お久しぶりです!覚えていて下さったら感激の赤のあずです!
一章の開始となります。相変わらずの異世界で流れに乗ったり逆らったりしながら真君たちのどたばたをお楽しみ下さいませ^^
ではどうぞ!
巴から連絡が無い。
昨夜は確かに飲みすぎて、彼女に連絡をし損ねた。だが向こうからも連絡が無かったのは少々気になった。
宿の一室で人払いと施錠を施した上で澪と亜空に入ってみたが、どうやら巴は調査という名目で走り回っている模様。
僕が頼んだことへの「調査」ならそれはもう嬉しい。でも熱の入り方から察すると違う予感がする。
「にしても……すごいスピードで建物が出来ているねぇ」
感嘆半分、呆れ半分で独白する。
三週間前には資材を用意していた所だというのに。
そこにはもう区画ごとに僕の家が建ち始めていた。
柱や壁といったパーツがそこらで組みあがっている様子から順調なのが伺える。
問題はでかいってことだな。出鱈目な大きさで作ろうとしてないか?ツィーゲである程度の建物は見たつもりだったけど、今ここに出来ようとしているものの大きさは正直桁が違う。
目の前でどこかの庁舎が建築されているようなものだった。流石に高層ビルにはならないはずだけど相当でかい。
考えてみて欲しい。
ここの総人口は数百人です。
ここを作るのに従事している人数と労働時間を考えるとちょっと笑えない。
「ええ、最優先ですから!」
澪と僕に付いてくれているのはエマさん。ハイランドオークのお嬢さんでコミュニケーションスキルが高いのか順応性が高いのか各種族の間を忙しく動いてらっしゃるお人だ。
いたりいなかったりの僕の住むところなんて後回しにして先に皆さんの生活状況を安定させてもらったほうが気が楽なんですけど…。
「エマさん、僕の家なんて後でいいですからドワーフさんやリザードさんやアルケーさんたちとそれぞれの急ぎの仕事を先にやってもらっていいですよ?」
「それはそれで進めています。まだ本格的に都市というものをどこに造るのか決まってませんから、共同でやる仕事はこれくらいなんですよ」
ニコニコと説明してくれる。何やら笑顔に怒りが見えるのは気のせいだろう。何も怒らせるようなことしてないし。
「完成しましたら若様のお住まいとひとまずの集会の場所にも使う予定なのでご心配いりません」
そういうことか。なら別に良いか。ありがたく建築してもらうとしよう。
本当に良く出来た人だ。亜空では巴よりもエマさんに用事をお願いしようかな。本気で。
「そうですか、大歓迎ですからどんどん使ってくださいね、会議でも集会でも。ところで、巴は…」
「巴様は植生と亜空世界の現状を確かめると言って数日前からお一人で出ております。多少、気になることも幾つか出てきておりますのでそちらの調査も兼ねて」
少し遠慮した様子でエマさんは巴の動向を伝えてくれる。
「気になること、ですか。エマさ」
「若様!」
「はい!?」
突然呼ばれて「はい」とか言ってしまう僕。まだ向こうの常識が体に染み付いているなあ。先生に呼ばれる、みたいな状況が何か残ってる。
「私どもに敬語で話すのは止めてください。無理でも何でも普通に話してください!」
やー素で結構敬語使っちゃうタイプなんですけどね?それに無理でも普通に、って何だか意味不明な。
むう。従者の作った世界に住んでいる身としてはその上の存在がコレでは困るというものなんだろうか。
人よりも上下関係厳しいのかね、魔物さんってのは。
「気をつけま、るよ」
徐々にやってくか。いきなりスイッチでぽんとはいかないから。
「それでね、エマさん。気になることっていってたけど、詳しく聞きたい。後、この数週間の報告を簡単にお願い」
口調を改めたのが少し嬉しかったのか、エマさんは少し機嫌を直してくれたようだ。
先ほどまでの秘書さんの如き様子で報告をしてくれた。
「では今日までのことから報告いたします。まず、住環境ですが、これはどの種族も問題ありません。巴様の転移もありますので家はありますし、心配しておりました崩れたり劣化したりといったことも現状ではないです。住む場所についても特に問題なく分配し終わっています」
巴の転移か。確かにあれは便利だね。元々家の無い僕はテント住まいだったけど後からきた種族については集落ごとこちらに来ているから住むところと着るものは問題ないわけだ。移動の際は家財は出して纏めていたけど、あれは万が一崩れたときの為のことか。
「アルケーの皆様は森と山岳部にご自身で住居を構えると言っておられます。我々とリザード種族両方で交流も兼ねてお手伝いを出しておりますが問題はありません。ここからみて四方に散っておられまして、周辺調査も同時に進めてくれています」
「ええ、あの子達から報告は上がってきています。見つけた動植物なども随時まとめてくれていますわ」
澪が補足する。アルケーと澪は眷属、というか親子関係のような間柄。連絡も澪に一番に入るようだ。
「個体戦闘能力も彼らが一番高いし、周辺の調査をしてくれるのは頼もしいね。後でお礼を言いにいかなきゃな、澪」
「過分なお言葉、ありがとうございます若様。あの子たちも喜びますわ」
「本当に助かっています。澪様がいらしてから現れた地形ですが、現状の調査では問題ありません。遠方の森は距離がありますのでまだ調査を行っておりません。環境も、巴様が若様から譲り受けた情報の中の物と多く一致しております。この整理は我々で行っておりますがお屋敷ができてからはそちらでやらせて頂こうと思っております。よろしいですか?」
「もちろん、構わないよ。ドワーフたちは?」
「彼らは大体半数は屋敷やそれぞれの集落の修繕や武具新調などを進めてくれております。一部の優秀な鍛冶師たちが寝る間も惜しんで若様、巴様、澪様の装備される品について構想、試作しています」
そうか、以前武具の献上がどうとかいっていたな。矢をもらったんでこれのことかと思ってたけどどうやら違ったみたいだ。となると澪の鉄扇と着物も一時凌ぎの品だったのか?
「最後はミスティオリザードの皆さんですが各集落の警護と農地として利用を考えている場所の開拓、それから資材・食料の調達などを担当していただいています。統制がなされているので非常に順調に作業は進行していますね」
ほほ~、あの人らは純粋な武官としてだけでなくて開拓とか資材調達も出来るのか。文官もできる武官、といったところだろうか。しかしもう農地がどうの、という段階の話が出ているのか。若干、作業の規模が広がりすぎているような気がしないでもないけど。
人間と違って一芸を持ち、なおかつ適材適所でやっているから順調なのはわかる。でも手を広げすぎると現状ではどうしても人手不足になるような気がするんだけどな。
報告を聞く限り、僕の屋敷はペースを落としてもらって他に人を割いてもらいたいな。それに、報告がひとつ抜けている。
「人手が明らかに足りない気がするけど?」
僕は遠慮せず聞いた。無理をしては元も子もないのだから。
「そうですね、それは後で報告する予定の問題点の一つです。どの作業も規模がまだ小さなものですので、量の問題というよりは質の問題としてですが」
おや?開墾とか開拓っていればいるだけ役に立つ印象があるけど違うのかな?
調査にしても数は武器だと思う。
「開拓やら開墾やらはとにかく人手だと思うんだけど?」
「……無節操に拡げるだけでしたら。ですが今は試験的なもので順序や手順の確立を優先しています。それよりも情報の把握と理解のできる人材が不足しています」
「というと?」
「若様の情報は我々の知らない言語で書かれておりますので、随時巴様に確認しながら進めておりましたが難航しています。数日前からはその巴様もおりませんので各所より『これは何だ』という意味合いの報告書が未処理のまま積み上げられております…」
私もまだ少ししかわからないので中々…、とエマさんはこっちを見ている。視線の意味はわかる。期待だ。いるならちょっと辞書やってよ、ってことだろう。
巴、お前途中で逃げたのか!?
そうか、失念してた。話せるけど言語自体は僕のは日本語なわけで。記憶でも何でも日本語で話されているし書かれている。そりゃあオークやリザードの方々が見ても捗らないのが当たり前だ。
というか、それを理解できていた巴が凄まじいのか。好きこそ物の上手なれとはよく言ったもんだなぁ……恐るべし時代劇。巴にごく短期間に日本語を習得させたのはお前か。
だが、その巴も完全に理解しているわけでは無いし、ずっと辞書代わりに使われていては爆発もしようというわけだ。……爆発して逃げたのかは不明ですけど。
「文字の読解ですか。確かにそれは数だけではどうしようもない。かといって僕もずっとこちらにいるわけにもいかない。ちょっと考えてみます。他には?」
とりあえずは逃げておく。一日中、日本語教育するわけにはいかないし。
「後は、若様が以前仰った季節、というものなのですが」
「ああ、ここは春のような過ごしやすいところだ、といったアレですか」
「…ええ、それがどうもここの所変化を繰り返しているようで。急に暑くなったり涼しくなったり、もっとも荒野よりは緩やかなものですが脈絡も無く変わるので問題としてあがっております。先週などは雪が降りました。季節とは日によって違うものなのでしょうか?」
雪!?
今のここは普通に春~夏といった感じだ。よく晴れていてそよ風程度の風もある。過ごしやすいことこの上ないんだが。
これで明日が雪とかだったら確かに困るな。なにかしらの原因はあるんだろうから調べないと。巴、を見つけてやらせるかな。いや、むしろ澪もこっちのことを手伝わせるか?
「いや、季節は一定の周期で巡るものです。何とも、それは不思議な。亜空はまだまだわからないことだらけかぁ」
「ええ、それで問題点、というかこれは巴様がこぼしていたことなんですが」
碌なことじゃ無さそうだな。
なんだ?今度は麻呂とか言いたくなったのかあいつは。大概にしとかんと眉も麻呂にするぞ。
「この三週間ほど、亜空の拡大が止まったそうです」
…え?
真面目な疑問だった。ちょっとびっくりしてしまったじゃないか。
時折起こる亜空の拡大は現在でも続いていて広さの見当がつかないと巴が言っていた。
だから巴には別行動のついでにここの拡大についても調査してくるよう命令したんだ。
それが命じた途端に止まった?
その前後でしなくなった行動やするようになった行動が拡大に影響していた?
わからん。巴はそれを調査しにいったと思いたいね。
「止まった、ですか。広くて困ってるくらいですから調度良いかもしれないが……」
「巴様が何かご存知なら良いのですが」
巴の野郎、本当に忽然と失踪しやがったか。こっちの人たちにも定時連絡しないとは。後で強制召喚してくれる。
「後で確認します、しておくよ。後さ、巴にもう一つ仕事を頼んであったんだけどそれはどうなってるかな?」
そちらが僕としてはかなり大事なことだった。これから亜空の物を扱う上で、僕だけが集中的に疑いを受けないためにも。
「ああ、意味はまだよくわかりませんが順調です。一応、ぶらぶらさせておくだけというのも無駄なので適当に言葉の練習相手に使ったりして帰しています」
ふむ、なかなか順調か。一番問題が起きそうだっただっただけに重荷が一つおりた気分だ。
「多少の物資を持たせている?」
「ええ、お言い付け通りに。食料や彼らの言う素材を中心に、街までの食料、それらを共通語の習得を手伝って頂いたという名目で渡しています。でも若様、これは一体どういう意図で?」
エマさんにはまだわからないか。亜空と外を行き来する巴は意外とすんなり理解できたけど、こちらだけのエマさんには確かに不可解かもしれない。
「今後、こちらで生産、産出されたものを外部に持ち出す時、前例というものがあるかないかは結構大事な事なんです。僕だけが商うということになるとこれが無駄な詮索や摩擦を生む」
そう、適当に冒険者を紛れ込ませて、そいつらを敵対ではなく受け入れさせて物を持たせて帰らせる。
帰った冒険者が言いふらせば不思議な物がある魔物の都市の噂が流れる。
それが商人の間で周知となり、冒険者が幸運の対象としてそれを認めるくらいになれば亜空の品物はそこそこの流通をすることになる。
担当する種族をローテーションさせることで違う街の噂でも流れてくれればしめたもの。
僕が扱おうとしているものはこの世界に無いものらしいから、このくらいの下ごしらえはしておかないと後で面倒なことになる。
面倒は起こる前に対処しておくのが結局一番楽だからなあ。
「エマさんたちとリザードマンたちとドワーフで交替でやってるね?」
「いえ、アルケーの方も加わってくれています。あの方々は共通語を大分覚えておられますので」
能力高いな、あの半分蜘蛛な人たちは。流石ボスキャラ。
「なら流出させた物は食料品、ミスティオリザードの装飾品、ドワーフの作品数点、それにアルケーの作成した薬品といったところですか」
アルケーの魔法薬や錬金の産物については未だ良くわからないから、これも澪と確認しに行かないとな。
ドワーフの作品については心配要らないだろう。あの頑固職人たちが明らかに力量に見合わないものを差し出すわけがない。
職人ってのはそういう意味では面倒でもあるけどね。
「そうですね、後は私たちの魔法知識が少し。といっても、どの種族も渡しているものは日用品に近い品質の物ばかりですが」
エマさんからすればヒューマンは対等な存在ではない。たまーにくる、しかも大して強くも無い存在という認識だろう。あそこまで進むと、それだけで冒険者の方はかなり疲弊しているに違いないから。
ハイランドオークって単体での討伐もAランク任務だったから相当強いんだろうな。もちろん、彼らの間で人間に姿を見せるのは好戦的な戦士が主だからそのランクなのだろうが。
事実、エマさんはリズーに殺されかけていた。生まれつきの強さのままだとB-くらいなのだろうか。
「十分です。ここで作る品が外に出ることに意味がある。暮らしている規模が大きくなるにつれて出るもののグレードも少しずつ上げていけば良い。これからもお願いします」
これは巴が担当だな。以後も計画的にこの「楽園」に冒険者を迷い込ませていこう。
後は…言葉、か。
日本語なんぞ教えるのは難しい。となると共通語の字幕でも作ってTV映像でも教材にするか?
だけど…、巴はいくら時代劇が好きでも習得が速すぎる気がする。コツでもあるんだろうか。
「わかりました。巴様に指示を頂きながら進めていきます。私からは以上ですね」
「うん、お願い。さっきからいろんな人がちらちら見に来てるけど、仕事なんじゃない?こっちは澪もいるし大丈夫だから行っていいよ」
話している相手が僕では他の人は中々割り込んでこれないだろうからな。
予想通りだったようで、エマさんは僕に一言断ると足早に去っていった。いやー忙しい人だな。助かります、ホント。
「なあ、澪。お前さ日本語ってわかる?」
「ニホンゴ?聞いたことのない言語ですね。多分わからないかと」
「だよな。僕の国の言葉なんだけど」
「ならわかります。会話なら問題なく」
さらりと言った。当たり前のように!
「え!?」
「契約しているからですわ。若様と意思が伝わらなくてはダメですから。支配と隷従の場合は主側の言語を理解できるようになります。盟約の場合は契約時の言語がお互いの意思を伝えるものになります」
それでか!というか巴、そういうことは言えよ!
なら今日は澪をここに置いていくか。それなら何とか作業も進むだろう。アルケーのとこに顔出して…
「若様ーーーーーー!!!」
うお!?今度はなんだい!?
野太いなこの声!
お、おお。立派な髭のおっさんが土煙とともにこちらに突っ走ってくる。背が150あるかないかってくらいだから正にこれは弾丸のようである。
しかし亜空はイベントフラグがどこどこ立ちまくるね。
今度はドワーフの長老さんの一人か。目のクマが結構すごいな、寝てるのか?ってか爆走して体大丈夫なのか御老体?
「これは、長老さん。巴が無理を言っているようで申し訳ない」
「あら、ドワーフの。この鉄扇というもの、中々気に入っていますよ。よい品です」
澪が礼を言うとは。うむ、日々成長しているのだな、食欲魔人も。
「いやいや、優れた英傑に武具を提供するのは我々にとって至上の喜びです。御礼などされては困りますな。それよりも今日はせっかくお越しなんです。少しお付き合いいただきますぞ」
「え、ちょっとこれからアルケーさんとこ顔出そうと思ってるんですが」
「後になされませ!こちらは火急の事です。大体お二人の能力を正確に掴まねば武具も試作の域から進みませぬ!」
巴はむしろ積極的に要望だしているから作るほうも困らないけど、僕と澪は工房に顔出してすらないものな。一度いっておくべきか。
「それもそうか。澪、先にドワーフさんとこ行こうか」
「はい、あの子たちも今日はこれまで集めたものとか色々聞きたそうでしたので一箇所に集めさせておきますね」
そうか、アルケーはそれぞれ一人で生活してるんだっけか。4箇所回るのはコトだし、ツィーゲでやることもあるから、ここにずっとは居られない。
頭良い人らみたいだから会うの楽しみだねえ。
さて、それじゃドワーフの工房へ行きますか。
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