さらにもう一人の勇者さまです。
こちらは少々ひねくれたイタイ展開になる予定です。そして三人の異邦人の中で唯一…。
ではどうぞ^^
ウェーブのかかった金の髪を背を覆うほどに伸ばし、純白の布を服に見立てて結んでいた。
現状を把握できていない彼の目前に存在していたのは少女だった。これまでに彼が見た如何なる存在よりも愛らしく美しい。
特に澄んだ緑色の瞳は神秘を纏い、見つめられると現実感は霧散し、ただ彼女に興味を向けられたことを歓喜するほど。
そして同時に決して汚してはいけない神聖さを感じさせていた。
想像さえ及ばぬ美貌であっても、夢にでてくるのだろうか。
だが、夢ではなかった。
少女は少年に言った。自分は女神だと。
力及ばず自分が守る世界に魔が溢れかえってしまっていると。
もう、自分だけの力ではどうしようもないから助けて欲しいと。
少年は助力したかったが自分は無力だから助けにはなれない、と少女の懇願を断った。
事実、彼は非力で、さして学問に長けたわけでもなかった。
運動は中の中、勉強にしても中の上といったところ。
気が優しい、といえば聞こえは良いが実際のところ同性からイジメを受けてもいた。
流石にそこまでこの少女に言うつもりは無かったが。
イジメの理由はそんなに複雑ではない。
要は彼がモテるからだった。
問題なのは、容姿が非常に優れている、ただそれだけのために騒がれていることだった。
少女漫画から抜け出したような線の細い美丈夫。しかも、その華奢ななりに偽りは無く、やや病弱で。そこもまた女の子にはウケた。
大した努力もせず、しかもよってきた女性にも積極的に接するわけでもない。
その煮え切らなさが周囲の男子生徒の怒りを買った。その際女子生徒が庇うと、彼の扱いはさらに悪化してしまう。
彼自身は正直、女性が怖かった。だから遠ざけておきたいのに向こうから近寄ってくる。
しかもそれで男子生徒の怒りを買うから遠ざけようとすると、それでさらに怒りの炎が増す始末。
どうしろというんだ、と最近では学校に行くことも少なくなっていた。
女神の来訪はそんな時の出来事だった。
「大丈夫、貴方には大きな力がある。そしてそれは私の世界に来ることで覚醒する。それに私ももちろん、貴方に力を与えます。ですからどうか」
来訪がもう少し後なら。
もしくは前だったなら。
彼は断っただろう。こんなゲームの主人公のような展開に憧れたこともあるが、それでも現実を選べただろう。
「ほ、本当に。僕なんかに出来るのか?」
学校でイジメが始まっていたこと。
そして解決策が見あたらずに引きこもる選択をしてしまったこと。
必然的に不登校を両親から責められること。
彼を取巻く状況の全てが良くなかった。
「もちろん、貴方でなければ駄目なのです。もう一人、パートナーになる女性も世界を渡る決意をしてくれました。勇者よ、どうかお力をお貸し下さい」
相手は可憐な少女の姿をとっていても女神。それが自分に懇願してくれている。しかも一人ではないらしい。
パートナーの女性もいるとのことだった。女性、という部分が気にはなるが知り合いということも無いだろう、それに同郷の人間がいるのは心強い。
そう、思ってしまった。
「力をくれるっていったけど、何をくれるの?」
彼にとってそこは重要だった。レベル1からのRPGはダルい。最近はRPGにしてもSRGでも、最初から改造して遊ぶのが楽しみだった。歪んでいる。
少なくとも、こんな安直な、ゲーム感覚の考えで安易に決心するべきではなかった。彼女は一言も、「帰ってこれる」などと口にしていなかったのだから。もっとも、かの女神なら平気で聞かれなかったからと返すだろうが。
「魔獣と戦える身体、敵である魔族を凌駕する魔力、人を虜にする魔眼のスキル。それに空を駆け疲れを癒す『銀靴』を授けましょう」
どうですか、と女神は少年を見つめる。
彼は内心飛び回るほど喜んでいた。かなりのものだ。ゲームでこれだけの特典が最初からあればバランスブレイク間違いなしである。どれ程有利な能力かは実感できる。
これなら大体の事に対処できそうだ。出来るなら、特殊能力の類はまだ引き出したかったが反感を買うのも良くない。彼は悩み返答に詰まる。
しかしこれで実際にダメになっても、夢みたいな今がそのまま夢になるだけで明日からの部屋での生活が何変わることもないから彼が強気に出られた。
「では、少し魔力に負担はかかりますが貴方は夜に限り不死としましょう。ただし、これは夜の、それも月のでている間だけの能力になります」
増えた。言葉にするまでもなく女神のほうが折れた。
彼は女神が時間を焦っていることを知らない。どこまでも幸せだ。
夜に戦えば負けない。そんな間違った解釈でその能力を受け止めた。
「わかったよ、女神様。出来るのか不安だけど、精一杯勇者ってのをやってみる」
わざわざ恩を着せるように、でも大きな決意をした彼は了承の意を伝えた。
その言葉を聞くと美少女は今日一番の笑顔で喜んだ。
礼を言いたいのは自分だ、と少年は心中で暗い笑みを浮かべて見せた。これから行く世界で俺TUEEEできて、しかも好きに振るまって誰にも文句も言われない。人を魅惑できるのならイジメにあうことも無い。
誰にも、の時に何かが胸につかえるのを彼は振り切った。金色の色に包まれて。
留まるべきだった。少年は胸に痞える物があったのだから。他の二人とは明らかに違った。
痞えが両親だと。わずかな交流しかなかったとはいえ友達、という事に気づいてさえいれば戻れたのか。
叶うこと無い仮定。
次の瞬間には彼、岩橋智樹は異世界にいた。
「ここが女神の世界、かな」
妙に埃っぽい場所に女性が一人、僧侶か神官が着るような服を着た人が数名、彼女の横に控えている。
「……勇者殿、でしょうか?言葉はわかりますか?」
「!?あ、はい。わかります」
まともな会話は久々な為智樹は挙動不審になりながらも応答する。
先ほどまでの美少女女神ほどではないにしろ、彼の前にいた女性もまた異様に整った外見をしていたのも彼の不審な態度の原因だった。
中学三年にして既に180を超える身長をもつ彼から見ると声をかけた女性は自らの肩口ほどまでの身長だったが、放たれる威厳というかオーラというか。対面すると妙に緊張させられる。
髪はしっとりと落ち着いた雰囲気の銀。ボブ、いやショートボブの髪型。スタイルはやや貧相なのかもしれないが姿勢が抜群に良い。凛とした、と形容される女性だ。
(キャリアウーマンってこんな感じかな)
智樹は取りとめもなく思考する。
「…良かった。それでは勇者殿。このような場では話も出来ませぬ故、私に付いてきてくださいますか?」
柔和、というよりはクールな笑みを浮かべた彼女に促されるまま彼は部屋をでた。
このとき、初対面だが女性が彼の名を聞かなかったことには少々事情がある。
帝国は女神の加護を諦め、独力で魔族を退けようと方針を変えていたからだ。上層部において既に女神への信仰心は相当に失われていた。とりわけ、勇者に対応している彼女にはその傾向が強かった。
勇者はかの国にとって救世主、というよりは己が創り出す英雄の素材、であった。
英雄という名の最高の兵器の。
敬意の有無ではない。彼の降りたグリトニア帝国は勇者を兵器と認識していたのだ。
案内されるままに会う人会う人に興味を示す勇者には、思いもしなかったことだろうけれど。
彼は少なくともリミアの勇者よりは厳しい場所にいる。……荒野の彼よりは大分マシな状況だろうが。
~皇女~
勇者が来た。心を落ち着けようと別れた後に散歩していた私はふと足を止めた。
祈りの間。
無機質な冷たい石床、中央には祭壇。
私はこの部屋が嫌いだった。だって無意味な所だから。
女神、誰もが信じ崇拝するこの世界の神。美をこよなく愛し私たちヒューマンを全ての種の頂点と定め加護と祝福を与えて”いた”存在。
だがこの十数年、一度として祈りも届かない。助けも加護もない。美を磨くことで力を得られた世界の絶対則が何の前触れもなく崩れてしまった。
だが何の冗談だろう。
唐突に我が帝国の神官と、そして何故か私にも神託が与えられた。
魔族に蹂躙され尽くし、己を最も信奉していたエリュシオンが亡国となったこの時に。
辛うじてリミアと我が国が防衛線を築き魔族の再侵攻を牽制している悲壮な状況でだ。女神とは本当に信じるに足る存在なのか?得体の知れない、依存すべきでないナニカではないか?
私の疑問が膨れ上がるのは至極当然だった。口に出せば異端だの異教徒だの下らない言葉で突き上げられるだけだから自重はするけれど。
今さら”勇者を与える、魔族を討て”ですもんね。笑わせてくれるわ。廃棄寸前の祭壇から出てきた勇者様とやらはこれまた馬鹿げた存在だし。
本当に現れたその存在は再度の神託もあり勇者だと確認された。
グリトニア帝国は魔族に女神の加護無く立ち向かう為、様々な実験を行っていた。人体の強化、優れた戦闘技術の移植、魔術の力を宿した道具とヒューマンの融合。
どれも褒められた事ではない。どう言い繕うまでもなく非人道的だ。だがそれがどうした。魔族に勝つ為だ。批判するなら人道的に魔族を退けて見せろと言ってやる。
が、そうして創った連中の傑作と比べても、勇者は群を抜いていた。
人体の強化の及ばない領域にある身体、高位魔族並の魔力、少なくとも帝国の保有する”全ての”魔術具への装備適正。
何の手も加えていない人体でこの馬鹿げた結果。
直接案内した自分は全部の結果を目にした。
どこか儚げに見える優男。それが帝国の勇者。
彼の眼はどうも良くないスキルを保有しているようだった。魔眼の一種だろうとは研究者は言っていたが、とりあえず応急処置でレジストできるようにはしておいた。王族のみだが。
優男なのも、魔眼持ちなのも、さらにその口調から読み取れる強者の驕りも。無遠慮に私の騎士を見る目も。祭りに来た子供のような妙に浮かれた雰囲気も。
どれも気に食わない。なにより女神からの派遣なのが気に入らない。
でも。
いいでしょう。
貴方が勇者だというのなら、帝国は貴方を最強にしてみせましょう。欲しいなら金でも爵位でも、女でも男でも望むままに叶えましょう。……ソレで魔族が滅ぼせるなら。
いいえ?どの国の持つ財宝も、この帝国の皇位も、この身も親友たちであっても捧げましょう。……それで母の仇を取れるのなら。あの、いかな祈りも無視した女神を最後まで信じ殉じた哀れな女性の。
トモキ、そうトモキ=イワハシ。喜びなさい。貴方は英雄として歴史に名を刻むわ。そして私を悦ばせなさい、氷原を魔の血で染め上げて。
女神よ、気まぐれに我らを弄ぶモノよ。貴女のくれた玩具、最高に使って見せましょう。
皇帝の血脈にかけて、必ず。
他二人と違って岩橋智樹は現実から逃避したタイプです。
そして行った先も少々きつい場所。
異世界はその世界の状況抜きにしても、行った人でも印象は違うんだろうな~とか思ったり。
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