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一章 ツィーゲ立志編
商会の、処女航海は、時化模様
冒険者ギルドでの従者二人の登録を終えた僕はその日のうちに商人ギルドで店を開店させるに当たって必要な手続きそのほかを聞きに行った。

土地を探す方法やら僕の考えている「名刺」を作ってくれそうな場所にアタリをつけようと思っていたのだが。

これは前者は思った風に進みそうで、後者はまるで駄目そうだった。

土地についてはすぐに手配をして候補地を挙げてもらい連絡をもらえることに。困った問題も浮上しやがったから即決は出来ないけど。

だが名刺については、紙でそんなものを大量に作ると経費がもんのすごい事になると言われた。

実際、一枚当たりの値段は愉快な試算がでたので却下した。金のなる木こと亜空に自在に出入りできる身としてもやりたくない出費だ。

この世界だと、一体何で名前を覚えてもらってるんだろうと思ってそれとなく聞いたんだけど、どうやら地道に顔見せするようだった。ギルドカードを見せ合って商会の情報を記録しあったりもできるらしい。

お中元やお歳暮みたいな時期による贈り物をするって方法も教わった。確かに付け届けは有効な気がする。

となると、商人としてやっていくには記憶力は必須ってことだな。顔と名前覚えれんようじゃ話にならんってことだ。

名刺は何とか上手いこと考えて顔を覚えてもらうのに使いたいな。せっかく思いついたことだし。何より商人ギルドカードの機能では商人同士の時にしか使えない。お客様向けで何か無いか。考えてみるか。

ロゴは商品に刻むなり何なりすぐ使えそうだ。デザインというか造作というかさえ出来ればね。

だがそんなことよりも!

一番の問題は店の場所なんだよ!困った問題これだよ!

店を構える、つまりツィーゲに店舗を構えた場合。

我がクズノハ商会は所属がアイオン王国、となるらしい。この時、初めて国の名前を聞いた。アイオンっていうんだな、ここ。で、王政なのか。

そして、国内で店を開く場合はともかく、他国に出店する時には色々と制約がつけられるらしい。

商人が商いをしながらスパイ行為をするのもこの世界では至極当然のことのようで、むしろ他国への出国時や出店時には国の方から「スパイやらないか?」とくることもざらだそうだ。

巴と澪のアホなレベルがあってもまだ僕が無事なのは、他国に出店できる資金力がある商会イコール商人ギルドにおけるランクが一定以上はある、という固定観念がある為みたいだ。

つまり、商人として名前が売れてきてランクが上がってくると、他国に出店する際にはお城に呼ばれると。まあ、こんな感じのようです。

例外的に職種が隊商の場合は結構初期から声をかけられるらしい。常時移動する彼らはそれだけ手広く、いや耳広く情報に触れるからだ。

ア、アホらしすぎる。

なんで商人が他の国に行って商売するのに間諜任務まで兼任せにゃならんのだ。断固断る。商人皆スパイとか冗談じゃないわ。

アイオン王国にいるからって愛国心持ってるとか思ってんじゃねえぞ。現代人なめんな。

だが断ると今後の自国内での営業において不利益が生じたりするのでオススメできないんだって。受付のお姉さん、そこで諦めた顔しないで下さいよ。より自由な商売の為に断固戦ってくださいよ商人ギルドさん。

ふ・ざ・け・る・な!

要は話を持ちかけられたらもう断れないってことじゃんか!

特にこのアイオンは情報収集に重きを置いている国家のようで、その傾向が非常に強いらしい。そう、スパイなベクトルが非常に強い厄介な国家らしいのだ。大事なことですから二度言いましたよ皆様。

つまり、目当ての土地が見つかって、そこを抑えておくとして、すぐに店を作ってお茶濁してた部分を申請して、って流れで進めなくなった。

やっと到着して一息ついた国がスパイ行為に熱心、ってこれなんて試練。

一応独自の店舗を構えずに営業をする方法として。

他商会の店舗内で場所を借り、独自の店舗を構えずに営業をする方法。スーパーの敷地内でたこ焼き売るような感じね。

聞いている時点で不可能だが、ギルドには一切の申請をせずにモグリで商売をする方法などがあるらしい。

これらのやり方なら商会への正規申請受理を遅らせたまま営業を行えるとのこと。

ではどこで最初の店舗を開店すれば(店舗登録すれば)どの国でも因縁禍根なく店舗を展開できるのか、と聞けば。

「ライドウ様は本当に、変わったお考えをお持ちですね。どの国でも商売がしたいだなんて。商人ギルドの理念からすればある意味理想的ではありますが。どの国にも属さない、というかどの国にも属している都市がございます。そこで開店すればあるいは可能かもしれません」

考えてみればこの世界に開かれた国際社会なんてないのだから、グローバルな商業展開は相当に無謀なものになるのは当然至極。

どの国にも支店があり、迅速丁寧安価に皆様の病気や怪我に対応できる商会が理想だったんだが。

むむむむむむ。

仲良くしろよ中世ファンタジー世界!

突飛な思考にも対応してくれた受付さんは、可能性の話で実際はわからないが、と付け足してこういってくれた。

ま、開店資金や商品の在庫を考えると、結局は難しいという結論を出されたんだけど。

それでも可能性のある場所、言い換えればごり押しできそうな場所があるということがわかっただけでも収穫だよね。

「ふむ、学園都市、か」

「おや若、どうされましたか?」

「ん」

宿に戻って話の内容を反芻しながら教えてもらった都市のことを呟いた。反応したのは巴だ。

「ああ、店を最初に開く場所をね。このままここで開店するとアイオン所属になりそうだからさ」

「ああ、でしょうな。ここは自治性が高いとはいえアイオン王国の領内の都市に違いないですからな」

当たり前のようにアイオン王国領とか口にしてるし。巴さんよ、そういう地理情報は主にもっと早く進呈しとけ。

「やっぱりなあ。となると当面はどっかの軒下に入れてもらって、営業をしながら折を見て学園都市って所に行くか」

「学園都市?なんですかな、それは」

「巴は知らないのか。じゃあきっと比較的新しい街なんだろう。ほとんどの国に属している特殊な中立都市なんだと。だからそこで開業すれば、もしかしたらどの国でも商売できるかもって話」

アイオン王国は四大国とまで言われる大国の一柱。

つまりこの王国は古株の、年季の入った諜報国家ってこと。絶望です。ツィーゲは辺境だからかな、あまりその匂いを感じないが。

……そのくらい自然に情報収集しているレベルだったらとか考えたくないな。壁に耳あり障子に目あり。常にその心持ちでいるなんて嫌だ。

「はは~、しばらく見ないうちに大分世の中も変わっておるようで。世界地図も版図が大分変わったと聞きます」

それはきっと魔族の大侵攻のせいだ。

そうか、世界地図。こんな世界だと地図の価値はかなり高そうだけど一見の価値はある。禿山とか荒地とかごっつい火山はみたけど。僕はこの世界に来てから綺麗な海や山や風光明媚な場所にはまだ縁がない。

自然豊かなファンタジー世界ならではの醍醐味、是非経験せねば!荒野はもう何か茶色かったし亜空は懐かしい雰囲気がするからな。この前大根とか見つけたし。

「では若、明日のことですが」

「ああ、明日は巴は商人ギルドに行って候補に挙がった土地を吟味してきてくれ。お前がこれはと思った場所があれば決めてきてくれて良い。たださっきの話に戻るけど、所属がどうのって話があるから店舗の建設の話は無しね」

「土地だけ買っておいてよろしいので?」

「いずれはツィーゲにも店は持ちたいからね。当面のことについては明日僕がレンブラント商会に行ってみた結果次第、だけど……」

「何かお悩みが?」

巴は完全に打合せモードでふざけることもなく付き合ってくれる。こういう切り替えができる巴はやっぱり、おおざっぱにみえて商売向きではないかとか思う。

見た目は澪のほうが商売向きなんだけどね?

「ああ、業種の登録がな。これも悩ましい」

「それなら先ほど決めておいででは?」

「うん、まあね。まさに悩んでた所に都合の良い業種ではあるんだけどさ」

「薬だけでは何かと動きにくいでしょうし良いのでは?」

「だけどなあ、”何でも屋”って業種と、この名前に悪意を感じるよ」

何でも屋。名が示すとおり、何を商っても良い。ただし専門職種よりもギルドの図る便宜が少ない。例えば、薬や食品の原料を仕入れるのはそれぞれの専門よりも1割は高い代わりにどちらの原料も割引で買える。

武器や防具、護衛の調達その他においても同じ扱いである。

長く営業して業種を広げることになった大店用に設けられた業種らしい。事実大きなお店しかこの業種で申請していない。現代のいわゆる何でも屋とは大分イメージが違う。

受付のお姉さんにも登録していきなり何でも屋で申請するのは実益がないと忠告された。交易ルートの話を覚えていてくれたのか最初に勧められたのは隊商って業種だったな。

理由は簡単、最初から複数の業種を幅広く手がけることは不可能に近く、最初に注力する分野ではその専門業種との競争に値入の段階で負けるからである。

僕が考えてもその通りだと思うよ。

「我らの特殊な仕入れに対抗できるわけもないのですし、難しく考えすぎるのも良くないかと」

「何でも屋、かあ。それでいっか。で、澪は?」

「若に言われた花の探索にアルケー二人と向かいました。アンブロシアでしたか。数日で戻るでしょう」

「そ。じゃあ、巴はこれから土地を吟味しながら適当な依頼を、そうだなトアさんたちに付いていってこなしてきてよ、1週間くらい」

「依頼を?あの者らと?」

何で、って顔する巴。まあ、そうだろう。自身のランクを上げるならトア達に付き合わず低ランクか特別ランクをさくさくこなしてランクアップした方がいいと考えているのだろうから。

「基本的な冒険者としての振る舞いを覚えてきてほしくてね。ついでに素材に採集方法を勉強させてもらうといい」

「素材、ああ成る程。確かに澪はもう出来るとか言ってましたな。では若、ついでに素材に関する書物も幾つか買って構いませんかの」

「もちろん。勉強は大事だ。現状持ってるお金はお前に預けるから。必要だと思ったものは買って良い。僕は学園都市までの旅程とレンブラント商会へのお願いと、色々忙しくなりそうだからね」

「かしこまりました。では儂の方からの報告は亜空ですればよろしいですか」

「そうだね。宿の部屋も結界で入れないように出来たし。僕も夜は亜空で休むようにするよ。その時に報告してくれたら問題ない。っと、忘れるところだった。高くても良いから世界地図が欲しい。それとアイオン王国の仔細な地図。お金が足りなければ言ってくれ」

仔細な、は危険な気がする。戦国時代とかは地図が戦略上でもすごく大事で、国の機密にもなったそうだから。いっそ自分達で内密に調査して作るか。そうすれば少なくとも国に疑いの目を向けられることも無い。ともかく仔細な地図が欲しいって声高に探し回るのはまずそうだ。

「いや、待ってくれ。国内の仔細な地図は必要ない。一般に出回っている地図、それか商人が所持して不思議のない程度の物で頼む」

「若は心配性ですなあ。承知しました。では嗅ぎ回られない様に立ち振る舞うとしましょう」

巴、使える子。自分の言いたい事の機微を察してくれる存在は貴重だね。察した上で明後日の方向に解釈するのは論外だけど。

「頼む。よろしくやってくれ」

「では夜あちらで報告致します」

オークのエマさんからも出来れば日に二度は来て欲しいって言われてるしね~。

七日に一度は終日居てもらえると皆も喜ぶとかも言われたな。

暫く弓も引いてないし(実戦は除外ね)、近く行きますかね。

「さ、寝るか。この部屋での最後の一夜だ、お休み~」

「御意。お休みなさいませ」

明日からの慌しい毎日を楽しみにしながら、その日の僕は眠りに落ちた。
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