今回は二番目の仲魔、澪の視点です。
色々いじってたら投稿が遅くなりました。すみません。
ではどうぞ。
戻った私が見たのは幾分かお疲れになったご様子の若様と神妙な面持ちをした巴さん。
奥の部屋で寝息が一つ。先程連れてきた女の子でしょうね。
お二人の向かいでベッドで腰掛けて敵意を剥き出しにした女。
巴さん、若が尋問するのなら男性を選ぶべきでしょうに。
となるとこの黒布の衣服に身を包んだ女性は…あの不味い二つの連れですか。
あれは不味かった。闇に食わせても尚不快だったわね。
ナイフとフォークの練習にもなりゃしない、っとこれ以上は表現を控えないと若様に怒られそうです。
尋問とはいっても私にはあまり関係ないお話になりそう。
まだまだ世間の勉強中ですから、どうにも人の情の機微が掴めていない私には取引は難しいでしょうし。
苛々して食べてしまっても若様にも巴さんにも不興なだけでしょうから。
ただ、若様の見たことのない無表情には少し興味がありますね。避けたいという意味合いで。
一体どんなやり取りがあったのやら。
「巴、やれ。できるな」
「は。おそらくは」
短いやり取りで巴さんは捕虜の身体を霧で包みました。いくらか身じろぎするのがわかりますが、さした抵抗も無く身体が揺れ始めてベッドの上に倒れました。
睡眠の魔法、でしょうか?でもそれにしては霧が停滞したままですわね。
「若、これで表情はわかりますかな?」
巴さんはどこか確かめるような口調。
「問題ないようだ。この状態で言葉は通じるようにできるか?」
どこまでも無表情。初めて、見るお顔。こんな表情を若にさせたであろう女に少し殺意が湧き出てきた。
「私が通訳して伝える形になりますな」
「構わない。始めるぞ」
二人はどちらも私の帰還に気づいていないようだ。理由は、恐らくは若様の重圧。殺意も怒りも無いがどこか、有無を言わせぬ圧。
「しかし、これは諜報の自白と変わりませんな。味気ない」
この状況でも軽口を混ぜられる巴さんは大したものです。
「いらん。これはお前好みじゃないだろうが仕事人ってやつの流れだ。脅しだろうが薬の自白だろうが問わん」
「……はい」
「お前がいて助かった。自白剤が不要なのはありがたい。拷問なんてやり方も知らないしな」
冷たくも暖かくもない。
淡々とした声。若様のいた世界では人は中々死なないと聞きました。
だからきっと人の生死に触れるときに若様はきっとお悩みになると思っていましたが。
……もしかすると。
いえ、それがどうあれ私には関係の無いこと。
支配の契約無くとも私は肉体の一欠片から魂の一片までも既に若様に捧げた身。
この充足も多幸感も全て若様あってのもの。
その他一切はただの些事に過ぎない。
うん、そうだった。当然のことを再確認した思いだ。
二人は淡々と尋問を続けていく。
話から察するに自白を促す何かをしたようでスムーズだった。
大抵のことを聞き出したのだろうか。二人は深く息を吐くと霧を解き、顔を見合わせた。
頃合、でしょうか。
「お疲れ様です、終わりました?」
「っと、ああ、澪か。まあね、そちらの首尾はどう?」
若様は一瞬は驚かれたようですがすぐに穏やかにこちらに応じてくれた。いつもの御様子で。
「もちろん終わってます。大変不味かったですけども」
ちらりと巴さんを見てやる。苦笑しながら謝罪の言葉を口にする彼女。
「助かったよ。ほんっとに見事に巴の大好きな展開になりつつあって参るね」
巴さんの…。
確か「かんぜんちょーあく」という奴ですね。詳しくは聞きませんでしたけど。
「いやいや、今回はこれで尾行してズバッで終わりでしょうから、その、あまり面白い回にはならないようで」
巴さんの言動が半分も理解できません。
わかるのは精々後数日でコトが終わりそうだということくらいでしょうか。
「では、動くのは明日以降ということでしょうか」
尾行っていうのは多分、この黒衣の女のこと。なら今夜はこれで終わりでしょう。
後は…と、伽、ですね!?
ああ、胸が、胃がときめきます!!
「あ、あら!?あの若様これは?」
幸せな考えに沈む私に一枚の紙切れが見せられました。
炭をペンに使った絵、でしょうか。にこやかに笑う若い女性が一人。
胸から上を描いた、わかりやすい似顔絵。結構上手。
「あの子のお姉さんだ」
若様から人物の正体を教えられる。ああ、そうか。この娘が。
そもそも、若様と私があの少女を連れてきたのは行方不明の姉のことを尋ねられたのがきっかけだった。
そのときに微かながら少女を見張る気配を感じて、若様が少女を連れてくることに決めた。
もっとも、少女を連れて宿に戻るあたりで気配は消え去ったので泊める必要まであったかはわからない。
だが若様の判断が泊める、というものなら私に不満など無い。
「この娘の居そうな場所の見当はついた。それで、二人には悪いけどすぐに探しに出てくれ」
……は?
ええと。これは、その。寝ないでということになる?
「わ、若!?夕飯も無く睡眠も無しと仰るので!?」
巴さんの反論が実に的確です!
「そうだ。君ら別に毎日きっちり寝なくても大丈夫だよね?」
う、うーん。確かに悠々と数ヶ月、あるいは数年のスパンで寝たり起きたりが普通ですけど…。
若様の使い魔としては、主の生活時間に合わせて生活したいのですが。
それに……。
「それは、その、そうなんですけれど」
「若、私は寝たい!この体になってから睡眠の心地よさに目覚めたのじゃ!」
巴さん、すごく直線。でも同意。人型になってからというもの、数日ではありますが眠るという行為がこうも気持ちの良いものになるとは。
「巴、さっきの尋問でわかったとは思うけど、この娘さんが無事でいる保証すらない。場所はお前がわかるはずだし、二人なら大抵のことに対応できるだろ」
「保証がないほどの状況なのに、急ぐんですの?」
ふと気になって疑問を口にする。だけどこれは失言だったみたいで、若様の目がまた、先ほどの無表情に近い物になった。
「澪、僕は出来ればあの娘の姉を無事に救ってやりたくてね。頼むよ、無事なら保護して連れてきて。もし駄目でも結果を可能な限り早く伝えて。いいね?」
コクリ
私は神妙に頷く。居心地が悪い。若様のこの目で見据えられるのは、嫌だ。
興味を失ったかのような無機質な視線。この方から無価値とされ、興味すら引けぬ存在になるなんて私には…!
目で巴さんを追えば彼女も緊張した様子で首を縦にふっている。
「悪いね、明日の交易所には僕とあの娘で行くから気にしないで。君たちはとにかくその娘の安否を確認すること。人手が無いんだ、お銀さんも矢七もやってもらわないとな」
「そういうことなら、仕方ありませんな。黄門様は困っている人を保護して報告を待つのが仕事ですしな。澪、行くぞ」
巴さんはなにやら納得しています。私にはよくわからないやり取りだ。
でも、場が少し緩んだのはありがたい。
若様は穏やかなほうが良いし。少し巴さんに感謝する。
「ああ、それと」
連れ立ってドアから出ようとしたところで巴さんが振り向く。
「なんだい?」
良かった、若様はいつもの感じで話してらっしゃる。
「この件がうまく片付いたら…私は、その、自分のこと『儂』って呼びたいんですが」
若様から気が一気に抜けたのを感じた。
私にしてもそうです。そんなの勝手にすればいいのでは。
「べ、別に勝手にすればいいと思うけど。むしろ、何で聞く?」
まったくです。
「や~儂って方が性に合ってるんですが、やはり立ち位置として儂は無いんじゃないかと。これは黄門様の特権な気がしましてなぁ」
「……勝手にしてよし」
「おお!感謝しますぞ!!では!!」
思い切り表情を崩して礼を言うと巴さんは部屋のドアを開けて、私は彼女に続いて宿を出る。行き先は彼女が知っているだろうから私は付いて行くだけだ。
外にでた私が一つ気になることがある。
幸い、今は彼女と二人だけ。時間もかなり遅い為か人の出歩く姿も無い。
「ねえ、巴さん。若様、大分荒れておいでのようでしたけど何かありました?」
「わからん、お前が戻ってきてくれたおかげで話が進んで正直助かった。この似顔絵な、お前も見たじゃろう?」
「ええ、私たちが連れてきた女の子のお姉さん」
「そう。それじゃ。あの娘、絵を描くのが得意じゃというんで姉の絵を描かせたのよ」
「それは、あの齢で上手だこと」
まだ十歳だとか聞きましたが。
「うむ、だがそれからなんじゃ。若の目が、こう、スゥッとな、感情の無い、じゃが妙に重圧のある目に変わっての」
少し思い出す。そう、あんな静かな重圧は感じたことが無い。
「お知り合い、とか?」
「それは完全に無い。若はここに友人はおろか知り合いの一人もいないはずじゃ」
含みを持たせた口調ながらも巴さんは私の推論を完全に否定した。
「……巴さんは若様のこと、本当によく知っているわよね。そんなに知り合って時も立たぬというのに」
若様の話によるなら、出会ったのは確か私と数日くらいのズレしかないはずなのに。
「まあのう。私の場合はちょっと特殊じゃが」
「聞いても?」
「ああ、構わん。私は幻を操るんじゃが、その過程というか副産物というか、はたまたまるで別の能力なのか」
「……結論は?」
「要は相手の記憶を見れる。そして見た。そういうことじゃな」
「見た!?若様の記憶を!?従僕たる貴女が!?」
「その時はまだ敵じゃった。お前のときのようにな」
ぐ。そういわれると確かに。出会いは襲撃でしたけど。
なんて羨ま、いえ不敬な。
「で、若様は一体何者?」
「それはお主が自身で若に聞くことじゃろ。そこをお互いに知り合ってこそ信頼も深まろうというもの」
「う、それは正論ですけどなんかずるい」
「今は私も見れんしな。ちなみにお前の記憶も見れん。若のは一部許可をもらったがな」
私の記憶……。本能のみだった頃の記憶も、あるのだろうか。
「なら、前に見たっていう記憶にあの娘の情報は?」
そう、記憶には多分あるはずだ。
でも、巴さんは首を横に振る。
「流石にそんな細かいことはわからん。契約の後で封印した部分も多い。禁止されていない記憶は見れるからその中にあるのやもしれんが、どちらにせよ確実なのは」
前を歩く彼女が振り返った。
「私たちが娘の保護以上の結果を持って帰らん限り、若はあのキツイ雰囲気のままでしばらくいるということじゃろうな」
それは確かに大事です。
あんな雰囲気で旅を続けるのだけは正直勘弁願いたい。全力で阻止したい。なるほど、言わんとする事はわかりました。
「わかりました、余計な詮索よりも目の前の任務を確実に、ですわね」
これからの為にも。
闇に溶ける術を軽く纏いながら私は楽しい旅の継続の為に任務に臨むのだった。
章管理で番外編を分離しました。活動報告で詳しく書いておりますのでよろしければ覗いてみて下さい。
澪にとって真は価値判断の基準そのものです。倫理や常識は次点以下です。
とても危うい性格の彼女ですが今後、日々の成長で人並の自制は覚えていく予定です。
しかし、何気に女性キャラに設定しましたが、これ男キャラにしなくて本当に良かったなあと思います。書いてて悶えそうなので。
では次回投稿まで少し間が空いてしまうかもしれませんが、その時まで失礼します。
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