ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
今回は真クンも箱庭世界で小休止、なわけないです。
彼にしばらく安息は来ないのです。
一応、真君がこの世界でやりたいことを一つ見つけます。
目的が出来たってことが唯一の前進でしょうか。

ではどうぞ~。
序章 世界の果て放浪編
人里はまだ遠く
あれから二日。とにかく毎日が濃密過ぎて、いい加減吐きそう。高校生活が安らぎに満ちた平穏な日々だったんだと、しみじみ実感した。

ハイランドオーク達は亜空に適応していっている様子で、昼の休憩の時と夕食後の二度、エマさんをはじめ数人から近況やら状況やらを聞かせてもらっている。

衣食住全て問題なく、彼らには滅茶苦茶感謝されている。僕個人は何にもしてないんだけどな。

蜃はなにやら本気でTVを実現させようとしているらしく。

記憶を投影する装置を作るべく、休憩で亜空に行く度に頭を捻って考え込んでいる。

記録媒体、HDDやDVDに該当するものには信じられないが心当たりがあるらしく、即断即行で取りに行っていた。明らかに固有名称がありそうな透明な鉱石だった。明らかに高級品のオーラを感じる代物である。

この行動力、何故かこの先嫌な予感しかしない。

ところで人の記憶が、そんなにはっきりした映像になるものなんだろうか、疑問に思って蜃に聞いてみたんだ。

蜃が言うには「記憶」の場所を生き物が忘れるだけで、記憶の記録そのものは劣化しないのだそうな。

彼女だけが干渉可能な失われる事の無い記憶領域がある、ということだろうか。

本人さえ忘れたことでも彼女には引出せる可能性がある。本当に有用な能力だ。

僕はその能力を操る蜃の支配者。自分は覗かれ放題では無くなった、今は素直に喜んでおきますか。

そんな中で、僕は夕刻に予定した距離を歩けば間違いなく到着する、ある活火山のことを考えてた。

ドワーフという亜人がいるらしい。

ようやく人型だよ。

蜃も今は人型だけどさ。

イメージ通りなら、お髭の豊かな鍛冶屋さんなんだが。そうなると蜃に刀を打てって言われそうだな。可哀相に。

あいつに命令されて、着物を再現しようと必死で頑張っているハイランドオーク族女衆の努力を見ているだけで僕なんか涙出そうなのに。

蜃が亜空に住人を増やす心算なのは前に聞いた。

このまま進むと世界の果てを出る頃には果ての種族を大分連れ去って軍勢規模になってないか不安になるな。

ここは一応面積だけなら世界そのものの数分の一に相当する、果てと呼ばれる荒野である。

劣悪な環境に生息するのは凶悪な魔獣や一癖も二癖もある亜人ばかり。

どの種族も、生活が成り立っている以上、戦闘力はある程度高いから連れて行ったら世界のパワーバランスに結構影響が出そう。

「ま、ドワーフで火山を根城にしているってなら十分想像の範疇なんだ、多分、何も問題は起こらないだろう。バトルフラグとかは極力無視していけば良い」

ここまででドワーフの人が助けを求めてきたりはしてない。居る場所も火山、うん納得できる所だ。大丈夫、ダイジョブ。

蜃が何かやらかすかもしれないけど、正直僕に確固たる道標が無い以上、どうしても根無し草になってしまう。

そんな僕が蜃気楼都市だの時代劇だの、色々とやる気になっている彼女を止めるだけのパワーがあろうはずもなく。

大体、僕はまだ何もかも手探り状態。人里へ向かう以上の大目標すら無い。

亜空にいても基本、鍛錬やら能力の確認中心にならざるを得ない。

後手後手なんだよね、まったく。

自分を中心にしてエリアを作る力については前向きに検証を続けている。

やはり範囲と威力は反比例するようだった。そしてその展開は魔力を介さない。蜃ですら展開されたことを知覚できなかった。

なんてステルス、なんてチート。何度も言いますが流石は三貴子の一人の力を出し惜しみ無くもらっただけのことはある。

現に怪我をしたオークを招きよせ、人二人分を包む小さな範囲で力を発動して治癒属性を与えると、見る間に傷が癒えた。思った以上の効果だった。

範囲を自分だけを意識して強化の属性を付与したら、ナイフで木が切れた。手を回しきれないくらいに胴回りのある樹木が、バターみたいにだ。

魔力を使った強化も併用するとハイランドオークの戦士の剣の一撃を手で受け止めることが出来た。魔力を使った身体強化は僕と相性が良かったのか、かなり馴染みが良く重宝している。

一応、界って名前をつけて使うことにした。

一度に展開できる場は今のところ一個。つまり直接攻撃に使うのはかなり限定的な状況になる。

常は強化でいいだろ。

武器も手に入れた。

といっても、ありあわせの弓と儀礼用短剣アサミィだけど。

オークは弓をあまり使わないらしく、彼らの村には申し訳程度の弓しかなかった。

無いよりは、ということで有難く頂いておいた。加減して引く分には使用に耐える弓だったし。

蜃との一戦からブリッドを、さらに練習したから武器として使うのならそっちのがいい。詠唱の呪文の意味が理解でき始めているためか、練習の効果も高いような気がする。

あの虫のくれた理解って、実はアレが思っている以上にお役立ちじゃね?

魔法を教えてくれたエマに聞いてみたら、詠唱は「そう」決まっている言葉を唱えているだけで、その意味はわからないと話していた。僕がわかる理由は、あの女神がくれた「理解」に拠るものである可能性が高い。

むしろオークにもらった物としては、弓よりも、是非受け取ってほしいと渡された短剣の方が業物のような気がする。

装飾が施されていて明らかにオークの手によるものじゃなかった。

向こうが透ける程ではないけれど透明度の高い石なのか金属で出来た蒼い剣。日にかざすと綺麗だ。

柄も刀身も同質の材質で出来ていて、金属というには手に馴染みすぎる気がするし、石というには僕が知る分には切れすぎる。謎な材質だ。

長め柄と装飾と紋様が刻まれた刀身を合わせた全長は四十五センチほど。刃部分は三十センチ前後か。

儀式がどうとか言っていたので、おそらくは儀礼用短剣、いわゆるアサミィとかアセイミナイフっていわれるやつだろう。

切れ味もかなりあるので近接戦闘はこれで決まりだ。ただ力任せに振るうのはちょっと躊躇うけど。紋様やら装飾やらで美術品みたいに綺麗だからねえ。

鞘は透明度とかは全く関係無い白い材で出来ていて、こちらも精緻な細工が施されている。多分、何かの骨か角の類じゃないかと思う。

普通に使う短剣として実に良く出来ていて、儀礼用短剣と表現したけど実用性は十分にある。いざってときは換金も出来るだろうから大事にしよう。

「しばらくは、蜃に合わせて動くしかないかなあ。ヒューマンに会って世界を見て回って、どうするかが問題だ」

右手の人差し指をクルクルと回す。指の先で赤青黒黄の四色の球が回っている。

ブリッドに各種属性を加えて複数個出してみました。

いや、これ凄い汎用性。

ブリッドは元々単体の火の玉を相手にぶつける術だけど、数を増やしたり散弾みたいな性質を持たせてみたり、詠唱を組みかえるだけで全く別の術になる。

ブリッドの詠唱やプロセスを弄ったり変えたりするだけで、面白いように術の有り様が変えられた。

物理や数学でいう基本公式の一つのようなものだろうか。

ここ数日は、とにかくやることもないので魔法の勉強ばっかりしてるんだが、ライトとブリッドでさえ共通の式が存在している。

前にも思ったけど、ブリッドの詠唱自体が火の召喚だとすると、ライトが光の召喚なんだろうからな。ただブリッドの詠唱の「火」を「光」にしてもライトにはならなかった。まだ何か理解が足りていないんだろう。

治癒に関してはまだ詠唱の基本も教わってないので試せてないが、この分だと回復と解毒系統も共通しているのかもしれない。

てっきり魔法毎に詠唱や発動のキーが細かく設定されていて命がけの暗記になるのかと戦々恐々していただけにこれは嬉しかった。

公式を閃きと感性で操るのは結構快感だった。元の世界では理系科目苦手だったんだけど、何がハマるかわからないもんだ。

目に見えて成果が出てくるのもこれまた楽しい。学校の勉強もこうだと良かったのになあ。

おっと、また青を残して消えた。順番は黄→赤→黒か。

風の属性である緑色は僕にはまったく作れなかった。どうやら相性が最悪なようで、近しい属性(と僕が思うだけだけど)の雷もあまり芳しくない。

属性の適正を見ているんだけど、どうやら一番は青。水属性らしい。次が黒、闇属性。ついで火と雷が続く。雷については本当にチリッと何かが出た気がする程度で実用とは程遠い。

あといくつかあるけど水が一番なのは間違いないだろう。

メモメモ。魔力はチートでも魔法の属性まではチートではないようだ、と。

亜空ではテントの中で魔法の練習しながらぬぼーっとしてる日々。

オークの皆様を手伝おうかと思ったら蜃に止められてしまってやることが他にない!

ちっ、そのうち理由をつけて僕は自由を得る!

領主に祭り上げられてしまったけど、僕は下々を見下ろすなんて性に合わないんだよ。

大体家は現在建築中で今はテント住まいなワケで。いきがっても格好つかない。

ハイランドオークは集落ごと引越しして来てるから幾つかの破損した家屋の住人を除いて皆持ち家があるのだ。僕と蜃だけテント住まい。

僕のいる天幕内には、何やら時代劇シリーズの画像が投影されまくってる。これは蜃の仕業だ。

「ん?」

そのなかに。

時代劇とは関係ない画像がいくつかあった。

「家族写真、か」

そこには深澄家の全員集合写真があった。

玄関で撮影されたものだ。父さんが毎年毎年撮りたがって困った記憶がある。結局最後には撮ることになっていたけど。

実際大晦日から元旦にかけて友達と出かけたりはさせてもらえなかったからな。あの辺りのイベント好きには閉口するよ。まあ、これは母さんにも言える事だけど。

出かけるなら、友達を家に招待しなさい、とまで言われる始末だ。正月もクリスマスもそんなだった。はは、懐かしい。

左から父さん、雪子姉さん、中央には妹の真理、僕、母さんの順に並んでいる。

一番新しい、今年の写真だった。

「そっか、これも、もう増えることは無いんだな。最後の写真、か……」

参った。さっさと見切りを付けたはずなのに。

自分だけの優先順位は低くても。

人間は一人だけで生きているわけじゃないってわかる。

周りの人達の事を考えると、後から後から未練というか後悔が湧き上がってくる。

家族はもちろん、学校の友人、部活の仲間たち。

「やめやめ! この考えは良くない」

考えても意味が無いし、鬱になるだけだよホントに。

……いや、待てよ。

そっか。こうやって両親の写真が手に入るって事はだ。

「あの二人がこっちの世界で何やってたのか調べてみるのも面白いか」

世界の果てを出てからどうするか。ちなみに、もう女神の言葉は無視してこの荒野から出るとは決めている。

これを元に似顔絵でも描いてもらって両親の軌跡を辿る。写真があるなら、もっと良いな。

おお、面白そうだな。

世界を移動するくらいの事をしてるんだ。退屈はしないだろう。

よし、決めた!!

「そうと決まれば」

絵が上手な人を探すところから始めよう。まずは絵が描けそうなオークさん探して。無理なようなら街についてからでも同じヒューマンの人に頼んだら正確に描いてくれるだろうか。

僕は絵心が壊滅的だから、自分で書くという選択肢は最初から無い。美術の内申は中学三年の時の悩みの種だったよ……。

うむうむ。やること見つかった。

「ちょっと早いけど今日はもう出発しよっかな♪」

テントを出る。蜃が定めた亜空の出入り口である門を目指す。門と言っても大層な建築物ではなく、ただのキラキラした霧なんだけどね。

別に僕は彼女の主なのだからやろうと思えば門を今すぐ目の前に構築することも意識するだけで出来る。だけど急ぎならともかく普段は皆と同じようにした…。ん?

「主~」

蜃だ。ああ、そうだった。そろそろ名前つけてやらんとな。

あんまり五月蝿いから、まんまシンにしてやろうかと提案したら全力で拒否された。別に悪い名ではないと思うんだけどね。

じゃあ幻繋がりでファントム、イリュージョン、少し捻ってドリーム、ミラージュって次々に提案してやると、さっきの拒否が全力じゃないことがわかる凄まじい否定をされた。

何この飛べる爬虫類。要は和風な名前が良いのか? 日本、いや江戸かぶれめ。

それっぽく聞こえるだけで良いなら清姫とかつけてやろうか?

さてさて。

「お~どうした。そろそろ出るぞ?」

声のする方角を見る。

そこには蜃がいて。

明らかに重傷な毛むくじゃらを抱えていました。長身の美女が毛むくじゃらのおっさんをお姫様抱っこ。

ぐれいてすとしゅーる。

なんて絵面。

思わず目をそむける。

ああ、僕は結構乗り気だったんですよ。出発に際してね。

トラブルは、もうしばらくいいだろ!? ボス戦乗り切って小休止だろ!?

「それは中止したほうが良い」

「その人が理由か?」

心底嫌そうに、無遠慮だと思ったけどおっさんを指さしてやる。だって嫌なんだよ!

「おう、その通り。慧眼ですな」

蜃はまったく焦った風でもなく。

「今度は一体何だ?」

「敵襲ですな」

唐突に出鱈目な事を言いやがった。

敵襲~敵襲~とか無かったやん!?

「はあっ? ここお前の世界だろう? 誰が来るって言うんだよ」

ここは亜空、異世界の中の異世界である。

どこをどうやったら敵襲になるのかとか、ホント、納得出来る説明ください、そこの元蛇!

蛇と雉のご両親(蜃の由来だった気がする)に謝れ畜生!!

「ちょっと特殊な奴でのう。相変わらずかなりの空腹な様子で……。お、来おる」

「なに、普通なことのように!」

「主」

てめえ、質問に答えろよ!! って、主? 僕のこと?

「そこじゃ」

「……へ?」

振り返る。

黒い御御足が、CGみたいな現実味の無い空間の亀裂から突き刺さるように突っ込まれてきた。

数本の肢を突き入れられて、大きくひび割れて広がっていくその闇の奥。蟻だか蜂だかのような昆虫類独特の牙が。

呆然としていた僕に向かって突き出された。

「また食おうってかい! 僕はどれだけ美味しそうかな!!」

蜃の時と同じ展開に僕は絶叫した。
はい、次話はまたしても戦闘です。最初の町に着く前にさらにボスです。

文中に出てくる魔法に対する解釈は真君ならではのものです。与えられた"理解"のおかげで詠唱までも理解出来てしまっているが故のことですので異常極まりないことです。ただ比較できる対象がいない上に基本一人で練習しているのでそこに気付いていないだけです。

ではまた明日、更新したいと思います。
小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。