何とか翌日の投稿と相成りました。
総合評価が100超えてました!ありがとうございます!これからも頑張ります!
それでは第二の従者と第二の住人、亜空こと箱庭レベル2の今話をどうぞ。
序章 世界の果て放浪編
箱庭はレベルが上がったようです
頑張れ、僕。
現在の理解できない事態の急変を目の当たりにして、とりあえず自分を励ましてみた。
亜空が明らかに広く、ますますわけのわからない事になっていた。
わお。
地平線に真っ黒い森が見えます。あそこは確か草原が続いていた筈だ。しかも森は近くにも出来ている。
しかも存在しなかった川が昔からあったかのように流れていて、彼方からオークの集落部分を横切ってどこかに向けて下流へと続いている……先には海があるんだろうか。
錯覚じゃない。
調べて見たけど、物理的にも広くなって地形が変わっている。遠くにあった亜空を囲む霧の壁は、今は界を使って何とか存在がわかる程度。水の流れはその先に消えているからまだ広くなるのかもしれない。
広さは北海道と張れるんじゃないだろうか。適当な事言った。でも県と言うにはここは広すぎる、と思う。
全体的には植物と水が増えた印象。ますます、日本の里でも見ているような気になる。家や田んぼは無いけど、雰囲気がね。
ど、どれだけ不安定な場所なんだよ。本当にここ、居住していて大丈夫か。
そして、僕は額に手を当てて溜息をついた。思い出したからだ。
僕はオークが用意してくれた天幕で目を覚ました。
そうしたら、横で黒髪の女性が三つ指突いていた。
僕的に物凄く気まずい沈黙の後、彼女は顔を起こす。
「ご馳走様でした、ご主人様。貴方様のおかげで生まれて初めて満腹というものを味わいました♪」
涙を浮かべて歓喜の言葉を口にする。
さっぱり状況がわからなかった。
「ちょっと、そこにいて」
何か話している彼女を無視して一方的に言うと、僕は一度天幕の外に出た。
落ち着こうと思ったわけなんだけど、そこにはさらなる混乱が待っていた、という状況。
亜空め、ただでさえ理解出来ない状況にある僕を追い詰めて何が楽しいんだ。地形が変わるなら事前に申告の一つも欲しいよ。
だけど、この事態からの逃げ場は見当たらない。時刻も遅いのか、誰も近くにいないようだし、僕は彼女の所に帰るしかないだろう。
戻るか。
「おかえりなさいませ」
話を聞ける人はこの美人さんしかいない。仕方ないから色々聞いてみることにした。
……。
彼女が蜘蛛でした。
あの変態全開の黒い奴だ。魔法は食うし、いくら斬っても再生する、その上悶える始末。
なんとそいつに、意味不明に「契約しました」と深々と頭を下げられた。
契約。言葉面から相互了解があって成立すると思っていたんだが。
実際は関係ないようだ。本当は何かあるのかもしれないけど、さっぱりわからない。
寝てる時に拇印でも問題無い感覚とか、世界のルールを疑う。あ、そうか。あの女神が決めたのか。なら仕方ない。
僕の感覚は彼女の言葉を肯定している。
繋がっているのがわかる。
わかってしまう。
解除も出来なければクーリングオフも効かないのに、随分と当事者に優しくないシステムだ。
「こうして言葉を紡げるのも、人型を取って御前に控えられるのも、飢え以外の感覚を初めて与えていただけた大恩。後生のすべて、身も心も捧げてお仕えいたしますわ」
本心、だろうな。本能の塊のような蜘蛛時代(?)からは想像出来ないけど、これは嘘ではないだろう。
それに、ここで話をこじれさせると、また飢えたこの御方とランダムエンカウントするハメになる。何度も、だ。
もうあれは嫌。本当に嫌。ガクブルってやつを生まれて初めて経験した。
だから頷いた。事実上一択である。
うおおおおおおおお…この世界、強制イベントが多すぎる、そして展開が早過ぎる!
おかしいな、世の中を上手に渡るスキルにはそこそこの自信があったんですが。所詮は一介の高校生の自信、井の中の蛙とでも言うのか。
「ところで、蜃は?」
ここが自分の天幕だってことはわかっている。
時刻は深夜、だろう。
亜空の時間は外界と合っているって聞いたし、間違いない。
「蜃ならば外で待機しております」
え、さっきは確かいなかったのに。
周囲を探ってみる。
いつの間にか、いるな。入り口近くに控えている存在、蜃に間違いない。
夜更けだというのに外で待機か。用事があるんだろうけど、悪い予感しかしないな。
あいつの持ってくるもので僕が嬉しかった例は今のところほぼない。
が。
こんな時間まで、僕が目覚めるまで待っていてくれたとなれば捨ておくわけにもいかない。
「呼んでくれる?」
「はい、旦那様」
「ぶっ!」
旦那様!? 旦那様とは何!?
さっきはご主人様って呼んでいたじゃないか! ……いやそれも嫌ですけどね?
体のラインが微妙に透けて見える薄手の黒い布を纏った女性が、音を立てずに立ち上がる。
いや~、優雅だねえ。
ではなく!
いかん、こんな従者を二人も連れて街になんぞ入ろうものなら。
目立つ。
それも超すっごく、目立つ。
改めて天幕の入り口で何か話している黒髪のお姉様を見る。
おかっぱの髪、色は漆黒。わずかに持ちあがった切れ長の目。
陶磁器を思わせる白い肌、鮮やかな唇。
日本人形を思わせる美人だ。ま、例のごとく僕よりも背が高いのだけどね。それでも蜃よりは低い。
蜃やエマの時も思ったが、どうして僕に寄ってくるのは、人じゃないんかねえ。
そういえば、三つ指突いてご挨拶されたのに、名前聞いてないな?
名無しって呼ぶか、その二って呼ぶか。
……どっちも美女に向ける、いや人に向ける名前ではないなあ。
名前、考えてやらないとな。今のままだと呼んだだけで性質がばれかねないし。
性質といえば、蜃がもし以前のように亜空に敵を引き込んで戦おうとするのなら、その為の場所を決めておかないと住んでいる住人にも影響が出る。
そうなると、ある程度は亜空について蜃から話を聞いておく必要もあるよなあ。
それに都市作りとかはまだ形にもなっていないが、大体の予定地は広さも含めて前もって決めておかないといけない。
やることいっぱいじゃんよ。もう山積み。
それにここに来たときに持ってきた荷物もそうだ。
まったくといって良いくらい活用できてない本。
なんで本なんぞ持ってきてしまったんだか。記憶を探れる蜃のおかげで、自室にあった本なんて全部持ち込んだも同然になっちゃったし! 厳選したつもりの僕は涙目ですよ…。
日記だけはペン同様に大活躍してるけど、実用性はやはり低い。
名前、調査、都市、名前、調査、都市……。
どこから手をつけるかね。
即効で片付けられるのは名前だね。よしじゃあここからだ。
次いで近場の亜空だけでも詳しく調査して、この世界の実際の街並みをいくつか見て。それから亜空の都市作りか。
まあ、都市の周囲にオークや、今後迎え入れるであろう種族の集落が一部残る形でもいいし、都市の予定地が決まるまでは焦る必要も無い。
オークさんたちも自分の村を安定させるので手一杯だ。だよな?蜃、無茶してないよな?
どのみち蜃だけに任せておくと、本気で江戸とか京都とかを再現させそうで怖い。
それこそ古代や中世の世界のように、住人を馬車馬のように無償で働かせそうだ。
亜空で一揆とかマジ笑えない。
「お~主、目が覚めましたか」
「ああ、何とかね。新しい契約とかしてるみたいだけどお前なにしてたわけ?」
「もちろん、契約の手伝いをしておりました。食われるよりもずっとましでしょう? 大体、契約もせず滅ぼしもせず放置したら、これからいつ何時コレが湧いて出るかわかりませんぞ?」
コレ、と言って蜘蛛だった女性を示す蜃。
確かにそれはイヤです。なので契約もOKしたわけだけどね。
はふう。もう蜃は、あれだ。なるようにしかならんな。
「……忠臣に恵まれて僕は幸せだよ」
蜃は「それほどでも」と満更でない笑顔になり、蜘蛛の君は「幸せです」と頬を染めた。
どっちも僕の悪意には微塵も気づいてくれないようだ。
「んで。お前は何の用だ?こんな時間に来てるんだから用事だろう?」
「おっと、そうでした。おい、良いぞ」
入り口に向かって手招きする。
入ってきたのは毛むくじゃらの人。
おお。このずんぐりむっくり。
僕より背の低い人だ! 顔も普通だ! 僕の感覚で!
おおおお、この世界にも僕と同じ普通がいたんだなあ。
そういえば確か、蜘蛛が出現する前後の記憶で、蜃がそんな人をお姫様抱っこしていた。
「ドワーフ?」
蜃と蜘蛛の女性とドワーフ(?)はそろって表情を変えた。
「その通り、やはり博識じゃの」
蜃が代表して褒めてくれた。ドワーフさんは僕が種族を知っていたことに驚いている様子だった。蜘蛛は頷いている。
ん。ドワーフって、希少だったり?
「しかもただのドワーフではない! かの有名な神器や宝具を作り出したとされる古代種、エルダーの名を冠するドワーフよ」
んー。
凄いドワーフってことか?
まあ、レアなんだろうな。
思考に耽ようとする僕は、一歩前に出たドワーフによって現実に引き戻される。
「お初にお目にかかります。仰る通り、私はドワーフでございます。この度はお助けいただき誠にありがとうございます」
「あ、いえ。僕は深澄真と言います。マコトと呼んでください。ええと……?」
「失礼しました!! 私はベレンと申します」
「どうもご丁寧に。で、ベレンさん。僕が助けた、とは? 記憶では確か……蜃が貴方を助けていたように思うのですが」
「む? いや、私は食われそうなこやつを、亜空に連れ込んでやっただけですよ」
黙って話を聞いていた蜃が割り込んでくる。
いや、普通それを助けてやったと言うと思うんだけど?
「はい、蜃様はあの大蜘蛛から私をここに匿ってくださり――」
いったん区切る。ベレンは彼女を見て、複雑な顔をした。襲撃されたんだから当然か。
その隙に元蜘蛛を見ると少しだけばつが悪そうな顔をしている。少しだけなのは流石と言うか面の皮が厚いと呆れるべきか。さっきまでは食おうとしてた相手なのにな。
「その大蜘蛛を貴方が撃退してくださった。蜘蛛は呪いを解かれてそちらの女性に戻ったと」
もしもし?
ただ腹が減っていただけの蜘蛛ですよね? なんでそんな御伽噺になってんすか蜃?
目で会話する。
まあ、主よ。これが一番丸く納まるではないですか。このドワーフも仲間に出来そうだ。
いや、あのな?お前、刀を作らせたいだけだろう?
空腹で自分たちが皆殺しにされそうになったなど、こやつらも納得いかんでしょうよ。これでよいのです。
目配せ終了。
くっ、なんて腹黒い女だ。ちょっと哀れだな、このドワーフ。
僕がベレンさんを見ると、彼も僕の視線に気付いたのか話を続ける。
「あの蜘蛛は古代から、全てを食らっては何処かへ消える天の災いとも言うべき存在。過去、我々も多くの作品を食われております」
金属も食べるのかお前は。なんでもありだな!
蜘蛛だった彼女を見ると、食の細そうな日本美人が恥ずかしがっている。事実かい。
でもそういう話にしておく方が確かに良いかもしれない。ドワーフがここに残るにしろ、帰るにしろ蜘蛛としこりが残らない方法ではある。
ま、いっか。
彼はまだ話を続けたいようだ。聞くとしよう。
「それで、このような領域をお持ちのマコト様にお願いがございまして」
なんだ、またイベントフラグか? こっちはそろそろ真面目に街に向かいたいのですが。
「なんでしょう?」
「我らは荒野に住まい、主に武具の創作を営んでおります。不便な危険な地に留まる由は、黒き蜘蛛や多くの簒奪者たちから作品を守るため。ですが、ここはあまりにも不毛なのです」
安全は安全なんだろう。場所も特定され難いようだし、何より侵入してくる奴自体も少ない。
だから宝を奪おうとする者も少ない。それに、近くを根城にしている蜃もドワーフがいることを知らなかったみたいだ。
不毛であることを除けばここは安全なんだろう。
「でしょうね。お宝は安全でしょうが、食べ物も材料も少なそうだ」
「はい。そこでお願いというのは……」
押し黙る。内容はもうここまでくれば大体わかるけど。
「ここに、我らを受け入れてはくださいませんか?」
だよね。ここは荒野より安全で材料もある。
さらには今後、異種族の移住によって知識や物資も増えるはずだ。
そして世界の監督者は蜃や、かつて脅威であった蜘蛛。そして僕。
言うことはないだろう。
蜃は一人だけでなく種族ごとの移住の提案に大喜び。ベレンさんから見えないのをいい事に、表情はもう見たことないくらい嬉しそうだった。
見た目は日本人形らしい落ち着いた佇まいの女性は唇に少し舌を這わせた。こちらも美味しそう、いや嬉しそう。作品を食べるのはダメだと言っておかないと。
「いいっすよ」
「即答ですか!?」
「まあ、別に土地はあるし。オークと共存できるなら、どうぞご自由に」
「そ、それはもちろん」
それだけで良いのか、と言いたげだ。だが別に、ここに住むことくらい、こちらにとって大した問題ではない。
「あと、都市の建築に協力すること。われらへの武具の提供。あと、将来的には地代の徴収もする。ちなみに、ここの領主は主であることも了承してもらうことになる」
蜃がさらさらと追加の条件を述べていく。
さては最初から条件考え済みだったな、こいつ。
「都市、ですか? 武具や地代はもちろん、構いませんが」
どうやらこの亜空は随分と住みやすそうに見えるようだ。僕はドワーフに頑固そうなイメージを持っていたけど、実際に目の前にいるベレンさんは物分りがいい。
蜃が出す条件を諾々と受け入れていく。
「そうじゃ。ここにはいずれ都市を築こうと考えておる。もちろん、お前たちが村を別に持ちたいのならそれは構わぬ」
「それは……面白そうですな。霧の向こうには豊かな土地、そして都市ですか。実に面白い!」
ベレンさん、都市を作る話に乗り気です。蜃め、ラッキーだな。
「お三方にはもちろん、武器・防具を供させていただきたいと思っておりました」
蜘蛛にもか。余程の脅威だったんだな。こいつは。
いや、確かに怖かったけど。
殺そうとして攻撃を仕掛けた相手に「美味しい」って言われたのは初めてだった。
ある意味、ドワーフの同胞も作品も問答無用に食べつくすのは恐ろしいかもな。
しかも理由はおなかが減ってるから。単純極まりなく下手な悪意よりも余程恐ろしい。
「ふむ、では同胞を連れてくると良い。道を作っておく」
「はい、では早速。一日か二日で戻れるかと思いますが、お待ちいただけますか」
「良い、必要なものを纏めたら伝えよ。お前から連絡がきたら私が集落ごと転移させてやる」
またそれか。豪気だよなあ。そして一番楽な引越し方法だな。荷造りが最小限でいいし。
家の中に入れておけば後は転移、か。
ってことはあれか? 亜空を中継地にして転移を行えば瞬間移動に近いことが出来るわけか。
ふむ、何度も立ち寄りそうな場所では、蜃にゲートを作れるか確認しておくか。
「では!!」
ベレンさんは弾丸のように飛んでいった。それにしても、やっぱり。
「普通に話せるんだなあ」
ベレンさんとの会話にぎこちなさは感じなかった。調律がいるのは最初だけなのかな。
いやドワーフは人型だ。もしかして向こうが人語を理解していたのかな?
「流石は主じゃ」
「ええ、すごいです」
違うらしい。いや、そもそも蜘蛛と話せただけでも凄いことか。アレを話すと呼ぶのならだが。
「この蜘蛛の話していることまでも理解しておるようだったし、とんでもないのう」
「そしてその魔力は甘露。まさに理想の殿方ですわ」
うむ、嬉しくない!
食べられる彼氏、なんて属性は間違いなく流行しない。被食男子……絶対なりたくない。
「さて、実は主にはもうひとつお願いしたいことがありましてな」
真君はどんどん深みにハマっていきます。
彼は空気を読んで適当に立ち回るタイプでしたが、ここではそれは命取り。
これからの彼の迷走も楽しんでもらえると幸いです。
次は明後日か明々後日の更新になりそうです。では。
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