前回予告通りいけなかったので、今回は重ねて投稿します!
今回は蜃の視点のみです。意識の無い真君にそんな…!…あっ!
って感じで短いですがどうぞ。
序章 世界の果て放浪編
蜃は悔やみて生涯の相棒を得る
~蜃~
何とも、この黒き蜘蛛がこうもおぞましい者だったとは。
主の強大な魔力を何度も撃ち込まれ、しかもその四肢を数え切れないほど千切られているのにも関わらず。
変態的な再生能力で次々に修復しては、懲りずに主に襲い掛かる。
しかもまったくもって学習しない。
主の体力切れがあればそれでもいいだろうが……実に美しくない戦い方だ。
今も二十本にも及ぶ炎の槍を呑み込んでブルブルと喜んでおる。
にしても、今の主とあの時の私が戦ったら正直、勝ち目はなさそうだ。
そういう意味ではこやつ、結構やる。
ほお。
手足を伸ばし始めたか。流石は暗黒の化身。体は影の如くというわけか。
主は流石に驚いたようで、一気に防戦一方になる。
変わらず単調な攻めだが、興奮のあまり体が止まらない感じだな。うむ実に本能的。
出来るだけ経験を積んで頂くのにちょうど良い相手だと思って放置してみたは良いが、どうやらここまでのようだ。
いい加減、私たちの世界からご退去願おうか。
私がそう考えたときだった。
あっという間に主が木に磔にされて、あの蜘蛛に咬まれたようだ。
ち。傍観しすぎたか。すまぬ、主よ、すぐに手当てを……
「む? これ、は?」
主が何かをしようとしている。面白い。まだ何か手があるというのか。末恐ろしいことよ。
主と蜘蛛の間で爆発がおきた。
二人の距離が開く。
爪から解放された主は既に二本の足で立っていた。
その側面に四つの紅球。自動的に引き絞られて矢と化し、順に奴に撃ち込まれる。疾い。蜘蛛を射抜いた時にはもう次の球が発生している。
結果。
間断なく紅い矢、いやもう槍か、が蜘蛛を貫き続ける。先程の滞空を続けていた炎球は威力を高める作用のものだったようだが、今あるこれは…。
おそらく魔術の発動から消失のプロセスを事前に詠唱によって改変、発動を次弾の起動トリガーに設定してあるのだろう。
つまり術者の魔力が切れぬ限りは永久砲台になるというわけだ。我ら上位竜種の中には似たような事をする存在もいるが、人の魔術では初めて見るな。あやつの術は複雑で術式を見ているだけで頭が痛くなる理詰めタイプだったが……。
……どうやったら初級の魔術『ブリッド』からあのような魔術を編み出せるのか。
主の記憶にあった、ゲームとか言うものに出てきた戦闘中に技を閃くスキルでも所有しているのだろうか。
詳しい説明をお願いした時には、そんな便利機能は僕には搭載されとらんわ! と怒られた。
だがあれでは倒せまい。奴はダメージを負うが最後にはアレをまた飲み込んで吸収してしまう。
まあ、手足を伸ばす先から貫かれ射止められて。
あ奴からの攻撃も、あれでは何も出来ないのと同じだが。
だが私は次の瞬間、凍てつく感覚を全身に浴びた。そうだ、これは霧に紛れた私が主に確かに捉えられたことを理解したあの瞬間に似ている。恐怖、だ。
主はその攻撃の中。弓を構えていた。
いや、「そう視えた」
実際には弓を引く動作をしているだけだった。
だが、その気迫は。確かに私の目には弓と矢が垣間見えた。
紅い攻撃は止まない。つまり、術は行使したまま。五つの自動砲台が一つのまとまった術なのか個別に発動させているのか知らないが、今放たれる攻撃はその比ではなく極度に集中しているように見える。
主は左手を前に突き出し、右手に儀礼用短剣を矢の様に番えていた。
蒼い光が見える。微かに蒼い霧をたなびかせる姿は幻想的に美しく。
「加減、していたのか」
てっきり全力だと思っていたんだが。
今編みこまれている魔力はもう先ほどまでとは桁が違った。属性も違う。おそらく水。主が最も相性の良い属性らしい。
……私は、実は違うのではないかとも思える。主と水の相性の良さは単に契約した私の影響で、本当は別の属性が本来の得手、彼の資質の表れるものだと考えている。
……そうか。
此度の攻撃には内のみでなく外界からの魔力も使っている。今までは体内の魔力だけで戦っていた。それも少量の消費だけで。
この世界での戦闘と魔力の消費について気遣いをしていてくれたのだ。これ迄の主は。
もうその気も無い。全部まとめて消し飛ばす気だ。感情に支配された、なのに静かな表情は揺らぐ気配さえ無い。
ならば結果がどうあれ、これでお開きにせねばな。
案ずるな、邪魔はしない。
主の一撃、確かに見届けようぞ。
放たれた。手にした短剣が術の核になったのか、主の手を離れ蒼い光の尾を伴って高速で蜘蛛を狙う。
あの短剣、ただの儀礼用短剣ではなかったのか。
紅い暴虐の中、蒼い一筋の糸が蜘蛛の体を貫通した。
次いで紅い光が止んだ。
いや。
蒼い糸が一気に太さを増し、他の全てを呑み込んだ。巨躯を持つ蜘蛛の全身すらも。
世界が震えるほどの威力。空気が、大地が恐れるように震える。
やがてゆっくりと収まっていく光条。
少し離れた岩山。瓦礫と化したその一角に、黒蜘蛛の存在した跡が。
僅かばかりの影になって残っているだけだった。
あ、あははは。これはもう、笑うしかないな。
あんな一撃。
確信する。今の一撃は竜さえ屠る。
我が『無敵』の名とは別に、純然と防御力を称えられた上位竜が数匹いる。
知己となれば『砂々波』がいるが、奴でも直撃を浴びれば致命傷を負うことだろうよ。
主は生気の抜けた顔でよろよろと影の残る場所までゆっくりと進む。
短剣の回収、だろうか。
「腹いっぱいになったか、変態」
だがそれだけ言うと、力尽きたのか主は仰向けにひっくり返ってしまった。
あれだけの魔力を行使すれば、まあ当然だな。精神力も限界だろう。
仕方ないな、抱っこしてやるとするか。
そう思った時だった。
「なあっ!?」
影が一気に立体化したかと思うと蜘蛛が復活した。馬鹿な、上位竜の誰も耐えられんだろう一撃だぞ!?
あの蜘蛛がいかに闇の化身でも保つわけが無い!
急ぐ、が間に合わない。距離が違いすぎる。
そして身動き一つしない主の体にのしかかる巨大蜘蛛。
しまった、一生の不覚とはこのことだ!
まずいまずいまず――
なんじゃ?
あやつ、身をこすり付けて食おうとも殺そうともせんぞ?
『アハアアア』
また喜んどるのか! 真性の変態じゃ!
『美味しいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!』
「……はあっ?」
なんといった? 美味い、じゃと?
『最高、貴方最高よう! お腹一杯! こんなの初めてぇぇぇぇ!』
な、なにが起こっている?
あの蜘蛛、何か喋っとるぞ? いやいや、それ以前に人格があったのか?
『凄い凄い凄い! こんなに痛くてこんなに美味しくてこんなに気持ちよくて、満たされたのなんて、初めて!!』
うぐ、真性なのは間違い無いのう。出来れば一生お近づきになりたくないが、そうも言っておられん。主の危機じゃしの。命より貞操の危機のような気がせんでもないが。
「喜んでおるところすまぬが。ちょっと良いかの?」
『もう離さない! ずっと、ずっと一緒に居るって決めたわあ!』
主、すまぬ。この蜃、本当に一生の不覚をした。とんでもないのに見込まれてしまったようじゃ。
かくなる上は主が本気なら、あのハイカラな名前でも受け入れようぞ。
止め時は完全に逸した。しかもこやつ、私の言葉を全く聞いていない。
「おい、変態! 聞け!」
私は主への謝罪も込めて蜘蛛を蹴り飛ばす。
『あいたっ! ちょっと。何するのよ?』
「すまんな、主を休ませてやりたかったものでな。久しいな黒き蜘蛛よ」
『誰、あんた?』
「姿が変わったくらいでわからぬかよ。蜃じゃよ。上位竜の蜃」
『知らないわねえ。私、これまでとにかくお腹減ってたから何も考えられなかったし。それより主って? この御方とどんな関係?』
食いつくのはそこか。何とも。
まあこれまで極限の飢餓の中に居続けた者の心理は流石にわからん。
「まあ、つい先日のことじゃが。私は彼と契約を結んだのじゃ。よって関係は契約によって結ばれた無二の……」
言葉の途中で閉口する。
殺気。いきなりこれか。
『ふーん、盟約者ってわけね。そ、わかったわ。契約くらいは知識もってるし。じゃ、貴女を殺してやり直せばいいんだ?』
常識、違っとる。私でもそこまで露骨には考えんぞ。
「待て、待たんか。盟約者は主なんぞと呼ばんじゃろうが」
短絡的な蜘蛛じゃ。脳みそ少ないのかもしれんの。昆虫の親戚だけに。ん、じゃが確か蜘蛛は脳の領域が昆虫などと比べると確か多かったのだったか。
まあ、あれじゃ。獲物を狩ることにしか使えんのではいくら脳みそが重くても関係ないか。
『う? ああ。では親子の契約? 貴女が子なわけ?』
信じられないといった口調だ。まあ当然じゃ。普通我らとヒューマンの契約でそれは無い。だが主は「人間」だからの。
「いや、支配じゃ。私はいわば下僕よ。八分二分の支配関係。だからこそ、この姿なのじゃ」
人としてのなりを見せびらかしてやる。この者にとってはさぞ羨ましいに違いない。
事実、着物も着れるわけだし刀で戦えるのも人型ならでは。実際、能力も高まっているし気分は良いのだ。既に私には竜の姿にさして未練がなかった。
『支配!? 貴女、一応上位竜種なのでしょう?』
「あまり連呼するな。多少は傷付く。それより、どういうことかわからぬか? この関係が意味するところは?」
『……。……。…っ。そう、いうこと?』
少々の思案でこちらの意図を察したか。馬鹿では、いや馬鹿なだけではないか。
「うむ、お前のような変態に付きまとわれてみろ。主はすぐに心を病むわ」
……まあ、これからしようとしていることもさして違いはないかもしれん。
が、マシではあろうよ。……マシであれ?
『でも彼の合意は?』
「事後じゃ」
『……貴女本当に下僕?』
「無論じゃ。望まれれば伽もしようぞ?」
『駄目。それは私が先よ』
「よかろう。じゃが名前を与えられるのは私が先じゃ。これは譲れぬぞ」
こればかりは譲れぬ。先に名を貰うのは面子があるというもの。
『なら、いいのね? 私がこの御方と……』
「ああ、良い。さっさとやらんか」
『うふふ、ありがと。センパイ♪』
先日も見た契約の呪式が蜘蛛と主の体を取巻いていく。
他者の契約を取り持つなど初めての事だが、問題無く契約は進行している様子。
だが……やはり支配で事足りるのか。しかも私の時よりも主側に余裕がある。
こやつは格としては私と同格というわけか。しかし、余裕? 魔力の最大値など滅多なことで増えぬ筈じゃが……。蜘蛛が多少私より格下、ということだろうか?
そう考えるのが自然。一抹の不安は消えぬが。主じゃしの。
光の色で再度関係を確かめる。赤は支配の色。確定か。
古来から全てを食らってきた黒い蜘蛛の化身は。
ゆっくりとその姿を縮ませ、赤光の中、人の影を模していく。
今度は私が驚く番だった。
『一生お仕えいたしますわ。ご主人様』
「なあっ」
私が憧れてやまぬ。
実に艶やかなツヤのある黒い髪をなびかせ。
色気のある女らしい肢体を、一糸纏わぬ姿で晒し。
支配の関係に則り、人型の女性として我が主、深澄真と契約した。
やれやれ、本当に退屈しない御人じゃな。我がご主人は。
……私も、黒髪が欲しかったのぅ。
これで従者と言う名の仲間(魔)は二人。
さて、次はどうしようか。未だ四択で悩んでおります。
ちょっと放置して話を進めていきますので、どうか次なる真君の苦悩(従者)についてご意見を下さいませ。
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