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序章 世界の果て放浪編
無常、初戦はボス
人間なんぞ軽く一砕きにしそうな凶牙が目前にある。

超人だから受け止められる。来てみると良いさ。

……。

なんていってられるかこの世に自分ほど信じられないものは他にないわ!!

名言、いや至言と言っても過言じゃないな!!

慌てて後方へ飛びのく。

竜は空振りに終わった一咬みを気にせず、続けて僕に迫る。また噛み付きですかい!

宙に浮いた蛇って、良く考えたらものすごくリーチ読みにくい!?

「なんとぉぉ!」

体を反転させつつの横っ飛び。

セーフ! まだ生きてますよ僕は。

竜から視線は外さない。僕を簡単に噛み砕けるサイズの御口から見て顔の大きさは大体わかった。

全体像を予想してみる。

なーんだ、何倍か大きい新幹線じゃないか。長さまでは知らないけどさ。

……。

……死ぬわ!!

馬鹿にしてんのか、担当者!! おい虫、出て来い虫!!

伝説の武器とか防具とか、これ絶対いるだろうよ!

いよいよ地表にまで霧が立ち込める。

視界は手元まであるかないか。

足元はもう見えない。

あれだけ巨大な龍がごく至近距離にいるはずなのに、その姿はまったく見えない。

しかも巨体が動けば霧も波打つはずなのに、霧はゆったりと、ただ濃く留まるのみ。

霧を生んでいるのはやはり、あの竜、蜃で間違い無い様だった。ずるいよね。

なにより、気配だ。

それすらも感じないというのはいくらなんでもおかしい。この霧、やはりただの霧じゃないのか。

不利、圧倒的に不利な状況。

不意に首筋に悪寒が走る!

咄嗟に前に駆けて振り返る僕。

大きな口があった。

「おいおい!ここまで気配わからないなんてアリ!?」

反撃どころではない。

巨大な体を持つ相手と戦うとき、一番先に考えるのは攻撃の隙を突いてこちらの攻撃を入れ、相手の攻撃はとことん回避か防御ってのが定石だ。多分。

とりあえずアクションゲームと格闘ゲームからの結論はここに落ち着く。今の状況だと下手に防御は出来ないが。

でもその体が見えず、いきなり転移してきて後ろからがぶり、なんて場合は反撃のしようが無い! なんてクソゲー仕様!

初見の格闘ゲームのラスボスみたいな?

しかも蛇みたいな体の先にあの頭がついているわけで。

攻撃を避けたら真正面からあの頭に殴りかかるか、すり抜けてボディに一撃いれないといけないわけで。そこに爪が無いとも言えないし。

どうする? どうする? 僕!?

頭に青いカードが三枚浮かぶ。結構余裕あるやん自分。どーれ。

1.それでも気合で避け続けて一発入れたれや!

2.ならば霧を晴らせば良い、さあ風よ吹け!

3.先手必勝!手当たりしだいに攻撃じゃ!

1は正直無理そうだ。さっきみたいなシックスセンス。僕はここから連発できそうにない。

2か。孔明を呼べ。

3か。威力を抑えて手当たり次第、とにかく全方向に火球ばら撒きまくって相手の位置をつかむ。そして判明した先に『矢』を叩き込む。

うむ、あれだな。3が現実的だ。

というか僕の頭ではそこまでが限界だ今のところ。

やるしかない。この視界ゼロの状況で僕の精神がそう長く保つとは思えない。パニックになれば、狩られる。




~蜃~

霧を立ち込めさせ、相手に攻撃を意識させた後で「亜空」に引きずりこんで殺す。

私は竜の中でも上位に位置し、「無敵」と言われていた。

単純な攻撃能力は他の上位竜に劣る。防御能力も然り。

されど無敵。その理由が私の能力、亜空だ。

私は霧を媒介にして、私の作った世界に霧の中に捕らえた存在を引きずりこめる。

その世界ではある程度の魔力法則、物理法則を曲げられる。

私がソコで負けることは先ずありえない。亜空に存在する自分は本体ではないからだ。

ある程度切り離されているからそこで自分が負けたとしても本体である私はもうそこにはいない。

引きずりこんだ時点で、既に退却も出来ているというわけだ。その状況で一方的に相手に攻撃を加える事が出来る。

もっとも過去に一度も亜空でしとめ切れなかった獲物はいないが。

今日の、門を破壊しおった無礼者もそうしてやるつもりだったのだ。

霧が満ちるまでに二度噛み付き、満ちた後は霧を媒介にして亜空に拉致するだけ、それで終わりのはず。

なのに。

引きずり込めなかった。

何度試みても、まるで小さな穴に無理やり大きなものを通そうとしているような感覚だ。

作った扉が小さかったか?

ダメだ、どうやっても亜空に連れ込めない。

となると、この霧だけで狩るしかない。

背後から襲い掛かってみた。

だが、どうしたことか直前に感づかれて回避されてしまった。

ちっ面倒なヒューマンだ。だがこれではただ殺すわけにはいかなくなった。

どういう理由で私の亜空から逃れているのか調べねば。

どういう理由で感覚を狂わせる私の霧の中で回避できたのか。それはただの偶然にすぎないのか。

そのままにしていては私の無敵が揺らいでしまう。

もし他の上位竜たちの差し金だというのなら、必ず報いを与えねばならない。

この世界の果てで眠るだけの私にいかなる難癖をつけようとしているのか知らないが。

もしも無敵の称号が妬ましいだけなら許せない。いかなる相手だろうと討ってやろう。

ヒューマンの様子を伺う。私からは良く見える。

火球の魔法だろうか。そこら中に投げ込んでいる。

幸い、私は火属性に耐性がある。あの程度なら余裕で耐えられるだろう。

この判断がいけなかった。

私は獲物の周囲を円を描くように取巻いている。もちろんブリッドの方向を読んで楕円にくねらせながら回避もしていたが。

そのうちの一つが。

私の体に当たった。

まったく痛くなかったが、周囲の霧が少しだけ晴れ、私の鱗で覆われた体がむき出しになった。

刹那といっても過言でない速度だった。

ヒューマンは一気に魔力を集中し異常に圧縮されたブリッド(?)を生み出すと、正確に私の体の位置に向けた。

上に身をたわませて回避を試みたのだが。

叶わなかった。一瞬でまるで矢のように鋭くなったソレは、あろうことか私の体に「突き刺さった」。

火に耐性のある私の体に。同じブリッドで痛みも熱さも感じさせられなかった同じヒューマンの同じはずのブリッドが。

信じられない速度で突き刺さり、爆散したのだ。

凄まじい熱と激痛。

『アギャアアアアアァァァァァ』

私は、その爆風でかなりの霧を晴らされたことにも気づけず。

生涯で初めて、悲鳴というものをあげた。

体は、私の体はどうなっている!?

状況に未だ気づかず、その時の私は攻撃を受けた場所を急いで確認する。

攻撃を受けた部位が、無残にも半分弱程えぐり取られていた。

唖然となった心の空白に怒りが注がれるのはすぐだった。

血走る目であのヒューマンを探す!

もはや獲物ではない。狩るべき獲物ではなく、ヤツは討つべき怨敵だ!

だが私はこの時、わが身の傷など案じるべきでなかった。

奴から目を離すべきではなかったのだ。

探し、そして私は奴を視界に捕らえた!

すぐ、目の前の死角にいた。

なんだ、なんだ、なんだこれは!!

「やけくそのーーー正拳突き!」

良くわからないことを口にして私の頬に拳がのめりこむ。

同族の尾で殴られたような衝撃。頭の中に星が舞う。ヒューマンの筋力ではない! オーガかジャイアント、いやそれ以上か!?

「ダメかよ、なら! 裏拳だ!!」

さらに同じ場所に一撃が入る!!

先ほどの比ではない!

とんでもない威力だ。顔だけではなく体ごと反対方向に吹き飛ぶ。

だが、ここまでの痛みの報酬はあった!

これで私の体は再び霧の中に紛れる。

仕切りなおせる。このヒューマンは危険だ、明らかに普通ではない。何者かの加護を得ているに違いない。

やはり上位竜の誰かか? いや、元がヒューマンだ、この強化は納得できない。

となると、神!?

移ろいがちなあの女神か!?

それならありえぬとは言えない。しかし、このヒューマン、ともすれば亜人並の容姿。

女神の寵愛をそこまで受けるなど出来そうもない。

では一体誰なのだ。痛みは引かぬ、顔を殴られるなど初めての経験だ。焼かれた身もいまだ痛む。

一体!

!?!!?!?!?

『なぜ、私の場所、が』

今度は視界の右側に奴が、奴がいた。

ありえない。いくらなんでもこの霧の中でソレはない。確かに薄くなってしまったがそれでもこんなことが……

「こうなったらもう必殺の」

彼の手が赤く光っている。物騒な言葉を吐いた。なにを、する、つもり…

「カエル跳びアッパー!!!!」

下顎に奴の拳がのめりこむ。

そして

「お星様になっちまえーー!!!」

私は体の半分が拳の威力に持ち上げられ。そのまま反対に崩れ落ちた。

ぎりぎりで保たれる意識。

滅ばぬまでももはやこれは圧倒的な窮地だった。

屈辱だ。

手段など選ばぬ。そう思うには十分すぎる程。

伏したまま、意識を失った振りをしてやつの在りようを霧からの情報で探る。

蜃気楼を生む為の霧を静かに吐く。

亜空のことを除いても、私の能力はそんな単純ではない。

幻の本質。対象の記憶を覗き、そこから相手の望む、または望まぬ幻覚を霧に写せる。

濃く満たした霧の結界の中で力を注げば、感覚もリアルな現実と変わらない幻覚を見せることも可能だ。

こいつは何故か亜空に連れ込めない。

ならばもう不意を付いて霧の中に閉じ込め、死ぬまで「飼う」しかあるまい。

望まぬ幻ではダメだ。暴れられては万が一がある。

望む幻で幸福の中で餓死してもらう。ヒューマンだ。いかに強化したとしても十日もあれば死ぬだろう。

十日で駄目なら一月でも一年でもやってやる。

決意を新たに霧からヒューマンを探る。

まさか私が死んだ振りをすることになろうとは。相手に媚びるような殺し方を選ばなければならぬとは。

背を向け、一息をつく男。

だがこれは芝居だ。奴の周囲の霧が警戒を解いてないことを教えてくれる。なんと徹底した態度であろう。

そしてゆっくりと周りを探るように見渡し、最後まで油断を欠片もせず、奴は「霧の外」にでた。

今度こそ本当に警戒が緩む。通常程度のものだ。間違いなく「霧の外に出た」と、奴は認識した!

呪文の詠唱は無い!

今だ。奴のいる場所は、あそこは「霧がない」景色を投影した「霧の中」だ。

いける!

私は目を見開く! ヒューマンも一気に飛び退く。流石だ。まだソコまで動けるか。

だが手遅れだよ。

『終わりだ』

万感の思いで私は霧の結界に包まれた四角い空間に言い放った。
別視点を加えました。
今後もこんな風にちょこちょこ視点変えていきたいと思います。
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