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一章も残すところ後少し。
それではどうぞ^^
一章 ツィーゲ立志編
反省
巴は予想通りに森鬼の一族を亜空へといざなおうと画策していた。

でも正直僕は同意しかねた。

アレは今の所は、彼一人の能力なんだろうが今後亜空に受け入れて巴や彼女の分体である巴ミニと関わる内に一人また一人と覚醒をさせてしまう予感があって。

僕が臆病なだけと言われれば全くその通り。他に理由は無い。

森鬼達はこれまでの皆と同様、僕らの(というか巴の神域だと理解してるみたいだけど)亜空に来ることに文句は無いようで話はまとまりかけた。互いの間に障害が無いんだから当たり前だ。彼らにとって僕は胡散臭い仮面野郎でも、巴は恩義ある上位竜。その竜に来いと言われているんだからな。

冗談じゃない。

僕は、あの樹刑というものが怖い。はっきり言って怖い。

レンブラントさんのとこで見た呪病もそうだけど。あの時も恐怖を感じた。それでも怒りや他の色んな感情が混じっていた所為でここまで怖れなかった。

この樹刑の時は、恐怖だけが僕に残った。治せなかったからか、それとも被害者を良く知らなかったから抱く情が薄く、その分も純粋に能力を見たからかもしれない。

許せない、と思ったんじゃない。ただ背筋が凍るような全身に何か這い回る嫌な感覚。冷たい水が背中に染みこんでいくような悪寒。どれ、としっかり形容できない悪寒に身が震える。

ここに来るとき、僕は自分の欲望を受け入れようかと”つまらないこと”で必死で悩んでいた。もうそんな気分なんてすっかり吹き飛ばされていた。

喉元過ぎれば何とやら。多分直にまた気分が戻ってきたら同じことで悩むんだろうけどさ。

とても森鬼の全てを受け入れて、さあどうぞ、と言えなかった。

だから僕は彼らの管理地域や巴の結界があることを理由にして話の流れを別な方向に導いた。特に話術なんて必要ない。だってこの場で発言力を持つのは僕らの方なんだから。

ら、じゃないか。決定権は最終的に僕にある。鶴の一声、まさにこれだ。

巴は森鬼の俊敏性や戦闘力、それにヒューマンにかなり近い容姿を高く買っていて是非とも住人に加えたがっていて何とか僕を説得しようとしていた。僕の反対はむしろ意外だったみたいだ。

澪も澪で、個人的に気に入らない者がいることを考えても森鬼の植物についての知識の豊富さを客観的に評価し、移住にも肯定的だった。植物との意思の疎通の有無については割り切れているようだ。澪の意外とドライな対応に僕もちょっと驚いたものだ。

思えば植物の意思をある程度汲み取ることが出来ても、それらを材料にした製薬知識は持ち、活用もしているんだ。僕なんかよりよっぽど割り切って考える性格なのかもしれない。最終的には僕の一存でどちらでも構わないと言ってくれたんだけどね。

もちろん僕も全てを否定したいわけじゃない。このままにしておけば近くツィーゲと彼らの間に戦いが起こるのは確実な事。双方に大きな被害がでるのだけは間違いない。

反発の理由ははっきり自分の怯えだってわかってるから、どこかで妥協して受け入れる結論を得たかった。

まず巴に村の結界を新調させる。これは確定だ。僕も彼らを危険なままにして置きたくない。

それにアンブロシアが自生していた管理地域とやらも塞がせよう。これからどうなろうと、きちんと入れないようにしておけば、荒野での一攫千金の夢が一つ増えるだけなんだから。もっとも、こちらは決して叶わないだろう絵空事の類として。

次に彼ら森鬼も言うように僕らとの関係は無くしたくない。僕も彼らの林業に近い森林との付き合い方は好きなんだ。あの、樹刑って代物だけがつかえと言っても良い。でもそれは彼らの先祖がえりの能力のようで森鬼からすると誇りとも言える能力。難しい。

巴が主張するみたいに、森鬼のある程度高い戦闘力にヒューマンにかなり近い容姿は商会運営の際に幅広く役立ってくれると思う。樹刑からの回復を模索するにしても彼らとは付き合いがあったほうが良いんだし。

澪が同意したように、亜空に移住してもらえばきっと彼らはそこに住む人にだって大きな恩恵をもたらすとも思う。今の亜空には森のエキスパートはいないからね。

まるで受け入れない選択は、無い。

だから僕は……。

……



「……なるほど、そういうわけでしたか」

会談が一段落ついて一旦森鬼らと別れた僕らは亜空に戻ってきていた。

結局、森鬼については亜空との交易及び、僕らの亜空や商会に出稼ぎを認める形で村落すべての移住はさせないことになった。

彼らはこれで安全に物を売り、買う環境を手に入れたわけで。さらに仕事も増える。具体的にはクズノハ商会の店番やらそれなりに教育してから商売ごとの交渉、それに……情報収集なんてのもある。

はい、所謂ところの忍びですね。

冷静でなかった僕はかっちかちに考えて彼らとの距離を何とかしてとろうとしていたんですが。だから巴が食い下がるのが煩わしくも感じたんだ。

驚くことに巴さんは彼らに伊賀者甲賀者を重ねていたんですよ。……あいつが妙に正論で商会への利益や彼らの生活基盤の安定がどうとか言い出すから余計に気持ちを重くして必死に妥協案を探していた自分が虚しい。

会談中とはいえ、その気になれば念話でいくらでも意思の確認は出来たはずなのに。

自分の余裕の無さに呆れるよ、ホント。

話し合いは和やかな雰囲気に収束して終えることが出来た。

その後の僕らはもう隠し立てする事なく亜空へ移動し、森鬼への見学と案内を行うことにした。その後で引越し希望者を募ることに。……ちなみにこれは人数制限有りです。希望者を全員にして結果村落ごと移住とか僕の言ったことが実質無効化される事態は防ぎましたとも。

巴はそれを狙っていた感もあるんだけど、あいつの意図さえわかってれば可愛いもんですよ。

「巴、将軍は選りすぐりの忍びの猛者を傍においたんだぞ?」

一言でKO出来た。

彼らは今亜空を見学しながら他の住人や今の亜空について地域の説明を受けたりしている。巴ミニ大活躍だ。エマさんもナイスアシストしてる。森鬼は何割かが共通語を習得していたので言語も何とかなりそうだ。

……ってなってくると、本格的に亜空での共用語も共通語ってやつになりそうだ。あの唸り声、いい加減僕も何とかしないとな。何か手は無いものかね。虫に頭を下げるのは御免だから、何とか交渉で祝福を獲得できないもんだろうか。

日本語でいければ僕は非常に楽なんだけど、資料庫や重要な情報の漏洩なんてのも考えると日本語は一部にしか理解できないほうが都合良さそうだもんな。仕方ない。

学園都市でも現状の筆談もどきを通すと、常時従者の誰かと一緒ってことになるから気も休まらない。一人の時間や同年代だけの時間も欲しいからなあ。

大体巴や澪を傍にずっと置いておくことを考えてみると。僕はそのうち腹話術の人形状態にすらなりかねない。レベル四桁にレベル1だ。どっちが付録に見られるかは言うまでも無い。

「ですが若、状態異常のユニークスキルなど若にはどうということもないでしょう。何故そこまで恐れる事があるのか、少々わかりかねますが」

巴だ。先のなるほど、のくだりも彼女。

今ここにいるのは四人だけ。亜空の僕の館。その自室だ。まだ仮決定らしいけど。十分広いよ?作り変えないでいいんだよ?

会談での僕の態度の理由その他を改めて説明したところだ。

僕と巴と澪と。もう一人はまだお休み中。

「自分でもわからないよ。あの植林されたような林が全部ヒューマンや亜人でって説明された時、異様に寒気がしたんだ」

「ふむ……」

「申し訳ありません、気付きませんでした……」

本当にわからないんだ。多分、僕が生理的に嫌な要素があの何かにあるんだろうけど。巴は頷きながらも思案顔で、澪は僕の気分を察せられなかったことを謝罪してくれた。別に澪が悪いことでもない。

「ごめん」

「若が謝られることではございませんとも」

「そうです!」

「では、森鬼の能力を覚醒させるのについては保留としましょう。あの男については極力使用を控えるよう命じておきましょう」

あの人物がそんな言伝で抑えられるか、とは思ったが巴には何か考えがあるようだった。任せてみるか。どうも、あの能力は苦手だ。

ああ、それにしても、事が片付いたからか全部話してしまったからか大分楽になった。

後は……まずツィーゲに戻るか。

ん、何か忘れているような?

なんだっけ?

んー。

アンブロシアの森(仮名)で森鬼ABに襲われて澪を宥めながら何とか撃退して村に来てキモい師匠ってのに会って、宴が終わったらそいつの口からリッチが出てきて……そうだ森鬼が一人死んだんだ。

じゃなくて!

リッチ!そうだリッチ!

いや待て、何か違う。違わないけどまだ何か。

その前か。

ええと。

!!

森鬼ABに襲われて、と澪を宥めながらの間に起こった出来事を思い出す。完っ璧に忘れてた。

駄目だ、しっかりしろ。

思えば今回の事でツィーゲを出て、僕はどれだけポカやってるんだ。

トリオのことと言い、変態師匠の握手の時と言い、リッチの存在についても何かを感じただけで十分に確認もせずにあのざまだ。

あの森鬼も、ひょっとして助けられたんじゃないのか?

油断するとすぐ思考がモヤモヤした何かに邪魔されるようで、落ち着かなかった。

悶々としてすぐに性欲を感じていた。それがこの様なんだぞ?荒野にいた時はこんな感じになった事は無いんだ。

いくらドッキリでも喜んで引っかかる位綺麗な人ばかりだからって、ちょっと女性が寄ってきただけのことで途端にこんな無様。

馬鹿げた力があるから前に進めてるからと言って、こんなこといつまでも出来ない。

思い出せ、樹刑に触れた時の冷水を浴びたような気持ちを。

もう、押さえ込め。とにかく、全部終わらせるんだ!

どこまで取り返せるかはわからない。後に何が起こるかわからない世界に、僕はいるんだ。忘れちゃいけない。

「あのヒューマントリオはどうなってる?」

「おや、まずはこっちではないのですかな」

四人目。転がってるリッチさんを顎で示す巴。骸骨は法衣らしく見える衣装(といっても黒だし金糸の複雑な文様の刺繍で禍々しいんだけど)を魔力で再生させたのか素肌(骨)は晒してない。眼窩にも意思ある赤光が宿って彼が意識を覚醒させていることはわかる。

巴に始末させた(ように細工した)後、彼には一足先に亜空の僕の部屋に送った。勿論、行動は室内のみに限定して軟禁状態を維持して、だけどね。

僕らの話にも特に行動することもなく参加するでもなく大人しくしてる。少し不気味だけど、彼の特性上、僕にはまず危険らしい危険は無い。とりあえず放っておいても問題ないだろう。

「いや、考えてみればあいつらがどうなったか、まるで聞いてなかった。巴?」

「勿論、蜃気楼都市にご招待コースですぞ。三人とも当初困惑こそしておりましたが、今朝は大人しく出された食事を取り、今頃ですとオークとエルドワが相手をしております」

「……え?」

「なにか?」

「ここに、今、いるの?」

「はい」

まずくない?

だってあいつら森鬼ABと戦ってる時に隔離したんだよ?

今街を見学している森鬼ご一行と鉢合わせしたらまずくない?

「おま、森鬼とばったりとかなったらどう……!」

「ご安心を。そうならぬよう、エリアを確実に分けております。奴らはエルドワの工房付近に泊まらせて明日にでも送り返します。あの森は既に結界で見えず入れずの状態ですのでツィーゲへの隘路あいろ、その入り口にでも捨てましょうかの」

冒険者のようですから、多少質の良い武器でも渡せば満足するでしょう、と。

巴は続けた。アンブロシアは森鬼も最優先で守りたいようで、村の結界よりも重視しているようだった。

ドワーフの工房は確かにある種隔離された場所だ。他地域に移るなら誰かの目に止まることになるだろう。ならばいきなり森鬼や僕らに遭遇なんてことはないか。

武器をあげて、ね。というかあの馬鹿供がいたから今回大分苦労させられた気もするんだけど。

女の方の一匹に至っては、巴と澪に襲われそうになった原因を作った女に似ている気がするんだけど…。髪型も違うし別人か?

うーむ。

釈然としないものは多少あるけど。

ま、いいか。巴の言うそれなりの武器を持てば荒野の入り口付近では攻撃力は十分なわけで。彼らがこれから真っ当な道に進むことを祈るかね。そうでなきゃ次に無茶したら死ぬだけなんだろうし。大体ツィーゲに戻る為に通る隘路はその名の通り、狭く困難な道。延々と上りだし油断を狙って襲ってくる輩も多い。帰路で力尽きるようならそれまでだ。

うんエルドワの武器は優秀だからな。餞別は十分だね。

武器、武器か。

最近どっかで質の良い武器がどうのって言葉を口にしたような……。

この不味そうなイメージは、ライムだ!ライムラテ!

あの人に武器あげるとか言ったんだったな。自力であのレベルに到達して、それなりの実力は持つ男だ。……巴にえらい目に遭わされて澪にカツアゲ食らったけど。

そうだったそうだった。

僕の装備品についての進捗もあるし、ツィーゲを出る前といわず近い内にエルドワさんとこに顔出そ。

うむ、ちょっと気が抜けて楽になったつもりでいたけど。

僕やることまだまだあるじゃん!!

「じゃそのトリオは任せる。僕が会うわけにも行かないし」

「御意」

「それじゃ二人はもういいよ。後はリッチさんとちょっと話すだけだし」

「面白そうだし試したいこともありますゆえ同席しますぞ」

「あの変態の例もあります。密室で二人は駄目です!」

うん?別に危険も無いんだからお二方とも亜空での仕事に取り掛かってくれればいいのに。

澪、この骨に貞操の危機に晒されることは多分、絶対無いと思うよ?

好きにすれば良いけども。

それじゃ、事情聴取といきますか。
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