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タグに商売とか付け足そうかな。
ツィーゲパートの始まりです。どうぞ~^^
一章 ツィーゲ立志編
ツィーゲの豪商と会う
そして僕はライドウの名で再びギルドに登録した。

楽しみにしていたレベルはやはり1のまま。これは本当に何が原因なのかねえ。

異世界人ってことが原因なら多分勇者の二人もレベル1のままなんだろうが。

ま、あっちは勇者様なんだ。ぼちぼち情報を集めればおおよそのレベルは確認できるでしょう。

著名人にプライバシーはありませんからな、同情致しますよ勇者様方。

その為にも私めは商人として頑張らねば。いえいえ、皮肉じゃありませんとも。

だから商人として人脈を広げるためにもレンブラント商会に顔を覚えてもらわないとな。

トアさんたちには、巴が遅れているので澪に迎えにいってもらったということで登録が遅れることも再度説明した。

ちなみに彼女たちもどうやらこの街を拠点にしてしばらく活動することにしたらしい。

しかも驚いたことに四人でPTを組むことにしたとか。

一緒に人体実験のモルモットになった仲ということで意気投合したんだろうか。

馬車ではそんなに互いを意識していたように感じなかったんだけど真相は僕にはわからない。

この近郊で受けられる依頼ならこの四人で挑めないものはあまり無いようで、いくつかまとめて受注したところだとか。うーん、強さの基準がわからん。

依頼ってまとめて受けられるんだ。いくつまでいけるんだろ。

だが、これでSクラスの依頼を彼女たちの名で受けてもらうことは不可能だとわかった。

上限まで受注してしまったといわれたからだ。

……この辺り、借金まみれになる無計画さがでてるよね、この人たちは。どっかの賭博伝みたいな人生は送って欲しくないもんだ。

夜には戻る、と言って彼らは意気揚々と出て行った。

いくつか装備品も変わっていたし、買い物はした後か。冒険者という人種は行動が早いのだねえ。そこは、見習うべきだろうな。僕は考えすぎかも。

[あのう、依頼を受けたいのですが]

「あら、ライドウ様。出来そうな依頼がありましたか?」

ここはまだ登録しに来るルーキーも多くいるらしく、初心者への対応もばっちりだった。

実物を持っていることを伝えれば受注は問題ない、とは思うけど緊張するな。

[ええ、これを]

そういってルビーアイの瞳を求めるSランクの依頼を渡す。

一気に眉間に皴のよるお姉さん。おお迫力あるな。

「ライドウ様、これはSランクの依頼ですので現在の貴方では受注は出来かねます」

DかEの依頼をもってきてください、といわれた。

[いえ実は]

「え?」

僕は懐から無造作に赤い塊を取り出してカウンターに置いた。

[ルビーアイの瞳です。もう持っているので後は渡すだけなんです。これでも受けられませんか?ギルドの信用に傷はつかないと思うのですが]

ランクだなんだ、てのは行き着く所はギルドの信用を守るための制度の筈。なら確実だと説明できれば何とかなるだろう。

と思う。

の、ですが。

いけるか?

「…!本、物ですか!?」

[勿論です。ここまでは先ほどまで見えたトアさんたちと一緒にきたものですから。彼女達との道中で倒した個体のものです]

当然、自分でやったとは言わず譲ってもらったと付け加えた。

「なるほど、そういうことでしたら少々お待ちください」

お姉さんは裏手の扉から出て行った。関係者以外立入禁止ってやつだろうな。偉い人がくるんでしょうか。

それにしても驚いた。

先日見た依頼のボードとは別に、もう一つボードが設置されていたのだ。

それが荒野に関する依頼専用のものだった。軒並み高レベル&ランク限定でびっしり貼られていた。何というか供給が追いついてないのだなあ。ベースへの輸送で財産作れるというトアさんの言葉は嘘ではなさそうだ。

「ライドウさん、ですな。その瞳、見せて頂いても?」

ん?お姉さんが戻ってきたのか?でもこれは男の声だな。まさか漢女か!?

みるとお姉さんの横になにやらおっさんがいる。ムカつくことに彼もナイスミドルだ。この世界はもう…。いや、最終兵器が出てこなかっただけ良しとしよう。

素顔知られてやばい場所はもう消し飛んでるから、仮面は考えてみると外して良いはずなんだけどさ。

外したら外したでまた哀れむように見られるのかと思うと、悩むね。

[ええ、どうぞ]

大方本物かどうかを鑑定するつもりなんだろう。してもらえたほうが僕も有難い。

冒険者ギルドのお墨付きなら先方も文句は無いだろう。

「これは、間違いないな。本物だ。それも傷一つない。急所の腹を一撃でしとめたのだろう。見事だ」

ため息交じりのおっさん。額に汗している。

「ではライドウ様に受注していただいて問題ありませんか?」

「ああ、これなら問題は無い。ランクをSから特別ランクに移行して彼に受けてもらいなさい」

なーるほど。そうやれば規則を破らずに受注させられるってわけですか。

「はい、ではライドウ様。レンブラント商会までの地図と受領確認書です。依頼の品を渡してサインを頂いたらこちらに提出してください。それで依頼は完了となります。特別ランクになりますので完了をもちましてライドウ様はDランクになります」

「ライドウさん、この素材はトア殿たちから譲り受けたと聞いたが」

[ええ、その通りです]

「彼女たちは素材を多くこの街で売り払った。余程の腕なんだろうが、その中でも破格の価値のあるそれをどうして君に?」

[さあ、どうしてでしょうか。馬車を提供したのが僕だったからではないでしょうか?詳しくはよくわかりませんね]

「うむー…」

[では、失礼します]

なんだ、意外とレンブラント商会は近いんだな。人通りも多い、大きな通りを数本通るだけだった。一応危惧はしていたんだけど、これなら途中で襲われることもない。

地図を確認しながら僕は外にでる。

日は中天。

容赦の無い日差しはまだまだ暑い。”向こう”じゃ寒い中道場にいる季節だろうに。

さて、行くか。




「こちらでお待ちを。主人を呼んで参ります」

やはりレンブラントさんは商会の代表のようだった。

地図の場所にあったのは大きな店舗で、店員に話を持っていくとすぐに2階部分に通され執事さんらしき人に応対された。

絵に描いたような壮年の執事だった。スラッした長身にオールバックに髭。執事以外の職が見当たらない。

店舗に並んでいたものは武器防具に雑貨、また通路を挟んで日用品全般も扱っているようだった。

某大型ディスカウント店のようだ。

でかい商会のようだし、食い込めればこれは嬉しいことこの上無い。

だけどなあ、こういう商会のトップだよな。何だか特殊な性格をしてそうな気がしなくもないなあ。

超ケチとか手段を選ばないブラックとか、はたまた二代目のボンボンとか?

普通っぽい人なら良いね。可能性限りなく低いけど。

そうだ、身元の証明として冒険者ギルドのカード出せるようにしておこう。

一応、これしか身元の証明出来そうなものないからな。

それに今日発行してもらったばっかりだしねえ(汗

偽造を疑われるようなら冒険者ギルドに確認とってもらえばいいか。

「いや、お待たせした。依頼を受けて頂いたというのに申し訳ない」

入ってきたのは二人。

一人は先ほどの執事さんだ。無言で控えている。

もう一人が声をかけてきた人物。おそらくは彼がレンブラント氏だろう。

商人というにはがっしりとした大男で、筋肉もばっちりついている。ダークグリーンの髪を伸ばしていて立派な髭もついている。ファンタジーな髪の色にも慣れてきたな自分。

物腰柔らかに接してこられるとかえって不気味ですらある。

ドアの開く音に反応して立ち上がっていた僕は手を伸ばしてきた彼に応じて握手する。

向こうの世界での礼節ではあるけど一応座ったままというのはな。違ったら謝れば良いし自分が失礼と思うことをしないほうがいい。

ちなみに握手に応じるのも相手への印象を考えてだった。差し出した手が無視されては気分も良く無いだろうから。

僕の憧れの人は後ろに立つと攻撃したり握手はしなかったりするけど、僕自身はそこまで真似できない。

[はじめまして、ライドウと申します]

「レンブラントだ。ライドウ殿、か。失礼ですが聞かぬ名ですな。こちらへはいつ?」

やっぱり、僕を待たせたのは身分照会だったのかな?調べては見たが、でも僕がここで示している情報が少なすぎて何も出なかったということだろうか。

[昨日です、果ての荒野からベースを3つ渡ってまいりました]

おお、と執事とレンブラントさんから感嘆の声が漏れる。

「そうでしたか、Sランクの依頼を受けられる冒険者の方は大体記憶しているのだが覚えの無い名でしたので少々警戒しました。重ねて申し訳ない」

[いえ、気になさらないで下さい。ただこの依頼に関しましてはSランクから特別ランクへの移行がなされましたのでご了承ください]

「ほう、特別ランクにですか。いえ、それは構いませんが。で、ライドウ殿。期日としてはどれほどを考えておいでですかな?」

レンブラントさんの目が鋭くなる。折々に頭を下げていても気迫というか圧力を感じさせる人だ。商会を切り盛りしているだけあって修羅場をくぐってるんだな、きっと。

だが、期日?そうか、こういった依頼は取ってきますよ~って出かけて、持って帰ってくるまでが仕事になるのが常なのか。

期日を長くすれば経費がたくさんかかるってこと、なのかな?

それとも、経費だけ持って逃げる輩を警戒しているのか。もしくは急ぎ?両方ってこともあるか。

[期日は後程。貴方は先ほど、移行については構わないと仰いましたがそれについてもう一つ了承頂きたいことがあります]

「……伺おう」

期日を回答せず別の話を先に持ち出したことで、一気に疑念をもたれてしまったようだ。でも最初から騙し討ちってのは僕の柄じゃない。自分のことは言える範囲で説明しないとな。

[私はEランクです。しかも今日登録したばかりでこれが最初の依頼です。それをご理解頂きたい]

言ってギルドカードを見せる。

案の定、レンブラントさんは目を見開いて僕を見る。そしてギルドカードをこちらに返した。

「悪いが話すことはこれ以上無いようだ。ルビーアイについて調べてからカモを探すべきだな君は」

一瞬で詐欺扱いか。無理もないね。だがこのレンブラント氏は……良いね。

年の頃は30後半から40前半。

細身で長身、物腰も柔らかいが甘い人間ではない。親の築いた地位を継いだ坊っちゃんといった印象は無い。相応の実力者と考えてよ良さそうだ。

繋がりを持つ、後ろ盾になってもらう、貸しを作る。いずれにせよ彼は絶好の人物だ。

受け取ったカードをしまうと、立ち上がろうとする彼を手で制した。

「何かな?」

怜悧な目だ。うむ、このくらいでないと後ろ盾としても取引のパートナーとしても満足できない。実に良い。出来ればこの人から商いの教えを受けたいものだ。

[私は冒険者に登録いたしましたが、実は商人ギルドへの登録も考えております。ゆくゆくは商会を作って商人として生きたいと考えておりますので]

「君は全てを間違っているね。まず商人ギルドに加入したいのならきちんと勉強し、試験に備えなさい。次に、この町で商人になろうというのなら私に不快な思いをさせないほうが良い。最後に、冒険者として得た物を商人として売りたいなどという極めて安易な考えが通用するとは思わないことだ。商売とはそこまで甘いものではないよ」

試験!?

商人ギルドへの加入って事前勉強が必要なレベルの試験があるの!?聞いて無いよ!?

のう!今日のこれからの予定どうしよう。だめもとで受けてみるか?

何て爆弾落とすんだレンブラント氏。だがここは一先ず、依頼の方を優先させねば。ふぅ~、まさかこの世界で試験なんて言葉を聞くとはねぇ。世の中うまくいかないものですよ。

[話は最後まで聞いてください。商人としてやっていくのにレンブラント殿との良い関係を築くことは有益だと私は考えております。決して不快にさせるためにここに来た訳ではありません。そして、冒険者ギルドが明らかに力の見合わない者に依頼を回すとお考えでしょうか。お渡ししたギルドからの書状には間違いは無かったはずですが]

「……」

[私が自身のランクを伝えたのは、それを後で知った場合、貴方が不愉快な思いをするかもしれないと思ったからです]

不機嫌な様子こそ変わらないが、氏は何とかもう一度席についてくれた。

「今知っても不愉快だがね」

[いえ。今説明しておけば、依頼の完了後は良い関係になれると思いました]

「君は自分がルビーアイを倒して瞳を持ってこれるというのかね。確かに依頼さえ果たされるのなら自分の身分を丁寧に明かしてくれた君に私は好感を持つね。例え君自身の戦闘力は低くても、ルビーアイを倒せるだけの実力者に伝手があるのなら、商人ギルドに加入後も仲良くしたいと思うだろう」

良かった。何とかなった。

でも口調で穏やかにしたり強く言ったり出来ないのはやっぱり不便だなあ。

一長一短だね筆談は。

「ライドウ様、それでは貴方様はどうやって主人の依頼を遂行されるのでしょうか?」

執事さんが細い目でまっすぐ僕を見据えて尋ねてくる。この人、元冒険者とかかな。所作に無駄が無いや。眼にも力がある。トア達より強いんじゃね?

[それは今お見せします]

「見せる?それはどういう……っ!」

何気なく子供の拳くらいの赤い玉を応接用の机の上に置く。

[期日はいりません。なぜならもう所有しているからです。お確かめください]

2人は慌ただしく薄手の手袋を着用し、じっくりと瞳を確かめていく。あれ、素手で触るとまずい物だったかな。だとすると軽率だった。今後は商品は手袋を付けて扱おうか。冒険者の皆さんは素材の剥ぎ取り、素手万歳だったからなあ。

真偽はもちろん、品質も確かめているのだろうか。問題はあるまい、冒険者ギルドでOKもらった品だ。

「驚いた。これは本物だ、しかもまだ少し硬度が弱い。つまり採取されてから日が浅いものだ」

レンブラントさんは自身でも鑑定が出来るらしい。大きな商会の主だけのことはある。

[日が浅いことが問題ですか?]

「いや。日が浅いことはむしろ貴重だ。それだけ加工がしやすいのでな」

彼は慎重にそれを執事に渡すと、彼は特殊な物であろう光沢のある布で瞳を包んだ上で机に置いた。

「……申し訳なかった。貴重な品ゆえにこちらも少し緊張してしまう代物なのでね。誠意に疑念を返したこと、許されたい」

2人ともが頭を下げた。そして神妙に顔を上げる。

[いえ、当然の反応でしょう。お気になさらず。では、どうして瞳が必要なのか教えていただけますか?これは純粋に好奇心からですが、友人に聞くとこれは付与や薬品の材料になると聞きました]

本当に当然かと言えば違う。いくら貴重品とはいえ、冒険者ギルドからの正式な依頼書を持ってきた相手に対して疑念が濃すぎるとは思った。でも高額の依頼だ。これまでに詐欺が無かったのか、被害に遭った事は無いのか。それは僕にはわからないし下手に詮索することでもないだろう。

「お譲り頂く以上、利用法が気になるのは当たり前のことだな。非礼のお詫びになるか、お話ししよう」

彼は改めて椅子に座り直した。

「ルビーアイの瞳はある特殊な治療薬の生成に使うために集めております。コストに見合わない方法ではあるのですが特定の病への特効薬として、どうしてもルビーアイの瞳が主原料として必要なのです」

執事さんが説明してくれた。

病気の治療薬、ね。道具への付与にも使えて錬金術の材料にもなり、しかも病気の治療にも使えるのか。しかも滅多に出回らない。

幅広い用途に供給がまるで追いついてないのなら、貴重品として高額で取引されるのも頷ける。

[この瞳が特効薬の材料に?それは初耳です]

「……通常の病にも使える万能薬の一つなのだが」

レンブラントさんはすっかり敬語に戻って真面目な顔で応じてくれている。

ん?通常の病にも?

どういうことだろう?しかも万能薬の一つに数えられて尚コストに見合わないって。

[通常の病でない病などあるのですか?私は遠方より出てきているので常識に疎いのですが……]

「いえ、普通に生活している限り縁がないはずです。私がこれを必要とするのは救うべき者が呪病と呼ばれる特殊な病に侵されているからなのです」

[じゅびょう?]

「ええ、呪術師が儀式を介して発病させる病のことです。これに侵されると治すには魔法薬を使うか術者に解かせる他無い。中には術者を殺しても発動した以上解けないものや、術者にすら治療・解呪できぬ呪病さえある」

じゅ、って樹木の方じゃなくて呪いの方か。

なんて厄介そうなものがあるんだ。

魔法薬という類のものが安くないことは何となくわかる。呪術師のほうも材料とか触媒とか色々用意するのだろうけど、やられたほうは洒落にならんな。

「その中でも奥様たちがかけられたのはレベル8の呪病。一時的な症状の回復なら高価な魔法薬で賄えますが完治にはアンブローシアという魔法薬がどうしても必要なのです」

執事さんが辛そうな表情を露わにして呟く。

奥様たち、か。そうかレンブラントさんの身内が呪病ってのに侵されたのか。商売敵の仕業かな。

「術者本人を捕らえてレベル8と判明しまして。それでギルドに瞳の依頼を出しました。3ヶ月前に出したのだが未だに1つしか集まらず、しかも詐欺もどきも何人も現れる始末。本当に参っていたところなのです」

[術者は今?]

「症状の軽減手段など聞きだしたかったのだが、自分の呪式は完璧だと言ってね。”最後まで”レベル以外は何も口にしなかった」

最後まで、か。つまりもうこの世にはいない。深刻な事態なんだね。

[では症状は魔法薬で抑えながら瞳を集めていたのですか。一体、どうして呪術師なんかに狙われることに?]

当然の疑問だとは思ったんだけどレンブラントさんは首を横に振るだけだった。言葉尻から察するにレベル8は結構上位。大きな商会を運営していれば怨恨くらい幾らでも買うだろうし、やっぱり恨みか?

「……商会の規模が大きくなるとね、どうしても恨みは買うものだ。どんなに上手く立ち回ったとしてもな。私をどうこうしたいという商売敵は五万といて、とても限定できなかったよ」

「ですが旦那様!奥様やお嬢様を狙うなど卑怯にも程があります!」

「私自身は警護を固めていて手出しできないと踏んだのだろう。妻たちに手を回しておかなかった私の浅慮こそが今回の原因だよ」

商売も、やることが大きくなると政治や何かとまるで同じ世界に突入していくんだねえ。

つうか、奥さんと子供が標的にされちゃったのか。3ヶ月も家族が苦しむのを見ているしか出来ないという苦痛は、僕には想像できない。しかも、相手がいてとなると自分を制御できる自信はない。

このレンブラントという人は少なくとも表面上、冷静にあろうと思考出来ているだけ立派なものだとすら思った。

かなり重い空気が沈黙と一緒に部屋を支配する。

交渉、とかそういうんでもないんだな。ただレンブラント氏に痛い目を見せてやりたいって奴がそこらにいるってことだ。

治して欲しかったらどうのっていう要求も無く、いきなり死に至る病の贈り物か。えげつない。

「妻と2人の娘は、最近死を望む言葉を口にしだしていまして。本当に絶望の中でしたが、これで何とか一歩前に進めます」

レンブラントさんは顔を起こして僕のほうを笑顔で見る。その様子は本当に長い闇をこの人が歩いていたことを示していた。

心なしかカイゼル髭も元気になって見えるぜ。

死を望む、か。もし僕の姉妹や両親がそんな状態になったら……。っっつ!ダメだ、無理!考えるのやめ!

[一歩とは?]

「一人分の薬を作るのに瞳が二つ必要だったんです。他の材料は三人分集まっておりますから、これで先ず一人、救ってやることが出来ます」

他の材料は全部調達済みか。最後にいるのが超レア素材、病状は快方に向かうこともない。

確かに、これは一歩といえるだろう。延命を続けるしか出来ない身としては。

[それは良かった。そのアンブローシアという薬の精製は大丈夫なんでしょうか?]

「はい。ツィーゲにはそれなりに高レベルの冒険者が集まってきますので。製法と材料を当方が用意する以上術者となる錬金術の使い手としてはレベル80もあれば十分です」

おや、貴重な薬なのに以外とリーズナブルな人から出来るんだね。

[製法と材料を揃えるのが困難なのですね]

「その通りです。今回のケースですとアンブローシアの製法を習得できますので錬金術師からお金をもらって良いくらいの条件になります。今回は事情が事情なので通常の依頼として出すつもりでおりますが」

執事さんの言葉どおりに受け取ると薬の製法とかはそれだけで価値あるものとして扱われるんだな。確かに一度作れば専門家ならそのやり方を覚えるだろう。

万能薬の一角に数えられる薬の製法なら知っておきたい術者は多いだろう。材料がきついみたいだけど高値で売れること間違いなしだ。

んーならば夜帰ってくるという錬金青年に話を持っていってみるか?それとも澪かアルケーの誰か……いや錬金青年にしよう。澪は未知数でぼろがでかねん。アルケー達はまだ人に化けれなかった。

現状、作って薬持ってくるから製法教えてっていうのは確実に通らない。無理しなくてもあの錬金青年でいけるなら問題は無いな。

僕もどうせなら同席したいしな。見てさえおけば、後で巴が記録にしてくれるからね。もう、僕の記憶はある意味でプライバシーを失ってますから。ふふふふふ。

[ところで、もしよければ僕も薬の精製を見せていただけませんか?多少の魔法の心得ならありますのでお邪魔にはならないかと思います。呪いの類ということですので実際に服用するまでは何が起こるかわかりません]

「ふむ…、それは……」

身内がやつれているところを見せるのも貴重な薬の製法が無駄に広まるのも嫌なのかレンブラントさんは考え込んでいる。

でもこれって答えはもう決まってるよ。だってこっちにはまだ切ってないカードが2枚あるんだから。

[今夜戻る予定なのですが、僕の友人にレベル114のアルケミーマイスターがいます。彼に精製を頼めば手間がかからないのでは?]

『おお!』

アルケミーマイスターならまるで心配いらない!

これならギルドに依頼を出しに行って受理されるまでの時間もかかりません!

とかなり良い感じの言葉が漏れた。錬金青年も危険が無く、割の良い仕事を断ることは無かろう。

[それから]

そういって僕は袋から五つの赤い塊を取り出して机の上に置く。既に1個持っていたということだが、余りの達成率の低さに依頼書の数を訂正せずにおいたのだろうな。ま、その様に出すさ。

シンと静まり返る応接間。目が点になるお二方。ニンマリとする僕。良いね、ドヤ顔したいね。自重がつらいぜ。

[瞳ならちゃんとご依頼の数だけ六つ。これで依頼は完了、ですね?]

瞬間。

大の大人が二人、がっしりと力強く抱き合うと大声で泣きだした。

その様子は他の使用人が断り無く応接間のドアを開けて飛び込んでくるほど異常事態だったが、事情を察したものはその場に泣き崩れたり、近くにいた者と抱き合ったり。

レンブラント氏が少なくとも従業員、使用人に好かれていることは十分にわかる光景だった。

その場が落ち着くのを待って受領サインを受け取る。

明日錬金術師を連れてまた来ます、と打ち合わせを終えて僕が店舗から出る時にはレンブラントさん筆頭に店員さん総出の盛大な見送りを受けたのだった。

当然、超目立つ。

僕は何となく背を丸めて次の目的地、商人ギルドに向かう。

空がかすかに赤みを帯びてきた。

そろそろ夕方、なのに僕の一日はまだまだ続く。
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