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真君の眠っている最中になにがあったか。
片時の午睡も許されない主人公に幸多からんことを。

なんて。
序章も残り少しです。ではどうぞ^^
序章 世界の果て放浪編
こんなことが起こった
~sideトア~

それは果たして現実なのか。

その日の私の体験は人生において大きな転機を私にもたらしたと言ってよかった。

私たちは五人でパーティを組み、特に依頼を受けることもなく果ての荒野に探索にでた。

森も谷も洞窟も。

この辺りに踏破された場所などどこにも無い。

中層までの探索が済んでいる地域が辛うじてあるだけで、深層・最奥部ともに進んだ者はいない場所ばかりだ。

最近では七日から十日ほどの距離にどうやらエルダードワーフのいるかもしれない火山帯が新たに見つかった。

ただこの場所を見つけたパーティはその後すぐに災害の黒蜘蛛に襲撃されて何とか逃げてきたので詳細はまだわかっていない。

本当ならば最高峰の武器防具が手に入るかもしれない探索箇所が増えることになるから大きなことだ。

商人連中はともかく、冒険者である私たちからすると優れた武器防具が直接手に入ることほど嬉しいことはない。

まあ、私たちがいけるとしたら百人規模の大規模な探索作戦が組まれたときにまぎれるくらいしか可能性はないけれど。

現状、平均レベル120程度の私たちがいけるのはこのベースから本当に近い場所のみだ。

そこで各種の材料や相手にできる魔物たちから売れる部位を調達して生計を立てるのが精一杯。

本来、四大国をはじめとする国家でならレベル120のパーティは結構上位に位置する。大抵のダンジョンや討伐には対応できる。

かくいうわたしたちも帝国で名を知られたパーティのひとつだ。

だがここでは私たちはひよっこだ。本当に、駆け出しと言ってもよいほどに。

持っていた自信とプライドが連れてきた最後のベース。

到着後最初の探索で二人が死んだ。

三度目で一人。

欠けるたびに人を募って補充してきたが、この間、ついに残っていた一人が帰ることを決意し脱退。

五人で来た私たちは私一人を残して誰もいなくなった。

そして前回の探索。リズーという双頭の黒犬の討伐で依頼を失敗、四人の仲間を一度に失い何も得ることなく命だけを手に私は帰還した。

借金で準備をして成果でペイして利益を得てきた私にとってこれは致命的だった。

当然のように金貸しに返済することはできずに肉体労働で返済することになった。

ここでのその流れはカムバックの無い引退を意味する。

何をさせられるにせよ、自分よりも一回りもレベルの違う用心棒を連れた連中に逆らう手段はなく。

私の旅は終焉を迎えた。

女であることから肉体労働の種類は男とは異なるものだったけど、薬を使われての肉体労働に私の体はさほど長く保たなかった。

ついに反抗できないよう筋弛緩系及び思考散乱の効能のある薬を打たれて人体実験に回される順番待ちの部屋に入れられた。

たった一つの物を求めた旅だった。それさえ手に入れば、もうすぐにでも後にするつもりの場所で私は全部を失い死のうとしている。

妹も、おそらく駄目だろう。唯一の身内でまだ幼かったから私財を使って何とかこのベースに送ってもらったが。

この場所で子供一人で生きていくのは不可能だ。まだ妹は冒険者ですらないのだし。

口惜しい、でもどうにもならない。

やはり自分には無理だったのか。

かつて私の先祖がまだ精霊の神殿の祭事を取り仕切っていたころ。

一族でも最高の能力を持った人がとあるパーティに参加して竜退治に挑んだ。

”無敵”と異名をとる上位の存在だったらしい。果ての奥深くに眠ると伝えられていた。

誰もがその成功を信じたが結果は失敗だった。

誰一人として帰ってくることは無かった。完全な全滅。

当時のパーティの平均レベルは口伝で聞いた分には600程度だった。それでも勝算はあったはずの戦いだった。

規模は100人を超えていたというのだから。

だが誰も帰ってこなかった。

それから私の一族は神器といわれた一振りの短剣をその人の所為で失ったと謗りを受けて神殿から追われた。

街に下り、ただの平民として溶け込むまで何度も何度も街を変えて私の代にまでなる。

だから。

私にとって。

その話をずっと聞いていた私には果てに行って短剣を手に入れてくるのはもう当然の目標になった。

冒険者になって力を磨いてその機会を待ち、そして遂に果てにまで来たというのに。

竜の情報も短剣の情報も何も手に入れることが出来ずに。

そんな思考さえ薬で散っていき茫洋としていた私の身に奇跡が起きた。

「この娘のようじゃの」

「ああ、良かった。何とかまだ生きていますわ」

何者かの声がする。だが私にはその事実がわかっても何も出来なかった。動けないし話せないのだから。

「なにやらされておるようじゃ」

「薬が使われているようです」

「む、となるとこのまま連れて行っても死ぬんではないか?」

「ちょっと待って下さいまし。……これは、そういうものではありませんね抵抗を奪うもののようです」

「ほう、お主薬物の知識なんぞあるのか。これは知らんかった。で、どうじゃ。何とかなるか」

「ふふふ、勿論。こんなものは」

手がかざされる。体の感覚が一瞬で戻る。そして思考がまとまる。

「ほう、大したもんじゃな」

「そして…おまけですわ」

黒髪の女性はそのままロックと強化を加えられた特別製の素材のドアを闇で呑んで破壊した。

「なっ!?」

ありえないことだ。無詠唱で発動させた魔術にこんな威力があるなど。

「トアじゃな?」

それまで腕を組んでいた青い髪の女性が私を見下ろす。

なんだ、何が起こっている?私は助かるのか?

「え、ええ。トアは私だけど」

「体はどうじゃ?大事無いか?」

気遣って、くれているのか。ということは敵じゃないのか。

これはもしかすると。

「少しだるいけど、動ける」

「それは重畳。よし、それでは澪」

「ええ、さっさと引き上げましょう巴さん」

「うむ、あ、いや待て。危ない危ない、若にはめられるところであったわ」

巴と呼ばれた人が不意にドアに向いた足を元に戻す。

「若様に?どうかなさったんですか?」

「良いか澪。我々はこの娘を救うように若に命じられた。そじゃろ?」

「ええ、それでこの娘はこの通り無事でありませんか?」

「甘い!甘すぎる!」

「ええ!?なにがです?」

ここは彼女たちにとっては敵地のど真ん中なのに。声量を抑えるでもなく彼女たちは話している。

私はそれを止めるべきだったのだろうけど、あまりに現実離れした事態に冷静な考えが出来なくなっていた。

「若はこの娘だけを救っていった我らに対してこういうのじゃ。巴、澪、それで他の人は?とな」

「……はっ!」

「わかったようじゃな。つまりこの娘だけを救って持って帰ると」

「若様から怒られる!?」

澪と呼ばれた人は悲痛な顔で叫んだ。

「のじゃ」

巴という人はしたり顔で頷いた。

「つまり我らがとる行動としては」

「面倒ですけど全員救い出して連れて行くのが正解ですわね?」

「おうとも。この娘以外は適当にすておけばよかろ。部屋に入らんしな」

「なるほど、勉強になります」

二人はうむうむと得心して首を振っている。だが今はそんな悠長な場合では…。

「悪いがそこまでだ侵入者さんよ」

ああ、と私は頭を抱える。当然のことだ。

鍵を掛けられたドアを破壊した上でこんな大声で話していれば侵入に気づかれないわけがない。

しかも、最悪だ。

この声はあいつだ。このベースの最高レベル、エース。

探索よりも金持ちどもの護衛に回って楽に金を得ている奴。

だが実力は間違いなくここでもトップ。ナンバー2とは歴然とレベルの差がある。

せっかくの好機だったというのに、これでは…。

「気づかれてしもうたか」

「あらあら、参りましたね」

だが二人はまったく動じてない。

相手はレベル444だ。世界でも有数の冒険者に数えられるというのに!

「うん?こいつら…おい!」

「はっ!」

「これお前が話してた奇天烈な奴らの二人じゃねえか?」

そういってエースは仲間の一人と話し出します。

「あ、そうです。こいつらですよ、エースさん」

「へぇ。あんたらがレベル四桁の化け物だったのかい。こりゃあ変わった所で会うもんだ」

四桁?なにが?

「なんじゃ、もう知っておるのか。耳が早いのう」

「若様のおっしゃるとおり、行動は迅速にして正解でしたわね」

「俺もびっくりしたぜ?で、どこであの方法を知ったんだよ?」

エースは下卑た顔で二人を値踏みするように見る。

私は話についていけない。とにかく状況がどうなっているのかパニックになりそうだった。

「方法?」

「なんのことです?」

「とぼけんなよ。”レベルを改竄・誤認させる方法”だよ?にしてもやりすぎだぜお前ら、レベル1320に1500だって?ひゃはははは!」

レベル、の改竄?誤認!?エースは何を言っている?

「俺も偶然知ったんだけどな。まさかあの体液にそういう効果があったとは知らなかった。俺だけの秘密だと思ってたのによ」

「俺もエースさんから教えてもらって合点がいきました。そうだったのか、ってね。四桁なんていかさまに決まってる」

巴。澪。そう呼ばれた二人の女性が嘆息するのを、私は確かに聞いた。

「貴様らがどう思おうと勝手じゃが…」

呆れを多分に含んだ様子で巴という人が口を開いた時だった。

「ひゃ…ああ、なんだ。貴様らも知らなかったのか。これは口がすべったな。となるとお前らのもう一人の連れが仕組んだのか」

ぴしり、と。

二人の雰囲気が少し変わる。エースの哄笑の後の言葉で。

「大した詐欺師じゃねえか!?どっかの商会のボンとかって話がまた嘘臭いしな!?」

どっと沸くエース以下の連中。酒でも入っているのか陽気だ。

何せ絶対的な数の有利もある。

でも、なんだ?さっきから寒気が止まらない。彼らが敵対している状況からくるものではない。これは一体。

「男の癖にピンクの指輪して筆談でしゃべる仮面だっけか!ここは仮装会場でしゅか~!」

ああ、これは。

怒り、だ。何故かわからないが二人の女性の呆れだったものは。

ソレに変わっている。

「きっとその下は頭の回るゴブリンか、はたまた人外のブサイクくんに違いねーー!!ひゃひゃひゃひゃ!!」

ドゴォォォッ!!

何かをぶつけた音が唐突に聞こえた。

エースの顔に拳、ボディに闇の塊が見えた。

だがどれも寸前で止まってる。これは。

「……クレイイージス」

まだ少し茫洋とした感じの声が自分のものだと遅れて気づく。

あれは、クレイイージスと呼ばれる、このベースでしか得られない幾つかの素材から成る産物。

複数の希少金属から加工される対物理魔法結界発生装置。回数制限つきだけどかなり強力だと聞いたことがある。

音は結界に2人の攻撃が阻まれた音だったのか。衝撃でこちらに突風が起こるほどの攻撃を、2人がしたのか。

「おーおー、それなりの力はあるな。用意してきてよかったぜ。だが残念だった、な…」

「おい、澪。お前はさっさと他の者の解毒をせんか。これは儂がやっておく」

「冗談はよしてくださいます?若様にあの暴言。髪の毛一本まで責任をもって私が処理します。ついでに巴さん、儂っていうのは次からじゃありませんの?」

2人は攻撃を防いだエースの言葉を気にした様子は無く、獲物の取り合いのような口論していた。

「俺の話を…」

「どうせもう気付かれておるんじゃ。お前は解毒してから加わればよい。よい体慣らしになろうよ。とにかくこいつは殴る」

「ふん。私の分残しておかなかったら許しませんからね。特に顔、平手打ちするんですから」

「承知じゃ。この際、ソレから手加減してみればよいわ」

そういうとエースを無視したまま話は終わりました。

そして…。

澪さんは私と一緒に入れられていた数人を私にしたのと同じように解毒していきました。それも…当たり前のように無詠唱で。

れべる1320?1500?

え?

え?

巴さんはエースに向き直った。

「それじゃ手打ちではないグーでいくからの。澪のためにも一撃で死ぬなよ?」

突き出した拳を一度引いて。

グシャ。

再度突き出された拳は一瞬の抵抗でクレイイージスの結界装置を突き破ってエースの顔面を殴りました。

壁にのめりこんで声も無く崩れるエース。このベースの最強の……。

「さあさあ、次から次へとさっさと来んか!」

そういって腰の剣、のような武器にも手をかけず刃物を煌かせる傭兵たちに踊りかかっていく。

剣に拳を叩きつけ、剣が折れるという非常識で文字通りばたばたと、妙齢の女性が屈強な男たちをぼこ殴りにしていく。

とても涼やかに。

「ちょっと!私も混ぜなさい!」

解毒治癒を終えた澪さんも乱闘の中に紛れていく。かと思ったら壁にのめりこんだエースの胸倉を掴んで持ち上げると…

シパパパパパパパパパパパパパパパパッ…

右手が霞むほどの平手打ちの連打を彼に叩き込んだ。後日腫れ上がるのを待つことなく彼の顔はその場でまん丸になっていた。

「ふう」

一応の気が済んだのか彼女も今度こそ乱闘に混ざっていく。

「おー!来たな澪!いいか、出来るだけ加減して死なないぎりぎりを覚えるんじゃ」

「これだけいれば覚えられますわ。余裕です。さっきのも多分死んでません!」

「じゃあ、広くするかの」

「ですわね、暴れるには少し狭いですもの」

巴さんは剣のような武器を腰の鞘から抜き放ち。澪さんは音も無く、その細く白い手に闇を呼んだ。

閃く剣閃に壁は崩れ、広がる闇に床は沈む。

堅牢なはずの建物はあっという間にぼろぼろになって広い空間が出来た。

これは、夢?

二人は「よし」とばかりに闇と剣をしまい動き易いように衣服をたくし上げた。

蜘蛛の子を散らすように逃げ回るレベル200近い連中をたった二人で殴って蹴って投げて追い回す女性2人。

私は…レベル1320と1500を信じる気になった。

この光景にはそれだけのインパクトというものがあった。

だから魅入っていた。

私だけではない。他に捕らえられていた人も皆、心を奪われ、その衝撃に身を任せていた。

粗方が終わった。ものの、数分、くらいで。

もう建物で残っているのは私たちのいた部屋”だけ”だった。

町の離れにあった大きな屋敷であったはずの建築物は、もう瓦礫と化していた。

「ふぉふぉまでふぁ!!」

突如首に感じる冷たい感触。

私の首に刃物を当てた何かが声を上げた。

油断していた。これはエースだ。腫れ上がった顔で放つ声は最早彼であっても同情を誘う。

だってきっと、彼は今必死に「そこまでだ!」って言ったのだろうから。

巴さんも、澪さんも、だが気づいた様子はなく残りを見つけて殴っていた。凄い。

「ふぉふぉま…!」

もう一度言おうとした時。

私の横に二人がいた。左に巴さん。右に澪さん。ほんの一瞬だった。

見ればもうさっきの場所に姿は無い。

『やかましい!』

巴さんの蹴りと澪さんの拳を受けて。

エースはどこかに吹っ飛んでいった。打撃で人が星になるのを生まれて初めて目にした。

「ふむ、こんなものかの。ちと、やりすぎたか」

「いえいえ、若様への非礼は万死に値しますから」

「ま、そうじゃの。これにて一件落着じゃ!あっはっは♪」

「ええ、結局半殺しの数は私のほうが上でしたしね。うふふふ♪」

ぴたりと巴さんの笑いが収まった。

あれ、もう戦いは終わり、なんですよね?この剣呑な空気は何?

「何を寝ぼけておる。確かに澪もがんばったが私のほうが3人ほど多かろう?」

「あらあら計算は苦手でした?私のほうが2人多かったですわよ?」

「ほう、1+1もわからんとは恐れ入る。良いか確かに儂のほうが上じゃった」

「いいえ。私です」

二人は私を挟んで言い合いをはじめた。怖い。だってこの人たち小指一本でも私よりも絶対強いし。

「あ、あのう。それはとりあえず置いておけば…」

たまらず口を挟む。せっかく助かった命を二人のいさかいで失いたくはない。

「おけるか!」

「おけません!」

「ひ、ひぃ!」

巴さんは即答した後で私をまじまじ見る。なんだろう、何されるんだろう。

「娘、トアとかいったな。良いか。儂はこんなこともできるんじゃ。儂の方がたくさん倒したと思うじゃろ?」

そういっていつ抜いたのか剣を一振り。

屋敷の外を囲っていた高い壁が轟音を上げて崩れていく。え。これ、今?

私は恐怖のままに首を縦にふる。

正常な反応だと思う。

「なっ!……ねえ、トアさん?私だってその気になれば、えいっ。……ね?私の方が活躍してましたわよね?」

細い道の先に見えた町の建物のいくつかが一瞬に闇に食われて無くなった。この距離で、えいっの一言で!?

私はまた恐怖のままに首を縦にふる。

正常な反応だと思う。

「…っ!ほう、あくまで勝負するか?」

「あら、第三者の目で判断してもらっただけですわ?」

「はははは」

「うふふふ」

バチバチバチィィィ!

視線が青白い火花を起こす。

私はものすごく悪い予感がした。したけど、もう、止められる気はしなかった。

「おい、トア!儂じゃったらな!?」

「いいえ、、トアさん!私ならば!?」

そういって二人の正体不明の二人は何十年と続いた最果てのベースを。

ひとつづつ涙目で笑う私に見せ付けるように破壊していった。

それはもう。すごいの一言で。

対抗するすべての勢力はお空の星になり、ほとんどの建物は藻屑となった。

そこには数々のクレーターと瓦礫。

そしてなぜか一軒だけ残された町一番の高級宿が残り。

その地点で二人は妙な笑顔でがっしりと握手をした。

嵐は、過ぎた。

全てを呑みこんで。

そして私たちは宿の入り口で奇跡的に助かったであろう妹を保護して。

”若様”というこのお二人の仕えるナニカに対面することになったのだった。




~side真~

「無い、無い、無い、無い!!」

全てを聞いた僕は跳ねるように窓に駆け寄ると、そこから外を見る。

何も無い!本当に無い!

戦場跡地になっとる!!

部屋から出る。

何人か人が座り込んでいるが構わずに反対側の部屋に突入する!

窓、景色、一緒!

ダダダダダ!

部屋に戻る!

二人を見る!

目が合わない!

怒鳴りまくりたい気持ちでいっぱいだった。けど妙に冷静な部分があったのか思いとどまる。

辺りを見渡す。

リノン!そうかそれでこの表情か!

とにかく彼女のほうを向く。

[無事で、よかった]

その一言を見せると、リノンは僕に抱きついてわんわんと泣き出した。

そりゃあ、そうだよねえ。

宿にいたのが幸いとはいえ、目の前で町が無くなっていくのを見せられて、その二人に連れられて姉が帰ってきたんじゃあ。

ひとしきり泣くと彼女は寝てしまった。緊張の糸が切れたんだろう。

僕は冷静とはいえ怒りは抱いていました。リノンが切ったのが緊張の糸なら僕が切ったのは自制の糸ですよ。

なので…。

荷物からドワーフに作ってもらった特製の矢をひとつ出す。

オークからもらった間に合わせの弓を手に取る。窓を開ける。

矢の羽の部分に2本紐をしばる。

巴と澪の衣服に両端を縛る。

無言、ただ無言。

そして弓矢をつがえ…

「ちょ、ちょっと若?」

「あ、あの、これあぶな…」

二人は我に返ったようだけど時既に遅し。

「飛んで反省してこいやーーーー!!!!!」

「ふおおおおおおおおおおおおお!??」

「わきゃあああああああああああ!??」

キラーン、と二人が飛んでいく。

せっかく撒いた噂も何もかもめちゃくちゃにしやがって!

一体これからどうすんだよう!!

服が着物が!とか聞こえたかもしれないが無視した。

駄目だ、このままじゃ絶対駄目だ!いつかテロリストになれてしまう!いや、もうなってる!バレたら隠せない、どうしよう!ああああああ!日本語が変だ!

巴、あいつは取り合えず別行動させよう。澪とのレベル差をつついてやれば多分自分から言い出すだろう。武者修行とか大好きっぽいから。適当に何か命じるんだ、そうするんだ。

澪は巴に比べればまだ従順だ。扱えないことは無いし暴走も様子からわかるから制御しやすい。彼女を護衛にして、早く、とにかく急いでツィーゲって街まで行こう。

途中のベースは可能な限り駆け抜ける。巴さえいなければ毎度トラブルになることも無い、はず。

そうだ、そうしよう。急ぐんだ安息の地まで!

何とか無事な人たちを集めて。

気持ちを少しだけ冷静に出来た僕は辛うじて。

ようやく一言だけ書くことができた。

[次の町まで送ろう]

と。

……やっちまった!!!!
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