ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
二章 ロッツガルド邂逅編
ゴテツ
試験の日から更に六日。

商人と名乗りながらもまともに商売をしていない状況でお金ばかり出て行くのが何とも歯痒い。

幸いにも僕は亜空の産物やドワーフの武具、ある意味で金の生る木を所有しているような状況にあるから、出費については本来そこまで気にしなくても良いかもしれないけど。やっぱり、ただお金が出て行くのは勿体無く感じてしまう。庶民だから仕方ないよね。

今日、ようやく学園から僕達の宿泊する宿に通知が届いた。正式な合格の報せと、週に何度までの講義を開けるかの詳細。そして正式な契約の為に来訪を求める内容だった。

こちらの都合を考えていない、かなり上から物を言う場所みたいだな。それだけ、この都市で強い影響力を持っているということだろう。いきなり今日の昼過ぎか明後日の朝に来るよう指示された内容を見てそんなことを思う。

「真様、学園からの通知ですか?」

識だ。男二人で部屋を二つ取ることは無いと、僕らはこれまでの街でもベッドの二つある部屋を選んで泊まっている。この街でもそれは同じだ。彼のエリアの近くには本が数冊置かれている。読書好きな彼は、僕と同道する間にも気になる本を見つけると購入している。この世界において本はそれなりに高価な代物だったから、増えていく本を見てお金は大丈夫かと聞いてみたけど彼には十分な蓄えがあったようで、僕の心配は杞憂に終わった、わけもなく。

むしろ識は過払いしていた。魔力を蓄えた石や宝石を代金代わりに使っていて、価値としては本と交換では追いつかない品質だったのだ。間に一度石類の売却を挟んでお金で買うようになって少しは解消されたようだけど、識は知識を得ることについて過剰にお金を払って問題無いと思っているのが少し危険だと思った。無駄遣いはいけません。

「今日の昼か明後日の朝来いってさ。ようやく店のこととかも聞けるよ。商人ギルドでも商売自体の許可はもらえたけど、学園のことを話したらそっちの規定を優先するように釘刺されちゃったし。後、僕のことはライドウね」

不意に真とか呼ばれると困るからな。特に学園では。

「っと、そうでしたライドウ様。店に使う建物も、良い感じの物件が居抜きでありましたから幸運でしたね」

「うん。前の店主の使い様も丁寧で十分使えそうだった。そんな店でも潰れているって事実は問題だけどね」

商人ギルドへの顔見せ、それに店舗に使う建物や土地探しは学園関係に先立って行動を始めていた。

初めての挨拶もそうだったけど、レンブラントさんが話をしておいてくれたのか商人ギルド絡みは特に問題なく済んだ。店探しにも協力してくれたんだけど、まあ空き店舗の多いこと多いこと。状態の良い悪いこそあったものの、様々な職種で店仕舞いした建物が大量にあった。

面している通りもそれぞれで、知らなければ辿り着けない事確実の入り組んだ場所から、街の門から学園に真っ直ぐ伸びる大きな通りにある建物まで様々だ。

元の店の種類も多かったが、飲食店と武具店が特に多い。次に雑貨、それに……夜の店。学術の研究に力を入れた街でも”そういうの”はあるんだな、としみじみ思った。行く心算は全く無いというのに、男二人連れで訪れた僕らに気をきかせたのかギルドのお姉さんは変わらぬ笑顔で区画の場所どころか結構凄いサービスの内容まで教えてくれた。貴女、プロだ。

「これだけの規模の街ですから競争も激しいようで。特に若い人が多く、客層が特殊な場所です。流行り廃りも早そうですな」

「数ヶ月前に流行ったのに今は閑古鳥、なんてのもありそうで怖い」

恐ろしいことだ。飲食店をやるなら、定番メニューで常連を掴むのが一番だと思ってしまう僕は冒険心が足りないんだろうな。僕が勝負をかけるなら元の世界であった中華や簡単な和食、それに若い人をターゲットにするならファストフード辺りかな。まあ、素人料理しか作れない僕には意味の無い考えか。

識もここで商売をする難しさを察したのか考え込む表情をする。彼なりに貢献しようと考えてくれるのは嬉しい。もっとも、識には僕の学園での行動をフォローして欲しいから一緒にいてもらうことが多くなりそうだけど。

店番する人も考えないとな。ヒューマンを雇うのも手だけど、僕は彼らをまだ良く知らない。変に侮られるくらいなら亜空から誰か来てもらった方が良さそうだ。となると最有力候補は森鬼。巴の教育とかが上手くいっていることが前提だけど。次点で、アルケーか。強さが隠せるかどうか、元は人型じゃないって問題点もあるから森鬼が一番なんだけどね。アクアとエリスなんて大人しく店番している分にはきっと看板娘になれる。……大人しくしている分には。駄目か、僕がそんな心配する時点で不適格かな。それに若い女性だからなあ、客とのトラブルも……イタタ、胃の辺りが。

んー、亜空に来てもらった森鬼は一応精鋭さんらしいが若い人が多い。あの性格がどこまで矯正されているのかにもよるけどトラブルの種になりそう。だけどアルケーはそもそも人付き合いが無い。どちらも店員にするには少しずつ問題あるように思う。

こうなるとヒューマンの雇用も考えるべきかもなあ。あ、この世界って雇用の際に面接とか簡単に能力を見るのってアリなのかな。そんなの堅苦しいとか思われたら……。後でギルドに行った時にでも聞いておこう。

客をあしらうコミュニケーション能力か実力が無いと先日のガラの悪い学生さんの例もあって不安だ。まあ、そのおかげで森鬼の実力でも十分に安全は約束されるのがわかったんだけど。

「買った場所が大きな通りに面しておりますから、目に止まらずに苦労する事は無さそうなのが救いですね。それに近場には同業が無いというのも良いかと」

「その条件だから即金で買ったんじゃないか。目立たない店の宣伝方法なんて僕は良くわからないからね。そこはお金で済ませる。薬全般、後は注文で武具の製作も請ける店にするから識、頼むよ」

「?? 何をでしょう」

「表向き、君が店の主って顔でいてね。だから講義の時とか、学園でそれとなく薬の知識や魔法薬の実践とかして欲しいわけ。そうすれば学生の一部にはうちの商品の品質や効果が伝わるだろ?」

「……宣伝、既に考えておられるじゃないですか」

「そのくらいだよ。実際、アルケーと識で結構色んな薬作ってるみたいだし、効果が高いのは事実なんだからさ」

そう。識は澪よりもアルケーの皆さんと良く親交を暖めている。錬金術と薬学の融合とでも言うのか。彼らは相性が良く魔法薬についてはかなりの種類を作り出している。中にはアンブロシアを使ったものもある。流石にそれを普通に店に並べる気は無いけどね。

あ、そろそろ並べる薬のラインナップも考えないと。一般的な解熱薬や傷薬は勿論、魔物の使う毒に応じた解毒薬、後は僕が考えたドリンク剤。考えたっていうか、要は栄養ドリンクみたいな疲労回復を目的にした飲み薬だ。あったらいいなを形にしました。頑張る学生と働く皆様のお供になれたら(類似品が出るまでは)かなり儲かりそうな気がするな。目指せ学生鞄と白衣の恋人。

「店の話も進めたいし今日の昼にでも行こう。上手くすればすぐに動ける」

「わかりました。では昼食は」

「ん。ゴテツで良いんじゃない?」

「あそこの鍋は絶品です。異論はありません」

僕らは先日偶然往来で救った女性の働くゴテツ亭という食堂を、昼となく夜となく何度か利用していた。ここに着いてからの日数から考えるとかなり多い回数だと自覚はある。店主の故郷の名物だという鍋料理は、僕の故郷の味とは大分異なるものだけど美味だった。僕は故郷からの記憶で気に入ったわけだけど、識は純粋に味が気に入ったようだった。今では何処に行くか識に食事の希望を聞けば即答でゴテツだ。今日の夜は新しい店を開拓したかったので、僕は敢えて今回はお昼にゴテツを指名した。気に入ったとはいえ、識もまさかの昼夜二食連続希望はあるまい。もう、随分前の事に思えるけど元の世界でも食事先を決めるとき、聞けばマ○クかマ○ドと言う奴がいたのを思い出す。いやどっちも同じ店のことなんだけどね。近頃では何処に食べに行くか、誰も彼に聞くことがなかった。……答えが一つだからね。

識もこの街では下手をすると同じことになりそうだからな。僕が積極的に新しい店を開拓しなければ。

初めて店に行って鍋があったときは、僕と勇者以外の異世界人の存在を本気で疑ったな。味付けで完全に疑いが晴れたけど。種類は幾つかあったが独特な物も多くあり、この街で飽きられずにやっていくのが本当に難しいってわかった。そして醤油味は流石に無かった。

そして店主、甘い鍋は無い。僕的には絶対無いから! 溢れんばかりのクリームと具材を見た時は正直メレンゲか何かかと現実逃避しそうになった。食べている識が人智を超えた存在に見えたのは秘密だ。全部食べてくれて本当にありがとう、識。この世界で初めて、僕は食べ物でギブアップしました。

ゴテツで働く女性の名はルリアと言った。初対面よりもずっと明るい印象だったのは接客中だったからだろう。あんな風に嫌な目に遭っても、仕事ならオンオフ切り替えて明るく振舞える彼女を見て、ああしっかりしているんだなあと思った。僕はアルバイトもしたことが無いから仕事のオンオフという姿をあまり見た事が無いからだろう。我ながら安いもんだ。世のお仕事をしている人はあの程度はタフでないとやっていられないのかもしれない。ここは元の世界より明らかに差別があるからそれ以上かも。

僕らも何度か通っているが、別に彼女目当てと疑われたり警戒されたりはしていないようだった。事実、来る度に一心不乱に鍋を食べているからな、特に識が。……最初の内の数回は、僕は何故か警戒心溢れる顔で彼女に見られた。……外見、不審者なのかなあ。仮面、もう外してるんだけど……。ん、まさか外しているから? いや、それは考えすぎだよね。

でも、特に話していて変な所も無いしヒューマンだし、何で彼女は学生たちに絡まれていたのかな。運が悪かったとか、本当にただの偶然とか? 聞いても黙っちゃったから偶然は無いのかな、なら特殊な事情もち? わからない。

二人で来て二つメニューを頼むから僕と識は店でも結構目立つようで、ルリア嬢に僕らの名前も覚えてもらえた。今では訪れると軽く一言二言話をする感じだ。

今日も識が鍋をつつく間に学園に向かうことを伝えたり、やっと仕事が始められそうだと話したり。ここで名前を知っている知り合いは彼女が初めてだ。開店予定地はここから少し離れているから、開店後はこれまで程は食べにこれないかと思うと少し寂しくもある。いや識に話を振ればここになる可能性は高いから、意外と来るかもしれない。僕としてはせっかく地域性を無視した様々な店が集まっているのだから滞在中に色んな料理に手を出して見たいんだよな。もしかしたら巴より先に昆布や鰹節にあたる何かを見つけられるかもしれないし、そうなったら良いお土産になる。

いつか、識に僕の知る鍋も振舞ってやりたいな。水炊き、しゃぶしゃぶ、すき焼き、湯豆腐……。うん、僕も食べたい。

ああ、そうだった。出来たら今日の夕方には店の内装にも手をつけていきたいな。ある程度のデザインは識と近辺の店めぐりをして目処をつけてあるんだ。この世界では魔法さえ使えれば、内装をいじるのに必ずしも職人を呼ぶ必要が無いというのも嬉しい。ちょうど識は土の属性でその手の魔法も使えるとのこと。節約出来ると地味に気分が良い。
何より僕の魔法の練習にもなる。最近では出来るだけ魔法をすぐ発動出来るよう集中状態を保って過ごしている。それでもそう長くも維持できず、不完全なりに効果の高い防御障壁を作る練習もやってみたり。戦場の様な特殊な精神状態にある場所で、魔法を手足の如く扱うのが如何に難易度が高い事かはつい先日思い知らされていたから。

一度あの虫に発見された以上、いつ何が起こるかわからないという事実。一日一日を大事に、無駄にしない気持ちでいないとね。命、懸かってるから。

昼食を終えた僕と識が学園に着いた時間は、早めに食べた食事のおかげか、学生のお昼休みの時間と重なったようだ。かなりの人がそれぞれの建物から吐き出されている。白亜の巨大な建造物はどこか現代的にも見えて懐かしさも感じる。学校、という性質も郷愁を感じさせる一因かもしれない。

見慣れない僕らに珍しげな視線を浴びせる(僕の容姿が原因で無いと信じたい)彼らを避けながら、僕らは指定された場所へと向かうのだった。

……仰け反ったり二度見されたりしたのも、き、きっと物珍しいからに違い無い。
拙作を投稿し始めて半年が経ちました。
今後も安定投稿しながら真の道中を書いていきますのでよろしくお願いします。
ご意見ご感想お待ちしています。
小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。