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短いです。3000字前後。

ご飯抜きの夜のお話であります。どうぞ^^
序章 世界の果て放浪編
その夜の巴
まったく。若はもう少し優しくなっても良い。

あれでは歴代黄門様の中でも意地悪爺さんの部類になってしまうぞ。

私はどちらかというと知的で聡明な黄門殿が好みなのだ。

そう考えると若の記憶の新しいほうの配役は中々好みじゃな。

後、もう少し御自分から厄介ごとに首を突っ込む好奇心が欲しいところ。

ギルドの一件にしても市場の件にしても、若は両方感づいていて無視しようとされていた。

あれでは事件が起こらずに終わってしまう。私の機転がなければどうなっていたことか。

それでは良くない。世直しができぬ。そして「些事ではあるが」刀も抜けん。

折角形だけのものとはいえ、エルダードワーフ、長いの、略してエルドワたちに作らせたというのに。

澪は良い具合に阿呆全開で役どころを踏まえた振る舞いをしてくれているのだ。まさにあれこそはハチベエさん、うっかりを標準装備とは侮れない奴よ。

後は若が真剣にやってくれれば何一つ問題なく世直し道中世の果て編が始まるのだが。

馬車の中で気配を潜めて荷の番をすることになった私。

飯抜きという不遇ではあるものの、今夜一番展開が期待できる場面でもある。

そう考えると、ふむ、若の采配には感謝すべきか。

大体、私はまだ米の生産については調査中だし、箸の扱いもまだ満足の良くレベルではない。刀にしても詳しくは調査中、今帯剣しておるのは刀の形をした切れ味重視の片刃剣。

刀鍛冶の基本的な方法を精査している最中なのでこれは仕方ない。若は親御殿に連れられて何度かセキという街のハモノマツリなる催しに泊りがけで出かけておられた。あの辺りの記憶の仔細と、関連する知識を調べてみようかのう。

若が雑多な知識を多く所有する方で本当に助かる。興味があると知りたがる方のようだ。一通り調べる段階まで一息にやっている癖は実に私にとって都合の良い習慣。重ね重ね感謝じゃの。

懐のMy箸も使うにはまだまだ未熟。

やはり最初は和食で試したい。そしてゆくゆくはナイフとフォークに並ぶ箸捌きを披露するのだ。

スパッグサッと華麗にのう!

やはり和食に特化したオークでも育てておくべきかもしれぬ。いざ和食を求めた時、若に作らせてしまうのは流石に下僕としては心苦しい。

ふと荷物を見る。

我らの亜空世界にあった果実だ。なんでも若の世界の食べ物そのものらしい。故に食べられるかどうかの判断は若にしてもらった。

どれも生命力に溢れた、瑞々しいものばかり。味もすこぶる良い。

若のいた超絶過酷世界で自生できるだけのことはあるらしく実に力強い。

ふと戯れに若の話と記憶からその世界の負荷を亜空に再現してみたら、今の儂にして何とか「這えた」。

何せ外気魔力はゼロ、内在魔力の放出も叶わん。元の姿なら自重のみで圧死できたな。

大量に実っていたものからいくつかの種類を今回積んできたが今のところ傷んでない。ピチピチなままじゃ。

「む、動くか?」

頭数を完全に把握し、尚且つ動向までも掴めている存在のいくつかが組織だった動きを見せ始めた。

人の動きの熟練度など、久しく彼らに触れていない私には到底正確には測れないが……今夜の連中はどうも荒いようだ。

それなりの、連携というやつであろうか。

だが、私という存在は上位竜種に数えられるわけで、当然挑んでくる者も一流に属するのだろうだから。

そう考えると彼らは中々腕利き、なのかもしれぬ。

これは考えねば。

私は刀を振り人のように戦えることに喜び憧れている。

しかし、この身は若との契約によって「成った」姿だ。

以前の私よりも遥かに力が増しているといって相違ない。

若はドワーフにわざわざ抑制の為の道具を作らせていたが私はそういった対策はしてない。

考えてみれば若とした組手というか手合わせも、相手が若では正直参考にならないではないか。

澪とのやつもカウントに入れないほうが良いな。

となると…哀れな。

こやつらが手加減の練習になるわけか。

二人は見張り、四人で窃盗か。

ありがたい。

若からは皆殺しとかは本気で勘弁してくれ、とそこそこ本気の目で訴えられた。加減を違えても二人は何とか生きている計算になる。

四人のうち、二人がさらに先行してきた。

馬車に乗り込もうと手を掛けてくる。頃合いか。

闇の中音も立てず。

私は刀を手に馬車の横に立った。

「これこれ、我々の馬車に何用か?」

極めて陽気に話しかけてやる。

一斉に動きを止めて私に視線が集まる。ついでに殺気と警戒も。

陽気な声に動揺を誘う意味合いなどなかったが、そんなことを考えるのは今更無意味だったであろう。

私の目は戦いへの興奮のせいで黄金の蛇の瞳がごとく。爛々と彼らを見据えていたのだから。

「……」

無言か。目だけで会話し頷く仕草が伺える。

交渉の余地は無し、か。良いぞ、問答無用というやつじゃな。浪人風情が!

見張りは動かず。

馬車に近い方の2人の手に短い煌き。遠いほうの二人の手から無音で何かが放たれる!

至近距離の2つの刃の一つを受け、一つを避ける。飛来する物は鞘で弾く。

軽い、そして遅い。

まるで話にならん。

次の刃を届かせようと、回避した方の短剣が再び横から迫ってくる。まさに蹴ってくれといわんばかりの角度で。

望み通り、体重はほとんど掛けずに速さだけで放った蹴りを武器を持つ手にくれてやる!

鈍い音と同時に人が空を飛んだ。

思いっきり手加減したのだが…確実に折れたのう。刀を振るうのが少々まずい気がしてくるが、試しておいたほうが良いのは事実。

「ふむ」

武器狙いならば問題ないかのう。

「なっ!」

距離を開けようと軽く後方にステップ。同時に手に短剣をもったまま驚きで放心して固まっている男、その刃部分を狙って横薙ぎを一つ。

まったく反応できていない。おそらく私が後ろに跳んだ事すらわかっていまい。消えたとでも感じているかもしれない。故の驚きと硬直か、未熟な。

彼の声は突然甲高い音と一緒に短くなった自身の獲物を見て驚いただけだ。

まるで斬った感触が無い。思ったよりも武器と身体の性能が良すぎる。エルドワどもめ、本気で刀を作らせたときが楽しみじゃのう、くくく。

となると…

ドサッ

ん?なんの音だ?

見ればそこには。

先ほど驚愕の声を上げた男の胸から上の「部分」

元の場所には剣の切れたラインから上を身体ごと失った無残な身体が、あった。

なんと、これほどか…!?

いかん!動揺の波が残りの四人に伝わるのがわかった。これでは話せるやつが残らずに四人に逃亡される。

尋問ができなくなる!!

見張りはもうだいぶ距離をとられた。これでは騒ぎが大きくなりかねん。

仕方ない。捕らえるのは中衛二名でよしとしよう!

刀を反対に持つ。若に言われたように逆刃刀というやつを作ってもらうべきだったか。

臆面もなく背を向けて逃げる連中、一人は女か。顔まではわからぬな。布で顔を覆っておる。

どうせ捕まえるなら女のほうが若が喜ぶかの。一目で女と分かるほどでかい胸。黒装束には違和感のあるスタイルじゃの。

別段優れた容姿でもない者にも美人を連呼しておったからのう。余程女に飢えておられるのかもしれん。

の割には伽を求められたりせぬな。不思議な御仁じゃ、若は。

待て!

女を捕まえた場合、若にまた悪代官呼ばわりされやせんか!?

いや、若ならする!

くうう!なんと巧妙な罠じゃ。若を思う私の気持ちを利用しようとは。

流石は若。ん、いや?なにか違う気が…。

まあ、細かい事は後じゃな。とりあえずは女のほうは逃がしてやってもう片方を捕らえるかの。

少し力を込めて大地を蹴る。あからさまに速度が違うため追いつくのは容易。

胸の無い黒装束の目の前に立つと一息で柄をみぞおちに叩き込む。

少し距離を開けて駆けていた一人が振り返るが、けん制のつもりで刀を一振りしてやる。

奴も先ほどの光景を見ていたであろうからな。

明らかな過剰反応で逃げていった。

ふふん、我ながら鮮やかな手並みじゃの。

これでこの男から情報を聞き出せば。

このベースに巣食う悪を一網打尽!のはじまりはじまりというわけじゃな。

ふふふ、きわめて順調!なのじゃ。
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