あずです。
予約投稿分です。
感想につきましては早くて今夜の確認になります。
さあ、巴はどうやってリッチと交渉するつもりなのか。
「有難く。そこの髑髏、いやリッチと呼んでやるとするかの。お主、グラントのことを知りたいのじゃろ?それはつまりお主。他世界を知るからではないのかの?」
!?
何?
今巴の奴何を!?
「……っ!!!!」
リッチが他世界の単語にあからさまに動揺を示す。だけど、それは僕もだ。
「ほうほう、図星か。グラントがどうのと言い出すのは何もお主が最初で無いでな。グラントに至る者には二通りある。一つは強さを求める英雄。彼らの内、功績を重ね女神や上位精霊に認められ、その眷属となって産まれなおした者」
女神か上位精霊の眷属になるとグラントっていう種族になるのか。彼の求めるグラントという名も存在も大してわからない僕では答えることは確かに出来ない。
でも、じゃあ他世界って。
リッチの動揺を満足げに見つめた巴は一度区切った言葉を再び紡ぐ。
「そしてもう一通りは、この世界を唯一の物では無いと知る者。探求者、とでも言おうかの。この世界の小さな綻びや過去何例か訪れた異界からの訪問者の残した記録から本来知ることの無い世界の存在を知った者らの内、実際に渡った者」
「!!」
リッチは食い入る様にして巴を見つめている。視線だけで人を殺せるのではないかと思うほど。殺気と見違えそうな余りにも強烈な目で。
「おそらくお主はこう思ったのではないかな?グラントはヒューマンの上位種族にして、世界を自在に渡れる能力者だと」
「そ、そうだ!グラントならば世界を渡れる。”望む”世界に確実に移動できる!違うのか!?」
堰を切ったリッチの言葉は一息に吐き出され、巴に浴びせられる。それでも巴の意味深な表情は何崩れることは無かった。
もう僕の入り込む隙間はこの両者の間に無いことがわかった。
だけど聞き逃せない言葉があった。……聞いてしまった。
世界を渡る。望む世界に移動できる。
それは……僕が、一度は諦めたあの世界に、家族と友人のいるあの世界に戻れるということ、か?
「違う」
巴、お前は何を知っている?僕も彼と同じ気持ちだ、知りたいよ。
「な、なん、だと?」
「お主は様々な文献や伝承、そして資料をひたすらに調べたのであろうな。どれほどの歳月を生きて、如何程の労力を注ぎ込んだか、ちと容易には想像できぬほどにな。そして、お主なりのグラントの定義を結論した」
「……」
「先程言った通りなのじゃ。グラントとは女神やそれに準じた存在の眷属として産まれなおした者と、世界を、いや世界の狭間を渡った者をさす言葉」
「……?」
「わからぬか?つまりグラントとは存在を新たにした上位『者』のことを示す言葉。種族でも無ければ、ましてや世界を移動する能力の有無など問題ではないのじゃよ」
「あ、あああ……!」
「ヒューマンの身でありながら、過去に世界の綻びを見つけ、独学で研究してその中に飛び込んだ者は何人か居る。中途半端に飛んだ者で世界の狭間で万華鏡のように映ったであろう他の世界を見てこちらに舞い戻った者もいる。その存在はグラントと呼ばれる存在に変わっていた。何を見てきたのか知らぬが、幾つか文献を残しただけで詳しいことも語らずに早死にした」
「では、戻って、こなかった者、は?」
搾り出すように吐き出されたリッチの言葉。彼はこの先を聞きたいのか、それとも聞きたくないのか。
「他の世界に入れたのならグラントとして生きている。もしその前に死んでいたら。ヒューマンのまま肉体は散り散りに消し飛んだのであろうな。他の世界に移ったならばその世界の神を通じて女神は知っておるかもしれぬが、狭間に飛んだ者のその後など神ならぬ身で知る者などおらんよ。例外はあるが、恐らくお主の場合はそれは関係無い」
「……そん、な」
「人は自分の見たいものを見る生き物じゃ。断片的な情報を、自分の願うよう望むよう組み上げたとしてもそれは誰にも責められぬもの。お主のグラントへの推察は」
「れい、がい。そうだ、例外は!?どのような場合なら」
「……」
言葉を遮られたというのに巴は怒らない。話しているうちに想像通りだと確信して彼に同情したのだろうか。
「頼む、お願いだ」
「例外は儂の知る限り唯一つだけ、女神の許可じゃ。仮に女神にその門を開かせたのならグラントになるよりも遥かに高い確率で、ヒューマンのままで世界を転移できる。……もっとも、遥かに高いといって。その成功率は一割も無いようじゃな」
遥かに高くて一割未満って……ほとんど自殺じゃないか。
ここまで聞けば僕もリッチが永遠を望んでグラントという者になりたかったわけでも、ヒューマンを捨てたのでも無いことはわかった。
「それ、じゃあ、我は、なにを」
食い入るような瞳がテーブルを見つめる。最早、意思の無いその瞳は自失を感じるものだった。
「お主にとってどういう者が異界を目指したのかは知らぬ。話したくなければ聞かぬしな」
「……」
「じゃがのぉ、お主はそこに居る澪並に幸運な奴じゃ」
突然に名前を呼ばれた澪は名指しされた意味がわからずに、きょとんと巴を見ている。
巴、お前何を言って。彼の探求を絶望的に終わらせたのはお前だって言うのに。
「澪もな。お前と変わらぬ。本来ならば救われざる者よ。だが、今お主の目の前には、誰がいる?」
「……マコト殿だろう?」
「そうじゃ我が主、マコト様じゃ。のう、お主、儂は誰じゃと思う?ヒューマンか?」
「……そんなわけがあるか。ヒューマンでそこまでの知識を持つ者など存在する筈が無い」
淡々と。リッチの言葉はまるでかすれて消えるようで。
「では何者と思う?」
「消去法でいけば、女神か?それとも上位精霊?或いは上位竜?っははは、一体奴らがどうやって人の姿など模してこのような場所にくるものか」
凄いなこの人。巴を見て、話された内容を考えて、それで絞り込んだ答えに正解があるよ。
元学生として、こういうの尊敬するな。
「ほれ、リッチなんぞやっておったのだ、儂の魔力から察してみよ。そういう分析は大好物なんじゃろう?」
巴の体から戦闘時に近い気配がして魔力が満ちる。
リッチは訝しげにその様子を伺っていたが、最中で目を見開いた。本当に魔力で種族なんてわかるものなのか。
「竜。それもかなり強力な、まさか」
「大したものだ。儂は蜃、今は巴じゃがな」
「し、蜃?霧の竜、『無敵』の竜か!?」
おいおい。本当に当てたよ。しかも蜃の名前も知ってるんだ。
リッチの知識が凄いのか、それとも巴のネームバリューが凄いのか……。
巴はあんな辺鄙な所に住処を置いていたんだから、それほど知られていないかと勝手に思っていたんだけど。リッチは元ヒューマンだから余計にさ。
「知っているではないか。その蜃じゃ」
「馬鹿な、どうして上位竜がこんな、群れて意味のわからない場所に」
「宗旨替えしただけじゃよ。女神より仕え甲斐のある御方を見つけたでな。大体、今お主に話してやったようなこと、どこの文献に載っとると思うんじゃ?……載っているわけなかろう、こんな話。世界に出て認知などされたら大混乱が起こるわ。さっきお主が語った連中くらいでしか知られとらんし、また口外は厳禁じゃぞ?確実に粛清対象になるわい」
「ならば、どうして我になど……」
「容易いこと、お主を見初めたからじゃよ」
見初めたって惚れたとか?いや無い。絶対にそれは無いわ。あれか、リッチが森鬼の力を覚醒させたとか何とかの所か。
確か、感心したような様子を見せていた。オークやリザードの潜在能力でも掘り起こす心算なのかな。
「見初める?」
「そうじゃ。のう、名をも忘れた哀れなリッチよ?」
したり顔になった巴はゆっくりと、一言一言を言い含めるようにゆっくりと。
「お主、若の従者になれ」
そう、言い放った。
会話文が多い。力不足を実感します;;
でも下手に真の思考を多く挟むくらいなら、これもあり、か?
ちなみに。グラントの説明についてですが。では真は巴は澪は、といったご質問には全く答えかねます。先のネタバレは感想返しでしてはいけないと思いますのでご容赦くださいませ。今回は本当に答えられません。
ご意見ご感想お待ちしています。
次回も明日投稿ですよ。それでは~^^
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