週末更新できました~。
レンブラントイベントも中編。後数回で終われそうです。
では本編です。
アンブロシアの花蜜と薬酒のフローズンカクテル。
秘薬アンブローシアの製法は簡単に言うとこんな感じでした。
複数の薬酒とアンブロシアの花の蜜を分量を間違えずに容器に入れて、そして特殊な水で作った通常よりも温度の低い氷(-20℃くらいだった)をかき氷の如く細かく砕いたものに一定の量を複数回に分けて垂らしていく。
ただそれだけ。温度と分量の部分で補正をかけ、外気や環境を整える所に魔法が使われていたんですが。
さほど難しくない工程に思える。ま、ハザル君こと錬金青年も「これだけ?」って思っていたようなので僕の推測も間違っていないだろう。
しかし、この使用された呪文があまりにも効率が悪い。
思わず何でやねん!と突っ込みたくなるくらい詠唱も式の編み方も中途半端で非効率的。一の魔法を生むのに十の魔力を使っている、とでも言おうか。
いくら下位の古代言語を用いているとはいえこれはひどい。そんな魔法で大丈夫かと言いたい。う~む、これがこの世界の普通の魔法の使い方なんだろうか。荒野の道中でも攻撃魔法や支援魔法はこんな感じだったけど勿体無くないのか。
もっと、術の本質に近い言葉をトレースして再現すれば下位古代語でも効率的にいけるだろうに。もしかしなくてもエマさんから教わった魔法は結構使いやすい貴重な様式なのかも。
だがこの製法の要訣はわかった。アンブロシアの花蜜をいかに調達するか、である。
既に絶滅したとされるこの花の蜜を相当な量必要とするのがこの秘薬の最大のネック。
そこを解決するのがレア素材のルビーアイの瞳なのだ。あれに特殊な工程を加え、件の花蜜と寸分変わらない成分を抽出する。多分、これが一番の秘法なのだろう。
見るには見たが流石にこの場では言及しない。
よもやルビーアイがレッドビーの変種ではなく、アンブロシアの蜜を主に採集しているレッドビーを指す言葉だったとは。
つまりあの近くに、人知れず咲くアンブロシアの群生地があるってことか。ルビーアイの行動距離範囲を把握しないと近くかどうかはわからないが実在は間違いない。
絶滅寸前であって、絶滅してはいなかったのか。良い情報をゲットしたぜ。
さらに。この世界で錬金術って分類の魔法は化学反応を起こしたり促したりって役割もあるけれど、主には環境や温度の調整、無菌室やクリーンルームのような状況を作り出すのに使われるものなんだってことがわかった。
製薬系以外の錬金術師はまた違う利用法をしているのかな。現状では専門的にやりたいとも思えないジャンルだな。
やがてすべての液体を受け入れた氷の砕片はすっかり緋色に染まり、結晶化したかのように硬化。
一つヒビが入ったかと思うと、下に用意されていた容器に思ったよりもずっと透明なピンク色の液体が流れ出した。
逆に上の結晶は真紅がさらに濃くなっていくようだった。中々綺麗だ。
青年が静かに容器のフタを閉める。
しばらく容器の中を窺っていたが変化の無いことに安心したのか一つ大きくため息を漏らした。
ということは。
「……完成です。秘薬アンブローシア」
おおお、と感嘆の声が上がる。効果の割には簡単な製法とはいえお金は相当にかかっている。
真面目に家が建つくらいのお金はかかっている。他の原料も高価な物が多かったから。
その重圧から開放されたという安心からか青年は若干気の抜けた顔だ。
……後二回あるんだが大丈夫かね。
三人分一度に作ると失敗があった時に全部パーになる。だから今回は三回にわけて製薬することになっていた。
何気にルビーアイの瞳だけならあと一人分はあるのだけど、それはまだ伏せてある。
不要で終わるのなら別の活用方法を考えたい。
何週間かの移動の中で1度しかエンカウントしなかったのは事実だから、この瞳が貴重品であることは間違いない。
あとでミスティオリザードにお願いしてアンブロシアの捜索もしてもらおう。もしも栽培が可能ならこれも一つの商売になるかも……♪
瞳の価値は下がるかもしれないが僕には有益だよね。それに他にも用途の多い瞳の負担を僕が少し減らしてあげるのだと思えばこれは善事である。問題ない。
そうだ、澪もつけよう。あいつも一応薬の事詳しいみたいだからな。確実だ。
むふふふ。
「で、では早速旦那様に秘薬をお渡ししてきます!ハザル様はどうか続きをお願いいたします!」
動じない印象の執事さんが珍しく声を弾ませて大事そうに薬瓶を両手で抱く。
思ったよりずっと容量が少ない。栄養ドリンクよりも少し小さい容器に、さらに2/3程度の液体だ。
多分、飲み薬だろうな。あれだけの量の材料に対して、完成品の少ないこと。
ふむ、何度も見て何が変わるというものではないけれど……ここは黙って製薬の様子を見学するべきか。
多分レンブラント氏と執事さんはまた号泣する気がする。大の男が大泣きする場所に僕は正直居づらい。
「どうやら、成功のようだね」
僕は下位古代語でハザル君に話しかける。
その場にいた数人の人は僕の言葉が理解できずに何を言ったんだ?という顔をする。
「ライドウ殿!?日常の言葉で古代語を使えるのですか!?」
ハザル君は驚いたようだ。でも簡単な暗号の代わりに使われることもある、と巴から聞いたからそれほど不思議なことはないはずなんだけど。
まあ、巴のことだ。昔情報なんだろうなあ。
「ええ、共通語以外ならいくつか習得しています。どれかが意思疎通に使えないかと思いまして」
「ああ、そうでしたな。共通語が使えないとは本当に…悪質な嫌がらせにしか思えませんな」
まったくですよ!
「他の人はわからないようだけど、まあいいや。急いでもう二つ作ってしまいましょう。早く、治してあげたいから」
この青年はそれなりに優秀なのかな。下位古代語を意識して話しただけで僕の言葉は彼にとって下位古代語に聞こえるようで、内容を彼は理解できるのだから。
僕の話せる言語領域も大概チートだな。現代ならこれだけでも万能通訳でいけそうだよ。
「……。ええ。思ったよりも時間がないようですな」
「私は呪病というものには詳しくありませんが、依頼した者と実行した者にはやはり怒りを覚えますよ」
「ライドウ殿は優しいのですなぁ。私などは間に合うとわかった途端、恩が高く売れる、などと不謹慎なことを思いましたが」
ハザル君め、他の人にはわからないと思って結構な本音ぶっこんでくれる。彼にとっては呪病とはある程度身近なのもあるか。製薬とは広義なら毒薬の精製も含むのだろうから。
それとも冒険者として流浪の身で生きると、こういう強かな精神になるものなんだろうか。
僕みたいにいちいち感情移入していては話にならない、いや身がもたないのかもしれない。
「……報酬は十分なものがもらえるでしょう。さあ、早く」
短く促す。青年はその様子に僕の不興をかったと判断したのか慌てて製薬に戻る。
さて、レンブラントさんはどうしているだろうか。
探索をかけようとして僕は思いとどまる。
やれやれ。
室内ではやめようと決めていたじゃないか。
ダメだね、便利すぎるとつい、頼ってしまう。
しばらく眺めていると2つ目の薬も完成する。
例えば、だけど。
あの結晶にヒビが入り、凝縮された液体が流れ出るまでの時間が長く、そこに至るまでに環境を魔法によって一定に保つ時間が長時間に及んだりするケースなら。
魔法薬としての精製難易度も明らかに上がり複数人を必要とするようになるだろう。
そうなった場合この薬の価値はさらに上がってしまう。
特殊な環境の設定こそが錬金術の役目だとすると、確かにこの世界の製薬や調合において錬金術の果たす役目は大きい。これにより製薬が可能になる薬物は多いだろう。
そういう意味では材料に対して価値が見合わないとされるこの薬の現状は、レンブラント氏にとっては幸いか。
製薬の段階でも凶悪に低い成功率では縋る希望があまりにも脆い。
見てる限りではマグロを手に入れて大トロ以外は捨ててしまう無駄全開なこの方法こそが秘薬の値段を割に合わないものに変えている。
つまり、そこも改良できれば…。
うむ、今日は商売の種を実にたくさん手に入れられる日であるなあ。澪が頭の痛い悩みを昨日作ってくれたばかりの僕としては少し心が安らぐよ。
「……ふう~~~~~~。これで終わりです。製薬終了です」
ハザル君が残り2つの薬瓶を手に、片手で汗を拭きながらこちらに戻ってくる。
なんと、安易な。執事さんが両手で抱えてもってたのを見習いなさい、君は!
バンッ!!
「ライドウ様!ハザル様!」
「おわっ!?」
なんとーーーー!!??
お約束な乱入者は執事!
そして前から歩いてくるハザル君の手から2つの瓶がぽろ~んと!
宙を舞いましたヨヨヨ?
執事さんを確認してから青年に視線を戻す。
空を舞う瓶を確認。
この時ばかりは超人肉体に感謝した!
唖然としながらも身体を動かすことが出来たからだ。
だがこれはまずい!瓶は狙い済ましたように掌からほぼ反対方向放物線を描いている。ハザル、貴様後で殴る!
跳ね飛ぶ、と表現すべき動きで僕は向かって右に落ちていく瓶にヘッドスライディング、伸ばした右手で目標を確実に掴みこむ。割らないように優しくね!
だが反対に落ちる残る目標には手などとても届かない。
くっそお、それでも!
左手を床に当てて極めて弱く魔力をぶつける。
体が弱く吹き飛ぶような形で瓶のほうへ向かってくれるがもう両手は使ってしまっている。
頼む、背中のどっかに落ちてください!!
そう願った僕の心中を誰が察してくれたのか。
背中に軽い物が落ちてくる感触と、一瞬後に来る頭に☆の舞う鈍痛がした。
畜生。机か何かがあったのかね。結果オーライだけど。
「ラ、ライドウ殿、さ、さすが!」
てめえ、ハザルよう。絶対二発殴る!
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