かなり短いですが追加で投稿してみました。
主人公は才能が、というよりも基本スペックがチートな感じですね。
でも、周囲の状況や環境は彼に理不尽な方向で動いていってます。
今回は魔物(竜)の視点からお届けします。
それではどうぞ~
~蜃~
至高、とはこのことだ。
何という存在。何という経験。何という記憶。
これを滅ぼすなど、到底愚かな考えだった。
霧の結界に取り込んで、敵であるヒューマンの記憶を精査していく内に私は驚愕した。
ちなみに彼がどんな幻を見ているかは知らない。私はこの結界の生成に力を注ぐのであって、幻覚の方向性は快楽か恐怖かしか選べない。
それで大抵問題ない。恐怖の方が早く死ぬことが多いが暴れられる事も多い。快楽だと抵抗は少ないが死ぬまでの時間が長い。
速度なら恐怖、安全なら快楽と使い分けてきた。
だが今回、私はこの手段に出た事を大いに恥じた。
この記憶は、素晴らしい。ただ、素晴らしい。
この敵、いや彼は何とも信じ難いことだが異世界からの来訪者だった。
記憶に嘘はつけない。此れほど信用できるソースもない。
未知未知未知。
彼の記憶は私の長き生をもってしても興味深い事この上ない。
この生き物を死なせるなど、考えてはならない事だった。
特に、これ。
彼の趣味らしきモノの一つ。
それが私の心を凄まじい勢いで揺さぶった。
こんな景色を切り取ったような、死んだ情報ではなく。
生きた情報が欲しい。直接話を聞かせて欲しい。そして彼と語らいたい。
強さにも財宝にも生命にも。
ここまで心惹かれたことなどない。これが興味、なのか。
気まぐれ、ではない心の底からの興味だというのか。
失いたくない。
この気持ちを失いたくない。
知りたい。だからこの人は死なせられない。
解かねば。無粋な結界で彼を囲っているなど愚の骨頂。
解いたらまず話さなければ。
そのためにはどうすればよい?
私にもう敵意がないことを示さねばならない。
彼の世界の表現だと、腹を見せれば理解してもらえるのか?
わからぬ。
だが、まずはそうして様子を伺おう。彼は驚いてくれるだけでも会話に持ち込む切っ掛けになるだろう。
人の言語は覚えてある。問題無い。
とはいえ、オークとも話せるようだから私とも話せるのかもしれないな。
「では」
結界を解除しようと結界を見る。とにかく、茫洋と人の記憶に溺れるなど初めての体験であった。
なんと甘美な。
だが、またも私は彼に驚かされることになった。
結界の中で力の発動を感じる。
かなりの力だった。
なにか、聞こえる。
「大体……、女の子……やがって!」
なんだ、さらに力が増した。結界が鳴いている。
「……とばっ……おおお!」
「おおお!?」
結界表面の霧が逃げるように散った。
そして。
鈍く凄まじい音を立てて、私の結界は初めて内側から破られた。
どこまでも規格外な。異世界の神の力とは一体どれほどだというのだ。
冷たい汗。
あんなものをもし直撃させられたら、と思うとぞっとした。
腹を見せて、出来るだけつぶらな目で彼を見る準備をする。どこまで愛らしくなれるかは自信がないが。
おそらく彼にとって私は動物の類と思われているだろうが、ペットではなく猛獣の類。愛玩動物のする仕草がどこまで通用するか。少々不安だ。
そして、彼が現れた。
「よう」
ひどく落ち着いた声で呼びかけてくる彼は私の姿に固まる。
『済まなかった。異世界から参られた神人よ。門の破壊の事情も知った。不幸な事故と認識した。私の短慮も謝罪する。どうか矛を収めてもらえないか?』
「は?」
『重ねて謝るが、貴方の記憶を読ませてもらった。内容はわからぬが不愉快な幻覚を見せた事、心からお詫びする』
「……アレはお前が見せたんじゃないのかよ?」
『享楽か苦痛かは私が選べるが、後の詳細な内容は被術者の思考に拠るのだ』
私がそう答えると、彼は頭を抱えてうずくまった。「やっぱりかよ~」と唸っている。
『異世界の人、私は蜃。上位の竜種にして”無敵”と称される存在。見ての通りだが特に幻術を得意としている』
自己紹介をする。私は過去、先程まで一度たりとも考えてこなかった自身の身の振り方を決めていた。
昨日までの私ならば、一笑に付したであろう決断をした。
「あ、そっか……。僕は深澄真。マコト=ミスミとかのがわかりやすいかな? 知ってるだろうけど異世界からきた」
知ってるだろうけど、で彼の言葉が少し詰まる。記憶を見られることは不快に違いない。が、これからのことを考えると今伝えるべきことだった。
『真殿、私と契約をしないか?』
もう私は彼に付いていく事を勝手に決めていた。彼が旅人に近い立場で人里を目指す事もわかっていた。人里を、というか彼は人を探しておるようだからな。
なら契約が良い。
彼の相棒として、彼を主として。
彼に力を貸し、彼に知識を語ってもらいたい。特に「あのこと」を。
「うぇ? 契約? 召喚獣みたいな?」
『一対一でしか行えぬ故、微妙に異なるし、私クラスの存在とは恐らく一度しかできぬことだが。私も最強クラスと自負しておる。損はさせぬと約束する!』
彼の感覚とは少し違うがまあ似たようなものでもある。
「んー、旅の道連れは多い方が良い、のか…?」
『うむ! うむ! 私は貴方の趣味に大いに興味があるのだ! 是非色よい決断をしてくれ!!』
そう、あの素晴らしい記憶。一目で我が全てを虜にしたモノ。
「ぐはっ! それなんて脅迫! 僕なに握られたのさ!?」
彼は何故かまたうずくまって悶えている。
『どうだろうか? お互いに益のあることだと思うが』
「ぐ、ぐぐぐ。この策士め。いいさ、わかったよ! 今後ともよろしく、だ」
『ああ! こちらこそ末永くよろしく!!』
彼の同意を得て契約のプロセスを私主導で進める。彼が方法を知っているはずもないから当然だな。
五分五分の盟約。馬鹿な、私が押し負けて構成が全く保たない。規格外な。
七分三分の親子。ありえぬ、これも私が押し負ける、だと。一体どれほどの魔力だというのだ。
八分二分の支配。何とか、構成は保持できる。が私がココまで押されるとは。上位竜としてのプライドが少々傷付くな。
これ以上は我が意識を保てぬ。竜で良かったなどと思うのも初めての経験だな。
支配の契約、実質彼の眷属、いや下僕と言っても過言では無い関係。
……ふふふ。良いじゃないか。
彼が、いや我が主たる方がこの先なにをするのか、楽しみでならない。
どうやら先に続く百年足らず。
我が生涯において最高の時間になりそうだ。
退屈からの開放に私は心が喜びに震えるのを感じた。
「では改めてよろしく、わが主、真様」
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