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……昨日から何か凄い事になってます!
extraをどうしようか、初の悩みが出来ましたが空が飛べそうな気分です。
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一章 ツィーゲ立志編
マコトノセカイ
「んー、いいね」

さて、それでは。

柔軟を行った後、森の空気を深く吸い込む。

用意した弓を片手に、お手製の的を見据える。距離は、大体150mくらいかね。わざと木々を挟んで見え難い位置に的を置いているから短めにした。

わざわざ障害物を用意してしまうのは野外で弓を射る時の習慣だ。先生譲りだ。思えば色んな状況やら条件やら考えさせられたなぁ。懐かしい。

着座しまして、と。

ああ、良いね。この瞬間。

心を無にしていく。中てる。ただそれだけを思って集中し、次に意識を拡散させていく。

自分という存在を的までの直線にある全てと同じくした存在と化し。

自分も弓も的も障害となる木々の枝葉さえも。一つの意識の中に収めて自我を再度形成収束させる。

ほら、もうこれで。的までの矢の軌跡さえも明確に描ける。なんて言ったところで友人は全員TVへの出演しか勧めてこなかったがね!

静かに立ち上がり、弓を構え、矢を番える。これは僕にとって完成された所作だ。何万回と繰り返してきたことか。

健康になるため、強くなるため、上手くなりたいがため。目的こそ次第に変じてきたけれど。

僕はそれこそ、人生の何割かを弓に使ってきたといっても過言じゃない。姉さんも妹も格闘技を習っている。その割合は明らかに僕よりも少ない。ダントツに体がひ弱だったってこともあるがそれだけじゃない。

結果として虚弱体質の改善もできたし、打ち込むだけの魅力があったからだ。家族に懸念されたけど、まったく苦痛じゃなかった。

初めて亜空で弓を射た時は加減してなかったから的ごと消し飛んだ事を思い出す。

今回はその辺もきちんと想定済み。

収束し終えた意識の中で結末もシミュレート完了だ。脳裏にある、的に突き刺さった弓は間違いなく実現する。

「ふぅぅ……」

込めた気合が口から息吹になって出る。

矢は吸い込まれるように的の中央に刺さる。

何度も、何度も。

久しくなかった機会だからか調子に乗って何十と矢を射ち込んでしまった。

その割に体にさした疲労を感じないのは、超人仕様の為か大好きな弓道だからなのか。

「的も割れず、と。うん上出来だ」

頬を伝う汗が心地よい。

どういう仕組みか夜空に瞬く星を見る。ここは亜空という呼び名から想像できる異次元なのか、更なる累世界なのか。まったく理解の出来ない場所だ。

空と星があるなら宇宙も存在するんだろうか。だとすればここは飛ばされた異世界の宇宙か元の世界の宇宙か、どちらでもない第三の宇宙なのか。

「若」

びく。

また、やっちまいましたか?

なんで僕はこう弓を構えると無防備になるのでしょうか!?

僕と的を繋ぐ線じゃなく、その線を半径か直径に変えた円形で”集中”出来ればいいのか?

でもそれ、どうやって……。界と組み合わせて試行してみようかな。愚直なトライ&エラーは嫌いじゃない。

と。いけない。

それで誰だよ今度は。

「巴。それに澪もか」

心なしか二人の体に緊張が伺える。緊急事態か?

だけど、どっちかっていうと澪さんの方は泣きそうな感じがするような?なんで?

「今のが若の弓の修練ですかな」

巴は真剣、いや神妙な顔つきだ。

「……あー。うん、そうだけど。どうしたんだ?態度が固いぞ?」

「若は、今の修練をこれまでずっと積んできた、と」

巴の額から一筋の汗が頬を伝う。

なんだ?一体何が起こってるんだ?澪はいよいよウルウルしてきてるよ?

ってかおい!何で突っ込んでくるんだ澪さん!

「うおっ!?何事だ一体よ!」

「若様~っ、生きてる!生きておいでですね!?」

何やら全身をすりすりされながら抱きつかれ無事を確かめられる。

まさか、敵襲!?

「おい巴!まさか、敵襲か!?」

「……いいえ。失礼ながら若の修練を見せて頂きました。途中からではありますが」

「は?それで?」

状況がさっぱりわからないんだが。

「若が矢を射る前の集中、と言っていいのかわかりませんが座しておられる時のことなのですが」

「ああ」

「若の気配が急に薄らぎ、周囲に溶け込んだようになりました」

「ああ」

だから何?

「ああ、ではございません!それは、それはつまり、若の意識が死んだ、ということでございます!」

肯定の相槌に異様な迫力で巴が怒鳴り散らす。十年以上僕が日常的にしてきた当たり前の練習だ。何で死なないといかんのだ!

「へ?なんでそれで死ぬの?」

「人が人として意識を留めているものを周囲に拡散するなど、死かそれに等しい状態になった時に他なりません!」

「そ、そうなの?」

んなこと言われても、我流ではあるけど僕なりの集中法だしな。

「若様は、若様は宴の最中に急に居なくなられて。私たちが密かに捜索していました所、いきなり気配が希薄になり、それで溶けるかのように消失されたのです!!」

嗚咽と共に盛大に涙が零れ落ちる。

おおう。澪さん泣いちゃったよ。

僕は、なんぞやばいことをした、らしい?

「あ~その、宴を中座したのは悪かったけど、昔からしてる弓道の確認というか心を落ち着かせるためにというか矢を射ただけだから気にしなくても…」

「……若、若は今集中しただけと言いました。つまり、何ですかな?若は意識を拡散させることを集中などと呼ぶので?」

イライラしだした巴が額に手を当てながら質問してきた。こめかみがピクピクして、しかも血管も浮き出ている。

何だよ、心配はかけたかもしれないけど、そこまでキレることか?

「ああ、一度心を落ち着けて空っぽにしたら、的まで意識を伸ばして的と弓と自分を一つに納める感じで意識を…」

「若!」

「話してる途中ですが!?」

「若はあんな所まで意識を散らせてそれを再構成したというのですか!?」

「そう言ってるじゃないか!」

散らしたっていうか飛ばしたんだけどさ。

「……は~。若、最近の謎がいくつか解けました」

唐突に話を変えたな。

「今度はなんだ?」

「全ては若の弓の修練が原因です。キュウドウでしたか、それが原因だったのです」

「何のこっちゃ?」

なんだ、いきなり名探偵タイムか?

「若の魔力の増大。本来ありえません。何故なら魔力は本来上限が定まりしもの。余程の修練を積んでも通常、生来の倍にもなりません」

俯きがちに額に手を当てていた巴が僕の方をカッと見る。P4のカットインみたい。

「ですが、澪との契約時には若の魔力量は既に私と契約した時の比では無い程に増大していた。それからも馬鹿げたペースで”最大値が”増大してきた」

「お前の目測違いだったんでないの?」

「その可能性は皆無です。契約時に魔力の力比べをしておりますからな。そして今もドラウプニルが染まるペースは上がる一方」

う、それは確かに。赤になるまでの間隔が短くなってきている。何かのきっかけで回復量でも上がっていると思ってたけど。

「若、そしてですな」

「何だ?」

「今、亜空が拡大しました」

「はあぁぁ!?」

いきなり相当な発言してくれてるじゃんか!ソレは僕がお前に調査を命じて未解決な事案ではなかったですかね!?

「若は、信じられないことに、その独自の集中とやらでご自身の魔力量を倍加させております」

「倍加!?」

「若のなさっていることは私たちの目には自殺にしか映りませんが、若にとってはいつものことだったのでしょう。なので我らも少しの間と見ておりましたが確信いたしました」

「集中しただけで自殺するか!」

「若の意識の拡散と収束、それに合わせて亜空世界が一気に拡大しました。いまこの時だけで、五度ほど。ここ最近一度も起こらなかったことが、です」

「また川とか山ができたってのか!?」

「いえ、広くなっただけでございます。恐らく、新たな地形は若が新しい従者を得た時に成るのではないかと」

「……おいおい、本気かよ。じゃあおちおち弓を射ることも出来ないのかい」

「実戦時にはここまで深く集中はなさらないのでは?事実拡大は生じませんでした」

「てことは弓道として落ち着いてやることが問題なのか。それも参ったなあ」

「それは何れ対策を考えますが問題は魔力量の方でございます」

「え?」

亜空の拡大よりもまずいことなんてあるのか?魔力量?

「現状の若の魔力は既に我々クラスの存在と契約しても一山幾らの分際にしかなり得ません。儂と契約した時には半分近くを必要としたのに、です」

エ。

「いいですか?よく聞いてください、若。貴方が現状有している魔力量に匹敵するのは」

エエエエエ。

「……恐らく女神クラスです。いや下手をするとそれさえ超えている可能性があります」

エエエエエエエエエエ?

虫クラスの魔力ってなにそれ。神様にタメはれるくらいの魔力を持ってるわけ?僕。

隠すのマジきついってことになるじゃん!また負担増えるじゃん!

やびゃあ!仮面がどうとかいってる次元を超えだした!取る決心した時には別の問題が持ち上がるとか何様ですか!?

「とにかく押さえ込んでおいてください。ドラウプニルは毎日交換しておくのが良いかと。ドワーフには防具を優先して作らせますので」

最悪吸収効果を最優先して試作を出させると。巴は付け加えた。

「一体、どうしてこんなことに」

「おそらく、意識の拡散と収束が問題です。それをする度に若は死を経験し、そして生まれ変わるような状態になっていると想像できます。その時、魔力がゼロから一気に膨れ上がっているのではないかと」

死んで、生き返ったから魔力も二人分ってこと?それを繰り返したから倍増倍増また倍増ってわけ?なにそれ美味しくない。

「この亜空も」

まだ何かあるんかよ。

「事情が変わってきます。この仮定を信じると、若との契約で広くなった亜空をベースにして、若が無意識に元の世界に似た”世界を創造した”可能性も」

「世界を、創造!?」

「儂らの知らぬ物、ただし若の世界にある物がここに多く自生するから、という推論ではありますが」

「ややややや、それだけの証拠では何とも…」

「ですな、だが星の並びも儂はまったく存ぜぬもの。これがもし若の知る夜空なら。ここは、新たな亜空は若の創造した世界ということになります。それなら契約によって姿が変わるのも頷ける。創造主に新たに従僕が出来て世界に法則が加わるということですから」

夜空。

うん、いや希望的な観測ではなく僕の知らない空のはずだ。そうだ、流石に世界の創造なんてぶったまげた事を異世界ライフ数日目でやらかしたなんて信じたくないし。

うむ、う、む、知らない、空だ。大丈夫だよな。星座とか。

その辺は疎いから北斗七星とかちっちゃいWとか砂時計みたいなのとか…。後水瓶座と乙女座と双子座。これだけは形覚えてるんだ。

「北斗七星、カシオペア、オリ、オン」

あ、あ、あ、あった!?

配置は滅茶苦茶だけど。そこかしこに知ってる星座がある!季節を無視してるのがこれまたリアル!

「どうやら、星の配置にも見覚えがあるご様子で。謎が解けたというのは好ましい事ですが、これは参りましたなあ」

「虫、いや女神か?」

「ええ、あの神の気性からして。この事実を知れば多分若の排除に動くでしょう」

だよな、あの女神ならきっとそうする。勇者さえ使いかねない。それは僕の本望ではない。絶対にない。

「当面は隠すことにして対策を講じるとしましょう」

この侍名探偵さんめ。

魔力制御を完全にしてとにかく今は隠さねばね。勇者との対立は本気で勘弁だ。

しばらくは弓道もお休みしないとな。そうなると、今日たくさん射ることができたのはせめてもの幸運?

うん幸運だ。少なくともいきなりラスボスが襲い掛かってくる危険が減ったんだし。

プラス思考プラス思考。

そうだ、レンブラントさんに薬剤関係の人を紹介してもらったらすぐに学園都市に発とう。

ついでに学生生活でも送ってこようかな。アハ、アハハ、ハハ、ハ……。
書き終えてあった本編を先に投稿しました。

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