お伝えしたいこともありましたので二日連続になりますがアップすることにしました。少し思うことがあり、アルファポリス様にコンテンツ登録致しました。
詳細は書いて良いのかわからなかったので記載しませんが。
今回は視点が三つです。わかりにくいかもですが、どうぞ^^
~澪~
せっかく若様と二人きりで森のデートでしたのに。ヒューマンと言い、森鬼とかいう輩と言い、どうしてこんなに邪魔が入るのでしょうか。
思わぬ幸運で若様の体液にありつけたのは願っても無い事でしたけど、面白くないことが多すぎます。
面倒な聞き取り?とかを終わらせてようやく部屋に入れたと思ったら雑魚が二人して師がどうだのと益体も無いことを言い出しますし。
薄い血色の悪いのが気配を消して忍び寄ってきますし。
そ、それにその雑魚の師匠とやらが!
私でさえ31秒しか若様とお体を重ねたことが無いというのに!
御手を図々しくも握り締めて一向に離そうとしない始末!
暴力沙汰を禁じられてはいましたがとうとう我慢出来なくなって一撃くれてやりました。当然です。万理に通じます。32秒は一撃で死んで良いんです。
若様からは、「お前(お前だなんて若様ったら♪)、僕が手を繋いだままだったらとか考えてないよね?」とお叱りを受ける始末。
聞きたいことがあるからとお説教は早くにお仕舞いにして下さいましたけど。
あの四人の中に変なのが混じってました。
若様から尋ねられたのもその件に近い事でございました。流石は若様!
私が気付いたことなど、とうにお見通しなのですね。
でもちょっと方向が違っていた気もします。まあ、いいですよね。おかしいのさえ調べておけば、きっと問題ありませんもの。
今回のデートはここまでは最悪でした。
でもここからは結構楽しめたんです。若様のおかげで。
ああ、この展開はもしかして。
ある事を期待して胸を躍らせる私に若様は寸分違わぬことを命じてくださいました。
澪、ちょっと探って欲しい、と。
ああ、潜入!盗聴!
そういうの実際にやってみたかったんです私!変装はしなくて良いのかしら!?
変装は必要ないと諌められてしまいました。今回は姿が見られないようにして欲しいとかで。
うふふ、でも楽しかった!
結果には満足して頂けたようで褒めてくださったから、亜空に戻ったら若様に第二期の鑑賞を許してもらいましょう!それとも劇場版にしようかしら!
宴の後、探って欲しいと言われたヤツに動きがありました。
食べていいのかしら、と思案していると若様は巴さんを連れてくるように私に命じられました。
つまり若様をお一人にしてしまう。
でも私は主の命に素直に頷きました。
だって。
若様はちょうど良い、と仰ったのです。
ここ数日、若様は少し攻撃的で苛々とされていることも度々ありました。
此度荒野に出向いてからは首筋や胸元に何度か若様の視線を感じました。これまで一度も無いことです。
もしかして伽に呼ばれるのも近いのかも。街の女を買う位ならどうして私を呼んでくださらないのか不思議でしょうがなかった。私は彼女達以下かと悲しくなりましたもの。今日の様子だと、どうやらそういう訳でも無いようです。
伽を望まれる前兆に男性が粗暴に振舞うというのは初耳ですけど、これまでの事なかれ方針の若様と比べると明らかに様子はおかしい。少しだけど期待はできます。
私は若様が何か思う所あって(私への劣情であると願って)暴れたいのだと思うことにしました。
いっそ私の身で事足りるならあの場で、というのも考えましたけど。うふふふふ。
巴さんを呼んで、ここに戻ってくる頃にはきっと戦闘にもならないであろうソレは終わっている。むしろ、若様が消化不良で欲求不満になってくれた方がいっそ私には……。
食感くらいしか楽しみ所が無さそうなのでしたから今回は別にお預けでも構いません。
その報告も最後までさせてもらえませんでしたけれど。気もそぞろな若様は私をささっと亜空に送り返しましたので。
村にいる存在のどれをとっても若様の脅威はいません。ですからお一人にしても問題はありません。
あの雑魚ABと変態も、若様の力を一端でも目にすれば愚かな敵愾心など霧消させることでしょう。
もしも森鬼が亜空に来ることになってもそれはそれ。若様の決断なら認めましょう。
雑魚も薄いのも変態も。子供たちに食べないように教えておかないといけませんわ。
今夜か明日か。若様は私を求めてくださるのだろうか。
ん、なんだろう。
私は若様に使ってもらいたいのに。御奉仕をして差し上げたいのに。
今のあの方に求められる事を、少し残念に思っている私がいる。
わからない。そんな筈は無いです。
気のせい、ですわね。
~真~
「やれやれ、呪いが片付いたと思ったらお次はアンデッドか。参考までに聞くけどそいつは生きてるのかい?」
「我をグール共のような下級不死族と一緒にするでないわ。こやつは我の顕現に必要な生気を吸われて動けぬだけよ」
「……へぇ、そう」
親切にもこちらの問いに答えてくれる骸骨さん。顕現とかずいぶん偉そうな。
そりゃ、これが下級不死族って楽そうな存在じゃない事くらい見た目で既にわかる。
骨だけの体。黒を基調に金をあしらった高級そうなローブを纏い、フードから覗く頭蓋骨の眼窩には禍々しいと形容するに相応しい赤黒い輝き。
幾つもの宝石がはめ込まれた業物っぽい杖。
見た目ではリッチ、ってヤツに見える。
僕の知識だと、元の存在によって強さはピンキリになる嫌な奴の代名詞だ。高名な実力ある魔術師の成れの果てなら、相当強いはず。
考えている通りの存在なら不死族というよりも不死”者”が相応しいかもな。死による自己と知識の拡散を恐れ憎み、自らアンデッドと化して在り続けようとする者。
その彼(?)の足元に転がっている男の安否を確認したんだが、どうやら生きているらしい。
少し残念だったり。やはり脳筋は死なず、か。
で、次に僕と骸骨の間にあるモノを見て同様の問いかけを彼に目で訴える。
「それが、生きているように見えるか?」
逆に問いかけられた言葉は、問いでありながら答えだろう。
苦悶の表情で喀血して干からびたように横たわる一人の森鬼。
「なぜ、殺した?」
「そ奴はちと面倒な女の使いでここで暗躍していた者でな。邪魔になった」
「そこまで内情を知っている。つまりこれは仲間割れか?」
「違う。我に仲間は居らぬ」
なるほど、自分と相手の間に利害関係しか存在しない。そういうタイプの人か?
「目的は?」
「主よ。後、今は姿が見えぬが一緒におった女子もな。」
「恨まれる覚えは無いんだけど?」
「質問の多い少年よ。我の瘴気にも微塵も動じておらぬ。益々興味深い」
瘴気。これが瘴気か。
確かに長く吸っていたい空気じゃないな。饐えた、気分の悪くなる感じがする。
やや後方では顔を真っ青にしたAB始め森鬼さんの戦士クラスがいる。彼らには瘴気とやらが効果を挙げているようだった。
「降りかかる火の粉は、払うよ?」
瘴気に魔力が混じるのがわかる。完全に魔法型の人だろうな。
……悪いけど、これまでで一番楽じゃないか?だって僕のチートって魔法方面への補正が一番キツイだろ?
状態異常が怖いから対策を、と巴と澪、それにオークにアルケーまで呼んで有識者会議をしたことがある。
皆さん、キョトンとしていた。僅かな疑惑が見て取れる。
曰く、僕に状態異常系の魔法がどうして効くのか、と言う疑問だった。
巴が霧を生むと僕に向けてきた。澪も何やら闇の糸みたいなのを腕に投げてきた。
アルケーは黄色の、オークは紫色の玉を作り出すと投げてきた。
敵意を感じなかったのでそれを全部受けた。
何も起こらない。気分も体調も全くまるで変調はない。
何だったのか聞いたら、順に幻惑、吸精、麻痺、猛毒の異常喚起魔法だった。
……効いてたらやばすぎるだろ?な?敵意も無くそんなもん使うなよ。
だが効かなかったのは事実で彼らもそれをわかりきっていた様子。
理由を聞くと。
海に水を注いでも塩を足しても、どうなるものでもないでしょう、とのことだった。魔力の最大値が巨大だとそれだけで状態異常にはほとんどかからないのだそうだ。コップの水の味を変えるならそう難しいことじゃない。つまり、普通の人はそんなものだということだ。
「主には聞きたいことがあるでな。殺しはせんよ」
多分、こいつには必殺で効く技があるけど。残念ながら僕もこの骸骨には聞きたいことがある。初の魔法専門キャラっぽいし、あの女とか言ってたし。
……実際さ、界で一切の魔力の行使を封印しちゃえば詰みだと思うんだよね。以前に試したら巴や澪も魔法使えなくなってたし、僕も使えなかったから魔法封印の効果付与は出来る。
でも魔力封印しちゃうと一発でこの人滅びちゃいそうな気がするんだ。魔力で動いてんだろうからなアンデッドなんて。流石に今試して確認するのはちょっと。
それに、そんなあっさりやるのもどうも。気分じゃない。
少し自分でも意外だけど、暴れたい、なんて思ってる僕がいる。こんな高揚を戦闘に感じるのは初めてだ。
「ローブ付きの骸骨が僕に質問、ね。ぞっとしないな。」
「ほう。我が如何様な存在か推測があるか」
「魔術を以って自ら人をやめ、知識と魔術の深奥を探求する者、と理解しているんだけど?」
「素晴らしい、ほぼ正解だ。我はリッチ」
声帯はないはずだが、彼の口から笑い声があがる。カラカラと骨のこすれる音もセットで。
「主は我を知る、ならば我も主を知りたいものよな。素直に応じてくれるか」
「僕?僕はただの”人間”だよ」
厳密には違うのかもしれない。でも僕はあの世界で生まれ育った。人間って言葉を捨てるつもりはないよ。
リッチから上位者の余裕が薄れた。いや、瞳に厄介なモノが灯った。僅かながらも、狂気。それに好奇も伺える。
明滅する光でしか無い瞳だというのに、意志が良く伝わってくる。
「ニンゲン……ヒューマンの祖と呼ばれる古代種の名だ」
「らしいね」
「グラントではない、か。だがニンゲンもまた未だ我の理解が及ばぬ者。仮にニンゲンがグラントを超越する存在なら我は主を目指していると言っても良い」
グラント?なんだ、それ。初めて聞いた単語だな。それがこのリッチの希求する目的?人間がグラントを超越するのならこの骸骨は人間になるのが目的?妖怪人間か!
いやいや、推理がそれた。ならグラントというのは……。
「その身体、精神。是非にも調べたくなった」
「わからないね。聞くにグラントとはヒューマンの上位種か何かか?人を辞め、そんな体になったあんたが望むのは、より優れた存在への転生や進化の類が目的だとでも?」
「……おかしいかね」
「その身なら永遠も生きられるのだろうから必要が無いと思うけど。知識や魔術の探求に必要なのは、つまりは永遠の時間じゃないのか?」
「賢しい。危険だな、主は。残念だ、我がヒューマンとして存命の間であればまだまだ語らいたい所ではあるが」
「色々と経験してるからね(ゲームとかラノベとか漫画とか)」
この問いに答える気は無いか。目的ってのも半分も当たってないかな、こりゃ。
リッチの杖がこちらに向く。
詠唱はこれまでに一度も聞いたことの無い言葉。だが例によって詠唱の声にダブってその意味が伝わってくる。
上位古代語とかよりも魔力を術に変換する効率が良いな。これで僕が使っている言語と合わせて四つ目の魔法言語だ。精霊語はまた別にしてね。どうせ、あれ使えないし。精霊魔法というのは相手があるせいか精霊語をトレースしただけでは効果が発現してくれないのですよ。
僕とリッチと瘴気で弱っている森鬼たちは一直線上。
「避ければ彼らは無事では済まん。何、痛くは無い。意識と肉体の自由を制限する程度だろう、主にはな」
森鬼さんは無事じゃ済まないということね。詠唱終了までも短いな。それなりの魔力を短期間で練れている。さっすがスペシャリスト!
巴と澪で大分恐怖の感覚がずれてきているのか、魔法と言う得意領域の勝負だからか。僕は珍しく余裕綽々です。
「ではさらばだニンゲンよ、我が知識の糧になれ」
「残念」
人魂のようなものがリッチの周囲に集まり杖の先端で融合していく。餅がくっ付いてゆくのに似た様子で、密かにお餅食べたいな~とか思った。
集まり終えた餅、もとい詠唱内容から判断するとリッチの瘴気に寄せられた怨恨の念が僕に向かって飛んでくる。
ここは荒野の中の村。人の怨念には事欠かないわな。速度を上げた大きな人魂は正面に醜悪な人らしき表情をむき出しにして僕に襲い掛かって。
突き出した僕の左手で押しとどまった。リッチから様子が見えてるかどうかは知らない。術のシルエットで骸骨の姿は見えないから。
でもこれに頭から呑まれてぶっ倒れていく流れになっていないことに不審くらいは抱いているかもね。
だけど左手で普通にそれは止まっている。侵食さえ起ころうとしない。だって僕、海だもんね。
じゃあ、リッチ君にはちょおっと痛い目見てもらおうかね。色々知ってそうだし役に立ってもらうよ?
「#$%&’…」
闇よ、我が望むままに喰らえ。
ごくごく短い端的な詠唱。それをオーク達から教わった言語で紡ぐ。
「ぐっ!その言語は、なんだ!?」
リッチは僕の詠唱が不快に感じたのか身じろぎする。
左手で受け止めていたバルーンボール、いや餅、違った怨念の塊っぽい何かの表層部が何箇所か黒い歯形の形に削られた。
その数は次々と加速度的に数を増し、青白く存在していた塊をあっという間に食い尽くした。
「な、何が……」
ですよねー。わかりませんよねー。専門家さんですもんねー。
僕がやったのは闇魔法を用いた魔力の侵食。それも澪がやった曲芸じゃない。物凄く効率が悪い方のやつだ。
意味が無さ過ぎて誰もやらないと一蹴された使い方。
頭の良い人にはわからんですよ。
魔力なら腐るほどあるんだ!むしろ使って減らしたい!非効率的万歳!
これで終わりだなんて思ってないだろうリッチさん。
この術の次に喰われるのは誰の魔力かな?ほら防御しないと……
「ぐ、っっ!!」
何かに殴られたようにリッチの頭部が横に弾かれた。何か、の場所にあったのは黒の歯型。
「う、うおおおおおおお!?」
先ほどの術を霧散した攻撃らしき何かが、自分にも及びだした事に気付いたか骸骨さんは防御用の魔力を練って障壁を築く。早い、大声上げてパニックになっているかと思えば意外と冷静。悪手だけど。
歯形群はその障壁に群がっていく。そして貪るように次々と壁に取り付き、食い散らかしていく。
「何だ、こんな術は見たことがないぞ!?我の知らぬ術だと?我の障壁をこんなにも容易く!一体どんな高効率の言語を…」
「一万円で一円玉を買う。昔じゃ絶対にやらないな」
「術の展開がまったく追いつかん!群がるな!寄るな!」
しっかし醜悪な発現の仕方だな。闇の歯で全部食い散らかすとか、むしろ向こうが使いそうな術だよ。元々こういう術なんだと思いたい。性格が影響してるとかは無いと信じる。勿論後で確認する気も一切無い。これはこういう術なんだ。
「喰われる!?魔力が!?そんな、馬鹿なっ!」
「ふざけるなこんな、こんな馬鹿な術があってたまるか!」
「止めろ、我を喰うな、我はグラントに」
「グラ、……トに」
「……き、消え、る。い、や……!」
見る間に纏う魔力の全てが喰らい尽くされてリッチから禍々しさが消え去っていく。どうやらローブも魔力で作り出していたらしく。もはやぼろぼろの欠片が骨に引っかかっているだけ。
動くことも出来ないのか見た目ただのスケルトンになって杖にしがみついているリッチに歯型は尚も喰らいつく。最早瘴気すら発していない。あ、膝突いた。
「ワンパンチで鍛えた僕の寸止めは完璧だよ、殺しはしない」
本来魔力だけなら最後まで食べちゃっても気絶するだけらしいけど、この場合、やっぱりリッチには消滅を意味するようだ。存在感がかなり希薄になってる。
良かった界を試さなくて。
もう痙攣するだけで害は無いみたい。ちょっと、やりすぎたかな?
やはりらしくない。
こんなか弱く震えるだけの相手を見下ろして気が晴れているなんて。
~巴~
儂が若を迎えに行くとその場には奇妙な沈黙があった。
若が何やら派手にやったのかの。儂は早く亜空に名工と言われる刀工を育てて、打たせた名刀を肴に飯と味噌汁を食したいのじゃが。
念願かなった暁には、むしろ朝はパンで良いんだけど、とか言う若には毎日米の朝食を強制してくれるわ。
が、しかし。来いとの御命令であるなら是非も無い。儂が付きっきりで見ていても効果が目に見えて上がる訳ではないし。
森鬼はどっちみち何人か連れて行くつもりじゃったから丁度都合も良いわ。
沈黙の中で一点に集まる視線を追うと、そこには。
若と、瀕死の(というのも変じゃが)アンデッドが一匹。それに森鬼が一匹死んでいた。
若の後ろでは誰動くともなく森鬼の群れ。若の挙動に注視しているのか全体に緊張が漲っておる。
あれじゃな。
若がこのアンデッドを非常識なやり方で仕置きして、それに森鬼どもが引いている。そんなとこじゃな。
ふむ、少々意外、いや予想の範疇かの。若には娼館の件も含めて事が落ち着いたら少し話をさせてもらうか。ご自覚があればともかく、そうでないご様子じゃし。
群れておる森鬼の中で見知った顔を見た。
あれは確か結界を作ってやったときの若造よな。顔立ちが何となく似とる。最悪子孫でも親や爺さんの名前は存じておろうよ。
「お前、確かニルギストリとか言う名じゃったな。壮健で何よりじゃ」
「確かに、私はニルギストリだが、お前は誰だ?あった覚えが無いが」
何と無礼な。たかが姿形が変わったくらいで儂がわからんじゃと?恩知らずな奴め。
「血涙流して儂に霧幻結界を乞うた癖に。死にたいのかの?」
少々気が立ったためか、瞳が竜眼になったようじゃ。いかんな、完全に人間型になったが、感情の高ぶりでどうも以前の姿の残滓が出おる。
眼を見た奴はようやく儂の正体に見当がついたのか、直立不動で固まる。爺がピンと立ったところで枯れ木ほどの見栄えしかせぬがな。
「し、蜃様!!!」
周囲がその声を切っ掛けに弾かれたかのように動く。
皆儂を見て。畏怖、恐怖、疑惑、様々な瞳を向けてきた。
「上位竜、蜃様である!皆、跪け!頭を下げよ!」
長老格に出世でもしたのか声をかけた爺の言葉に皆が従い、そして土下座のような姿勢をとった。ふむ、良い気分じゃな。
欲を言うとこの礼を向けられるのは若で、儂はそれを横に控えて見ておるほうが良いんじゃがな。
「ちょっと結界の張り直しに参った」
『おおおおおおおお!!』
「というのは嘘での、あの方に呼ばれて参ったのじゃ」
若を示す。森鬼は儂が何を言ったのか今一わかっておらんようじゃ。虚を突かれて何を言われたのか理解しておらんやもしれんな。
阿呆どもめ。何ゆえに儂がわざわざ頼まれもせんのにお前らの村の結界なんぞ手入れしてやらねばならんのじゃ。
幾ばくかの沈黙を破って、奴らは気を取り直して口を開いた。
「恐れながら!蜃様、アレは危険でございます!先ほど、何やら我らの同胞の口より黒い煙が出でまして。それがリッチとなり我らに牙をむいたのでございますが」
「リッチと言えば、その深遠なる魔術の能力、そして死霊喚起術にも長じた恐るべき脅威」
「それをあの者は、おぞましさにてさらに上回る術にて圧倒したのでございます」
「どうか、どうか我らをお守りくださいませ!」
長老らしき者らが交代に儂に状況を語る。面倒な奴らじゃの。代表者がまとめて話せば良いというに。
しかも若が次は自分達に害を為すと考えておるようじゃ。この怯えよう、若の使ったおぞましい術とやらにも因るが……もしや。
「お前ら、あの方に何をする心算であった?」
「え」
「それほどに怖れるからには、お前たちの方にもいくらかの害意、敵意があったのではないか?」
そう。後ろめたいから即座に声をかけるよりも早く自分達に牙が向けられる、などと考えた。と儂は推察した。
「それは……」
「あの者は我らの管轄する森に無断で入り込み、かつ希少な植物の存在を知りました。これは我らの法で極刑に値します。戦闘にて敗れた為、村へ引き入れ宴に誘って油断させた上、刑に処するつもりでございました」
極刑。以前の森鬼の極刑といえばアレであったが。
おそらく現状では死刑であろうな。
「しばらく見なかった内に随分と、注意力を失ったものよな森鬼」
「……と言われますと」
「儂は先ほどから”あの方”と言っておる。儂と交誼のある者にお前らは刃を向けるのか?」
『!?』
「儂はの、あの人を、若を迎えに来たんじゃ」
「なナなナ、何デスと!」
何故に片言かニルギストリ。全く失礼な。大体儂の姿から少しは察せい。
「ああ、巴。中々良いタイミングだね」
と、若も儂に気付かれたようじゃな。
「交誼とは正確では無くてな。実を言うと儂は彼の」
若に一礼を返しながら儂は口を金魚のように無様に開閉する森鬼に続けた。
「マコ、ライドウ様の下僕なんじゃよ」
ニルギストリの奴、気絶しおったわ。
ご意見ご感想お待ちしてます^^
少々私事が重なりましてGW中の次回更新は難しいかもしれません。
それでは。
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