いきなりですが、タイトルを考えるのが苦手です。
自分で付けておいてなんですが、真君が平穏に過ごしたり街に行きたいと思うのは平和や幻を手に掴むほど難易度が高いのかと。
まあいいか。そのくらいの方が話になるだろ。
では諸処パロディ、最強とかファンタジーとか大丈夫な方お進み下さい。
どぞ。
※7/16……指環の名称を「シルマリル」から「ドラウプニル」に変更しました。
序章 世界の果て放浪編
立て直す、と書きまして泥沼と読みます
さて困りましたよっと。
言葉、通じない。
日本語と同じように話してこれまで不自由も無く。
オークもドワーフも蜘蛛の方々もOKだったしさ。
それに巴と澪も悪いんだよ。あいつら契約の後はすっかり人間風味になったものだから言葉は大丈夫だと思うじゃない?
いや、違うか。
そもそも魔物と話せることを納得するよりもだ。人と話せないってことの方が絶対予想外。
ありえません。はい。
とても悪い予感がしたけど、巴たちに頼んで共通語ってやつを話してみてもらった。
わお、わかりません。地味にあいつらが話せた事に傷付いた。特に澪、どうして話せるんだ。天才か。
初めて外国人に話しかけられた時を思い出したね。ちなみに僕、英会話は何とか出来ます。専門用語が一杯出てくるとアウトだけど。それでもさっぱりでしたよ共通語。
そして実験。
今同行している、というか住まわせている住人たちから代表を出してもらい、一同に集めて何気なく会話してみました。
すると、全部理解して話しているのは何と僕だけ!
他の種族の人(?)たちは僕や自分たちと繋がりのある巴、又は澪とは話ができるけどそれ以外の言葉は曖昧な理解か、もしくはわかってなかった。
比較的優秀だったのはオークたちだった。
彼らは意外にも各種族と何とかコミュニケーションがとれていた。これからの都市運営では大きな戦力になりそうだ。
とにかく、だ。
僕は早急に共通語を、少なくとも読み聞き出来るレベルにならないといけない。
巴と澪が共通語が喋れるのは大いに助かった。
くっそーー、絶対覚えてやるからな!!
………
……
…
絶対覚える、か。
そんな風に希望に燃えた時期もありました。え、まだ言い出したのはそんなに昔のことじゃないって仰る?
極限に集中した状態でお勉強してると、そりゃあもう時空を越えるくらいの感覚になるもんだ。少々誇張したことは認める。
あのさ、この世界の共通語ってのは発音どうなってんだ?
聞き取るほうはまだ何とかなる。
それでも、わからない言葉の音を覚えて、頭の中の録音と組み合わせて意味を探る感じ。ええ、言語理解とは程遠いやり方ですが。
だって何回聞いてもステーションはステーションなんだもん! 駅ってならないんだもん!
いや、それどころか基本「あーうーえー」とか唸っている様にしか聞こえない。中国語みたく、一つの言葉に対して発音が複数あるパターンなんだろうか。
挨拶すらまともに発音出来ないのは致命的ですらあるな。
実は、初めて触れる知らない言語でも、「こんにちは」と「ありがとう」くらいはすぐに言えるだろうと楽観的に考えていた。
スパシーバとかオブリガードとかメルシーみたいにね。
やばい。これは本格的にやばい気がする。
相手の細かい感情の機微とか、こんな調子でわかるのかな、僕。
無理な気がする。
そして輪をかけて致命的なのが発音。喋るほう。
これ壊滅的。何回やってみても巴も澪も首を横に振るばかり。
しかも自分でもその通りです、と納得できるほどにひどい。
僕自身は、二人に言われた発音を忠実に繰り返しているつもりなんだけど、放った言葉は既に違っている。
その「あ」じゃありませんとかいわれてもね!?
どの「あ」ですかと押し問答になるんだよ。
こりゃあ、ダメかな。
僕なりに必死に一月頑張った結論でした。びっくりするよね、一月くらい頑張ったんだよ?
もちろん今後も学習はやめませんけど。
当面自分で話すのは諦めた方が賢明だと判断した。
ついでに単独行動もだ。まともに意思疎通できるかわからないのに、一人で動き回るのはごめんですよ。
コミュニケーションだけなら頭に構築した簡易式ミスミ電子辞書で聞き取り、そして魔術で吹き出しを描いて喋るという脅威の荒業でクリアできている。
端的に説明すると筆談だよ。
感情面の理解を、巴なり澪なりにフォローしてもらえればなんとかいける。
ん? ああ文字は大丈夫だよ? だって音は関係ないから本当にただの外国語だしね。
文字通り死活問題だったのもあるけど、一ヶ月も頑張れば読み書きくらいは出来るようになった。発音が、発音がいけないんだよ!
ふー、しかしそれ以外にも問題は山積していた。どこから手をつけ始めれば上手くいくのか、糸口が見つからない。
大体、どうして第一村人に逃げられ、町ぐるみの武力行使に遭ってしまったのか。
理由があったんです。
言葉が通じない、ってだけでああはなりませんよ。流石に。逃げていた時は正直少し疑ったけど……。
余程の警戒態勢を敷く事態が起きているか、僕が誰かと酷似していたか。
そのどちらでもなかった。調査した結果、あそこは通常の警戒態勢で、僕に似た人が凶悪犯罪も犯していないし、身に着けていた所持品に盗品なども無かった。いつもの、何変わることのない日常だった。
信じられないけど、認めたくもないけど、原因は僕自身だった。
なんでも僕、凄い魔力を垂れ流しにして歩いていたみたいです。それも普通の人がみても「そう」と判るほどタダモノではない尋常じゃない量の魔力を。具体的には周囲数十メートル単位で景色が歪んで見える感じだそうだ。
亜空の皆さんも、僕の放つ膨大な魔力には当然気付いていたんだけど、自分達と意思疎通して、尚且つ空間を運べる竜を下僕にしてその見た目はヒューマン。本人も魔力の漏洩を気にした様子も無い。
それで突っ込むところではないと考えたようだ。
……お願い、気にして? そんで突っ込んで?
最近、オークの中でも特に社交的になって周りとの楔になりつつあるハイランドオークのエマさんによりますと。
出会った時には魔力は感じませんでした、とのこと。中に閉じ込めていた感じなのかな。
身清めの洞窟で魔術を教わった時から、魔力が漏れ出すというか蓋が開いたように溢れ出すのが判ったとのこと。
それから、巴に会った後に洞窟に戻った時。彼女を連れてオークの村に行った時。黒蜘蛛に襲われた時。ドワーフたちが合流した時。そしてこの一ヶ月通して。
僕の魔力は、勢いを増しながら絶賛垂れ流し状態になっているそうです。
……お願い、言って? 魔力、出てますよって一言ください。僕、初心者なんですから(涙
いっそ、垂れ流しだとぶっ倒れるとかの方が身に染みて理解できたってものですよ。
まるで大河の源流となる泉の如く、と従者二名は僕の魔力に感想をくれた。
この下僕クオリティに乾杯。僕はいつかご主人様ラブな冥土、失礼、メイドさんが欲しい。魔力とか色々指摘してくれる常識人が良い。そしたらこの二人と距離を置くんだ。
だけど、そう言われても、まあ凄いんだなって程度にしか感じなかったんだ。だからこの後の一言を言ったことに、僕は自分を絶賛したい気持ちになったね。
「実際、あの人らに僕はどう映ってたわけ?」
こう言ったんだ。最高だよ、僕。
「そうですなあ。まあ一言でいうと」
「おお、わかりやすく頼むよ」
巴が少し思案して僕に比喩をしてくれる。
「いきなり魔王が何人か現れたくらいじゃないかの?」
「……」
ナニイッチャンテンノ?
思考の凍結する。
……ああ、そう、っすか。
そっか。
納得したわ。
魔王かどうとかは別にして。
いきなり敵対的種族である強大な魔族がどんと気配を隠すことなく現れて。
ニコニコ近づいてきた上に、逃げる自分を追って町まで付いてくる。
そりゃあ、ホラーの領域だよね。
町の方も同上だ。警戒していたエリアの外から化け物的な魔力を垂れ流したナニカが常識的でない速度で町を目指して一直線。
第一種戦闘配置で門に構えていると逃げてくる住民、ニコヤカな僕。ただし気配は凶悪。
うむ、あの仕打ちも妥当な判断かもしれない。
すー…はー…。
大きく深呼吸。
っどーーーーーーーすんですかコレ!?
完っ全に公園デビューに失敗しましたよ僕!
しかもばっちり顔を見られて!
……もういっそ本当に魔物の王国でも作っちゃうか?
なんて割り切れたらなあ。両親の軌跡を辿りたい、なんて目標も決めたばっかりだって。
しかし負けん!
何のこれしき、乗り越えてやろうじゃないか。深澄家の長男、なめんなよ!
魔力駄々漏れ? 問題無いね。ドワーフの皆様に魔力を吸収し、高濃度に圧縮する指環を製作して頂いた!ちなみに僕以外が着けると魔力を吸われ規定値に至るまで外れないだけという、所謂ところの「呪いの封環」になっております!
だってこの仕様じゃないと魔力隠せないんすよ。抑制は自力で出来るんだけど、あふれ出しているのをずっと抑制してると結局高い反応を出してしまうらしく。
だからこの指環、魔力を蓄積するにつれて変色し、目いっぱいで完全に色を変える仕様になりました。ちなみに白から赤に変わります。希望したわけじゃなく原材料からこの染色しか無理だったとか。血染め、とか思っても言わない!
名前はドラウプニルと名付けました! いえーい。本家は腕輪だったような気もしたけど、気にしないことにしたよ。
声を聞かれた? 元々発音できなくてこちとら吹き出しだってーの。喋らねーよ!
顔を見られた? そんなもん仮面を被っちゃえば、ほら問題ない! 万能鍛冶師の皆様をなめんなよ! 顔の上半分を隠すお洒落な逸品さ!
服だって変えた。
しかもどうせ一人じゃ満足に動けないから、巴と澪を連れていくことになる。
これならもう過日の脅威と僕は絶対に重ならない!
だって仮面だし! 被れば正体の認識が出来なくなるのは世界の常識!
……。
両脇に女性二人。やや奇抜な格好。
本人。仮面を被って吹き出しで喋る。一見、呪いの指環装備。
乗り越えて、いる、のか?
むしろ全開で敗北しているような……。
だよね、負けてるよね、この選択。
でもさ。もうやらかしちゃってんだもん。ここからリカバリーとか、ちょっともうどうしたらいいのか。
ううう、こんなはずじゃなかったんだよなあ。
こう、もっとさ。冒険者ギルド(あるかわからないけど)とかに登録とかしてさ。
超人プレイで最強ぶりを披露しながら、諸国漫遊してちょこっとロマンスとか楽しんだりさ。
危ない場面を助けた高貴な身分のお嬢様を同行させながらの王道恋愛的ファンタジーとかさ。
ここからは無いわ。うん、それだけは僕にもわかる。わかっちゃう。
多分あったとしても僕の場合、人外対象っぽいな。断固拒否するけど。
巴は同行を頼んだら二つ返事でOK、次の台詞は
「三人と言いますと、やはり黄門様ですか! 若はご隠居として……私は格さんがいいですな! 澪は助さんか八べえでいいでしょう!」
とかワケ判らないこといってるし。澪はといえば
「行く先々の名物名品を食べ歩く、ああ何て甘美な。当然メインは若様で、遺跡はデザートかしら」
名物はともかく、僕も遺跡も食べ物じゃないし。食いしん坊も人と無機物は食べないよ?
つうか下僕のメインディッシュなんだ、僕。うああああ、へこむ!へこむよう!
ついでにこの剣と魔法の世界でどうして何が悲しくて時代劇をしなければならんのだ。併せてへこむわ!
「なあ、巴よ、有名だからって水戸のご老公は無いんじゃないかね?」
この世界の土台は、どう見ても中世ヨーロッパ的ファンタジーですよ!
「む、確かにサブキャラも揃ってませんでしたな。ふむ、では別の、あれは旅をしながらでは設定に無理があるし……」
いや、設定に無理があるとかお前どんだけ……。
時代劇そのものをやめろと言うに。
「いやお前さ、どうしてこう設定を時代劇から持ってくるのさ?」
「これはまたおかしなことを。せっかく刀を打ってもらったのですから振るいたいからに決まっているではないですか」
全部お前の都合か。
和製切り裂きジャックにでもなってろよ、一人で。
「じゃあ、お前ね、黄門様っていうけどな?」
「はい」
「僕は先の副将軍じゃないんだぜ? 権力がないと黄門様できないだろうよ」
である。だがこの巴という底抜けはそのさらに上を行っていたのですよ。
「ああ、その点は問題ありませんとも。最後のシーンは某八代将軍に差し替えでいけば、ほら」
なにが「ほら」か。
それだともう、ただの暴漢だろうよ?
印籠も無けりゃ葵の御紋もないんですって。
僕、先の副将軍でも当代の将軍さまでもないんですよ?
ああダメだ。僕、もっとしっかりしないと。
巴は「抜けば玉散る氷の刃! ええい寄るな! 寄らば斬る!」と言ってドワーフが打った刀を振っている。興が乗ってきたんでしょうか。
でもそれはまた別の作品です。前述のどれとも一致しませんよ~。
澪は、
「やはりこれからは量よりも質。若様の血、魔力、そして…ウフフフフフ」
こっちは僕を多分食べてる。頭痛ええ。ウフフフ、の中身とか本気で考えたくない。伽がどうとか、偶に、いやそこそこ頻繁に喚いているが蟷螂の交尾状態にならないだろうな。
命懸けとかもう、伽じゃないし……。そもそも伽って言葉は、僕が奉仕される的な表現のはずなんだ。
この二人を伴って、僕はこれから旅をするのか。
言葉の壁以上のハンデを背負った気がしないでもない。
頑張れ、僕。
負けるな、きっと、明るい未来、どこかにあるから。
なんだろ、ちょっと周りが静かになったような。
ああ、うん、そうなんだ。結局黄門様に決定した、んだ。
もうどうでもいいや。マジで。どうにもならん、じゃないんだぜ!?
ドワーフたちにドラウプニル生産ラインを構築してもらうようお願いした僕は、種族ごとのコロニーがまとまってきた亜空全体についても、代表の皆さんに当面の指示を与えた。
これで旅に出立できる。
設定相談の結果、僕は各地を回って修行中の豪商の息子ってことになりました。幼少からの病で喋ることが不自由で、かつ呪いの仮面と指環をつけてしまって各種不自由という超やっつけ設定。
どんだけ不幸のオンパレードですかね。各種不自由とか一体何なのかと。
時代劇編に比べると設定の稚拙さというかやる気のなさに乾杯だ。
二人のお供を用心棒兼従者として従えて旅をしているらしい。特に珍しい品を扱うのがウリ。珍しい品ってのは亜空に住まう人たちの生産品。ある意味、交易だなこれは。
確かに。ここで得られる物は珍しいし、これは蜃気楼都市の収入源としても優秀なのかもしれない。巴も澪もまったくの馬鹿じゃないんだよ。
思考における価値観が人のソレと著しく異なるだけで。
あ、それが問題なら一緒のことか。やっぱあいつらバカだ。
こうして。
若様と呼ばれる僕の。世界を巡る世直し珍道中行商風味がはじまった。
僕はまだこの世界の貨幣システムも知らんぞ!!
道行くそこの貴方!!
僕の下僕(のはずの)二人を止めてください!
さーて。
次からいよいよ町です。
荒野というフロンティアに臨む人々の最前線。それが当物語の主人公が訪れるアリアハンというわけです。お楽しみに~^^
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