タイトルの如く三度目。
果たして四回目があるかは秘密で。
リッチ。
アンデッドとしては高位に位置する者。その実力は完全に個体によってばらばらである。しかし彼らの最強クラスの存在の力量でも上位の竜には遠く及ばない。
何が言いたいのか。
僕と契約すると、彼らクラスの存在は十対零の”糧の契約”というのが結ばれてしまうということで。
平たく言うと吸収されて存在が残らない。僕も不本意だけどリッチはかなり哀れである。巴と澪から散々な言われようだったから。
彼女らは口を揃えて”僕に”混じり物が入るのを嫌がったんだ。混じり物の一言に略される彼の心情は計り知れない。
地力において支配の関係さえ築けない彼を、僕の従者にするというのは土台から無理な話に思えた。
巴の試したいこと、というのは何なのかわからないけど良い打開策があるのかね。
「むぅ、やはりそのままでは難しいか……」
「いくら高位とは言えアンデッドに過ぎませんもの。存在の源になる構成魔力も知れてますし」
澪に魔力さえ貶されたリッチは肩身が狭いのだろう、椅子から降りて正座していた。一番の長所を一山いくらに見られたんだ。無理もない。
なんて言うか、元の世界での僕の過去を見てるようだ。忘れもしない小学校時代、校内マラソン大会で完走した時の僕の感動と周りの反応との温度差。うん、あれはじわ~っと効いた。
巴がリッチを説得(洗脳か?)した後。
僕らは今、契約が出来るかどうかの試行中だった。本人が乗り気になったとはいえ、問題が解決したわけじゃない。
場所はそのまま僕の部屋。時間は大分立っていて、もう夜も深い。皆眠りについた後だろう。娯楽の多かった現代に居た身からすると眠気を覚えるほどじゃないけど、この世界、とりわけ荒野に居た種族の皆さんは早寝早起きが基本だ。
契約の為の魔法陣の展開をしてその中に彼、リッチと二人。
模索を始めた頃はリッチも意気揚々としていたんだけど……見下ろす彼の姿は吹けば飛びそうに弱弱しい。巴も澪も、今のうちに上下関係をはっきりさせておきたくて苛めているんじゃないかと疑いたくなるほど。
陣の外では巴と澪が遠慮も容赦も無い言葉で状況をやり取りしている。
「若、若のお力でご自身を弱くは出来るのですかな」
ん。界でってことかな。
弱体化。意味は無いけど出来る。
敵を弱体化、つまりデバフ的な効果を狙って使ったときに気付いたことなんだけどさ。
界で与えた空間の属性は僕自身にもきっちり効果がでる。しかも界は自分を中心にしか展開できない。球形に展開するのは意識すると出来るけど、何も考えないとドーム型で展開される。最も小さく意識すると自分の身体だけに留まる。
炎とか吹雪とか下手に展開すると自殺モノなんじゃないかと思う。試したことないけど。だから当然、発現できるのかもわからない。
オークに試したときは出来なかったけど、今は強化と治癒、みたいに二つの効果も付与できるようになっている。これも、偶然見つけた。
近く色々試して自分の能力を把握しておかないと自分の能力で墓穴を掘るかもしれないな。出来ることが増える分には良い。でも不変のモノとして能力を決め付けているといざという時に出来る事の幅が狭まりそうだ。
「ん、出来る。意味が無いからしたことは無いけど出来るよ」
「ならば、お願いします。再度契約のリンクをしますので」
巴は澪のアシストでもう一度魔法陣に力を注ぐ。
僕とリッチの間に光の柱が立ち、色づく。その色づいた光が陣の放つ白光を染め直していく。
茶色。見たことない色だな。巴と澪は共に赤色だった。
あれが支配の関係、巴がいうにはギリギリのラインらしいんだ。じゃあ茶色だと駄目なのか?
「土色か。隷従までは下がるか。じゃが自我の無い人形ではこんな骸骨いらんしのう」
隷従。確か、自我の消失した言いなりの人形状態になるんだっけか。確かに、そんなのはいらないなあ。
「巴さん、これ無駄じゃありません?どうしてもソレを従者に加えるというなら、一か八か鍛えてみたほうが早いんじゃ」
一か八かって……。どんな鍛え方するつもりだよ。あと、ソレとか言うな。
「澪、まあそう言うでない。ちと考えがあるのよ」
そういって巴が懐から取り出したのは、あれは!?
「それ、若様の指輪じゃありませんか!」
「うむ!しかもばっちり使用済み品じゃ。よいか、澪……」
当たり!僕の魔力を限界近くまで吸って役目を終えた指輪だ。それも、一体何個持ってるんだ?
何がしかもばっちり、なのかも理解不能だな。
澪の耳元で何やら内緒話をする二人。
巴の言葉に澪は驚いたような顔をしていた。でも納得したのか理解したのか頷くと、少し神妙な雰囲気になった。
澪も、何だかんだでスキル豊富なんだよな。直感で大体はわかるとかどこの天才かと。
土色の光が収まり光を発しなくなった陣の内部に巴が入り込んでくる。
そしておもむろにリッチにその指輪をじゃらじゃらと渡した。
「それについての詮索は後じゃ。よし、渡した十三個全部指にはめよ」
十三とか不吉丸出しの数字だね。
「これを、つけるのか。我には指が十本しかないが?」
「何処でもいいから二個でも三個でもつければ問題あるまい。ほれ、さっさとせんか。世界の狭間に飛び込むよりも楽じゃぞ?」
「……わかった」
リッチは言われるままに指輪をつけていく。特に変わった様子は無いな。一個つける毎に苦しそうな様子が伝わる、ってのも無い。
元々吸収能力の限界近くまで魔力を吸った後の指輪だ。僕は危ないからもう着けないよう言われて付け替えていたけど、あれって限界を超過するとどうなるんだろ?
少なくとも一瞬で魔力を枯渇させられてリッチが消えなかったことに僕は安堵する。
リッチが装着したのを確認すると、巴は再度外へ。
先ほどと同じように澪と二人で詠唱を進め、契約を開始する。
いや、違う。巴が契約の術を一手に引き受けて、澪はリッチに何かしているように感じる。
再度現れる光の柱。
だがその色は……赤かった。嘘ぉ!
「成功じゃ!赤じゃぞ!」
「……巴さん?魔力の見せかけというのも勝手がわからなくて難しいんですから。喜ぶのは終わってからにして下さいな」
勝手がわからないことが何でぶっつけ本番で出来る!?僕には絶対出来んですよ!?
「わかっておる。若、契約を始めますぞ。リッチ、良いな?」
見せかけって、偽装したって事?何を騙すと契約を誤魔化せるのか知らないけど……事も無げにやることじゃないでしょ!!
巴と澪のスペックが恐ろしい。何だろう、こいつらって二人揃うとマッドサイエンティストの属性まで併せ持つのか?
かなり無茶なドーピングを成功させたようですよ!?
直感とか、閃きとか。何で従者が泥臭い僕にはとことん縁がない類のものを持ってるのか。現代知識でドヤ顔出来るのも、そう長いことじゃなさそうだなあ。
「……我などを従者に加えて平気ですかな、マコト殿」
当人の骸骨は経緯はもとより、僕の従者になることに異存は無い様子だった。
巴が徹底的に絶望させてからちょこっと持ち上げた影響だろうか。あの後もかいつまんで僕のことを説明したり、もう逃がす気なんてゼロだったよなあ。
ちょおっとだけ、テンションが低いみたいだけど。気持ち、少しはわかるよ。
「何、男手が欲しかった所です。実に健康的で良い骨じゃないですか、期待してますよ。あはははは」
僕自身はもうどっちかって言うと流れのままにといううやつで。
赤い光が陣の中全てに満ちていく。
僕とリッチはその短いやり取りの後、ただ押し黙って直立していた。
やがて、僕らの間に確かな繋がりが出来るのがわかる。契約、完了か。
三人目ともなると少し慣れると言うか落ち着いていられると言うか。
少しずつ光が収まっていく。
残ったのは当然僕ともう一人、リッ……チ?
巴や澪の時と同じだからそうなんだろうが。
僕の対面にいたのは。
深い臙脂色の髪を長く背にまで伸ばし、僕と同じ黒の瞳でこちらを見つめる。
まったく遜色の無いヒューマンそのものの姿をした二十代くらいの青年だった。
肉、ついとるやん。そんでそこの二人!
「ほおお。どんな姿になるかと思ったがそうきおったか!」
「ふぅん、元の元は、確かにヒューマンなんですものね。もしかして生前の姿なのではなくて?」
どんな姿になるか興味があったのはわかるけども!お前ら女性ですよ!?見た目妙齢の女性ですよ!?
肩に黒の法衣がかかっただけの半裸の男をマジマジ見つめるんじゃない!
まともな服着てないんですよ!法衣を肩にかけるだけ。胸板とかでさえ結構丸見え。下半身は自重。
巴は何か薄いの着てたもんな。澪は知らんけど。
二人の言葉に自分の状況を確認しようと腕を持ち上げて見つめたリッチが自分の腕に驚いて目を見開く。
両手で頬を触り、肩を抱き、自分の肉体を確認するように抱擁する。耽美か、レディコミか?
「あたた、かい。命の鼓動を、感じる……!」
アンデッドの定義はさっぱりだけど、どうやら彼は肉体を得たらしい。
「あれ、指輪はどうなった?」
「ん、そういえば着けておりませんな。肉体の再構成の際に一緒に取り込んだか?」
「元々指輪は若様の魔力の塊。その支配下にある以上は悪影響もさして御座いませんでしょう」
お前ら、それでいいのか?
一頻り感動を済ませたリッチはひどく真剣な目をして、大仰にも見える所作で僕の前で跪く。法衣は既に着ている。
う、真面目な雰囲気ですね。
「真様。我、いえ私を従者の末席に加えて頂き御礼申し上げます。また、この身に感じる主人の力に喜び震え、ご挨拶が遅れましたことは以後の働きをもってお詫びいたします。今後ともよろしくお願いいたします」
「あ、うん。その、堅苦しくなくて良いんで。我でも私でも気にしないからね。こちらこそよろしく」
「はっ!!」
深く沈めた頭。契約で人格変わるとかないよな?ないよね?
「どうじゃ、リッチ。後悔はあるまい?それだけではないぞ?ここがどこで若がどういった方か、お前が喜びに震えるのはこれからが本番なんじゃからな」
言葉の後、澪に同意を求めた巴は新しい従者の誕生を喜んでいるようだ。あいつは結構研究好き、検証好きな部分があるから気が合うかもしれないな。
「ええ、色々と教えることがあるわね。特に若様についての、ここでの決まりやルールを」
澪にしても男性タイプの従者だからか嫌悪は抱いてないようだ。……女性だろうと男性だろうと決まりやルールの名の下に色々教え込みそうだけどね。いらんことまで。
僕の三人目の従者はリッチ。十三の指輪持ちなわけで、それが戦力として使えるならそこそこには戦えるだろう。
ツィーゲでは存在を伏せて、いずれ向かう学園都市から同行させようかな。
それとも亜空に常時居てもらうのも手かな。今のところはまだ無いけど、冒険者が乱暴を働くことも考えられるからな。事件に対応できる人がいてくれるだけでも心強い。
「若!鈍い澪の奴と、この元シャレコウベに儂の知り得る事、話して構いませんかな?」
異世界から来た事か。そうだよな、従者として、支配の関係を築いた身内なんだし話すか。僕は一応女神の許可を得てこの世界にいるので残念ながらグラントではないけど。
……大丈夫だよね?亜空が別世界だから実はもうグラントなのです!とか無いよね。だって負担無く行き来できるんだから。つまり、世界を零から創造したってのは巴の杞憂だって可能性も出てきてるわけだよ。
元々空間を操る巴だ。僕より多くの推論を、同時に検証しながら可能性の順に僕に教えてくれているんだろう。世界の創造、なんてのもその一つ。
可能性、そう可能性だ。……一応、いずれ話してくれるだろう時までに心臓を鍛えておこう。
亜空やこの街についてはそれでいい。今は澪とリッチに僕の事を話すってとこだ。
これは巴から伝えてもらうことじゃない。僕が自分で彼らに打ち明けるべきことだ。僕が彼らを身内だと思い、接するつもりなら尚更。
「いや、僕が直接話すよ。資料庫に、行こう」
ああ、そうだ。
リッチの彼の名前はどうしようか。考えてやらないとな。せめて彼には最速で名前をあげよう。いくつか候補はあるから打ち明けがてら決めれば良い。
「!!若!」
「ん、どうした巴?」
「ちと、面倒なことに…!ええい!」
何だ?巴が急に焦った表情を浮かべて面倒なこととやらを伝えようとした時。
『!!』
窓から強烈な光が部屋に差し込んできた。
少しだけ、真の能力『界』について説明入れました。
意外と使い勝手が良かったり悪かったり。
ご意見ご感想お待ちしています。
次回も明日上がります。
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