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いきなりオイシイ思いをする連中が現れたら、その時周りにいた冒険者はどう思うのでしょう。
今回はそんな入りでスタートです。
ツィーゲ編も後半部分に突入であります。
一章 ツィーゲ立志編
蜜に群がる者
~とある冒険者~

最近、ツィーゲの景気が良い。

理由は簡単だ。

新しく現れた冒険者が凄腕で次々に依頼を片付けて回っているからだ。ギルドの上位者リストも大分名前が変わってきている。その冒険者の名こそまだ無いが彼女の知り合いとかいうパーティの連中が一気にレベルを上げて全員がリスト入りしていた。

新参者の冒険者は三名。でも実質動いているのは一名だけだ。名前は巴。信じられない事にレベルが1340!

現代最強と謳われている『竜殺し』ソフィアのレベルを遥かに超えている。巴はランクこそ何かの意図があってか低いからリスト入りはしていないし、ギルド全体においては未だ一部の者にしか注目されていないがレベルはソフィアを400以上も上回っている。

そして荒野に関連して出されている常時氾濫していた依頼を事も無くこなしていく実力者。今ではそのレベルを疑う者はいない。彼女に媚びたり擦り寄る者も多いがお近づきになれた話は聞かない。

何かにつけレンブラント商会を批判しては良からぬ事を企んだ同じ手でどうして彼女に近づこうとするのか。

少し調べれば彼女とよく一緒にいる二人のうち男の方は商人で、どういうコネかレンブラントの必要とした希少素材を提供して良い関係にあることなど容易く知れることなのに。

所詮はまともに狩りにも出れない半端者だ。聞けばこそこそと巴の出る依頼を調べては後を尾け、取り残した素材などを漁ったりもしているとか。情けない。

奴らは馬鹿だ。

私は巴ではなくもう二人に目をつけていた。ライドウと澪。ライドウはレベル1、さしたる実力者でもないだろう。これはかなり巧妙に隠されている情報だが何でも以前のトップランカーであるライムが結構な人数を率いて巴達を襲撃したことがあるらしい。その場ではライドウは一人だけ術師を殴っただけで他は全部巴がやったとか。ライム程の実力者がどうしてそんなことをしたのかわからないが、彼は見た目の安っぽさに反して面倒見がよく情に脆い。冒険者に夢見る若者から低ランクの依頼を奪うレンブラント商会に義憤を覚えたのかもしれない。

私は、現実を教えてやるのも先達の仕事だと思う。力の無い者は何れにせよ死ぬんだ。運搬や薬草類の採取しか出来ない者は早くに夢から覚ましてあげるのも、長い目で見れば彼らの為だ。

だが、ライム達との争いでは何故か澪は戦わなかったようだ。

澪は何とレベル1500、精霊か何かではないかと疑いたくなるレベルだ。手加減しても殺してしまうから、と言われても納得できてしまうのが恐ろしいけど。

おそらく巴はこの三人で一番下っ端なのだ。何か指示を受けて特定のパーティと狩りに出たり依頼をこなしているに違いない。

人前ではライドウという仮面の怪しげな男が偉そうに振舞っているが、きっとあれは演技。彼は澪のヒモか下男なのだろう。もしかしら二人共用の男娼なのかも。

実際は澪があの三人のリーダーの筈。レベルの高さがそれを証明している。なら巴に話をしても色好い返事なんて聞けるはずが無い。話を持ちかけるのなら澪にだ。

私の勘がそう告げている。これまでこの勘に幾度も助けられてきた。私達はそうしてレベル95、ようやく荒野に踏み込めるレベルに到達したのだ。才能もある、努力もしてきた。その自負はある。

ツィーゲに冒険者として留まり、身を立てるつもりなら荒野を目指さずしてどうするのか。そこに踏み出さないなら他の地域で活動した方が良い。

だが荒野の依頼はどれも難関揃い。幾つか引き受けたことはあるがまだ成功出来た事は無い。

魔物がとにかく強い。一匹なら何とか三人がかりで倒せるのだが、強力な個体の場合はそれも無理。とても討伐依頼や部位の採取など出来ない。一人で剥ぎ取りがスムーズに出来ればともかく、どうしても血の匂いを撒き散らすことになるから他の魔物を呼び寄せてしまう。二人で敵を相手取ることさえ出来れば問題は解決するんだけど、ね。

探索や採取のみの依頼でも、結局はこの戦闘難易度の高さに阻まれて依頼の達成が出来ないでいる。しかし、巴に先陣を切ってもらえるなら十分達成できる。あのトアという者らだって私達と比べて段違いに強いわけでもない。依頼に連続して成功できるのもランクが上がるのも。レベルが上がるのだって全部巴が一緒に行動しているからなのだ。一度後をついていったことがあるが、巴が存在するだけで他のメンバー全員が剥ぎ取りに夢中になっていても魔物が寄り付きもしない。知能を有さない類の魔物は彼女の間合いに入った瞬間に真っ二つ。笑うしかない。観光ツアーと言っても過言じゃない。

なら私達もそれを利用できて然るべきだ。ライドウでも澪でも良い。どちらかに取り入ることが出来れば同じ旨みにありつける。素材を持ち帰り、換金して良い装備を整えられる。

荒野で幾つかのベースを渡るのも良い。ツィーゲに戻る頃にはレベルだって200~300にはなっているに違いない。そうなれば最高位の騎士の座も夢じゃない。各地の武芸大会荒らしだって容易い。最高峰の帝国闘技絢爛祭にも招待枠で呼ばれるだろう。

全てはライドウと、澪だ。

でもパーティを組んでいる残り二人の反応は今ひとつだった。

一人はそれよりもレベル100位まで表依頼(ツィーゲでの荒野関連以外の依頼事)で上げてから、荒野の入り口付近で単体の魔物を探して討伐。噂になっている蜃気楼の街を目指す方が確実だって言う。馬鹿馬鹿しい、あるかも判らないものより確実に巴に繋がる私の案を採用すべきよ。彼女、亜人や魔物を普段は毛嫌いしている癖に魔物の都市の噂に縋ろうなんて益体の無い。荒野に出ない依頼と魔物討伐だけでレベル100になるのは後何年かかるというのか。

もう一人はもっと消極的、話にならない。お金を貯めて、良質の装備を揃えることから始めよう、だって。だから、お金もレベルも装備も巴と澪さえ抑えれば望むままだっての!素材があれば武器だって安く入手できるのは常識でしょう!男の癖に保身第一の考え方は止めて欲しい。

私は作戦を考え始めた。荒野のリスクが大きいのは認める。だからリスクとリターンを出来る限り調整してもう一度二人に持ちかける。あんなでも私と組んできた二人だ。能力的にも連携的にも解散、なんてことにしたくはない。

肝心の澪は、見かけないことが多い。そして何より強すぎる。不興を買えば殺されかねない。ベース程でも無いが、ここでも他の街に比べれば命なんて軽いものだ。

ならばよく見かけるライドウの方に近づいて友好的に澪と話せる状況を作れば良い。

出来うる限りの化粧をして普段着ることの無い街娘の着るような衣服に身を包んで彼に話しかけてみた。だが彼は忙しく動いていて私を相手にもしなかった。レベル1の癖に。商人とも魔術師とも聞くが今一苦手なタイプかもしれない。

だが女慣れした様子は感じなかった。男娼、というのは間違いだったか。では彼は下男なのだろうか。

次に私は娼館の女を装って一気に彼と体の関係を築いてしまおうと試みた。男など、一度でも抱けばその女にある程度の情は移すだろうから。澪の色で無いならこれでいけるはず……。

が、これは悪手だった。引き込もうとした段階で巴と澪が何と二名とも現れて彼を連れ去ってしまった。あの男、仮面の下は相当な美男子なのだろうか。あの二人が取り合いをする程の男性だとは思わなかった。とすると、色仕掛けは逆効果か。私が近づきたいのは彼でなくて実力のある巴か澪なのだから。

他の二人の協力があればもう少し、違った結果も出たかもしれなかったが結果として私は彼らに近づくことに失敗してしまった。良くない具合に顔を覚えられたのかライドウと接触する機会が明らかに減った。避けられていると見て間違いなさそうだ。

だが、こうなってしまうと。

私は手段を考える。何とか彼らの強さを利用する方法を。

拙い方法しか浮かばない。何より、殺されずに済んだとは言え、私は巴にも澪にも悪い印象を持たれてしまった可能性が高い。

仕方が無い、こうなったら今回は二人にも協力させなければならない。そして是が非でも成功させるんだ。二人も納得して、尚且つ彼らを動かすにはどうすれば……。

……



そうか。

動かすんじゃなく、動いた時にこちらも動けば……。

常にトアとかいう闇盗賊たちといる巴ではまずい。澪かライドウが荒野に出た時に後ろから私達の安全圏ぎりぎりまで尾行する。それよりも奥地に進むようなら諦める。

これだ。これなら二人も納得する。

澪が狩った魔物のおこぼれも手に入るかもしれない。魔物の都市にも行けるかもしれない。弱った敵や取りこぼした敵には単体で居る者だって少なくないだろう。

いける。情けない、と称した連中と同じ結論なのは癪に障るけど。巴を追うよりもライドウや澪を追う方が競争率がかなり低い。その分自分達の身に降りかかる危険も高まるが、許容範囲だ。

方針は決まった。

後はいつ奴らが動くかだ。

澪は本当に場所の把握が難しい。ライドウを軸にしよう。奴を追えば必ず巴か澪に会える筈だ。一人で荒野に入るわけが無い。だって彼はレベルもランクも足りてないのだ。巴か澪を連れていればおそらく特例になるが、彼一人で立入許可は得られまい。

だが彼は変に鋭い。私が避けられているのもそうだ。接触を予定していた場所の寸前で違う通りに移動されたり、いつの間にか尾行を撒かれたり。つまり私では彼の行動を把握できない。どうやって私を察知しているのかは不明だが、警戒されているのは確実だ。

だからこの作業は私のパーティの二人に交代で頼もう。

私達三人はツィーゲ生まれのツィーゲ育ち。二人がかりで土地勘の無いライドウをつけることくらいは可能なはず。後は……いつ荒野に出ても良いように準備をしておくこと。

何かあった時にはライドウ達を出し抜くことも考えないと。

せっかく冒険者になって芽も出てきて、名前を売るのに丁度良さそうな戦争も始まりそうな雰囲気のこの時に。物凄い甘い汁が目の前にぶら下がってるんだ。

一世一代の大チャンスとはこのことよ。成り上がる為にもしくじる訳にはいかないわ。
トアさんたちは”世にも幸運な冒険者”です。
冒険者という括りで見れば、善良な部類の子たちです。
今後スポットが当たるのかは別にして^^;
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