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二章 ロッツガルド邂逅編
勇者、合流する
空を飛びながら神槍から放たれる光で魔族を焼き払っていた帝国の英雄、岩橋智樹は混乱していた。

正に門が開き、砦に攻め込んで将軍の首を取る最終フェイズまでのカウントダウンが始まっていた時。

周囲から、人が消えた。

下を見ると、馬鹿みたいに広大な黒い穴がある。人も兵器も、一部魔族も。散り散りにCGでも見ているように、人が奈落に吸い込まれていく。

向けられる敵意。開いた門から智樹に向けられるモノに気付いた彼は神槍から破壊の光を放って門から放たれる魔法を霧散させた。同時に大事なことを思い出す。

彼の仲間のことだ。

ギネビア、モーラ、ユキナツ。

彼を守り、彼と共に戦っている仲間。

ネックレス形の魔法具を起動させて周囲を探る智樹。すぐに三人の反応を見つける。

女神から与えられた銀靴の効果で彼自身は魔力を用いずに浮遊しているから馬鹿げたトラップは無効化できたが、仲間の彼女らは普通に地に足をつけていたのだ。

そのことが原因で真っ先に攻撃の標的にもなったのだが、彼が身にまとう圧倒的な装備群に弾かれてしまっている。

「落ちたのか三人とも!」

そう言って反応を追う智樹。三人の反応は少し下から。有難いことにほぼ同じ場所にいるようだった。

追い付いてみれば三人は一塊になって浮遊していた。だがその術は不完全なのかゆっくりとだが下がっているようだった。

「遅いよ智樹! 銀靴のレプリカは完全じゃないんだから、重いのがいたら落ちるの!」

「おい、ユキナツ、それは私のことか?聞き捨てならんな?」

プレートメイル装備一式を考えると明らかに一番重いであろう騎士ギネビアが眉を上げて仲間の言葉に即応する。

「喧嘩しないでよ、二人とも私より重いんだから!」

『当たり前だ!』

第三の声に口論に発展しそうだった二人の声が同時に同じ言葉を紡ぐ。ちびっ子であるモーラに比べれば体重の差は明らかだ。

錬金術師の系統であるユキナツの作品の活躍で、何とか三人とも無事だったようだ。智樹もほっと胸を撫で下ろす。

三人の漫才のようなやり取りも落ち着かせてくれる材料だった。

「良かった、無事で」

「智樹……私はお前の盾だ。お前を守らずして死なない」

「直球でそんな顔しないでよ、恥ずかしい」

「全然大丈夫だよ!」

彼の心底安心した言葉に頬を染めた三人が無事をアピールする。

「盛大にやってくれやがる。中ボスの分際で生意気な。モーラ、ナギを呼んでくれ。一先ずここから出て後退だ。状況確認しないと戦闘の続行判断も出来ない」

「……そうだな、一体どれだけの兵達が失われたか」

「滅茶苦茶なトラップよ。仕掛けた奴は頭イカれてる」

「わかった、ナギを呼ぶね」

「ああ、頼む。多分上からかなりの攻撃が来る。俺とギネビアで全部防ぐぞ、出来るな?」

「当然だ、お前にもナギにも傷一つつけさせん。ロイヤルガードをなめるな」

「ありがと、ギネビア」

モーラは宝玉に詠唱を続け、途中ギネビアに礼を言いながら、落下していく一行の下に一匹の竜を召喚した。大きな翼を持つ飛竜の一種。モーラの操るナギだった。

エメラルドグリーンの鱗が美しい、中クラスの竜。モーラと一番仲の良い個体でもあった。

「ナギ、上に行って! 穴の上まで出たら後ろに行くの。お願い!」

「GYAU」

竜に乗って降ってくる攻撃を弾きながら門前まで出る智樹。

「何てこった、後ろの道まで結構穴になってやがる。本当に後衛くらいしか残ってねえ」

「智樹、少しでもナギに乗せて兵を救おう」

ギネビアからの提案。振り落とされないように結界を張れればナギで運べる人の数はまだまだ余裕がある。それゆえの言葉だった。

「ギネビア、それは駄目だ。まず俺たちが一番に戻り、リリに報告する。それが第一なんだ」

彼女からの提案を智樹は拒否する。彼からすると余計な荷物で機動力が低下するのは望ましくないのだ。

「だが!!」

「さっきからリリに通信が通らない。それに、これは戦争だ。戦争だから、死んでいく兵の分まで、俺たちが戦うことで彼らに報いれば良い」

「智樹……済まない。感情的になった」

これまでずっとそうだった様に。智樹の言葉が身体と心に染み込む様にギネビアに入り込む。彼の言葉の正当さを至極普通に受け入れることが出来た。

「いや、いつものギネビアに戻ったなら良いさ。それじゃあ、戻るぞ!」

「待って、智樹」

「何だよユキナツ」

「リミアの勇者達は探さなくて良いの?」

混戦に加えて混乱を極めた戦場ではあっても、二枚看板の一つの無事を確認しなくて良いのかとユキナツが聞く。

勇者とはいえ、この状況に冷静に対処できたのかは定かではない。後退が最善の手であってもリミアの勇者についても無策で良いのかと問うのは不思議なことではない。

「響か。あいつだって勇者だ。自分で何とかしてるさ。俺が心配するのは却って失礼ってもんだ。年上のお姉さん、らしいからな」

当人がいないのをいいことに、つい先刻までさん付けで呼んでいたもう一人の勇者を呼び捨てにする智樹。

「そか。智樹に考えがあるなら良いや。行こう」

「よし、モーラ頼む」

「うん!ナギ、行って!!」

「いいぞ。だが、ここまで折角来たんだから」

智樹はナギの進行する方向から反対、つまり砦を向く。構えるは愛用の神槍。円錐型の馬上槍に光が満ちていき、やがて槍の全部が輝く。

「お返しだ!!」

閉じようとする門に狙いを定めて智樹は槍の力を解放する。真っ直ぐに突き進む光は閉じ行く門の隙間に入り込み、轟音を生んだ。

「大した命中力だ」

「よっ、スナイパー!」

「お兄ちゃん、やる~」

三人からの喝采に智樹は満更ではない顔をする。一応ネックレスの探知で前方への注意をしてみる。

「おっと。どうやら、リミアの勇者たちも無事だな。あそこにいる」

「っと。へえ、本当だ。今度はそのネックレスのレプリカを作ろうかな。便利だよねそれ」

ユキナツは少し遅れて双眼鏡のようなものでリミアの一行を確認する。智樹が魔法具で探知をしていることを知っているユキナツは研究者としての欲を見せる。少しは余裕が出てきた証拠だ。

「また今度な」

ユキナツのモルモットになるのに若干の嫌気を感じさせる智樹が曖昧に答える。レプリカを作る為には魔法具を発動状態で長時間観察することが必要になる。その時間が彼にとって結構な苦痛だった。

「リリ様との連絡はまだ取れないか?」

ギネビアだ。もう一人の主である皇女の安否を気遣うのはもっともなことだろう。

「ああ、繰り返してはいるんだけどな。この世界にジャミングなんてあるのかな」

後半は独り言のように呟く智樹。そうこうしている内に響たちに追いつく。竜に乗っているだけあって先に対処して脱出していた響たちよりも智樹らの方が早い。

「無事で何より、響、さん。そちら動きが鈍いけど何かあったの?」

「……感知能力低いの? お待ちかねの魔将よ」

後衛の軍が坂を上がって前進していることを響たちの伝達力不足かと思い動きの鈍さを指摘した智樹がぴしりと表情を固める。

どこか冷めた響の口調よりも魔将という言葉に驚きを示す。

「魔将、って後ろに!?」

「そ。しかもご丁寧にこっちが陣形組むまで待ってくれるんだって。あんな罠を仕掛けた奴とは思えない言葉よね。それで迅速に、後衛を下がらせている最中よ。わかった?」

迅速に。響は智樹の無神経な言葉に意趣返ししてみせる。

「そんな、どうやって」

「さあね。私たちの知らない手を使ったんでしょうけど。ちなみに魔将軍より後方にいるはずの部隊との連絡は一切取れないわ。凄いわよね、魔族ってこちらの通信の妨害まで出来るみたい。ってことは念話を使ったやりとりは逆に傍受されてる恐れもあるわよね。嫌になるわ」

「ジャミングに、作戦の漏洩。致命的じゃねえか」

智樹も事態を飲み込めたのか、暗い雰囲気の言葉を放つ。

「で?そっちはどうするの?」

「どうって、何が」

「魔将に遭遇したら共闘、だったわよね?」

この日一番。というよりも智樹に対して初めて心からの笑顔で聞いてやる響。

「状況が違うだろうが!ここは一刻も早く敵陣を切り裂いて脱出する場面だろ!このまま戦闘継続とかバッドエンド直行だ!」

「場面、場面ね。……そう、なら貴方達は逃げなさいな。私達は後ろの部隊が挟撃をかけてくれることを信じて奴を討つ。連絡が取れるなら協力して脱出するのが良いんでしょうけどね。戦略としてはもう完全にこちらの負け、なんだけど。実はその将軍に興味出てきちゃってね」

この後に及んで、どこかまだ夢か幻想の話をしているような智樹に決定的なズレを感じる響。どこか冷めた眼で彼を見ている自身を感じる響。

そしてどこか楽しそうに話す彼女に、智樹もまた初めての生き物を見るような怪訝な目をした。

「あんた、馬鹿か?」

「まさか。それに協力しろなんて言ってないでしょ?大体、私と貴方って相性悪いのよ。貴方たちは中距離からの火力が売り。私達はパーティ単位で主に近接向き。そっちは対多数、こっちは対小数に最大のパフォーマンスが出る。同じ敵を相手にするにしても段階が違うと思うの」

(それに、姿勢もね)

そっと付け加える響。

「つまり、俺らとじゃ共闘出来ないってことか?」

「今回は意味が無いってだけよ。少なくとも組むに当たってメリットが見えない。私、味方に撃たれるのは嫌だもの」

「……じゃあ、いいんだな?」

「ええ。ただし。軍を先導してその火力で向こうの敵を出来るだけ始末して。そうすればそちらの無事だった軍もより多く脱出が叶うでしょう。私たちは開いた道を通って大物を引き付ける。役割分担。今回はそれでいきましょ」

「わかった。そこまで言うんだ。魔将は釘付けにしろよ」

「勿論よ」

二人の勇者の話は終わる。

少しばかりの打ち合わせがお互いのパーティで行われる。

何度か起きる反論の声。

それもやがて小さくなり、決意の意思がどちらにも宿る。

両軍の再度の衝突は、近い。
ご意見ご感想お待ちしています。

・ご意見を頂きました番外編について。
 勇者関連の話を閑話として本編に挿入します。
 目次に変動がありますがご容赦ください。
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