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一章 ツィーゲ立志編
取り戻せぬモノ
強大な魔力の残滓が突風に乗って僕らの所に届く。一体、何が!?

いや、そんな馬鹿な。これは。

「僕の、魔力?」

そう。肌に感じたのは異世界に来て感じるようになっていた僕自身の魔力だった。

「申し訳、ありません、若。ヘマを、致しました」

光に気を取られて窓に身を向けていた僕の身に巴の声が聞こえた。

苦しげな様子で。

振り返った僕の眼に映ったのは、額から血を流して膝を突く巴と、不安げに巴を見る澪とリッチの姿。

敵襲?でもこの状況で巴だけを?

今この亜空にいるのは僕らの他には冒険者が数人と馬鹿トリオ、それに森鬼だ。彼らに巴を傷つける事など出来ないだろう?

「巴!なにがあった!」

「ぐ、あの三人……」

そこで巴はうつ伏せに倒れてしまった。血もまだ止まっていない。

く、周囲の状況。どうなってる!?

僕は界を張る。街全部は無理でも出来るだけ精度を保って展開しようとして、そして驚愕した。

周りが僕の魔力の残り香みたいなモノで満ちていて詳しい状況がわからない。

魔力を当てにしたサーチを止めて地形や人物だけを純粋に割り出し、把握する物理的な探索に切り替えて界を再展開。

異常は……あった!

僕がツィーゲの裏通りからこっちに戻ったときに開いた門を繋げた辺りだ。

その付近の地形が大きく崩れて、クレーターのようになってる!

これが先刻さっきの光の原因!?

横になって動かないカタチも幾つか把握出来る。行かないと!

「澪!巴を頼む。リッチは僕と来て!」

返事を待つまでも無く、僕は部屋を飛び出した。

ドワーフに頼んだ近接用の武器はまだ出来ていない。部屋にあったオークから貰った儀礼用短剣だけを持って走る。

くそ、こんな時に空を飛べれば!どうして僕は風属性は全然使えないんだか!

あの三人、巴はそう言ったな。三人、まさか本当に馬鹿トリオか?だけど、あんなのにどうこうできる事なんて知れている。

(真様)

リッチの声だ。念話か。見れば傍らにまだ彼の姿は無い。最短距離を急ぐ僕は頭に響く声に速度を落とすことなく彼に応じる。

(どうしたの?)

(申し訳ありません。肉体に慣れておらず上手く走れませんので)

お爺ちゃんか!?って、ああ。骨だったもんな。なら浮いてくれば良いじゃない。走るって選択しかなかったのか?

(別に浮いたりすれば来れるんじゃないのか?)

(勿論です。ですが真様の向かわれた先に負傷した者がいるようでしたので、よろしければ私が癒しの術を掛けておこうかと)

(癒し!?リッチ、回復魔法使えるの!?)

嘘だろう?どこの世界に回復魔法使えるアンデッドがいるんだよ!?

流石女神。無茶なルールを世界に与えるもんだよ。駄目だね、彼女が関わってると思うだけで大抵の事を重い溜息と共に納得してしまいそうになる。

後でリッチにはアンデッドがどういうものか、ちゃんと聞いておこう。人の姿した今はともかく、元の骸骨姿で回復魔法とか先入観と偏見だけど許せん。

(??ええ。使えますが?むしろ得意です)

得意かよ……。

僕のアンデッド感が全力で崩壊していくよ。さも当たり前のように言ってくれる。

(……。今の場所からでも出来るなら、そこから回復してくれる?)

(承りました)

正直、理解も納得も出来てないけど、今重要な事は別。そう、急いで僕の後を追わずとも、彼には出来ることがあるということ。

彼に回復を頼み、念話を切る。

身体能力が上がっても、僕がいるのは建物の中。

屋外に比べると移動速度はそこまで上がらない。

もどかしさを覚えながら、それでも僕は足を緩めず現場に到着した。

走ることに集中しすぎていて聞こえていなかった音が耳に届きだす。

苦痛を訴える呻き、嗚咽、泣き声。

乱暴に抉られた石畳に刻まれた破壊の跡。剥がれて吹き飛び下の土が露出している場所も少なくない。

オークとドワーフたちが苦しむその場所は、この都市にこれまでに一度もなかった暴力に染められていた。

ああ。

一体、何があった?

何かが爆発した。そんな風に見える。クレーターと呼ぶには大袈裟かもしれないけど、容赦なく足元の石畳を蹂躙し木々を薙ぎ倒した力の凶悪さは、僕に何かしらの兵器を思わせるものがあった。

でもそれよりも気になるのは……僕の魔力だ。

この場所が一番濃い。つまり周囲に散じている残滓もここを中心にしていることになる。

その他にこの場所に存在している魔力で感知できるのはリッチの魔法だ。

癒しの光が苦しむ彼らの全身を淡く包んでいる。黄色の、暖かな光。

僕も怪我人を視認できる限り範囲に入れて治癒の属性を加えた界を展開する。

とにかく、誰かが話を出来る状態にならないとどうにもならない。

誰一人、立ち上がって他人を構う段階まで進んでない惨状を何とかしなきゃ……。

そうして、周囲を見回しながら少しでも状況を掴もうとした僕の目に、ナニカが映った。

一見、蛹のようにも見えるソレ。

爆心地とも思える場所の近くだ。

!!!!

まさか!

僕はそこに駆けた。あれは、あれは蛹なんかじゃない!

「嘘、だろう?」

上半身をかれ、両の腕を失い、体の至る所がひび割れたように裂けていた。肢もげ、又は千切れかけたその様は「く」の字に折れた蛹そのもの。

だけど、これ、いや彼は……!

「……アルケー」

かなりの力を持ったはずの彼までも居て、どうしてこんな状況に。

いや、違う。そうじゃない!

息、まだ息はあるのか!?

特に嫌悪も感じることなく、彼の傍に添い、口元、胸を注視して呼吸の有無を探る。

温かみをまるで感じない冷たい体。そして、幼い頃に車に撥ねられた野良猫に触れて感じた、あの特有のカタサを感じる。

そんな、もう、死んで……。

頭が真っ白になりかける。どうでもいい奴の死には動揺も何もなかったのに。リズーも魔族も、荒野の魔獣の類だって。

どうしていいのかもわからない真っ白な震えが身を支配していくのがわかる。

(真様!今居られる場所の傍、そ奴が一番の重傷です!他はもう峠を越えさせましたので私もそちらに集中します。どうか真様もご協力を!)

何も考えられなくなる直前。

リッチの声がした。僕を正気に戻してくれる声だった!

……っ!!

死んでいないのか!?

彼は、このアルケーはまだ助かる!?

僕に協力出来る事。

界だ。界しかない。

だけど効果は足りるのだろうか。

……回復魔法が使えたら、話は違ってくるだろうに!!

どうして僕には回復の術式が全く”使えない”んだよ!?

詠唱も構成も理解できるのに、何故かその力が発現してくれない。風と治癒。今一番欲しい属性が使えないなんて何て理不尽!

くそっ!魔法なしで界だけでまかなえるのか?

……見当違いだよね、足りようが足りまいがやるしかない!

エリアをアルケーを含むごく小さい範囲に作り直す。こめるのは治癒。

リッチの放つ、先程見たものより一層濃い光がアルケーの体を包む。

でも反応が無い。

足りないのか?僕の、回復魔法が使えない分が足りないのかよ!

(リッチ!これ以上は効果を上げられない?見た感じ快方に向かっているように見えない!)

(目一杯です!!今そちらに向かいながら術を行使していますが、直接診ても目に見えるほど効果は。他にもまだ治療を続けている者がいますがそちらを放置しても……)

(却下。それは続けてくれ。終わり次第アルケーに集中して欲しい)

(急ぎ向かいますので、真様も治癒を続けてください)

治癒、か。僕のは魔法じゃない。僕は回復系が使えないんだよ、リッチ。効果はどのくらい違うのかわからないけど、魔法と併せればもっと強力に作用させられるかもしれないのに。

……?

併せる?

そうだ。界。強化と治癒、強化と探索。界には今二つの特性を与えられる。それは二つの”異なる”特性じゃないと駄目なのか?

もしかして。

僕はアルケーと僕を包む界を意識する。

頼む、出来てくれ……!

治癒と、もうひとつ治癒を重ねる。効果も、上手く乗ってくれたら或いは……!

界は魔法と違う。視覚できる範囲でその効果が強力になったのかどうかはわからない。対象を見ればともかく、僕以外に知覚できていないのだから成功か失敗かがすぐには確認できない。

それでも強化と治癒をどうじに発動させた時のように、周囲にある全てを活性化させるイメージで治癒に治癒を重ねて意識する。

「ひびが、閉じる……!」

効果が増えた!多分、間違いない!

硬い皮膚に無数に走っていたひび・・みたいな外傷が糸みたいな細い線状に閉じていき、そして消えた!!

よし!よし!!

千切れかけていた下半身の肢も千切れかけた部分同士が強引にくっついていく。

根元から失われた右腕も、肘くらいから無くなっていた左腕も。肩口から肘から再生されていく。見た目グロい映像だったけど、喜びが勝った僕にはそんなこと気にならなかった。

治せる!

後は意識。意識だけ戻せたらきっともう大丈夫だ。

普段よりさらに土気色で生気を欠片も感じない肌にいつも通りの弾力が、温かみが戻る。彼の治った腕が痙攣するように動いた。

「大丈夫か!?わかるか!?」

瞼も痙攣して、開いた。意識も戻ったか!?こんなに上手くいくなんて……。

「う、あ」

「無理に話さなくても良い!頷いたり首振ったりでいいから!」

アルケーは僕の言うことがわかるようだ。僕の言葉に少し逡巡して、確かに首を縦に振った。

途端、僕の体から安堵で力が抜ける。

よかっ、た。本当に。

周囲を改めて確認する。

濃密な僕の魔力はまだ残っていて、状況を理解する為に必要な情報収集を阻害している。

けれど界じゃなく、肉眼で見て僕はこの惨事が収拾しつつある事を知る。

後は、意識が戻って落ち着いた人から話を聞けば何があったのか、わかるか。

霧の門、僕が一度こちらに戻る時に繋いだ入り口は、何か関係があるんだろうか。

完全な偶然とも思えないけど……。

そう感じて、破壊後で正確な位置こそわからなかったけど僕が転移してきた辺りを見る。

特に、何もないか。

この爆心地らしい場所に近い訳でもないしな。考えすぎ、か?

何だ?

あそこ、何かある。

アルケーはもう大丈夫だと判断して僕はその”何か”に近づいて、手に取る。

アクセサリーの欠片?

チェーンの様にも見えるけど……ここの物じゃないな。

探索を張るか?でも自分の魔力がジャマー代わりになってるし……。

いや治癒の時みたいに、探索と探索で条件を設定すればいいのか?

周囲の魔力からここにあった事を探り出すのに僕の魔力が邪魔なわけで。

二個目の探索で僕の魔力をこしとる、上層の膜を剥がすみたいに使ってみる。

いける感じだな。邪魔だったスモッグみたいなモヤが消えた。

ここに居たのは……アルケーにオークやリザードは良いとして……巴ミニもいたのか。

それにアルケーの傍にもオークの魔力の残滓がある。

じゃあその二人はどこだ?

目で確認してみてもアルケー付近に微かに感じた魔力の二人はいない。

ふと巴の不調が浮かぶ。

自分の作った分体が、もし、致命的な傷を受けたりしたら。あんな風に傷つくことはないか、と。

つまり、巴の分体は、ここで起こった何かで……。

それで、もう一つ見つけた魔力の、オークも……。

そんな、最悪の想像が脳裏をよぎった。

この欠片は、何か。

悪夢を振り払う為に、僕は本来の作業を続ける。

三つ。確かに三つここでは異質な魔力がある。三人となると、巴の言葉にあった三人?確かに強さ的にヒューマンにも感じるけど。

でもあんなのが一体何の脅威に。ツィーゲでも中の上くらいの、本当にありふれた連中だぞ?

三つの魔力を辿る。

二つはかすれたように消え、もう一つは、変な、歪みに入り込んでいた。

かすれて消えた感じが、先ほど感じ取れた巴の分体の二つの魔力に酷似してる。

感覚が妙に研ぎ澄まされているのがわかる。今ならリッチがやったような判別の真似事もできそうだな。二つ界の特性を重ねた効果かな。それとも……他に理由が?

いけない。まずは残る魔力の行方だ。

その歪みには見覚えがある。巴が霧の門を作った時に見たものだ。

僕が戻った辺りにソレはある。間違いない。霧の門の、跡地みたいなものだろう。時間と共に消えるって言ってたけど、結構残るものなんだな。

その跡地に、ヒューマンの魔力は続いている?おかしい。確かにこれは、おかしい。

「真様、お待たせして申し訳ありません。何とか、負傷者は助けられたようですな」

「リッチ、ここ、頼むね」

「え、真様?」

僕の元に駆けつけてくれたリッチに一言だけ言い残すと、僕は歪みが残るだけの霧の門をもう一度開けて中に入った。

何か、嫌な胸騒ぎを感じながら。
さあ、次は正直投稿するのが怖い回です。引いて引いての最終場面ではあるんですが。
ノミの心臓を今日中に鍛えておかなければいけません。
ご意見ご感想お待ちしています。
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