因ともなっている。これを、条例や法によってビルオーナーや仲介不動産業者、行政書士らにも及ぶ責任強化を求めていくことで、一定の歯止めをかけ、さらに資産価値の低下圧力を高めることによってとくに短期利益のみを優先するファンドを追い出していくという施策を継続し、また更に強めていこうと考えている。だが、同時に考えなくてはいけないのは建物の収益性向上のための施策であり、これをやらないと、現地権者のなかから志はあっても脱落していくものが増えていくというのは容易に想像できる。「誰のためのまちづくりなのか」「歌舞伎町ルネッサンスの推進が、結果として今いる地権者のほとんどが去っていく結果に繋がりかねない」という危惧に対し、ここで必要なのは建物の収益性を高めるためのカンフル剤になりうる施策である。これが、いわば歌舞伎町24時間特区である。確かに、これによって直接的に利益を受けるのは風俗(社交飲食業)産業であることは言うまでもない。酒の呑み方は世代の交代と共に変化し、接待交際費は課税され、異性の接待のある店に若い人たちは足を運ばなくなってきた。キャバクラやホストクラブはより業界内の内需率が上がっている現実を考えれば、風俗産業が斜陽に向かっていることは明らかである。したがって、これまで歌舞伎町の産業構造の頂点にあったコマ劇場や映画館街と、この風俗産業の両方が衰退していくからこそ、いわゆる産業構造改革をしていこうというのが言ってみれば歌舞伎町ルネッサンスである。例えば、吉本興業の歌舞伎町進出は、まさにこの一環ともいえるし、また議論の途上にあるカジノ構想もその一つである。しかし、それでも歌舞伎町には社交飲食業の文化は残るだろうし、あるいは他の地域が廃れていくなかでかえって集積されていく可能性もある。産業構造が入れ替わっていくにはまだ10年とかという単位での時間が必要であるが、その間に短期的且つ即効性のある地域経済に対する活性化策として考えられたのが歌舞伎町24時間特区であって、それこそ1年とか2年以内の実現を目指している。これによって、短期的にではあるがビルの収益性を高め、しかし規制を強化する部分は強化して資産価値には下げ圧力をかけ続けバブルを抑える。こんなイメージで自分は動いている。
ただ、それでも「相続税はおそらく耐え切れないから、結局売って去ることになる。」と本音を漏らす小さなビルのオーナーの声を聞かされることもある。その人は、歌舞伎町のこれまでをずっと支えてきた人だし志もあった方だ。自分らが続けていくこの活動は、おそらく売りぬいてさよならと考えているビルオーナーにとっては利害が反対にあることは承知の上だが、それでもそんな声を聞けば想いは複雑でもある。「せめて弁天堂を守れればいいんだよ。」と、弁天堂とは歌舞伎町1丁目のほぼまん中に位置する歌舞伎町公園前に立っている弁財天のことだ。ふと思ったのは、映画館街の再開発の時に広場に街を支えてきた人たちをたたえるモニュメントを含め、弁財天も移設し真ん中に据えるということが出来たらいいのではないか。
歌舞伎町の街づくりに風とか水という視点を活かせないか。
これは、本当に個人的な想いであるが、城氏がよく言う「街の歴史を踏まえての街づくり」という視点からだが、もともと歌舞伎町は池であり沼地であった。池を中心に、そこを始流として川が花道通り沿いに流れ、神田川に注いでいた。そのことを思うと、それこそ新宿自体もそうだが、水辺を全て埋めてしまった街でもある。もともと、池とか沼というのは風水でいうところの陰の気が強い。陰が強い場所には水商売や風俗が繁栄しやすいものだし、東京全体を太極図として見たときも陽が皇居なら歌舞伎町は陰の中心にあると言ってた人がいた。だが、その陰の気が、それを全て塞いでしまったことで滞っている。人間の体でも同じように、流が滞ると慢性疾患化して病気になるようなもので、つまり街自体が病んできているように感じる。かつて歌舞伎町の広場に噴水があった頃は街に活気があった。それが、失われると、街は衰退に向かい始めたことを考えると、歌舞伎町に「水」という視点がひょっとしたら重要な鍵なんではないかと思っている。セントラルロード入り口に立ち、そこにいる客引きやスカウトを排除するようになってから、入り口のカラス族バリケードをどかした瞬間に歌舞伎町の中に心地よい風が流れる気がしたことがある。なんとなく、いい気が流れ始めた、そんな感じだった。確かに繁華街だから、いい気も悪い気もどんどん入ってくるだろうが、しかし出て行く場所が無ければ気は滞り街は病む。つまり、歌舞伎町に気が流れ、また出て行く場所も無くてはならないってことなのかもしれない。そう思うと、風、水、ちょうどそんな視点を街づくりに行かせるといいんじゃないかな、、と個人的なものではあるが「感じ」として強く思い始めている。弁財天は水の神様なわけで、そう考えると前後の話、まったく無縁ではないように思えないだろうか。
かつて、新宿も十二社には池や滝があったわけで、それを全て埋め立てた街である。最近、区長が「玉川上水を偲ぶ流れの再生」なんてことを言ってたのも、偶然かもしれないが、新宿自体も水辺を失い、流を失い、そして気が滞り、だから街に閉塞感が生まれ病んでいるんじゃないか。自分は風水に詳しいわけではないが、感覚として街を見ると、どうも間違っているようには感じないのだがどうだろうか?
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