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もう数編でようやく序章も目処がつきます。
そこまで進んだら一章の構成を済ませて文章にして。
適当な長さに区切って…。
何とか初めの中休みとなる序章終了まで見えてきました。
もう少しですのでお付き合い下さいませ^^

ではどうぞ~
序章 世界の果て放浪編
……なにが起こった
宿に戻る。

当然のことながら刺客のお姉さんがいない。

目覚めて拘束されることもなく、さらには見張りもいないとなれば逃げない奴はいない。

でかいベッドに身を投げ出して大の字になる。手の先も足の先も寝台の端にはまったく届かない。

昔から考え事する時はこの姿勢が多い。そして途中で寝ることも多い。ま、余談ですが。

体は深く深くマットに沈みこみ、かえって落ち着かない。

こんな贅沢な考え事は初めてだよ。

リノンはいない。一度家に戻る、と言って制止もきかずに出ていった。

嘘だろう。姉もいない家に彼女一人戻るなんて考えられない。

僕はこうやって寝転びながら彼女の動向を界を使いながら追っている。魔力の感知も受けず、気配を悟られることもなく。

今リノンは宿から数十メートル先で人に会っているが、この距離だと意識を集中させると会話の内容までばっちりわかる。

僕が月読様からもらった力は実に便利だ。取説とりせつがないのが玉に瑕だけど。

「それで、あいつらの身元はわかったのか?」

首を横に振るリノン。

「だめ、どこかの商会の跡取りってことしかわからなかった」

「なんだ、それは。それじゃあ商人ギルドの奴の情報とさしてかわらんじゃないか」

仕方あるまい。出会って一晩の子供にどこまでぺらぺら喋ると思っているのか。こいつは馬鹿か?

「で、でも。馬車が襲われたとかであんまりお話もできなくて…」

「そういえば捕らえられた奴が一人戻ってきたな。今魔法関係の小細工を洗っているが何も出ていない。どういうことだ?」

「朝起きたときにはお連れのお姉ちゃんたちはもういなかったの。それで私はお兄ちゃんと交易所に出かけたんだけど」

「連れか、確か出鱈目なレベルの奴だとか。緘口令があるのか詳しくは聞けなかったが眉唾だな…それで?」

……なるほど、一応は口止めがされるのか。そして眉唾。確かにな、あはは、ふぅ…。

一応、まだ情報があんま漏れてないのは嬉しいっす。

「そのままベッドに寝かされていたお姉ちゃんが帰ってきたらいなかった」

「はぁ???」

「それで家に戻るって言ってでてきたの」

「とんだ間抜けだな、そのぼんぼんは。拘束もせず、見張りもおいていなかったのか」

うるせー。素直に信じてくれるのは有難いけど何か腹が立つ。

にしても…リノンの様子と男の態度から見ると、ひょっとしてこの人ら本当に”救えない”人か?

「ふん、荷については?何か聞けたか?」

「それが…よくわかんない」

「あぁ?いいから話せ」

「ここから二~三日くらい進んだところで深い霧に呑まれて魔物の集落でもらったって」

「……」

「ほ、ほんとだよ!?だってお兄ちゃんがそう言ったもん!値段もどうでもいいって!」

男の沈黙に危険を感じたのかリノンは必死に弁明している。協力関係にある二人ではない。僕は断定した。

「値段がどうでもいい?」

「夢みたいなものだから売れさえすればいいって。交易所のおじさんたち金貨500枚で買うって」

「500!?」

男の声が裏返る。とことんレベルの低い御仁だなぁおい。

「う、うん」

「捨て値底値でそれか。こりゃあとんでもない連中かもな…。だが、500ねぇ」

男が下卑た顔を浮かべる。リノンの嫌悪がわかる。

それにしても、やっぱり捨て値、か。それであの金額。つくづく恐るべし。新種と判断されたから高額で売りつける以外の用途にでも使われるんだろうか。

「ね、ねえ!お姉ちゃんに会わせてよ!色々聞いてくれば会わせてくれるって言ったよね!?」

「おいおい、そりゃあちゃんと調べてきてから言う言葉だろうよ。これじゃあお姉ちゃんとはもう会えねえな」

……クズが。

小さな子供捕まえて、馬鹿な仕事させて。

殺意が沸く。

ここからでも魔法を叩き込めそうか真剣に考える。

いけるな。

やるか。

詠唱を始めようとして。すぐに思い直す。

ち、いまやるとリノンの目の前で人が死ぬか。いきなり人が目の前で死ぬのは流石にトラウマになるな。

くそ、少しだけ命拾いしたね。

リノンは男に食い下がり、何度もお願いをしている。再び灯る殺意を深呼吸をして押さえ込む。

「そこまで頼まれたら仕方ねえな。最後に一仕事しな。それで姉ちゃんを返してやるよ。借金もチャラにしてやる」

借金、か。どうせ元は二束三文のはした金だろうに。

「!!そんなことできるの!?」

「ああ、簡単だ。いいか…」

そういった男の提案は下衆極まりないものだった。

当然リノンは断る。

だが……。

僕は界を解いた。

結果はもうわかってたし、それに直接の言葉を聴きたくなかったから。

あいつの話が本当なら、多分リノンの姉さんはまだ生きてはいるのだろう。

嘘だった場合は僕の人生で初の拷問から殺人のコンボが成立しかねない。

巴を擁護するわけではないけど、僕も少-しだけ暴れようと思って休むために目を閉じる。

後は従者の二人が帰ってきてからの話だ。やることもない。

それに、リノンのことを思うと僕は寝ていたほうが都合が良いだろう。

そろそろ、45分地点だね。

深く息をついて僕は眠りに落ちていった。









騒がしい。

ああ、そうか。僕は寝てたんだったな。

リノンは無事だろうか。

正直、僕は彼女で今後を決めようと思っていた。

もしも次に目が覚めて従者が情報を持ち帰った後。

まだリノンが「生きていたら」少し暴れる。

そして「そうでなかったら」大暴れする、と。

「ん、おはよう」

周囲を見渡す。人が四人。

これは、ふむ、「一話目」としては幸せな展開のようだな。

巴、澪、そして似顔絵そっくりの同年代の女性に……リノン。

「若!お目覚めですか」

「若様、おはようございます」

夕方でもおはようございますなのは、あれか。睡眠を許可しなかった腹いせなのか?それとも仕事的な挨拶なのか。

従者の二人は流石に挨拶してくれる。最低限はしてくれないとなあ。人前だし。

リノンは目を逸らしている。

そしてリノンの姉は深々と頭を下げている。非常に優秀な立位体前屈である。そこまで頭下げるならいっそ土下座の方が姿勢楽なんじゃ?

姉はとりあえず無事、妹は未遂で戻ってきた、いや捕まったかな。澪だと殺しかねないから巴かな。

運の良い娘、いや姉妹のようだ。少し分けて欲しいくらいだ。

「娘、頭を上げよ」

巴に言われて姉のほうが恐る恐る頭を上げる。

[筆談で失礼する。文字は読めるね?]

妹が読めて姉が読めないなんてことはあるまいが。

「あ、は、はい!このたびはおた、お助けして、頂きましてありがとう、ございます!」

緊張しまくりながらどもって噛んで感謝される。何だ?挙動不審な人か?

だが会話は可能か。おうけい。

しかし参った。ははは、声までか。髪の色以外は生き写しと言って差し支えないな。

[好きに話していいですよ。君は従者でも何でもないのだから]

「このとおり、五体無事ですぞ若」

「多少手荒い薬物を使われていましたが洗浄しておきました」

首尾を褒めろといわんばかりの報告ですねお二人さん。実際、よくやってくれたと思うけど。

澪は密かに解毒能力を搭載していましたか。こりゃ便利。

改めて姉を見る。そういや顔にインパクトありすぎて名前覚えてないや。えーっと何だっけ?

確かリノンから聞いたはずだったが情け無い。

しかし…。

改めて不躾とは思いながらまじまじと髪の毛からつま先まで彼女を見る。

つくづく似てるってレベルじゃないな、これは。

世界が違うというのに瓜二つとは恐れ入るよ本当に。

僕よりやや高い身長に。既に完成されている気さえするスタイル。胸がやや大きめ。

そして「彼女」と鏡あわせのような風貌。ただし目つきはやや粗暴、というかこれはきっと冒険者の目つきなんだろう。

荒々しく好奇心に満ちた目だ。

そして髪。妹と同じく鮮やかな赤い髪。「赤みがかった黒髪」ではない。

「長谷川、だよな」

異世界でも巴のおかげで思い出すことになった後輩。

僕なんぞに告白してくれて、しかも僕なんぞが偉そうに振って傷つけた後輩。

弓道に打ち込んでいた、熱心で可愛い後輩。

だから、別人とはわかっていても心を乱した。

思い出させられた後だったから余計に、だったのかもしれない。

「え?」

不意に元の言葉で口から彼女を呼んでしまう。微かに動いた唇と、そこから漏れた声に姉が反応する。

巴は聞き流してくれたが澪は耳をぴくりと反応させた。後で無駄に問い詰められそうな予感がするな。

向こうの名前だから別に人名とすら認識していないかもしれないけど。

[何でも。とにかく、リノンから事情を聞いて心配していたんです。無事でよかったですね]

「元は自業自得なんですが本当に助かりました。今までは上手く”やれていた”ので調子に乗っていたんですね、きっと」

己を回顧する様子の長谷川もどき。

一攫千金のフロンティアでそこそこに立ち回れていたなら確かに自信過剰になっても納得できる。

もっとも、そこに妹を連れてきているのはいかがなものとは思うけどね。

なにせたった一度だけの失敗で妹は乞食みたいな格好で夜の町をふらふら、姉は薬うたれて命の危機、なんだからさ。

[ここは相当に危険な場所のようですね、外はもちろん、内側も。私も連れが優秀なので何とか生きているザマです]

苦笑交じりに彼女に応じてやる。

実際、この二人のレベルは奇想天外そのものだからなあ。

話にあがった二人はこれで満更でもない顔をして表情を崩している。にへら~っとしまりの無い感じで。

まったく。

だが呆れようとした僕は二人が話題にあがった時の長谷川改とその妹の様子の変化に気づいた。

姉は感動、妹はすくんだ様子だ。

「お二方の強さは本当に凄まじかったです。まず、私たちが監禁されていた部屋に音も無く現れた隠行のすごいこと!」

「いやいやそれほどでも…」

「闇の術を使えれば然程のことでもありませんわ」

だから表情緩いんだよ、お前ら。嬉しそうにも程があるわ。

「そうです!そして闇魔術です!私の体内の毒を打ち消してくださって、そして返す手でコーティングされていたドアを無詠唱の術で瞬時に破壊!」

コーティング云々はともかくとして解毒は本当にすごいよなあ。今度教えてもらおうかな。ドアを破壊はやややりすぎな気もするけど、相殺でプラス評価だね澪。

しかし、それにしては。姉が帰ってきたリノンの様子に説明がつかないね。

多分、あの男にお金を盗んでくるように言われて、渡す前か後か知らんけど二人のどっちかに捕まったんだろうが…。

ばつが悪そうのは何となくわかる。

でも彼女の本当の目的である姉の生還が果たされたんだからもう少し浮いた顔しててもいいと思う。

思いつめた表情でじっと何かを堪えているリノンは身じろぎもせず俯きがちにしていた。

「さらに見張りと、詰めていた傭兵たちを巴様が素晴らしい体術でバキバキッと…!」

お?

なにやらコトが隠密のそれを逸脱しかけているような…。大袈裟にいってるだけか?巴には注意したばっかだしな。

「!!お、大袈裟じゃよトア。そこまでのことは…」

悪戯がばれた子供のような表情の馬鹿が一人。制止しようとするも僕が逆に目で巴を止める。そして額に汗した澪の姿もきっちり確認。

僕が促すまでもなく興奮状態の、トアというリノンの姉が話を続けてくれる。

「何が大袈裟なのですか!私、あんなの初めて見ました!!対魔防御も施された特装素材の建物さえ巴様の剣と澪様の闇で見る間に姿を失っていって…!」

あわわわわ、と二人が口元に片手、トアさんのほうに片手というわかりやすいリアクションをして震えだした。

「ここのギルドレベルの最高レベルであるエース率いる五十人からの冒険者と傭兵の混成チームを蹴散らし…!」

……うおおおい!?

なんだ!?何がおきている!?まさか寝ている間に一時間終了で次回予告くらいの勢いになったりしてる!?

仮面があって良かった。きっと素顔は色んな表情を繰り返してみれたものじゃない!あれ、僕泣いてるかな?

そんな心情はいざ知らず。

トアの言葉はそれどころではない真相を僕にぶつけてきてくれたのだった。
ご感想、お待ちしています。
とシンプルに済ませてみる。
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