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真君のターン。

彼は三人で言うまでも無く最悪な位置にいます。ただ、彼は基本的に能天気なので一番楽しくやってるように見えるという哀れ。しかも振り回される性質。

そんなこんなの異世界荒野。お楽しみ頂けると幸いです。
序章 世界の果て放浪編
霧の箱庭
二つのことがわかった。

この世界に来て「わかった」事は結構少ないので貴重である。

一つは僕の能力。エリアを創る能力だ。

僕を中心にして球形のエリアを決め、その中に属性というか効果を与える。

範囲は任意、見える範囲全てでも可。ただし、広げただけ与える効果が減少する。

中にいる全てに効果がある。

つまり自分にも効果があるんだ。何とか自分を除外しないと攻撃には使えそうにない。いや、使えない。

試す気にもならないな。自分の能力で死にたくない。

蜃との対峙の時発動したのは”探したい”という願いによるもの。探索のエリア。

しかしコレ、超汎用スキルな気がする。月読様マジ感謝しています。ご利用は計画的にしないとまずそうだが、間違いなく使える。

そしてもう一つは現在位置と周辺の限定的な地形。

僕は文字通り世界の果て、さらにその果てにいたらしい。具体的には北西の端っこ。

蜃がいた場所は北西の端に近い位置にあったようで。

人里への最短距離を進む途中で、エマを届けるのに立ち寄ったハイランドオークの村。そこで位置が判明した。

これでようやく人里を目指せるというものだ。南にも大分広がっているようで落ちたのが南西や南東じゃなくて本当に良かった。だってヒューマンさんたちのいる場所は北東だったから。

南の方はどれほど続いているのか良くわかりませんとか、恐ろしい事を言われたからな。

荒野全体は周囲を絶壁で囲まれている、らしい。南の件があるので確定情報ではないけど。山中の盆地なのかと聞いたら、いえ海より下ですと言われた。意味が一瞬わからなかった。

話を詳しく聞くと海抜マイナスうん百メートルなのだと予想できた。

どこぞの塩湖かと。死海文書でも出てきそうだな。

通り道だったので洞窟に寄ったところ、エマはまだそこに居て、変わり果てた蜃の姿に卒倒しかけていた。元々の姿を知らなかったから、しかけた程度で済んだんだろう。

竜だって知っている人なら何割かは確実に卒倒するぞ。

あの契約の後、蜃はその姿を人のソレに変えたからだ。初めは誰だか目の前で見ていた僕がわかってなかったし。

その背中に乗って楽をしようとしていた僕としては目が点になるくらい誤算で。

契約というのは、その種別によって制約や恩恵の度合いも違ってくるらしい。

五分五分で行う「盟約」であればお互いの姿は変わらないが、それより偏ったものだと立場の弱い者はその姿を変えるらしい。

あいつ、最強クラスとか言っておきながらガセだったようで八分二分という大分僕に有利な「支配」という契約になったようだ。支配という割には何か結構態度がでかいんだけどさ。

この関係だと、姿の変化はものすごく顕著なんだそうだ。実際、瞳や牙などに僅かな残滓ざんしはあるものの、蜃の姿はほぼ人間だった。

蒼い髪のクールビューティー。顔立ちが日本人的なのは契約者が日本人の僕だから、かな?

外見のバランスは正直日本人離れしていたけどね! モデルさんかと。彼女には残念な事だが着物はそこまで似合わないだろうなあ。あれは古い日本人に特化した衣服だと思うから、似合うにはある程度胴が長く足が短くないと難しいと思う。

ちなみに、僕には全く問題なく着られる。自分で言うのもなんだけど体形的にはばっちり似合うと確信している。

髪青いし八頭身くらいだし。……うん、あいつには無理だ。

その黄金率なボディーは引き締まっていて観賞用の肉体でないのは明らか。鍛えてもいないのに卑怯だよね。

戦士、なんだねえって言ったら「侍と言って欲しい!」と力説された。魔法使い的な雰囲気の方が能力には会うって意味で言ったんだけど。

能力の性質を考えると彼女が無敵だというのには嘘はないのだろう。結構な幻だったのは確かで、戦い方によってはあれは確かに負けまい。

支配の契約の後、僕にはあと大体六割ほどのの空き容量があるとのこと。一回限りとか話していたのに、いきなり話が違うじゃないかと思ったね。

単純に考えるとあと一人の蜃クラスの魔物と契約を結べる。良い方に話が違うなら、まあ許せるよね。

計算方法を教えてもらわないと恐くて誰かとの契約に踏み切れないので、とりあえずは保留でいいだろう。

亜空とか言う特殊な能力のことも聞いたんだけど、契約によって大分様変わりしたようだ。

緑溢れる豊かな大地が広がっておりました。砂っぽい荒野にいた僕は、一息して感じた濃密な緑の香りにくらっとした。

膝下くらいまでの草が生い茂った草原、少し離れた場所にはまばらながら樹木も見える。全体的に起伏は少ないのか、かなり遠くまで見渡すことが出来たけど人工物は一つも無かった。

見渡した範囲で川や池といった水場は見えなかった。だけど時折草を揺らす風からは緑の香りに混じって水の気配も感じる。ふと目にするだけでも豊かな緑があるのだ。おそらく近くに水源もあるだろう。

森の暗がりや草原の草の不自然な動きから生物の気配もする。動物も、いるのだ。見てはいないけれど、植物が僕の知るものがあることを考えると動物の姿形も同じかもしれない。

広さは相当あるようだけど、一つ明らかに目立つ特徴がある。「境」だ。そう呼んで良い代物かは不明だけど、四方のどこを見ても遠くに霧の壁がある。その先が見通せなくなっているんだ。僕が手に入れた力で探ってみても、そこで探索が止まる。

壁に覆われているとはいえ、あくまでも遠くに見えるだけ。閉塞感は感じない。

僕の中に例えがあまり無いから形容し難いけど、昔小高い山の展望台から住んでいる街を一望した時に感じた広さと同じくらいの感覚。

住人が僕らだけって考えると……言うまでも無く広大過ぎる。

一体、亜空って……。

なにここ、って聞く前に「ここはどこでしょう?」って聞かれた。知るか!

一時的に生成されるはずの空間は世界になっていたらしい。そして異常なほど安定していると。

明らかに僕の知る植物が自生していて、試しに果物を取って食べてみると既知の味がした。懐かしかった。松やひのき。嗅いだ覚えのある木の匂いも故郷を思い出させた。

美女と化した蜃の眼にもここは不思議な空間らしい。彼女の霧を介してしか行けないというのに何とも頼りない。

広さも増しているように感じると不吉な事も言っていたな。あの壁が後退しているんだろうか。

蜃が言うには、空気中の魔力が希薄で、その代わりに大地や植物が直接魔力を内包し大気に発散しているとか。と説明されても他の世界の事を全く知らないから、それがどういうことかまるでわからなかった。

空気中の魔力が希薄であるというのは異世界ではあり得ないことらしく。彼女も興味深そうに草を手に取って眺めていた。

今のところは、位置情報もわからないから実質霧を介してしか行けない場所ってことになる。断定は出来ないけど結構安全なのかも。何せ女神がいない。

じゃあここに街を作ればまさに蜃気楼都市ってやつになるな、と洒落で言ってやると蜃は何やら凄く考え込んでいた。

まさか、これまた地雷仕掛けて自分で踏んだ?

とにかく、今夜はもう休もう。オークの村に戻ってきた僕は一日を回顧するのを止める。

初めて建築物の中で休む。明日にはこの村を出て、そして野宿しながらヒューマンが居るという場所を目指そう。

行きがけに魔物の集落も幾つかは通るんだけど、蜃がいる。何とかなるだろう。

「寝よ」





「で。蜃よ、なにかなこれは?」

「ほほう、わからんか? 主」

「オークの皆様が総出でお見送りしてくれるのか?」

「違う! 引越しなのじゃ!」

ますますわけがわからないよ?

何気に百八十センチオーバーな長身の美女、蜃さんが胸を張っている。

百六十少しの僕に対する嫌がらせかと思う。

しかも、この荒野で引越し?

何を考えてるんだか。

住める場所が限られていて、しかも人数がある程度の規模があるというのに簡単に村を移せるわけがない。

だが、言われて見てみると家財道具一式を家の外に出した皆さんの様子は、確かにお引越しといわれても頷ける。

もともとその予定があったのか?

『お世話になります』

長老さんが僕に頭を下げる。

なんだ? 蜃が何か話したのか?

まあ、一宿一飯の恩義のあることだし新しいとこまで護衛するのは、やぶさかじゃない。

僕も自分の能力を少し確かめておきたいし。特に他の人への影響をさ。

そのくらいの寄り道は構わないんだけど……。

「どこに引っ越すのですか? 護衛くらいなら僕らでお引き受けしますよ」

だが長老は少し困った顔で僕を見る。

表情掴むのが難しいが多分困ってるっっぽい。蜃をみた長老を制するように彼女が首を縦に振る。

「主よ」

「はい?」

「この世界の果ては過酷じゃな?」

「そうだね」

「このオークたちも集落を移そうにも適した候補地もなく、また移動中は襲撃等の危険も数え切れん」

「だろうね。ここ相当きついとこみたいだし」

何が言いたいんだ、こいつ? 名前思いつかないからって謎かけか?

「なので、この者らを我が世界に招待しようと思う!」

「……は?」

ワガセカイ?

「鈍いのう! 亜空じゃよ、亜空! 主と契約した時豊かな大地となったアレじゃ。あれはもう世界というに等しい!」

蜃は説明をドンドン続ける。

亜空は安定していて人が住める。ならばオークも住める。だから住む。

ちょっと待て、蜃。一番最初の人が住めるって意見はどこから出てきた?

蜃は、誰かが住んだとてそれで不都合があるわけでもない。ならばと提案してみたらオークは移住に納得した。

などと言ってましたが。

「これぞ蜃気楼都市計画! なのじゃ!」

やっぱ本気にしてたか! 最後に本音が出た。

亜空の中に都市を作る。まさか本気で実行する気とは。

「お前ねえ、亜空に生物住まわせるなんて本当に大丈夫なのかよ?」

いつ何が起きるかわからない場所だ。少なくともいきなり出てきたっていう前科がある。いきなり消えない保障も無い。

「勿論じゃ、植物は自生しとるし水も空気も問題ない。昨夜しっかり調査済みじゃ! ついでに動物もそれなりに放ってみた! 元いたのも含め自然に関しては問題ない! むしろ、かなり上等な環境と言える!」

む、無駄にマメな。

しかも在来種とか外来種とかえらい無視して無茶やらかしてる! お前、狼とか猪とか鹿とか元々いたとして、この荒野のモンスターなんて放ったら全滅するんじゃないのか? 早速生態系をぶち壊している気がする。

あ、もしかして狼がいたらニホンオオカミだったりするのかな。そうだったら一回は見てみたい。願わくば彼らがエサにされる前に。

『蜃さまの神域に住まわせてもらえるというあり難い事、謹んでお受けせねばと思っております』

長老さまは極めて真面目に僕を見る。

そうか、言い方によっては神域、なのか。毎度生贄を出していた村としては相当扱いが良くなったと思っていることだろうな。

もともと生贄もなければ、信仰を向けられていることさえ知らなかったはずだけどね蜃は!

さらに言うと蜃は竜であって神ではないはずだ。神域、で良いんだろうか。まあ、いいか。神域って言ったら女神が出るとか言うなら話は別だけど、ただの呼称なら問題は無いだろう。

「皆さんも、こんな大事なこと一晩で決めてよかったんですか?」

僕だけがグーグー寝ていたわけか。

何とも間抜けな話だ。

神妙なオークさん達は皆、一切の異存が無い様子でした。

まあ、より豊かな土地に移りたい思いがあったのなら、この結論はある程度読めるか。

「というわけじゃ。主にとっても損はない。よかろう?」

とびきりの笑顔を浮かべる蜃。

「まあ、そうか、な? でもお前住む場所はどうするんだよ? あそこは家とか無いだろうが」

当面は野宿させるつもりだろうか。総勢で百名ほどの人数だ。少し無理があるような気がする。

「家? 問題ない。これからこの村ごと『呑む』からな」

「はいいい!?」

じゃあこの村無くなるってこと!? どんな怪談だよ、ある日村が消えたって噂に……いや、無いか。隣村がどこにあるのかもわからないような場所だったな、ここ。

「霧を介して移動させるだけじゃ。問題は無い! まだまだ土地も余っておるしの。それにほれ、万が一を考えて大事な物は身に付けさせておるし。家具も外に出してある」

いや~な予感がしますよ? まだまだ? 土地が余ってるだって?

「まさかお前、この先々で勧誘する気ではないだろうね?」

「何を当然なことを仰るか。もちろん、それなりの能力や特性がなくては移住は認めぬがな。道程に住んでおる者は見定めるつもりでおりますとも」

こいつは支配の関係を受け入れた僕の、いわば使い魔のような存在のはずなんだが。

この世界、ここまでフリーダムなのか!? 主はまるで無視かい、名前だけ?

支配の契約でこれだと、盟友とかだと奴隷扱いされるんじゃないだろうな。

「共存共栄。善き哉善き哉。かつてない都市を築こうではないですか主よ」

世界の果てで都市作りシミュレーションゲーム開始とか!?

何の冗談だよ、これは。

「もう、何が何だかなあ」

「当面、必要なのは裁縫の出来る種族ですな。あと鍛冶も」

「……裁縫と鍛冶ってのはそこまで大事かね?」

相棒とも言えるような蜃なんだが。

絶望的に感覚違うし。その二つはどっちかっていうと拘りであって必要ではないような気がする。そもそも普通の裁縫ならオークさんが出来るじゃないか。彼ら服着てるんだし。

「なにを言っておられるのか! 裁縫に秀でた者がおらねば着物が出来ぬし、鍛冶に秀でた者がおらねば刀が打てません!」

おおう。大真面目。

そしてがっでむ。

こいつは明日からの一週間をパンの耳で過ごしても、目前のゲームソフトを買うタイプだったか。

「さあ、主よ。亜空の第一号の種族ハイランドオークを居住させたことですし!」

もうかよ!

うお、本当にいねえ!

いつの間に移動したんだよ、皆様!?

「向こうには私の分身を案内に残しております故ご安心を。朝は進んで日中は亜空で休み、夕刻にまた距離を稼ぎましょうぞ!」

やたらと張り切ってやがる。分身なんて特技も持ってたのか、こいつ。主には自分の能力のこと報告しようよ。

ああ、そうだった。こいつが僕に興味を抱いた理由。霧の結界を破壊した僕をつぶらな瞳と腹見せスタイルという気持ち悪くて吐きそうな格好で出迎えた訳。

着物、そして刀。

そう、こいつは

「主、早速ですが! サムライは普段…」

こいつは重度の

「ああ、やはり。め組は男気がありますなあ」

広げた手のひら一掴みの霧。そこには映像が浮かび上がっている。とあるTV番組の切り抜き。by僕の記憶。

……霧って物凄い万能なんだね。僕、見直したよ。視界悪化くらいにしか役に立たないと思っていた。あと趣味の悪い幻。

「うふふふふ♪」

重度の時代劇好きだったんだ。

てっきり男の夢が露見したと思ったのに。いや多分それもわかってるんだろうけど。記憶見られたわけだし。

しかし、時代劇とは。確かに好きだったけどね?

はやまったなあ。決断。

「主よ、休憩の時はまた記憶を見せてくだされ♪」

「もう見ただろうが!」

「記録を見るのと直接見せてもらうのはやはり違うのですよ。お願いします~主~」

どう違うのかさっぱりわからんわ! 似合わない間延び口調も止めろよ!

「やはり、TVなるもので直に見たいですなあジダイゲキ」

「挑戦は好きにすればいいが亜空でやってくれ。あと、記憶は見るな」

そんなぽんぽん覗かれてたまるか。それも時代劇のために!

「そ、そんな殺生な! 最早私の生き甲斐なのに!」

「出会って数日だろうが! しかももう記録はしたんだろうが!」

「ううう~記録では物足りないのですよう~」

「どう物足りないのかわかるように説明してみろ。納得出来たら時代劇に限り許可してやる」

支配の関係のおかげで無断で記憶見られることは無くなったのはメリットだな。

「……CG鑑賞とシーン回想くらい違う!」

ぐはああああああ!!

こ、こいつっ!

よくわかっちゃったけどさ!?

何か脅しも含まれている気がするよ?

そっちのことをばらしちゃいますよ、主?

とか暗に言われている気がするーーーー!!

「ぐ、うう。わかった。許可する」

「おお、さすがは主! 懐が深い! 早く日が昇って暑くならないかのう」

僕、契約相手をひどく間違ったかも知れないなあ。
真クンの従者というか仲魔は二人までは決まってるんですが三人目以降が今ひとつ決まらず。
妖精、無機物、植物、野郎。
もしご意見を出してくださる方がいたら上記の四択で送って頂きたいです。
当面の進行は進めますのでしばらく募集したいと思いますです。
それでわ。
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