ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
お気に入りが300件を超えました。
ありがとうございますありがとうございます!
ということで昨日extra更新しました。
割り込み投稿の関係で更新情報に出てこないのが悲しい限りですが^^;
もし、気に留めて頂ける方がいましたらextraは活動報告で投稿の連絡をしますのでお気に入りユーザ登録をして頂けると通知が入るかと思います。
では長々と書きましたが本編をどうぞ。
一章 ツィーゲ立志編
道を定めて
[さ、早く薬を]

僕は後ろから腕と身体を拘束し、人として見る影もなくなった彼の妻の動きを無駄なく押さえ込む。

元の姿はわからないが、毛髪が抜け落ち頬はこけ、目を真紅に血走らせて唾液を垂れ流す姿は幽鬼を思わせる迫力だ。ゾンビに混じっててもまったく違和感がないだろう。

何ていったかな。変異したウィルスが原因で人の死滅した都市で愛犬と生きる主人公の話。あれに出てくるウィルスに侵された人間の成れの果てのようだ。

もしくは幽鬼グール、だな。これが元々は(見たことないけど)美しい人妻とは誰が信じるんだ。

足がまだばたばたしているが横から口に薬を流し込むくらいには問題はない。

今の奥さんだったら僕のがまともな顔してるな。

そんなことを考えながら、片方では僕はこの一件が済んだら仮面を外そうと考えていた。

外見がどうとかは、もうこの際どうでも良く感じていて。

気にする相手なら澪か巴を前にだせばいいだけであるし。

それよりも顔を隠しているというだけで、相手の信用を失う方が問題である。

何故なら僕は本気で商人として身を立ててみたくなっていたから。

そして薬を扱うことを決めていた。こんな理不尽で家族を失う人は見たくないと思ったのだ。

短絡的だとは自分でも思うけど、別に構わない。

だから顔も晒そうと考えている。何度も会えば人は慣れるものだと思うし。

「き、君は本当にレベル1かね」

レンブラント氏は驚きを口にする。当然かもしれない。レベル1とは彼より下の実力を表す数字なのだから。

[そんなことよりも薬を。まさか今更、噛まれるのが怖い、などとはいいませんよね?]

「そんなもの、問題にもならん!」

彼は僕が1人で彼女を拘束できている事実に驚いていたが、僕の挑戦的な一言に行動に移った。実際、人の身体の構造自体が変化しているわけでは無い。だから人間に通用する捕縛なら当然通用する。

何せ僕の身体能力は規格外だ、限界を無視したからといって一般女性など問題にならない。

だが人の顎の力ってのは思っているよりも強い。

今の彼女のようにリミッターが外れているのなら尚更だ。冒険者でも無い一般人からすると十分恐怖の対象になる。

でも牙と化したその歯に傷つけられても彼は臆することもなく薬を流し込んでいく。決意の顔からは指が千切れても構わない程の気迫を感じる。

奥さんの全身がおこりにかかったかに痙攣をはじめ、瞳の狂気を象徴する緋色が抜け落ちていった。

外見まで劇的に変わるわけではないようだったが、彼女は全身を脱力させて規則正しい寝息を立て始めた。

「おお、リサ。これで、これでまた君と話せるのだね、笑えるのだね!」

氏の涙腺はここ2日程壊れっぱなしだと思う。流石にこの感動の状況に突っ込んだりはしませんけどね。男泣きしております。

無表情がウリの執事のモリスさんも涙を拭っていた。

[さて、お嬢さんたちはどちらから治療しましょう。状態の悪いほうを優先すべきかとは思いますが]

ハザルがうまくやってくれればもう一つ薬もできるが。現状では選択するしかない。

ま、無駄の多い工程だ、とか何とか偉そうに言っていたのを聞いていたから多分必死に取り組む彼なら何とかするとは思うが。

伊達にレベル三桁では無いだろう。

「む、そ、そうだな。まだ終わっていないというのに、すまない。娘たちでいうと下の娘のほうが症状が悪い。そちらから治療しよう」

今更取り繕ってもらっても泣き過ぎで顔赤いっす。鼻ずずーってやらんで下さいナイスミドル。

[わかりました]

僕らはまた少し歩く。

どうやら隣の部屋には娘さんがいる、というわけではないようだった。

当たり前か。

そうだったら一つ目の薬を割られた際に三人とも襲い掛かってきただろうし、彼の命もなかっただろう。

被術者が薬を認識できる範囲はさほど広くないようだ。

「この奥だ」

レンブラントさんはそういって廊下の奥の扉を示す。

[わかりました。先手必勝でいきます。鍵をください]

「だ、大丈夫かね?」

先ほどの様を見て、それでも不安なのかレンブラントさんは尋ねる。

[問題ありません。拘束が出来ましたら廊下にライトの魔法でお知らせします。ですが]

僕はわざとシリアスな雰囲気をかもし出して言葉を区切る。

ゴクリ、と息を呑むお2人。

[もし間違って胸とかお尻触っちゃっても怒らないで下さいね、お父さん]

『!!??』

明らかに気の抜けたように目を見合わせる2人を尻目に僕はひらひらと背を向けたまま手を振った。

緊張しすぎるのもよくないからね~。冗談で多少和んでくれればいいんだけど。

「なんとまあ」

「大物だな」

「ええ。大したものです」

苦笑いした二人の言葉は、幸か不幸か僕には聞こえませんでした。

カチ、ガチャ。

ん、ベッドにはいない。

暗い室内は静かだった。

何食わぬ顔で探索をめぐらす。

いた。

僕からは死角になる場所だ。どういうやり方かはわからないがベッドを見つめる僕から向かって左の天井。その隅に張り付いて僕を見ている。猿かよ。蜘蛛男かよ。

敢えて背を向けて数歩歩く。

すると突然に僕に向かって飛び掛ってきた。どうやら秘薬の匂いは僕にも移っているようだ。この場合は不幸中の幸いというべきだろうね。

僕を障害とみなしてくれているんだから。

奥さんよりは状態が良いとのことだったけど、小柄で俊敏な分、凶暴化バーサークは強烈だね。体力も残っている計算になる。

最後の一人はもう少し気を引き締めないとな。

突っ込んでくる彼女の左手を背を向けた状態から振り向き様に掴む。

そのまま彼女の後ろに回って残る右手も拘束。再び身体を入れ替えて彼女の両手を片手で拘束できる形にする。この間噛み付きを数度仕掛けられるが回避に問題はなかった。少し集中していればゆっくりとしたコマ送り程度の動きだ。落ち着いて対処できる。

空いた手で頭を押さえ自由を奪う。よし、OK。

足は内側から絡ませて、と。

僕は仰向けで寝転ぶ形になり、彼女の動きは下からしっかりと封じる。

この体勢で僕はライトの魔法で連絡する。

隠すでもない足音に、間もなくレンブラントさんと執事のモリスさんが入ってきた。

[早く飲ませてあげてください]

薬を見て尚も暴れようとする彼女を、力を流すようにして抑えると氏に薬を飲ませるように促す。

身体へのダメージは少ないほうがいいよね。

「ありがとう、本当にありがとう!」

その後は奥さんと同じようになって寝息を立ててくれた。開放し、彼女をベッドに戻す。

するとメイドさんたちが複数入ってきて彼女の世話や部屋の掃除をし始めた。

なるほど、これは考えつかなかったな。執事さんの気配りかな、それともレンブラントさん?

すると、無遠慮で乱暴な足音が一つ。

「はぁはぁ!!ライドウ殿、何とか一つ、やってみましたぞ!成分は秘薬そのもの、このハザル渾身の、あっ!?」

アホかーーー!!

またこけるとかあり得ないからーー!!

距離がありすぎて流石に今回はフォローできん!

だがその心配は杞憂でした。

モリスさんが実に軽妙な動作で再度の大ポカに対処し、薬を守ってくれたのです。

一家に一人欲しいくらいだよ。むしろ亜空にきてくれと本気で願った。僕の常識的な補佐を頼みたい!

そして、ハザル。お前は今日の夕食を奢りだ。美味かろうがまずかろうが値段優先で食いまくってやる!当然殴った後だ!

「今日という日の奇跡に、私は感謝する。女神よ。ありがとう」

そいつにだけは感謝しないでくれ。力が抜けそうだ。

レンブラントさんの祈りに僕はただ1人心からの否定を送った。

もう一人はさっきの娘よりも素早くて力も強かったけど、僕からすれば大した違いは無い。

問題は残り物で作った薬がちゃんと効くかってことだけど、ハザル曰くキチンと成分の対照はして問題はないということなので信じることにする。

むしろ彼女にはまだ多少の理性が残っていて、明滅する瞳の狂気に抗うように、襲い掛かっている僕に対して「逃げて」と連呼していたことのほうが心に重くのしかかる。

通じないとわかってはいたけれど、大丈夫、助けに来た、もう少しだよ、と口にしていた。

遣り切れない気持ちに整理を付けて氏を呼んで薬を飲ませる。

ふいー。

彼女をベッドに寝かせた僕は思わず大きく息をついた。大仕事を終えたのだからこのくらいは許して欲しい。

「なんというか、ライドウ殿が商人になるというのは、まったく適性を無視しているように思えますな」

年齢の割におっさんな口調のハザルがとてつもなく失礼なことを言う。

しかもレンブラントさんとモリスさんまで同調してやがるし!

「見事な捕縛術だった、レベル1というのは何かの間違いだと思う」

「冒険者に絞って活動されたほうが明らかに向いておられるかと」

人が商人として頑張ろうと決意も新たにした所だというのに先輩のあんたらがそういうことを言うな!

[従者に鍛えられておりますので]

「ああ、そういうことでしたら納得できますな、なにせ」

おい、ハザル。お前、今日はポカ続きなんだからいい加減にしとけよ?

エアーリーディング講座を肉体言語で叩き込むぞ?

「従者のお二人はどちらもレベル1000オーバーですしねえ」

がっでむ!

このうっかり八べえさんは、もうどうしてくれようか。

彼の発言に固まる二人を尻目に、僕は天を仰いで嘆くのだった。言って良い事と悪い事くらい弁えて下さいよぉ。
真はしっかりしているようで10代の若造です。
でも職を決める切っ掛けなんて結構単純な事なんじゃないかということで理由付けはこんなもんにしてみました。
クズノハ印のお薬は彼らの代名詞の一つにしていこうかな、と。

ご意見ご感想お待ちしています。
小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。