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一日遅れですが投稿します。
短めですが戦闘シーンだけで区切りたいなと思いまして。

感想や評価を頂けると作者としてとても元気になれます。できればお願いします。
それではどうぞ~^^
序章 世界の果て放浪編
……真性ってやつです
「うおおい……これ、マジかよう」

もう心の涙が止まらない。

蜃ほどでは無いにしても、かなりでかい。

体毛はなく、ツルンとした硬そうな外殻。

つうか、この生き物はさ?

僕の知る限りでは外殻なんて無いはず。

表面部分は毛が生えていて、そこそこ柔らかそうな印象だった。

しかも、でかい。全長は、どのくらいなんだろう。正確には測りようも無いけど、体感だと4tトラック以上かな♪

この真っ黒い「蜘蛛」は。

正に大きなトラックを目の前にしているような威圧感。冗談じゃないよ。

「おーおー、相変わらず正気の欠片も無いのう。食い物がたくさんで嬉しそうじゃ」

蜃はけらけらと笑う。相手を嘲っている。まったく何という余裕か。

「余裕っすね! 何なら相手任せてもいいですかねえ!?」

「無理ですな。こんな悪食相手にしとうありません。ついでに刀が無いので私は戦えませぬな!」

「馬鹿言ってんじゃないよーーー!」

お前刀なんぞいらんだろうが! 得意の水魔法は? 霧は? 幻は?

見たことはないけど、確か風も得意とか話していたよなああああ!?

「これは心外な」

「真顔で意外そうな顔するな!」

前脚がえらいスピードで振り回される。トリッキーな動きで時に牙も向けられる。

最初の獲物は僕で確定か!

「安心なされ、私がオークと都市は責任を持って守護して見せる。このドワーフもな」

だから、と蜃は続けた。

「その、太古から暴れるだけの蜘蛛を蹴散らして追い返しておくれ、主よ」

まるで勝利を疑わない口調で蜃はあっさりとそう言った。

勘弁してくれ。

巨大な黒い蜘蛛は僕を休ませてくれない。一刻も早く食べたいんだろうか。撒き散らされる唾液が凄く嫌だ。

「黒い、糸っ!?」

吐き出される糸は漆黒。回避すると糸の塊が地面に付く。アレを踏んだらアウト、だろうな。少なくとも断じて試したくない。

しかし、こいつは何だ?

「おおい、蜃さんや!!」

「余裕じゃな、流石は我が主」

「こいつ、一体何者だよ!!」

「名など知りませぬ。ただ古来から常に何処かに在り。そしてただ食らう者じゃ」

蜃は名前が最初からわかっていた。姿は蛤の方を想定してたけど。

考えてみればここは異世界。こいつが僕の知ってるお話に名前がある存在とも限らないが。

正直、蜘蛛の神様や魔獣で固有の名を持ち、かつ大暴れする存在なんてすぐに思い当たらない。

僕の中での有名所ならアラクネ、そして土蜘蛛なんだけど……。違いそうだしな。

名前がわかればある程度は対策が練れる、かもしれないのに。

さて、こいつには何が有効なんだろう。闇は駄目そうなのはわかるな。黒いし、糸も真っ黒だから。

虫系統ならやっぱ火か?

げっ! 速いっ! 流石は蜘蛛!

考えながらの行動の隙を突かれ、回避し損ねた爪の一撃に対して、僕は迫る爪と体との間に短剣を滑り込ませる。

ガキィィィィィィィィ!!

耳障りな音が響いた。

「ぐっ、痛つううう!」

衝撃に吹き飛ばされたけど、感じる痛みは背中。つまり短剣で爪は防げるな。

だが先ほどから刃で爪を弾いても向こうにダメージは無い。

つまり、このまま攻撃に転じても有効打になるかは微妙だな。

ならばブリッドをアサミィに纏わせて威力を高める!

ブリッドの詠唱を途中で変化させて、アサミィに紅い光を付与する。

さらにそのまま一つブリッドを「完成」させて頭上に滞空させておく。放たずに待機状態にして徐々に魔力を供給。これでチャージショットみたいに任意のタイミングで発動が可能になるはずだけど……。

振り回される爪。牙。飛び散る唾液。

思考、検証なんてものに耽る時間は流石にくれない。

極限に飢えているってのは本当らしい。それで世界中で食いまくっているわけか。

生まれてこの方ずっと飢えを満たされることが無い。それがどれ程の苦悩かはともかく。

食われてやるわけにはいかない。今はこれが僕の真理。

話しかけてみても蜘蛛からは唸り声しか聞こえない。

理性がまるで無い状態なのだろう。痛ましい。意味が読み取れないただの喚き。

右、右、払い、袈裟斬り、左突き、正面から牙!

そして……右!

予想通り!

爪の内側に短剣を入れられるように一歩余分に踏み込む。鋭い爪の裏側から肢の関節部分を狙うために。

自分一人だけの強化の界。内在魔力による身体強化! よし、どちらも成功!

「でりゃあああ!」

この状態でカウンターを決めれば、幾らなんでも傷くらいは負わせられる、はず!

「おお?」

拍子抜けした声が僕の口から漏れる。

なんの抵抗も無く。巨大蜘蛛の足は中ほどから切断された。

思っていたよりもずっと簡単に。あれ、こいつ外見の割に柔い?

『GYEIEEEEE!』

蜘蛛は予期せぬ痛みの為にか、残る七本の肢で俊敏に後ずさった。

もちろん僕もステップして後方に転じる。

これなら、楽勝か?

「ううっ」

複眼が再び僕を見つけると一気に飛びかかってきた! ジャンプだ! 蜘蛛のジャンプ、怖っ!

さっきの攻撃、全然牽制になってないじゃないか、こいつ!

「って、うええええええ!?」

空中で糸は吐き出しながら。

斬ったはずの足から。

新しい足を生やして奴はその足で攻撃をしかけてきた。

どんな回復能力だよ!

だが相変わらず速いだけの単純な攻撃。

「これはどうだよ!!」

繰り出される爪の全てに回避とカウンターを同時に放つ。

四本の足が千切れ飛び、瞬間に黒い塵になって霧散した。

満足な距離を飛び退くことも出来ず、中途半端な場所からこちらを見ている愚鈍な蜘蛛。

その複眼には相変わらず意思の光が見えない。存在の全てを飢えの狂気が支配しているんだろう。

「これで、終わってくれ、もう、頼む!!」

アサミィに残された紅い光に、新たに生んだ左手のブリッドを重ねて相乗させる。

長くは維持出来ないと感覚でわかる不安定なソレを奴に向けて解放、短剣から真っ直ぐに伸びた紅い光は狙い通りに口の中に撃ち込まれる!

続いて空中に放り投げて威力を補強し続けていたブリッドも蜘蛛の腹に叩き込む!

十字砲火のようになった二つの矢はどちらも命中し、蜘蛛を串刺しにした。

次いで起こるだろう爆発に巻き込まれないよう再度距離をとる。

これなら流石に無傷ってことはないだろう?

攻撃の結末を確認しようと火の槍と化したブリッドに串刺しにされた蜘蛛を注視する。

「ほう、さらに出鱈目な強さじゃのう。反応速度と基本能力がヒューマンのそれとは大きく逸脱しとるから、技術なんぞ無くてもこれ程か。まぁ、良くやった。これで奴も逃げ帰るじゃろ」

主というよりも弟子に話しかけているような蜃。い、威厳欲しいっす。地が出ているのか敬語っぽい感じさえ無いし。

紅の爆発が蜘蛛の体から発生する。

よしこれなら。そう思える爆発。

黒い蜘蛛は全身を痙攣させていた。むしろまだ原型がある事に驚きを感じる。

でも確かに終わったようだ。動かない相手に勝利を確信する。蜃とやった時よりはずっと冷静で居られたな。これが経験ってやつ?

いや相手が狂っていてワンパターンだったから少し冷静にやれただけかもしれない。

結果的に、蜃と合わせてボス戦二回もこなしたんだ。多分レベルってのも上がったよな?

『イヒャ』

あれ? なんだ今の。

『ヒャハア……♪』

ゾクリと。背筋が寒くなる。単なる恐怖でも、慣れない戦闘への恐怖でもない。なんだ、この感覚!?

「主、ひょっとすると」

「ちょ、何、蜃さん。その気まずそうな感じは?」

「や、やりすぎて気に入られたのかもしれんな♪」

どこのMか! 真性か!?

「な、ななな、ななななななな」

『イヒャヒャヒャハァァァァァッァ』

蜃と、奇声を上げて立ち上がる全快っぽい真っ黒な蜘蛛を交互に見つめ。

「なんじゃこりゃああああ!! いやだあああああ!!」

ブリッドの詠唱を並列で完成させながら。僕は首振りしながら終わりの見えない戦いに身を投じた。





「はぁ、はぁ……」

目の前には蜘蛛。

ビクンビクンと震えている。

あぁ、だけどもうこの震えの意味がわかってしまった。

その八本の足全てが炎の槍で突き刺されて自由を失っていても。

胸に、腹に、頭にも、数本ずつのブリッドを突き刺しても。

こいつは死んでもいなければ、痛みや恐怖で震えているのでもない。

ダメージは、多分あるんだろうが。

いや、あって欲しい。

奴にとってこの震えは、喜びだった。

「悦に入るって方の悦びじゃないことを祈るけど、いい加減タフ過ぎないか?」

「こやつ、ここまでしつこいとは。何なんじゃまったく」

蜃も呆れている。

彼女も会ったことはあるが会話が成立したことはなく、一定のダメージを負うと去っていく。

要するに、一種の災害のような相手だと認識していたからだ。だから僕の戦闘訓練相手に丁度良いと思ったらしい。超スパルタ。泣くぞ。

当然、笑い声など聞いたことはなかったとのこと。

であれば。

この喜んでいる相手(悦んでいる、じゃないとホントに切実に祈る)は一体何だと言うのか。

炎の槍が少しずつ小さくなっていく。

万事、こんな感じだった。

吸収されているのだ。ゆっくりと。

ダメージを受けながらの吸収。なんて非効率。意味がわからない。

だが現にこうやって繰り返して奴はまだ存在している。

一応、吸収の意味はある事になる。忌々しい。

頭ぶち抜いても死なないし。急所らしい場所もない。

『ア、アハ、ハァァァァッ』

クラッときた。もう回復、いや吸収したのかよ~。

ジュルンと。

突き刺さっていた全ての槍が奴の体に呑み込まれた。

んで……また突っ込んでくるんですか。

喜びを噛み締めるような震えがぴたりとやんだ。

はいはい。

死ぬまでぶち込んでやればいいんすかね。もう。

自棄ヤケな考えだとわかってるけど、こんな馬鹿らしい相手冗談じゃない。

「ったく、この世界のでかいのってのは、どいつもこいつも~」

最後の部分はもう言葉にならない。蜃の視線が少し逸れた様に感じた。

構えを取り直す。

『ヒィィィアァァァァ♪』

エ?

足、いや爪?



伸びましたヨヨヨ??

「嘘だろぉぉぉ!?」

やばっ!

いきなりすぎて、こんな…!

距離感がまるで違うって。

避け切れ、ないっ!

槍の連突みたいな爪、爪、爪。

げ、こいつ、足(手か?)を使って僕の手をかちあげ……! ずるいぞ、ここにきて頭脳プレーなんて!

腹部に突きこまれる一本の肢。

「が、ふ…」

ごく小さく、腹の中心から界を築く。こめる物は守り。とにかく種類なんて考えずに守りだった。

わずかな弾力、そして突き破る感触。

貫通こそしてないがちょこっと刺さった。そのまま伸びる爪で樹木に叩きつけられる。

何本かの木をへし折って、ようやく僕の体が一本の木に押し付けられる。

「かはっ!」

っておい。息を吐き出す間もくれないって!?

黒蜘蛛の体が、伸びた爪に引き寄せられるように僕のほうに、今度こそ、これは回避しきれない。

顔か首か、どちらも冗談じゃない!

駄目だ、食われる!

必死に顔を横に逸らした。

「つぅぅぅ! ああああ!」

肩口に熱さが弾ける。何とか顔は食われずに済んだみたいだけど、肩、やられたみたいだ。

『フゥゥ!アフゥゥゥゥゥ♪』

おい。

何、嬉しそうに血ぃ吸ってやがる?

プチン。

その様をみて。

自分の感情が振り切れるのが、どこか遠くでわかった。
次は傍観者だった蜃さんの視点でお送りします。
一話の長さはどれほどが適切か。
話の質にもよるのでしょうけど、ちょっと気にし始めております。

あと、携帯から読んで下さっている方が多くてびっくりです。
読みにくくないかとかも教えていただけたら。
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